メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
判断は、冷えた頭で下すべし。
コロンゾンの群れは楽しそうに回転しているので、とりあえず無害ッ! 肉天使の残骸はなんか人間とスライムが混ざったような姿で唸っているので有害ッ! そしてここで俺が華麗にトドメを刺すのは後々のことを考えれば論外ッ!!
つまり、こういうことだってばよッ! ──コウタロウくんッ! いまだッ! ヤツを仕留めるんだッ! なるべく派手に、それこそギャラリーの皆さんの印象にキミが大活躍して退治したと印象が残るぐらいのすっごいヤツをよろしく頼んだッ!!
「了解ですッ! ──少尉殿が作ってくれたチャンス、無駄にはしないッ! ハァァァァッ!!」
「やべ、やべるぉぉッ!? ぼぐはぎゅうぜいじゅでウボァァァァッ!!」
フッ……浄化、完了です……ッ! 言葉にしなくても俺のリクエスト通り派手に焼き尽くしてくれたコウタロウくんマジ有能。
顔合わせのときの険悪な雰囲気はなんだったのか、シズルちゃんも駆け寄ってきて「コウタロウさんッ! 大丈夫ですかッ!?」なんてヒロインムーヴしてくれてバランスもいい。
いやぁ~終わった終わったッ! 今日もバッチリ生き残れましたねッ! 視界の端っこのほうで1列に並んで順番待ちをしているコロンゾンたちをワームちゃんが順番に丸飲みしては夜空へ高射砲の如く射出するという謎の儀式? 異種族コミュニケーション? だかをしているのは気にしてはいけない。青紫色の流星が綺麗でとっても素敵ぐらいに思っておこう。
というか。コウタロウくんもシズルちゃんも完璧に戦いが終わった雰囲気してるってことは、やっぱりワームちゃんもコロンゾンたちも見えてねぇんだな?
いやまぁ、悪魔の姿が見えるなら最初にピクシーさんがメディア使ったときに聞かれたりしたんだろうけど。
じゃあなんでワームちゃんの雄叫びは聞こえていたのかって話になるワケで。邪龍だから、強力な力を持つとされるカテゴリーの悪魔だから聞こえた? それなら姿も見えていいだろう。
それともスキル扱いだったんだろうか? ピクシーさんの魔法スキルは他人にも見えているし影響するように、ワームちゃんの雄叫びも同じノリでなんかこう、いい感じ作用して肉天使にも効果が出た的な。
う~む、相変わらず悪魔関連のボーダーラインがわからねぇ。救世主系テロリスト、略してメシテロ肉天使たちの人魔併せ盛りは皆に見えていた。そして悪魔が素材にされているであろうシキガミの姿も見えている。
じゃあなんで俺やコレオ伍長の仲魔の姿だけがピンポイントで視認できないのか。カネサダちゃんに悪魔を殺すためのプログラムが搭載されていた以上、少なくとも軍の上層部は悪魔の存在を知ってなきゃ辻褄が合わないワケで──アカン、頭が真面目に痛む。ソーマを使って限界以上の戦いをしたツケが一気に吹き出てきたかな?
……はい、やめやめッ! こんな状態で考え事したって意味がない。それならキッチリ休息とって次に備えたほうが何倍も有意義ってなもんだ。
陸軍の勢力圏内で突然の襲撃。応戦した結果、部隊はボロボロ。でもそんな現場の事情なんて関係なく、巫女が大勢連れ去られたことについての処分だけが粛々と下される可能性が極めて高いだろう。
いざとなれば暴れて逃げて身を隠す、だがタイミングを間違えるのだけは絶対にダメ。事を起こすのは処分が確定してどうにもならないところまで追い込まれてからでいい。
念のため携帯食料もキープしておくか。水は最悪の場合ウェンディゴのブフで氷をかじればなんとかなるとして、問題はガスとかで昏睡させられるパターンだな。
自分の部屋に戻ることができたとしても、まず窓を全開にするのは当然として……とにかく基地にいる軍人が全員敵になる前提で思い付く限りの対策をしないと。
◇◆◇◆
全てを敵と疑い備えよ。そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。
……ナツミ少佐殿、大丈夫ですか?
「特務少尉、貴方の目には私が大丈夫なように見えているのですか? それなら私も安心ですね、ちゃんと佐官としての振る舞いができているということですから」
いつかの約束通り、テーブルには甘酒と小豆餅が用意され、そして対面ではナツミ少佐がやる気の売り切れた学生のようにぐだ~っと溶けている。
呼び出されたときはいよいよ脱走を決行するときが来たかと身構えていたのだが、いざ執務室に入ってみれば出迎えてくれたナツミ少佐の顔は気の毒なほど疲労困憊しているという有り様で。
そりゃあね? 日本帝国魔導院とかいう名前からして特別に偉そうなところから派遣された、八葉の巫女とかいう名前からして特別に偉そうな立場の娘さんたちがたくさん拐われたんだから多少はね?
……仕方ない、こっちから話を切り出すか。蜘蛛の糸どころかほつれた糸屑レベルのか細い可能性だとしても、仮にある程度の許しが与えられるのであれば出された食べ物にいつまでも口を付けないのは失礼だろうし。
と、いうワケで。ナツミ少佐殿、今回の襲撃に関する処罰などについてですが──。
「……そんなものは、ありませんよ」
は?
「新兵訓練のためのソーマ輸送任務など実施されていませんし、当然ですが八葉の巫女が輸送拠点に集められていたという事実もありません。
そのような任務が存在しなかったのですからテロリストによる襲撃などありませんでしたし、なにもしていない部下たちに与えるべき処罰など陸軍では定められていませんよ。
……どうしました? そんな『コイツなに言ってんだ?』みたいな顔をして。私が話している内容は紛れもない事実ですよ。
失礼しました少佐殿ッ! 自分はどうやら思い違いで関係のない任務について語ってしまったようでありますッ! 余計な手間を取らせてしまい申し訳ありませんッ!
どれ、せっかく用意してくれた甘酒と小豆餅でも食べちゃおうっかな~♪ どれどれ……ん~、お餅は柔らかくて小豆も上品な甘さで絶品ですなぁ~。
「遠慮なく食べてください。何故か、えぇ本当に全く理由は皆目見当も付きませんが帝都から上白糖やら一等米やら大量の支援物資が届いていますので。
兵站部の、それこそこの惑星ニニギの管理を任されている中将閣下ですら知らされていない、予定外の支援物資が。忽然と姿を消した人事担当の大佐殿と入れ替わるように。
そうそう。我々佐官でもなかなか手が出ない、買おうとすれば1本で七円はするラムネ水もたくさん届いたそうです。そちらも後程配給されるはずです。滅多に口にできない高級品ですよ? 楽しみですね」
おやおや、あまりにも美味しすぎるせいかお餅が上手に飲み込めませんねぇ。なんだか優しい甘さの向こう側に赤く錆びた鉄の香りを感じちゃうわ☆