メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
「ヒノスケッ! もう一度オレに力を貸してくれッ!!」
「クルァァァァッ!!」
見た目が火の鳥だからヒノスケか。俺はそういうネーミングセンス好きだよ? 炎がアーマーっぽく変化してコウタロウくんをガードしてるのも、ナイフに宿ってファイヤーしてるのもカッコいいじゃない。
でもなぁ……いかにもメシア教の系譜っぽい連中が悪魔と思わしき力を利用して変身したのを見たあとだから、ちょっとよくない想像力が掻き立てられるよね。
例えばさ? 連中の力の使い方はまだまだ発展途上で、コウタロウくんみたいな扱い方を本命として目指してるとかさ。そういうパターンってゲームでもラノベでもあるあるだよね~。
「フンッ! シキガミひとつ満足に支配できない半端者が、この私に挑むというのかッ! 魂を解放し、奇跡の力を宿し、人類を正しく導く上位存在へと昇華したこの私にッ!!
愚か、いや憐れなり人の子よッ! せめてもの情けだ、キサマの命を救世主たるこの私が浄化して宇宙へ旅立たせてやろうッ!! ──同志たちよッ! 我に祈りを捧げよッ! 星の海の最果てまで千年続く、救いの歌を響かせるのだッ!!」
「「新たな秩序を人の世にッ!」」
「「永久の幸福に続く道標にッ!」」
「「「「聖大天使の祝福をッ!!」」」」
ありのまま、俺の目の前で起こった出来事を話そうか。
いけ好かないイケメンの号令に合わせて死にかけの襲撃者たちが恍惚とした表情で聖大天使とかいうメガテン基準では極上のNGワードを叫んだと同時に上半身が弾けとんで残骸から赤い光が溢れだしイケメンに吸い込まれたと思ったら毒々しい赤い色した肉の翼が生えましたとさ。自分、ちょっと正気度ロールいいッスかね?
いやまぁ、ぶっちゃけこの程度のグロイベントで正気を失うほど温い生活はしてないんだけど、それとは別に強そうというか厄介そうというか。
いまからコレと戦うことを考えると単純に面倒な気配がプンプンして吐きそうなんだよね。さっきの自分語りも本当に人間の部分が喋ってんのかわからんし、上位存在って発言が自惚れじゃなくてマジの可能性もあるのが笑えねぇンだわ。
「な……ッ!? お前はァッ!! 人の命をなんだと思ってるんだッ!!」
「物知らずがよくもまぁ囀ずるものだ。同志たちは大義のために自ら命を差し出したのだ、その覚悟をくだらん同情で汚すな──バカめがッ!!」
「ぐぅッ!?」
わぁしゅごい。肉天使のお兄さんが腕を軽く振っただけでドラゴンボールみたいに風がブォンッ! と叩き付けられたぜ。
砂ぼこりが鬱陶しいだけで痛くも痒くもないが、無視して動けるほど優しい風圧じゃないのは困るな。下手に突撃仕掛ければ体勢を崩されて隙だらけにされるかもしれん。
とりあえず、ここは定石通り別方向からの波状攻撃でも試してみるか。コウタロウくんは感情が昂って細かい指示とか聞いてる余裕はなさそうだし、ここは彼にメインアタッカーを押し付けて俺はサポートにまわるのが正解かな。
◇◆◇◆
「ハハハハハッ! 無駄無駄無駄無駄ぁッ!! その程度の力でッ! 形だけを真似た紛い物の奇跡で、真なる救世主であるこの私の身体に傷をつけようなどと片腹痛いわァッ!!」
はい、超耐久自己再生タイプのクソボスでした~バカかよォォォォッ!? いやゲームならどうやって倒そうかなんて頭を悩ませるのも楽しみのうちだけど、こうして実際に戦ってみるとイライラが半端ねぇわ。
攻撃そのものは通用しているから防御力はそこまで高くないのがせめてもの救いだが……単純に持久戦はマズい。俺の能力強化はソーマによる一時的なものだから、時間切れでMAGの最大値が低下しても同じように戦える保証なんてないワケだし。
となれば、体力にも気力にもMAGにも余裕があるうちにイロイロ試してみるしかあるめぇ。何処かの薩摩人も言ってたし。勝つためなら飛んだり跳ねたりなんでもしないとダメだって。
あんまり粘り過ぎて肉天使のお兄さんが痺れを切らしてダイン系魔法を連発してきたら勝ち目ゼロになっちゃうから、そこだけは気を付ける必要があるだろう。
つまりソーマの時間切れと敵の忍耐切れという二重のタイムリミットがあるってことだな! ってことはイロイロ試すにしても回数制限もあるねやったぁ! ばぁかじゃねぇ~の?
よし、逆に考えよう。どうせ失敗したらその時点で試合終了なんだから、なにをやっても損は無いと思えば気楽になれると思い込めるってもんよ。
と、いうワケでピクシーさん。回復魔法、ディアよりも強力なディアラマをなんとか使えたりはしないかしら?
(たぶん大丈夫だけど、アンタそれでナニするつもり? 回復しながら突撃でもするワケ?)
なにを仰るかお嬢さん。なんでそんな自分から命を削るような戦法を俺が選ぶと思ったのか知らないが、もう少しスマートな使い方をするから心配しなさんな。
自己再生するタイプの敵の倒し方はいくつかある。再生能力そのものを封じるか、再生が追い付かないほどの火力ですり潰すか、あるいは──再生能力のオーバーフローを狙うか、だ。
いっそのことワームちゃんにモグモグしてもらうとかも一瞬だけ考えたが、噛み付こうとした瞬間に内側から攻撃されたら確実に耐えられないので却下だよ。俺知ってんだ、どっかの漫画でそういう倒され方した仲魔がいるの。
やることは決まった、あとはタイミングだな。ウェンディゴ、ヤツの足元を狙ってマハブフよろしくぅッ!
(またなんか悪巧みか? いいぜ、任せなァッ! マハブフッ!!)
そしてすかさずイッポンダタラァッ! 全力で地面をブッ叩いてどうぞォッ!
(くぅぅダけロォォォォッ!!)
コウタロウくぅんッ! 思いっきり炎をブチかましてやれぇッ!
「えッ!? ど、どうやってですかッ!?」
いや見るからに火炎属性なのにアギ系魔法を使えへんのか~いッ! そういえば力に目覚めたばっかりだったね、ムチャ振りしてゴメンねぇぇッ!? 蒸気で粘膜にダメージ与えて隙を作れないか試す予定が台無しになっちゃったよッ!
でも肉天使の注意がコウタロウくんに向いたので結果オーライだわ。ワームちゃん、思いっきり叫びながら地面を耕しておくれッ!
(ガァァァァラァァァァッ!!!!)
「うわッ!? なんだこれ、あ、頭が……ッ!?」
「が……ッ!? なんだ、この不快な音はッ!! キサマ、いったいなにを──何処に消えたッ!?」
ワームちゃんが作ってくれた即席の塹壕の中ですがなにか? 意外だな、コイツ気配とかMAGの反応とかじゃなくて完全に視覚に頼ってたのか。
つまり俺とコウタロウくんの攻撃を捌いてたのは単純にフィジカルが俺たちより桁違いに強かっただけなのね。まったく救いにならない事実をありがとう!
あとコウタロウくん、巻き込んだことについてはマジでゴメン。生き残れたらお給料で美味しいものでもご馳走するから許して?
さぁ、ここからが本番ッ! 一気にクロスレンジまで飛び込んでぇ──人間が残ってる部分ではなく、悪魔成分が多めのところにサーベルをフルパワーで突き刺してぇッ! そこにピクシーさんッ!!
(オッケーッ! アタシも全力でいくわよッ! ──ディアラマァッ!!)
「くッ! 奇襲のつもりかッ! だがキサマの攻撃など上位存在へ昇華した私の肉体には無意味で──ガッ!? なッ!? なんだこれはッ!?
なにが起きて……キサマァァァァッ!! ただの人間の分際でッ! 救世主であるこの私になにをしたァァァァッ!?」
なんだよ、ちょっと前世の知識を使ってズルしただけじゃないか。そんなに怒るなよ。存在そのものがデタラメでインチキなテメェに文句を言われる筋合いねぇわ。
それにしてもここまで上手くいくとは。やっぱご都合主義しか勝たん。否定的な意見もあったけど、そうした人たちもこうして生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされれば少しは認めてくれるんじゃない? 命が助かるなら手段や過程に意味なんていらないんだって。
(なんかグネグネ動いててキモいわね。コレ、もしかしたら悪魔の部分がニンゲンの支配から抜け出そうとしてるのかしら?
さっきより悪魔の気配が強くなってる気がするし。案外、アンタが名前を呼んであげたら応えてくれるんじゃない?)
そんなことあるぅ? でも試すだけならタダだし、それで肉天使が自滅してくれれば儲け物だし、やってみる価値はあるかな。
しかしこの肉の塊に名前を付けるとなると……そうだなぁ、鮮やかなメシアンブルーを取り込んだ影響で青紫色に膨れ上がってるし、ここはやっぱりアレかな。
我が声に応えよ、汝の名は幽鬼“コロンゾン”なりッ! なんちゃって──。
「ギッ!? ギャアァァッ!! や、やめろッ! 私に逆らうのかッ! 私は救世主だぞッ! 奇跡の力を行使する上位存在なんだぞッ! 星の力はッ! 全てが我らの導きに従うべきなのに、それが人類の未来にィィッ!
やめろ、やめてくれぇッ! 僕を塗り潰さないでイヤだ死にたくない僕はまだ死んじゃだめな人間なんだよぉッ!! 人を道具みたいに扱うこの国はァッ! 僕たちの手で滅ぼして新しく幸せで優しいぐにをつぐるだめにボグはほじのぢがらでうばれがわりギパャァ」
ありのまま、俺の目の前で起こった出来事を話そうか。
お試し感覚でそれっぽい悪魔の名前を呼んでみたところ肉天使のお兄さんの身体が沸騰するかのようにボコボコに膨らんで内側から小玉スイカみたいな可愛らしいサイズのコロンゾンが何体も飛び出してきましたとさ。自分、ちょっと正気度ロールいいッスかね?
(本日N回目)
あ~でも鼻歌でも聞こえてきそうなぐらい機嫌よさそうに空中をくるくる回るコロンゾンの群れは見てて微笑ましいなぁ~和むなぁ~。
(思考放棄)