メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
「特務少尉ッ! キサマ、余力があるなら戦闘を継続中のところへ増援として向かえッ! キサマの任務と権限は知らされている、だがこれは命令だッ!
いいか、
さすがは軍隊、バリバリの上下社会なだけあって俺には選択肢なんて存在しなかったんだぜ。本音としては本気で嫌だけど、責任の所在をああも明言されたんじゃあ逆らうワケにも行くめぇ?
可能であればテッセン曹長たちにも同行を願いたいところだが──まぁ無理だよね~そりゃあね。コレオ伍長とホムスビちゃんがザンダインの衝撃波によるダメージとは別に目ェ回してる気がするのはタダの気のせいですね間違いない。
◇◆◇◆
この拠点の責任者である大尉はもちろんだが、観戦武官という特殊な立場の俺も含めて生き残った軍人の末路がどう転ぶのかはかなり分の悪い賭けになりそうだ。
逃げていく襲撃者の誰かが、俺が暴れているのを見て「聞かされていない」と悲鳴を上げていた。もしかしなくても拠点の情報について、誰がどれだけ配備されているのか筒抜けで──いや、違うな。
誰がどれだけ、じゃない。たぶん今日この日、巫女が不自然に大勢この拠点に集まることを事前に知っていたのだろう。ソーマの輸送任務で鍛えるためにベテラン軍人よりも新兵ばかりが拠点にいることも含めて。
帝国軍の裏切り者、あるいは狂信者のスパイ。それも権力がガッツリ絡むような人事をゴリッと押し通せるような立場に内通者がいる前提で考えるべきかな。
つまり、なにをするにしても判断を間違えれば簡単に終わるってコトだ。うん、いつもやってることとあんまり変わらないにぇ?
ゲームやマンガなら「いったい誰がこんな計画を……ッ!?」とか考える場面かもしれないが、ハッキリ言って黒幕の存在がどうだこうだなんてことはクッソどうでもいい。
そんなことよりも重要なのは、行動を起こすタイミングの見極めだ。軍のメンツを保つための生け贄にされるぐらいなら派手に暴れて逃げてやるのは俺の中で確定しているが、助かるかもしれないのに早まって台無しにするのだけは避けねばなるめぇ。
一応、ソーマを懐に隠しておくか。襲撃者を撃退するのに使って余り物を持っているのを忘れてたとか言えばなんとかなるだろ。なんともならなきゃグイっと飲み干してそのままフィーバータイムですわよ!
で。
「フッ……まさか巫女でもない人間がシキガミを呼び出すとはな。その不完全な召喚でよく戦ったものだ、と褒めてやろう」
「ちく、しょう……ッ!」
ほかの襲撃者よりちょっと豪華な感じで悪魔合体してる幹部っぽい敵キャラ。
ボロボロになりながら相手を睨むコウタロウくん。
それに寄り添う巫女のシズルちゃん。
コウタロウくんが握っているアレは……軍から支給されるサーベルではなく、ユウコ女史が言ってたMAG結晶体で作られたナイフかな? キリノハの巫女がシキガミを召喚するときに使うって教えてくれたヤツ。
で、ふたりを守護るようにして身体のあちこちが崩れているサイバーパンクなスザクみたいなのがいるワケだが。敵さんのセリフと状況からして、アレ喚んだのはコウタロウくんかな?
あー、うん。だいたい理解したわ。
圧倒的……ッ! 圧倒的ラノベ主人公ムーヴ……ッ!!
とりあえず、盛り上がってるメインキャストよりも死にかけているエキストラの皆さんを先に助けておくか。ソーマの効果が続いているいまなら使えるだろ。ピクシーさぁ~ん?
(さすがにダメージが大きすぎるし、応急処置にしかならないと思うけど。ま、いいわ。──メディアッ!)
あらゆるゲームであれば安心、味方全体を回復する魔法のメディアが使えるっていう精神的アドバンテージは素晴らしいと思わんかね!
ただ“味方限定”ではなく“範囲”なのを想像できなかったのは少し迂闊だったかな。回復量は微々たるものだが、襲撃者たちにもバッチリ効果が届いちゃってるわ。今後は気を付けて使わんとなぁ。
「これは……傷が治っていく? いったい誰が──特務少尉、殿?」
そうだよ~特務少尉殿ですよ~。ちゃんと生きてるようでなによりだ。その様子だとまだまだ動けそうだな?
なら、とりあえずシズルちゃんを連れて後ろに下がってなさい。コイツの相手は俺が引き受けるから。心の底から嫌ですけどねぇッ!!
「オレもッ! オレも一緒に戦いますッ! 大切な仲間を傷つけられて、勝手な理屈で巫女たちが拐われて、それで黙って引き下がるなんて出来ませんッ! そんなのは男じゃない……オレだって、ひとりの軍人なんだッ!!」
お~、メラメラと義憤に燃えてますな~。熱いッ! 熱い男だぜコウタロウくぅんッ!!
こりゃダメだな。説得したところで聞き入れる気ゼロだろうし、無理やり下がらせたところで飛び入り参加してくるのは確実だわ。
なんならアレよ。交戦している俺の動きに合わせるんじゃなくて、自分が思いっきり攻撃できるタイミングで突っ込んでくるぐらいのことはやらかしてくれそうだよ? いきなり後ろから少尉殿~避けてくださ~いとか叫びながら。
軍隊で鍛えてそれでも力が無いことに落ち込んでるところにテロリストが来て十中八九追い込まれたであろうタイミングで本来ならば巫女にしか扱えないはずのシキガミを操る能力に目覚めるとかいうご都合主義展開にブチ当たりましたわッ! とても芸術点がお高めですわッ!
そして安全な立ち位置で眺めてるぶんには楽しめますけれど、こうして巻き込まれる立場になると面倒なことこの上なしでございますわよッ!
でもよくよく考えたら俺にも結構なご都合主義が適応されてるんじゃね? 定期的に格上の相手に嬲り殺しにされそうな場面で綱渡りを強要されてるだけで、結果だけを見ればレベルアップしてるし仲魔も増えてるし昇進して給料も増えてるしで順風満帆じゃん。
そう考えれば今回も深刻に受け止めなくても乗り切れそうな気がするな。ちょっと熱血漢で冷静さよりも感情で動く新人の世話をしながら手札が全く不明の相手と生きるか死ぬかの駆け引きをしつつ現場に残っている巫女たちに被害が及ばないよう気を付けながら戦うだけだし、楽勝だなッ!
あれれ~? なんだか視界がちょこっと滲んで見えるぞ~? もしかしてソーマの副作用かしら、アッハッハッ! クソがよぉ……。