転売、それは苦しい【anon interview#2】
2010年代は間違いなく転売のディケイドだった。そして今——Supreme? なにそれ? キッツ、ジジイかよ笑 年間1,200人以上の死者を出していたハイプ・スニーカー・ウォーは鳴りをひそめ、トレカは踏み絵のごとく購入と同時に開封を強いられる。転売ヤーはあらゆる憎悪を集めつつも、ひとまずは市場の慣習の中に落ち着いたかのように見える。ではあの熱狂は何だったのか? 有識者とともに語るあなたの知らない転売の世界。(取材/編・青山新)
Bot? お前には無理だよ笑
A:Bは今でもやってるん?
B:そんなにやってない。たま〜にやるくらい。
A:そういえば前にBが赤坂の部屋に持ってきた札束みたいな量のSupremeボックスステッカー、未だに俺ん家で預かってんだけど笑
B:あん中、たまにレアなの混じってるよ、Tiffanyのやつとか。今どのくらい値ついてんだろ。
A:その頃はSupremeメイン?
B:いや、結構幅広くやってた。Supremeは土曜の11時しかないわけだし。流行りでいうと、他にはBE@RBRICKとかNikeとかかな。
A:どれもプレイヤーめっちゃ多いじゃん。どうやって買ってたん?
B:母数は多いけど、ほとんどは一般人のマジクソ雑魚プレイヤーだから敵にならない。戦うにはBotを持ってるのが前提なんだけど、そもそもBotを買うのが難しいから。
A:あ〜、Bot売ってるヤツが誰にでも売るわけじゃないんだっけ。
B:そうそう、需給のバランスを取らないとBot使い同士で食い合って結局誰も買えなくなるから。
A:売る側からしたら、自分の商品でお客さんに勝ってもらえなきゃ意味ないもんね。
B:まあとは言っても、海外のBotとか死ぬほどあるから結局ね。
A:で、そのBotを買えた奴らの中で競り合うわけか。
B:そう、あとはそのBotの扱い方、オペレーションの腕で若干差がつくって感じかな。
A:そこにも腕とかあるんだ...... でもそもそもBはなんでBot買えたの? 歴が長いから?
B:まずBotを買うのに抽選があって、それで勝てたからだね。それで言うと、今は商材側が抽選になっちゃってスピード勝負じゃなくなってきてる。あとスピード勝負の商材にしても今はほとんどがShopifyを噛ませてて、ここが結構対策が厳しい。
A:じゃあBが今あんまやってないのは、Botのパワーが相対的に弱くなったってのもあるのか。
B:そうだね、まあ実際は抽選のBotもあるんだけど...... 多分やっても割に合わないだろうなと思うからあんまり手出す気になれない。なんだっけな、█████って単語があって.....Discordで出すとBANされるんだけど笑 同一の住所の表記をちょっとだけイジったアカウントを量産してくれるBotで、それ使って1,000個とかアカウント作って応募しまくるっていう。でも見てる限りあんま当たってなさそうだね。あとこの手のやり口に対してSnowPeakが訴訟起こ(そうと)したとかも聞く。
A:じゃあ、いわゆるこれまで言われてた転売シーンっていうのは、年々難しくなってるわけだ。
B:あとは副業とかが流行り始めたってのもあるよね。そのへんのサラリーマンとか主婦とかが副業の名のもとにせどりとか転売とかに手を出して、どんどん薄まっていったっていう。まあもともと参入障壁が低い界隈だしね。
エルメス・ジュエリー・ブーム前夜
A:今聞いてたのが王道の転売だとすると、俺がやってたのとは結構違うな。基本的にBot使ったことないし。まあ俺はエルメスジュエリーを海外から買って日本で普通に売るって感じだったから、転売っちゃ転売だけど、別にブーム以前からやってたし、狭義のシーンとしてのそれではなかったよね。でも当時は高くても10万くらいで買えて、それが30万で売れたりしたからかなりおいしかったよ。
その頃はフランスのECのVestiaire Collectiveにヴィンテージのエルメスジュエリーがよく出てきてたんだけど、ここはすげえ細かい条件を設定できて、それに沿う商品が入荷するとメールを送ってくれたんだよね。だから入荷通知がメールボックスに来たらPCが爆音でアラームを鳴らして俺に知らせ、その間に自動でメールを開いて商品をとりあえずカートインしてくれるようにプログラム組んでた。Vestiaireはカートインすると20分くらいはキープできるから、その間に確認するっていう。EU圏のプラットフォームだから日本時間の夜とかに入荷することが多くて、めっちゃ起こされまくってたな。でもそのおかげでほとんど買えてたけど。
あと俺がやり始めた時ってまだほとんど誰もヴィンテージエルメスのシルバーに興味持ってなくて、モデルの名前も分かってないみたいな時だったから参入障壁エグい低かったね。それにめっちゃニッチで高額なジュエリーを欲しがる人ってマトモなやつがほとんどだから取引も楽だったし。でもご存知の通りのエルメスブームが来て、どんどんプレイヤーと客の民度が下がっていった。当時俺はInstagramとかでも売ってたんだけど、そこにキモい粘着してくる奴がいたりね。あと店とかもきな臭いのが増えてきたし。█████とか...... そういうのもあってエルメスの転売からは手を引いたね。あとシンプルに、俺がエルメスのヴィンテージを全部見尽くしたってのもある。多分もう知らないモデルないと思うわ。
B:確かにAは、自分が見たくて買ってたみたいなとこあるよね。
A:なんか結局そうじゃないと頑張れなかったな。インディアンジュエリーとかもそんな感じだし。
そういうの抜きに転売を転売として意識してやったのはハンドスピナーが最初かな。当時、日本のベアリング会社のNSKから2万円弱ぐらいする最強のハンドスピナーが出て、それが結構熱くて4,5万くらいで売れる!ってなって。で、それがビックカメラに入荷したんだけど、オンラインの商品名に脱字があって検索にヒットしなかったんだよね。それで宙に浮いてた在庫を見つけて全部買って売る、みたいなことをした。あと最近だとLeicaのQ3とか。でもそんなに利鞘取れなかったしなあ。結局、昔はそこまでちゃんとディグる人がいなかったけど、今もうインスタ見てたら大体みんな何でも知ってますみたいな感じじゃん? だからディグるだけで優位性が生まれるようなものがなくなってきてるよね。
鳴らない電話たち
A:転売とはちょっと違うけど携帯電話はやってたな。携帯って、キャリア→販売代理店→客って渡っていくわけだけど、キャリアは契約獲得のために販売代理店にすごいインセンティブ出してたわけ。契約内容にもよるんだけど、1契約獲得につき10万とか。そのせいで、販売代理店はエンドユーザーに数万円渡してでも契約結ぼうとしてたの。当時の「iPhone1円で売りますキャンペーン」みたいなのもその一環だね。で、何をするかと言うと、まずアカウントをいっぱいつくる。 基本的にどのキャリアも5回線までは同時に持てるから、店を回りながら契約を繰り返す。まあ代理店と話通じてれば一気に何回線も契約できるんだけど。俺とかそんな感じで、新宿のビックカメラ2階のドコモ売り場で担当さんがついてて...... その人に「次は何日に来てください」って言われて行くと、全部準備してくれてるみたいな。
B:その担当の売り上げになるから、一気にやってくれる客のが嬉しいもんね。
A:そうそう。代理店の中にいくつかのチームがあって、そのチームが売上で勝負しあってるからね。で、そうやってドコモで5回線契約するんだけど、その後に即解約したりするとブラックリストに入れられちゃう。だから常道としては、契約状態のまま半年くらい回線を寝かせる。その間たまに通信したり電話したりしてアクティブな回線に見せかけた上で解約する。で、それを繰り返すと。でも俺はそれがめんどくさくて。そもそもこんなの5年も10年もやりたくないしできないわけだから、もうBANになってもいいやってことで、MVNO含めた全キャリアで5回線を乗り換え続けていく焼畑方式で行こうと。ドコモで契約した2,3日後に全部解約してMNPでauに移って、次はソフトバンク、Yモバ、UQみたいな感じで、1回線につき3〜6万円くらいバンバン貰っていく。で、全部のキャリアを通り過ぎると俺はどこでも携帯を契約できなくなった代わりにめっちゃインセンティブを手に入れてる、と。
普通に考えるとこれで終わりなんだけど、いかんせんおいしかったからもっとやりたいなと思って。携帯って同居人であれば委任状を持っていって代理人による契約ができるんだよね。それで彼女の名義で同じことをもう一回やった。まあでも、携帯ももう規制厳しくなっちゃったね。基本的に利益供与が22,000円までになっちゃった。しかもキャリアがメーカーよりも高い定価を設定してて、そこから22,000円引いた残額を分割購入できる、っていう感じだから、何のうまみもないね。
もののけどもの夜
A:青山さんが前に言ってた村上隆のやつってなんだっけ?
青山:村上隆が京セラ美術館で個展をやってたんだけど、その初日に美術館を取り囲むような並びができたわけ。というのも、入場者特典で村上隆のトレカの限定版が先着5万人に配られることになってて、これが転売界隈で注目されてたらしいのね。もともとこのトレカのシリーズはふるさと納税の返礼品としてスタートしてて、それにもプレミアがついてたからね。しかも美術館側に転売対策スキームがなかったせいか、いろいろトラブルも起きたらしいんだよね。前日の深夜から並びができてたんだけど、午前3時とかに急に先頭に半グレ集団が「別に俺たち並んでないんでw」とか言いながらたむろし始めて転売ヤーと小競り合いになって警察呼ばれたり。あと一度入場した転売ヤーがすぐに出て、まだ列に並んでる仲間のところに合流するっていうのを繰り返して列がループしたり。
まあどこまでが意図的かは置いておいて、この騒ぎも含めて村上隆のパフォーマンスなんだろうけど。だって会場の中にはそのトレカの原画とされる平面作品が展示されてるし、キャプションを読むとそもそもトレカによるふるさと納税返礼企画は、この展覧会の制作費を稼ぐための企画の一環だったとか書かれているわけ。そしてトレカ1セットの枚数は「人間の煩悩の数に因んで108枚」だというところまでくると、露悪的だよね。でもそれ以上に、市場としては一旦落ち着きつつある転売が、現代美術のモチーフとして立ち上がってるっていうところは面白いと思う。
A:実際、転売としてはあんまり利鞘抜けなかったんでしょ?
青山:そうだね、僕が見たのは初日や2日目くらいだけど、だいたい1枚5,000〜10,000円くらいだったかな。あと最近はCasa Brutusの村上隆展特集号に別の限定トレカが付録でついてるってことで、また争奪戦になってた。1,600円の雑誌が5,000〜6,000円くらいで売られてたね。
A:雑誌なら手間も少ないからいいかもしれないけど、寒い中一晩中クソみたいな民度の列に並んで10,000円いかないってヤバいよね。しかも事前に先着5万人ってアナウンスされてたんでしょ? そんだけあったら絶対値段上がらないって肌感覚でわかるじゃん。でもみんな並んじゃってる。これってさっき言った転売が市民化されてヌルい層が増えたってことでもあるけど、それだけではないと思うんだよね。俺すごい好きなコンバースのモデルがあって、定期的にリリースされるんだけど、これにも転売ヤーが湧くのね。でも定価が27,500円とかで高いし定期的に出るから、結局5,000円も抜けないのよ。メルカリとかだったら手数料込みで赤字にしかならない。そんなことは前回の相場をチェックすればわかるんだけど、在庫は数分でどこも完売して続々転売されてる。そういうのを見てるとやっぱ転売ってその行為自体のギャンブル的興奮に駆動されている部分が思ってる以上に大きいんだと思うんだよね。
青山:ナンパ界隈とかと一緒だよね。手段が目的化しているという。もちろんこれは悪い意味だけではなく、エンターテインメントになりうるということだけど。さっきの村上隆にしても、Xの有名転売ヤー垢みたいなのが机いっぱいにカードを並べた写真とかを投稿してドヤってるのが散見されるんだけど、つまり彼らにとってそのカードは商材ではなく見せ金なんだよね。一人一枚しか手に入れられないはずのカードをこれだけ集められるテクニックと人脈、資本、情報網があるぞ、っていう。
A:BもBotで勝ったらやっぱ脳内物質出る感じあるよね?
B:そうね。そういうやつはめっちゃいると思うよ。決済成功の「ガシャン」っていう音があるんだけど、それを聞きたいってやつはよく聞く。あと「Checkout Success」の緑文字とかチェックマークとか。それで言うと、「テスト週」って概念があるね。つまり、ハイプリリースの前週とかにBotの挙動を確認するためのテストって言う名目で若干回してみる、っていう。ワンチャン収益出ればいいし、スニダンとかメルカリで売ってトントンになっても会員ランクとか取引実績が上がるからOK、みたいな。そういうロジックのもと、リターンがそこまで期待できないチャレンジでもいっちゃうっていう人は、やっぱギャンブル的な側面が強くなってる気がするよね。
A:俺もトントンなら全然OKだわ。楽しめたね〜みたいな。別経路の報酬が確実にあって、多分今やってる素人プレーヤーはその報酬だけでやってる気がする。 どういうリターンのためにどういうコストを割くのかっていう意識がないままに、公式のドロップスケジュールによって自動的に設定されたタスクに取り組んでるみたいな。そういうヤツらにとっての転売の動機には、ギャンブル的な興奮が確実にあると思う。
転売ヤーってその後どうなるの?
A:そういえばBが言ってた「村をまるごと借りてる」 みたいな話について補足ある?
B:あーあれね。SupremeとかNikeって住所と注文が一対一で紐づいてるから、たくさん買おうと思ったらたくさん住所がいるのよ。住所の表記をゆらすことで誤認させられる場合もあるんだけど、それができない場合、どうにかして住所を用意しなくちゃならない。だから村をまるごと借りて、そこの村人それぞれの家の住所に届けてもらって回収する、とかをやってるヤツがいるらしいと。でもこれも、協力してくれる村人に3,000円ずつ払って、それぞれの家を車で回って商品ピックして......とかやってると結局赤字になることとかもあるみたい。あとこの関連でいくと、ヤマトの人と繋がって全部局留めしてもらうみたいなのはあるらしいね。
A:なるほどね、でもそういう鬼みたいなプレイヤーっているよな。iPhone界隈とかヤバいよね。なんか「今日の収穫です」みたいなこと言って数十台積んだ写真上げるみたいな。あの量は個人では無理だから、代理店とズブズブになってキャリアに自分専用の在庫を発注してもらってるだろうし、そいつに名義を貸してるヤツも絶対いるよね。どうやって名義人を集めてるのかは謎なんだけど。
B:村の話も構造的には一緒だと思う。こっちも住所どうやって集めてるのかはマジで謎だったな。
A:でも、回線用の名義を貸して1,2万貰えるならやりたいってヤツはいっぱいいるだろうなとは思う。俺も彼女の名義使い切って引退する時、一瞬迷ったもん。名義を数十人集めてそれをスプレッドシートで管理しながらこれを続けようかって。そのくらいおいしかったんだよね。
B:さっきの村上隆のとかもホームレス雇って並ばせてたりしてたよね。それ系は一時期すごい多かった。
青山:スニーカーとかもだよね。なんにも知らない主婦とかホームレスが、汚れないようにビニール袋で包まれたドレスコード用のスニーカー履いて並んでるとか。
A:名義人を雇う側のフェーズに行ったら、それはそれで別の楽しみがあったような気もするけど、やる気は起きないよね。いろんなことの蓋然性が一気に下がってつまらなくなる感じ。
B:単純にリスキーすぎるしね。リスクとリターンのバランスが合わない。だから上手くいってるヤツらは買取屋になってるイメージがあるね。個人プレーヤーや素人から買い取って、海外の販路に流すっていう。今だとポケカとかそうじゃないかな。アキバに店舗増えまくってるし。
A:そうそう。それで言うとiPhone15 Pro Maxのチタンが発売初日に定価の8万乗せで売れる、っていうのがあって。俺は自分と彼女の名義で4台買って店頭受け取りにしたんだけど、受け取りの30分前くらいからXで買取屋探した。そうするとかなり怪しい日本語で「買います」って言ってるアカウントがいっぱいヒットするから、その中の買取額が2番目に高いところにLINEで「1番買取額高いとこより500円高く買い取って」って言う。そうすると向こうから住所が送られてくるんだけど、これが行ってみると築40年過ぎの雑居ビルの一室とかなの。廊下とかめっちゃボロいんだけど、ドア開けるとギャラリーみたいなピカピカのホワイトキューブが広がってて、室内の至るところに監視カメラついてるわけ。そこにポツンとカウンターがあって、座るとパーテーションで隠された部屋の奥から綺麗な身なりの中国人がお札数える機械抱えて出てくる。それでブツを渡すとすぐに現金で払ってくれる。定価に8万乗せて即日現金払い、それでもペイするってマジでどこの誰が買ってんだろ。
B:やっぱタイミングが重要っぽいね。X見てても相場は目まぐるしく変わってる。iPhone15も発売後一週間でだいぶ下がったもんね。あとはSwitchとかPS5とかも。だから買取屋もラグができちゃって大損こいてるヤツとか結構いる。
A:末端の個人プレイヤーが相場に翻弄されるのは仕方ないけど、買取屋も踊らされてんのは面白いよね。お前ら相場作る側じゃないのかっていう。思った以上にギリギリなんだよね。
B:買取屋同士で相場合わせたりとかもしてるもんね。あと買取屋に関しても個人プレイヤー増えてきてるイメージあるかも。俺の知り合いもそんな感じで、昔そいつの住所借りてそいつに売るとかしてたもん。ポケカとかめちゃくちゃ買取屋増えててマジで熱そうだけど、あれだけ増えてどうやって儲けてるんだろ。
ヴィンテージの世界——ロレックスからGoogleアカウントまで——
A:ポケカはメーカーの生産が増えて前よりは落ち着いてるね。昔はそれこそ、ポケセンとかに並んで買ってる人よくいたけど。今はワンピースがゲームとしても割とよくできてるとかで、ちょっと熱くなってるらしい。ポケカも価値のあるカードは相変わらず高いけど、それにしてもアキバの店舗のあの売り方は謎だね。
俺らがやってた転売に近くて今熱いのだとやっぱヴィンテージロレックスかな。過去の製品の供給は減っていく一方で、その中でどれだけコストを割けるのか、どれだけリテラシーがあるのかによって、得られるリターンが違ってくるっていう。特にロレックスで面白いのが、新規プレイヤーの参入に合わせて徐々にゲームのルールが変わっていくところなんだよね。例えばあるモデルの針の赤い個体がすごく珍しくて高額で取引されてたんだけど、ある時から急に流通量が増えたと。それは新規プレイヤーが赤い針をつくって流してたからなんだけど、これを知った既存プレイヤーがどうしたかっていうと、自分らが持ってる個体の針を赤く塗り始めたんだよね。そういうルールのちゃぶ台返しみたいなことが繰り返されてる中で、 そのコミュニケーションに参加できないけどお金だけは持ってるみたいな層が高額で買い続けてるわけ。
青山:ヴィンテージと言えば、ヴィンテージのGoogleアカウントが転売に使われてるみたいな話もあったよね。
B:あったな〜。リキャプチャが出ないようにするためのね。転売対策でリキャプチャが実装されはじめた頃、リキャプチャの確認が1クリックで済む場合と何度も必要になる場合があって、これにGoogleアカウントの信頼スコアが関係してたわけ。信頼スコアが高ければ1回で済むんだけど、この信頼スコアの高いアカウントっていうのが2000〜2010年代はじめごろまでに作られたアクティブなアカウントで、これが転売ヤーの間で売り買いされてた。あとはグーグルアカウントを育てて信頼スコアを上げるBotもあって、自動でいろんなサイトを検索したりして使ってる感を出してくれた。俺もその当時は50〜60個くらいグーグルアカウント持ってて、使い過ぎた結果、逆に信頼スコア減ったりしてたね。アカウント育てるにしても同じIPだとダメだからIPも複数持って、メールアドレスを対応させて......っていろいろやってたなあ。今はまた時代が変わってて、あの「自動車をすべて選んでください」みたいなやつを全部AIで解いてくれるBotとか、「2Captcha」や「AntiCaptcha」っていう発展途上国のワーカーに手動で解かせるサービスとかがある。
「好き」とか平気でぬかすヤツら
青山:さっきポケカはあんまり興味なくてわからないみたいな話あったけど、趣味と実益のバランスみたいなのってどんな感じなんだろう? 例えばAはジュエリー好きだからエルメスにコミットするのはよくわかるけど、iPhoneとかはまた違った関心にもとづいてるのかな?
A:俺、モノとしてのスマホも好きなのよ。だからiPhoneがたくさん目の前の机に積まれてるっていうだけで興奮するんだよね。それこそ、全く同じモデルの新品のiPhoneが10台並べられてたとして、順番に触っていったらシャッフルされても最初に触ったとおりに並べ直せると思う。同種のもののディティールの差異を考えるのが好きだから、キャリアそれぞれのプランを比べるのも好きで、そういうのもあってできてたんだと思う。だから、純粋に金のためにやった転売というのはあんまりないかもしれないね。
青山:シーン全体としては、趣味と実益を兼ねてる人、金のためだけにやっている人、単に踊らされてる雑魚っていうのは、どういう割合で分布してるんだろう? どの界隈も似た生態系なんだろうか?
A:どの界隈も雑魚が生態系のほとんどなんだろうけど、スマホとか回線系に関しては俺みたいなモノが好きでやってるってヤツはほぼいないだろうから、もしかしたらマジのプロが一番多いかもしれないね。プロってレベルが違って、壁一面隠れるくらいiPhone積んでるのよ。
ジュエリーに関しては正直わからないな。嗜好品としての純度が高い世界だから、本心はどうであれ好きでやってるポーズをとっておかないとユーザーに訴求しづらいんだろうね。そういう意味では、もともと純粋にジュエリーが好きだった人がブームにつられて闇堕ちしてるケースの方が目につくかな。有名なエルメスジュエリーコレクターの█████って人知ってる? この人、数年前は█████の売り方の無茶苦茶ぶりを嘆く長文メールを俺に送ってくれたりしてたんだけど、今や█████でポップアップやってるわけじゃん。もちろん仕事としてやるならその選択はすごくよくわかるんだけど、明らかに既存のジュエリーコレクター的文脈から見れば筋が悪い。昔は相場の高騰ぶりや意味不明な価値づけに憤慨してたのに、今やかつて15,000円くらいでバンバン流通してたモデルを「これはまだあまり市場で注目されていない掘り出し物です」みたいな感じで紹介してて、よくそんなのでこれまで周囲の人々に信頼されて人生やってこられたねって感じ。まあその人は大昔から集め続けてる有数のコレクターだから、ビジネス方面に舵を切ることのインセンティブが大きすぎるんだろうとは思う。それで得た儲けで、まだ見ぬ1,000万クラスのモデルとかを手に入れるのが最適なムーブだというのはその通りだし。
あと「好き」って一口に言っても、どのレベルで好きなのかは怪しいよね。みんな結構「好き」の天井低めだから。ある有名なヴィンテージコレクターのInstagramアカウントを見ると、「Matthew」って刻印の入ったTiffanyのIDブレスをずっと着けてんの。実はこの個体、俺が昔eBayで買ってヤフオクに流したやつなんだけど、こんなどう考えてももともとどっかのMatthewさんが持ってたであろうパーソナルなジュエリーを、自分で着け続けるなんて考えられないなと。あと最近、ある地方都市にできたヴィンテージジュエリーとかを扱うお店があって。俺はそこのライナップすごい好きなんだけど、超ド級のエルメスの偽物置いてるのよ。たぶん本人も知らずにやってるんだと思うけど、見るたびにこれで本当に好きなんだろうかとは思っちゃうわけ。だから究極的には好きでやってたら仕事にはできないって話なんだろうけどね。
転売対策あれこれ
B:住所入力とかマジで厳しくなってきてるよね。ShopifyとかSupremeとか。住所被りは通った試しない。村上隆のZingaroとかも自動検知入れてるイメージあるね。てか普通の注文ですら「不正な注文が検知されました」とかいって弾かれること多いもん。
A:それってIPとかも関係してるの?
B:関係ないっぽいね。というかアクセスできるIP自体がかなり制限されてる。DTIとかWebARENAとかさくらインターネットみたいな日本のプロバイダが提供してるサーバーは全部NGだし、AWSとかで立てても無理。あと週によっても違う。プロキシプロテクトっていうのがあって、ハイプリリースの週だとそれが入ってるけど、それ以外は入ってないみたいな感じ。だからデータセンターのプロキシじゃなくてレジデンシャル、ローカルで引いてる遅めのやつとかが通りやすい。でもこれも時代ごとで移り変わってて、「今はレジデンシャル」「今はDC」みたいに結構違ってくる。DC通る時だと、固定費1本500円/月くらいのを何百本も持って何千タスクも回してるヤツとかいた。AWSで仮想PC立てて24時間回しっぱなしにしたり......ほんとにそんだけ住所持ってんのかは知らないけどね。でもリストック在庫を獲るにはそういう何百〜何千タスク回してることが基本条件ではあった。どう考えても時間もコストも割に合わないけどね。だからやっぱそっちのフェーズ行くと仕組みが変わるんだろうな。とはいえ今はどこも対策厳しいからね。
A:住所で思い出したけど、昔、スウォッチとダミアン・ハーストコラボのミッキー生誕90周年記念モデルが欲しくて。でも国内の販売数が100本くらいだったから住所も目視で確認されて、表記ゆれとかで突破できなかったのよ。だから知り合いに連絡しまくってそれぞれの住所に届けてもらって、そこから着払いで回収した。それで100本中10本くらい集めたかな。
面白いのが、スウォッチって結構昔からコアなコレクターに向けて商売してて、熱心にウォッチしてる顧客を明らかに優遇してるのよ。まずリリースの発表が発売の36時間前とかだし。それでいつの間にか発売されて、売り切れた後から話題になるっていう、刹那性というかナマモノ感をブランディングにしてた。だからこのコラボの時も、公式では「0時発売」ってなってたんだけど、ワンチャンあるんじゃないかと思って実店舗行って聞いてみたわけ。「これってホントに0時発売なんですか?」って。そうしたら「実は前日の23時くらいからオンラインに並びます」って言われたから、それで買えた。この情報を知ってるヤツらに在庫は獲り尽くされてて、普通に0時にオンライン見ても全部売り切れてるって感じ。
相場の終わり
A:あと定価が上がってやりにくくなってるのもあるな。
B:円安ね。Supremeとかマジで今高いよ。もともとUSの二倍くらいの値付けだけどさらに上がってる。
A:HUMAN MADEとかも常に定価高くて、KAWSコラボのスウェットパーカーとか4万弱くらいするわけ。それだけ高いといわゆる「二次流通のスウェットに出してもいい金額」の上限を越えちゃうから、相場がつくりにくくなる。そうなると結構きびしいよね。
B:SupremeもTHE NORTH FACEコラボとか結構売れ残るようになったよな。シンプルに定価が高すぎるし、在庫も増えてるし。日本のドロップはUS/UKの後だからStockXとか見れば大体の相場の見当はつくし、そうなると事前に狙うものもみんな一緒になっちゃう。あと、販売手数料も高いしな。ラクマもいよいよ10%になってメルカリと変わらなくなった。スニーカーも死んでるし。Air Jordan 1とかもともと18,000円くらいだったけど今22,000円とかでしょ、利鞘抜けないよね。今熱いのなにもないな。あ、でもキムタクが着れば上がる、いまだに笑 どこにファンがいるのって感じだけどやっぱキム着はすごいよ。WIND AND SEAとかHYSTERIC GLAMOURとか。キムタク様様よ。Supremeもそうだね、なんでもないやつがキム着で上がるとかある。
A:どこも渋いし、プレイヤー減ってきてそうだよな。どうなんだろ。
B:Botの価格もめっちゃ落ちてるよ。Botはアクセスキーを持ってれば使えるから、そのアクセス権を売り買いするマーケットがあるんだけど、2021年とかの全盛期だとSupreme用のBotで20万とか、ものによっては100万のBotもあったわけ。それだけコストかけてもペイできるくらい儲かったんだよね。スニーカーブーム全盛のときとかもすごかった。でも今見た感じだと5ドル/日くらいで借りられるもん。
A:「見た感じ」って、その画面一度も見たことないわ笑
B:なんか色々あんのよ。CyberSole、BALKO、MEK、NikeShoeBot……これ一時すごかったよ。Nikeの抽選一人勝ちしてた。
A:抽選で一人勝ちってのも意味わからん笑
B:そもそも当時、Nike抽選用のBot自体が全然なくて。これはいわゆるアカウントを量産して抽選に応募してくれるBotなんだけど、SNKRSのロジックに対応できるのが当時これしか無かった。しかもその頃のNikeって住所被りとかのチェックが甘かったから、このBot使いが一人で1万回とか応募してるのよ。そういうヤツらの間で競り合ってたから、1万応募してやっと3足獲れるみたいなレベルの戦いもあった。Off-Whiteとかかなりキツかったな。俺も一時期家にめっちゃスニーカーあったよ、生で見ておきたいってのもあったしね。でもこのBotも死んだね。Akamaiって会社があって、そこのセキュリティが強いんだけど、これがSNKRSに入って終わった。
A:へえ、俺は全然そういう感じじゃ無かったからなあ。俺の弟も靴やってたんだけど、それは海外から革靴輸入して国内で売るってやつだった。で、税関で止められて「これ革靴ですから関税払ってください」って言われるんだけど「合皮です」って言い切るわけ。そうすると向こうも結局本革かどうかの判断基準をもってないから、ゴネ続ければいずれ折れるらしい笑 でもやっぱスニーカーとかBotとか、そういう王道転売ヤーみたいなのいいな。
B:よくはないでしょ笑 一番悪いよ。
サイバースペース出禁
A:俺、最近家にめっちゃあったのダイソンの掃除機だもん。これは特定の経路でオンライン注文するとめっちゃポイントバックされるってやつで、それで複数台買ってすぐに二次流通に流せば、ポイント分儲かるって感じ。でもダイソン、モノとしては好きだけど何台もあるとストレスやばいよ。未開封のダイソン並んでるの室内の光景として嫌すぎる。
B:ポイント系も一時期おいしかったよね。楽天とかもう死んだけど。
A:あと、スマホ契約するとキャリアのカードの勧誘とかあるじゃん。ドコモだったらDカードゴールドとか。あれって「契約1件につき」じゃなくて「申し込み1件につき」代理店にインセンティブ入るっぽいのよ。だから売り場で申し込んで、インセンティブの分け前貰って、帰り道で解約窓口に電話してキャンセルしてもらうっていうのをやってた。
B:Bot系だとiQOSとかあったな。iQOS ILUMAが出た時に街中とかで、QRコード読み込むとルーレットが出てきて当たると無料でプレゼント、みたいなキャンペーンやってたんだけど、このルーレットを24時間回し続けてくれるBotがあって笑 複数タブ開いて全部でルーレット回し続けてて、たまに朝起きて確認すると「おめでとうございます、当選しました!」とか出てるわけ。でもそれでも渋すぎるから、まともにやったら誰も当たらないんじゃないかな。
A:すご、そんなの開発すんだ。
B:いろいろやりすぎてメルカリとか垢BANされたな。ラクマとか何回も。Supremeとか、買ったら即売るのが一番相場的にいいんだけど、オンラインだと届くまでに時間かかるから、とりあえずモノはないけど出品しちゃうわけ。でもこれがプラットフォームの規約的にNGだから、買えなかったヤツらとかが嫌がらせで通報してくるんだよね。それでBANされちゃう。最近はあんまり聞かないけどね。
A:俺はもう、どうやってもヤフオクはアカウントつくれないわ。しかもBANのタイミングがエグい。去年の年末、新しくつくったアカウントで30万くらいの商品を出したんだけど、これが落札されてこっちから発送した直後にBANされた。そうすると取引はキャンセルになるから、代金は落札者のところに返金されるんだけど、こっちが発送した商品はもう取り戻せないのよ。結局30万送りっぱなし。あれはキツかったな。それがあったから、怖すぎてもうメルカリの売り上げとか数千円でも必ず逐一引き出してる。ヤフオクはそんな感じで、アカウント作れはしても取引しようとするともうダメ。
B:俺は楽天BANされてるんだけど、おんなじ感じだわ。昔楽天スーパーセールのときにアカウント作りまくって、楽天モバイルの携帯を10個くらいBotで買ったんだけど、そのあと全部BANされてそれからダメになった。その時は商品が手元に届いたからいいんだけど、今はアカウント作っていいの買えてもその直後にBANされてキャンセルになる、みたいな感じ。でも楽天アカウントはつくれないのに、楽天銀行とかは使えるから謎なんだけど。
A:それあるな。俺もヤフーBANだけどPayPayとかLinemoは使えるし。俺は楽天はまだ使えるけど、楽天モバイルはもう一生ブラックだろうな。さっきの回線契約のやつなんだけど、どのキャリアも別のキャリアから乗り換えてくる契約にインセンティブをつけてるのよ。だからまずは乗り換えるための回線を契約しなきゃいけないんだけど、楽天モバイルってアプリから3分で回線作れて、開通の瞬間からMNP予約番号が発行できるの。これを「弾を作る」っていうんだけど、楽天モバイルは弾を作るのが早くて簡単だから、俺は30回くらい楽天モバイルでやってたらついに通らなくなった。今でもたまに試すけど「所定の審査により〜」ってなってアウトだね。
市場の「気分」は操作可能?
B:俺メルカリだと何売ってたかな。WIND AND SEA、HYSTERIC GLAMOUR、Supreme×Tiffany…… BAPE×BE@RBRICKはめっちゃ熱くて、定価が20〜30万くらいだったと思うけど、当時100万で売れた。でもこれも相場下がったね。海外向けに売れてたんだけど、香港かどこかに店舗ができた上に、中国が1000%の輸入を禁止したとかで、買取屋が100%と400%しか買ってくれなくなったんだよね。あとは、村上隆はポスターが熱かった。今はもう大したことないし、抽選販売になっちゃったけど。ポスター以外だと版画もやってたな。100枚限定の直筆シリアルナンバー入りマルチカラースーパーフラットフラワーズを42万で売ってた。でも結局これも10万とかしか利鞘抜けてなかった気がするな。
A:そう考えると、俺のエルメスはおいしかったよな。10万で買ったのが全部30万になってたわけだから。当時はアクロバットとかも10万で全然買えたけど、そのあたりで「これ以上プレイヤー増えんのか?」って気持ちになっちゃって醒めちゃった。でも結果的にはどんどん市場拡大していって、いまやアクロバットって数百万とかでしょ? やっぱそういうとこなんだよな。マジで好きでやってると、カスみたいな気持ちで好きとか言って金を払うヤツの存在を想定できないもん。
B:でもヴィンテージエルメスとか参入障壁高いと言えば高いよね。わかる人しかわからない世界だから、誰かが開拓してくれないと後に続けない。そういう意味ではAが相場をつくってたわけだよね。
A:まあそうじゃない? 一時期のヤフオクのヴィンテージエルメスのシルバーの落札相場って、全部俺の出品だったし。でもウォッチされて後追いされるのとか普通に嫌だよ。よく言われる「筆記体刻印」っていうのがあるけど、あれ最初に言ったの俺なんだよね。でも後からよく見たら全然筆記体じゃなくて笑 でも別に訂正されることなく広まっちゃったし。あと年代わからないやつとか見た目の雰囲気で「60年代っぽいな」とかいって出品してたけど、それもいつのまにかそのまま定着してたりするし。俺のヤフオクの出品コメントの文章を丸々引用してる店とかもある。
でも今、ヴィンテージエルメスを商売でやってるヤツってどうやって仕入れてんのかな。海外の相場も上がってるし、同業者も多いし、結構タフだと思う。今強そうなのは█████とか█████とかかな。█████は太客多そうだし、█████はBEAMS出身の人がやってるからBEAMSでポップアップしてたりする。だから結局は、どこから仕入れて誰に売るかっていうパイプを明確に握ってるヤツしか生き残れてなくなってるね。ヴィンテージウォッチとかもそうで、有力な店やプレイヤーが今どんな気分で、何をプッシュしようとしてるのか、市場ではどの個体が熱くて、誰が何を欲しがってるのか、その辺を知ってるのが重要で、それは直接プレイヤーの中でコミュニケーションとってないとなかなかわからないよね。
青山:市場の欲望の様相を把握すると常勝できるっていうのはまさしくだろうね。で、その先には市場自体をつくる側になるっていうのがあると思う。例えば、ポケカ転売が流行った結果、雨後の筍のように出てきたいろんなトレカって、どれも最初からメーカーが転売市場を想定して数をコントロールしてて、必ず胴元が勝てるようにしてるっていう話を聞くんだけど、こういうメーカーと転売ヤーの共犯関係みたいなものって結構あるのかな?
A:あんまり俺の商材では見ないけど、エルメスが最近出すジュエリーは、結構ヴィンテージマーケットの人気を横目で見てる気配があるね。市場で一番人気の昔のデザインをそのまま復刻したやつとかあって、みんなめっちゃ買ってる。
青山:復刻ね。アーカイブブームで1990〜2000年代のRaf SimonsとかMargielaが高騰したときに、本家が新しいコレクションでその復刻を出して、2chとかで「よくやった」って言われてたイメージがあるわ。もちろん売れるから出すんだろうけど、転売市場の抑制みたいな意図もあったのかもしれない。
B:メーカーとの共犯関係はわからないけど、卸と買取屋はズブズブだったりするよ。店舗がメーカーにめっちゃ発注して、その在庫をそのまま買取屋に流すっていう。買取屋からしても大口顧客だから嬉しいだろうしね。SwitchとかPS5とかを数百個単位で流してるっていう事例は結構あった気がする。
転売ヤーは必要なのか?
B:よく転売ヤーって存在価値ないって言われるわけだけど、これってどう思う? 俺も必要では絶対ないだろと思いつつ、市場で利益を生んでいる以上、何かのためにはなってるのかなと。並びとかは物理的な非対称性を補ってるとも言えるわけだけど、Botでオンラインの在庫を刈り取るのとかはマジでキモいじゃん。
A:まあ例えば、ビックカメラに行ってもSwitchがないのにヤフオクには高値で溢れてる、みたいなのは流通の順番として明らかにおかしいし、直感的にアウトな気がするよね。マッチポンプというか。でも商社がアフリカで資源開発した結果、そこに問い合わせれば日本からでも現地の商品が買えるようになった、みたいなのであれば、複雑な市場の経路を整備することでみんながWin-Winになってるわけだから意味がある。でも結局在庫数が絞られている場合、実需によっても競争は発生するわけだから、転売ヤーがそれを加速させているとはいえ、程度の問題ではあるよね。それぞれがどこにコストをかけられるかは違ってて、現地に行けないけど金持ってるヤツもいれば、時間は余ってるけど金のないヤツもいる。そこでそれぞれのリソースの交換が起こるのは自然と言えば自然なわけで、だからあとはそれをどこまで適用するかっていう程度の問題になってくるとは思う 。
青山:Aはプレイヤー自身として、自分の行動はどう位置付けてたの? 何か正当化しうるロジックを持ってたのか、別にそういうのは気にせずやってたのか。
A:正当化はできなかったな。さっきも言ったように俺はそもそもその商材が好きで、新しく買ったモノが手元に届くところにテンション上がってたし。でも転売って当たり前に、すぐに手放して現金化しなくちゃいけないわけじゃん? それって俺にとってはただの後処理でしかないからめんどくさくて、1ヶ月で回せるはずのサイクルを3ヶ月かかってようやく回したりしてた。そこを「こういうもんなんだから淡々とやれよ」っていうスタンスにはなれなかったな、結局。
2024年3月6日(水)@AUX BACCHANALES 銀座
*次回作の公開は2025年9月17日(水)18:00を予定しています。
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