注目されていた米グーグルを相手取った米司法省の反トラスト(独占禁止)訴訟を巡り、連邦地裁は9月2日にグーグルに対し、同社の検索エンジンを、端末やブラウザー(閲覧ソフト)に標準搭載する独占的な契約の締結を禁じた。ただ、ウェブブラウザー「クローム」や基本ソフト(OS)「アンドロイド」の売却命令などは行わなかった。グーグルは「解体」を回避したといえる。
もともと、裁判は米国政府(司法省)や州が共同で2020年に提訴して始まった。連邦地裁が24年8月、グーグルが検索で反トラスト法(独占禁止法)に違反していたとする一審判決を出した後、グーグルの独占状態を解決するための措置が決まり、今回の地裁の判断につながっている。
検索エンジンの世界シェアで9割を持つグーグルは膨大なデータを握り、広告事業を広げて巨大化してきた。その収益を得るためにデフォルトの検察エンジンとするように巨額の費用をアップルなどに支払ってきた。
原告の司法省は、こうした事業モデル自体が独占を生んだとして、クロームやアンドロイドの売却を要求していたが、地裁はこうした事業分割は求めなかった。
というのは、訴訟が始まった20年には、米オープン人工知能(AI)の「チャットGPT」のような大規模言語AIモデルはまだなかった。今や、一般ユーザーは検索エンジンを使うのではなく、AIに聞く時代になっている。
実は、AI市場においては、グーグルは競争にさらされ、巨額な投資と技術革新を強いられている。もし、グーグルを解体したら、AI市場の競争が損なわれてしまう。
今回の地裁の判断は、グーグルとアップルにとって従来ビジネスが認められたので朗報といえる。一方、競争相手のマイクロソフトには残念な結果だ。
司法省の反トラスト訴訟の歴史をひもとくと、1980年代のAT&Tに対する地域電話訴訟では分割を勝ち得たが、その後の00年代のマイクロソフト、20年代のメタでも分割されていない。
最近の独禁訴訟ではよく見られることだが、グーグルを相手取って司法省が提起した今回の訴訟は、新たなテクノロジーAIによって時代遅れになったともいえるのではないか。しかも、企業分割という荒技は時代にそぐわず、裁判所の判断は競争が促進されるような是正措置にシフトしている。これで、司法省の顔も立てている。今回はこれで和解するのではないか。
(たかはし・よういち=嘉悦大教授)