航空会社ジェットスター・ジャパンが一方的に賃金を引き下げたのは無効だとして、従業員が未払い賃金の支払いなどを求めた裁判で、東京地裁は9月11日、会社側に対して、計約1200万円の支払いを命じた。
同社をめぐっては、これまでに客室乗務員が出勤停止処分の無効確認を求めるなど、ほかに2つの裁判が起こされており、いずれも1審は労働者側の請求がほぼ認められているという。
今回で3つ目の勝訴判決となったことについて、労働組合側は「会社は現実を直視して、問題の本質に向き合うべきだ」とうったえた。
●2020年以降に賃金減額が始まる
判決によると、原告は客室乗務員ら15人(一部は退職者を含む)。同社は2020年5月以降、客室サービスマネジャー(CSM)に支払っていた月額7万5000円の手当を勤務実績に応じて減額し始めた。
さらに2021年4月には、新しい就業規則と賃金規程を導入し、従来の時給制から月給制を主体とする制度に移行。これに同意しなかった原告らに対しても、2022年8月からは新制度に基づいて賃金を支払った。
従来よりも賃金が減ったため、原告らは2022年、一方的な賃金減額は無効だとして、差額の支払いを求めて、東京地裁に提訴した。
●争点は「手当の性質」と「就業規則の合理性」
裁判の主な争点は、(1)従来の賃金体系におけるCSM手当や賞与がどのような内容だったか(2)月給制への移行などを内容とする就業規則の変更が、労働契約法10条における「合理的なもの」といえるかどうか──だった。
会社側は、CSM手当はもともと勤務実態に応じて支払っており、2020年5月以降も変更はなかったと主張。 また、新しい就業規則は、安定した賃金保障や職責に応じた処遇が目的で、人件費削減ではないとして合理性をうったえた。
●東京地裁「労働条件の変更に合理性なし」
東京地裁の中野哲美裁判長は、CSM手当について「労働契約において、CSMの職位にある者に対して、毎月定額7万5000円を支払うと合意されていた」と認定し、会社側の主張を退けた。
さらに、就業規則を変更したことの合理性については、新しい賃金体系が適用されて以降、賃金が減っていることを認めたうえで、「相応の不利益を受けている」と指摘。賃金減額に「高度の必要性や内容の相当性も認められない」として、その合理性を否定した。
そのうえで「新賃金体系導入前に会社側が労働組合などに十分な説明をしていなかったこと」などを踏まえ、「新賃金体系の導入を含む労働条件の変更は無効である」と結論付けた。
●労組「当たり前の権利が守られてこそ」
この日の判決後、労働組合「ジェットスタークルーアソシエーション」執行委員長の木本薫子さんは東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、こう語った。
「一連の判決に共通しているのは、会社側の時代にそぐわない慣行、ガバナンス不全、コンプライアンス意識の低下などに対して、(司法が)非常に厳しい警鐘を鳴らしていることです。
司法判断や行政命令を駆使しなければ、会社が問題に向き合ってくれないということは、航空会社の安全にも関わる問題です。労働者としての当たり前の権利が守られてこそ安心して働ける環境が作れます。
私たち現場サイドもきちんと声を上げていかなければ、こうした労働環境の問題は変わらないので、私たち自身の意識も変えていく必要があると思います」