冬の足音
藤沢周平
(中公文庫「夜の橋」収録)
20歳にもなるのに縁談を断り続けている美しい娘。
彼女には心の奥に秘めた想いがありました。
今日もまた、お節介焼きの叔母さんが縁談を持ち込んできました。
感じの良い若旦那で、母も叔母もすごく乗り気。
年齢も年齢だし、これ以上の縁談はないだろうとぐいぐい推してきます。
しかし、娘はどうしても首を縦にふることができない。
彼女にはずっと心に慕う男がいたのです。
数年前まで父のもとで修行していた腕の良い錺職人で、両親もゆくゆくは娘と添わせてこの家の跡取りに…と考えていたのでした。
しかし、男は突然にいなくなったのです。
男は悪い女に引っかかってしまい、挙げ句のはてには家の金を盗み出そうとしているところを見つかってしまい、追い出されたのでした。
そんな男だけれど、淡い初恋をどうしても忘れることができず。
娘はついに決意して、その男に一人会いにゆくのでした。
そして男と二人きり。
娘は長年の思いの丈を男にぶつけました。
今のおかみさんと別れて、自分を嫁にしてくれ、と。
しかし男は当惑した様子で、子供がいる…と告げます。子供がいるから、それはできない、と。
娘は一人、店を出ました。
そして自分の愚かさに気づき、娘時代に別れを告げたのでした。
珍しくオチがわかるお話でした。
でもなんかこう、グサグサ来ますね。
いや、こういう経験は皆無ですけれどもなんだかこう…主人公の息が詰まるような思いの切なさがリアルで。
子供がいると聞いた途端に気持ちがガラリと切り替わるのもリアル。
100年の恋も冷める…っていう。
このあと、きっと主人公は縁談を受けるんだろうなあ。幸せになってくれ。