東京・墨田区の病院で起きた「赤ちゃん取り違え事件」当事者の男性が明かす「違和感しかなかった『育ての親』との生活」
67年前、「赤ちゃん取り違え事件」が都立産院で起きた。本当の親は誰なのか……自身の出自について悩み続けた当事者の数奇な人生を追う。
ついに「本当の親」探しが始まった
〈自分を産んでくれた真実の両親は一体だれなのか、どんな人なのかを知りたいと思いました。それは、自分が何者であるかを確認する大事なことであり、自分のルーツを知りたいと思う気持ちを抑えることはできませんでした〉
40代で新生児取り違えが発覚してから約20年間。江蔵智さん(67歳)は、その後半生を「本当の親」を探すために費やしてきた。
冒頭の文章は、自身と取り違えられた可能性のある相手に向けて、江蔵さんが記した手紙から抜粋したものだ。東京都と調整し、これから送付される。
歩んできた人生をどう伝えるか。自分本位になっていないか。取り違え相手の人生はどんなものだったのか……。67年分の人生と思いをのせ、何度も推敲しながら綴った。手紙を書くのも久しぶりだけに、決して滑らかな文章ではない。しかし、それゆえに重みが滲み出ていた—。
今年4月21日、江蔵さんにとって悲願の判決が下った。東京都に対し東京地裁が、「出自を知る権利は個人の尊重などを定めた憲法13条が保障する法的な利益」として、戸籍をもとに江蔵さんの「生みの親」について調査するよう命じたのだ。
都は控訴せず、調査を開始。判決からすでに4ヵ月が過ぎている。だが、その過程は必ずしも江蔵さんが納得いくものではない。
「個人情報などデリケートな部分が多いのは理解できますが、対応が遅すぎます。取り違えの可能性のある方に向けて東京都が作成した文章のなかで、私の育ての母親の名前を間違っていたこともあった。愕然としましたよ」(江蔵さん。以下、鉤カッコ内は同)