メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
「……ッ!? 少尉殿、申し訳ありませんが敵の詳細について説明する権限をわたくしは持っておりません。お伝えすることができる情報はふたつだけ。襲撃者は『人間』であること、ほぼ確実に集団であり全員が異能を使えるということです」
ほー、そうかい。なら俺のほうから質問いいかい? ソイツらは日本帝国軍の敵なのか、帝国軍の軍装を身に付けている俺の命を狙ってくる可能性はあるのかってことを教えてくれると助かるな~。
「はい、少尉殿。敵の目的に帝国軍人の殺害が含まれている可能性は高いかと」
それだけわかれば上等だオラァッ! 相手が何者かなんて関係ねぇッ! 喧嘩を売ってくるなら高く買い取ってやるぜヒャッハァァァァッ!!
雄叫びは心の中で、頭は常に冷静に。まずは簡単に手早く現状の整理。相手は人間の集団でホムスビちゃんは正体を知っているが俺には話せない、ならば襲撃者は十中八九どころか確実に帝国軍の敵対組織。
どこが区切りになるかわからんが、上の人間は把握している。しかし襲撃されても下っぱに教えることができないとなれば、敵対関係とは別になにか厄介な事情が含まれていると考えるべきだ。
狙いはなんだ? いや、どっちだ? 正規の軍人に混じって、敵側からすれば混乱を狙いやすい新兵ども。そしてまともな基地に比べれば防御力が低い。そこにはソーマと巫女という、いかにも狙ってくださいと言わんばかりの物件がある。
んー。巫女かなッ!
ソーマも充分に危険物だが、ひよっこたちが台無しにしてエグい事故が起きても罰則が無いなら放置でいいだろ。現場の判断だよ文句あるなら次からは損失したときのペナルティを用意しておくことだ。
それに対して、巫女は詳しく説明されなくても手持ちの情報だけで厄介事の塊だとわかる。死傷者が出るのはもちろん、もしかしたらシキガミの異能を目当てに連れ去るなんてパターンもあるかもしれない。
それじゃあ小隊、戦闘準備ッ! えー、面倒なことになりそうな順番にいろいろ考えた結果、巫女を守らないと厄介なことになりそうなのでそっちを優先します。異論はあるかな? ない? よ~し、駆け足で行くどぉ~ッ!
◇◆◇◆
初めての人間相手の戦闘ですよ、皆さんッ! ねッ! テッセン曹長もコレオ伍長も初めて見る相手だからって緊張し過ぎないようになッ! 余計なことを考えると大変なことになるからねッ!
「はい少尉殿ッ! 初見の敵が相手でも戦闘に集中してみせるでありますッ!」
「んー? あの格好、どこかで──気のせいでしたッ! ハイッ! コレオ伍長、対人戦闘でも頑張りまぁすッ!」
「?? よくわかりませんが、士気が高いようでなにより、です?」
よしッ! うまく誤魔化せたなッ!!
(コイツら、アレよね? いつかの地下で植木鉢にされてたニンゲンたちの仲間なんじゃない?)
お、そうだな。
嗚呼、今日もいつものように頭が痛い。別に睡眠不足というワケでもないのに、ヤツらが俺を悩ませる。点と点が線で繋がりそうなのを全力で引き千切って無かったことにしてやりたい。
そういえば運命の糸を切る担当の女神とかいたっけな。もしも仲魔にできたらフラグもチョキチョキ切断してもらおうそうしよう。
とにかく巫女だ、巫女を助けるのだ。これがラノベなら転生者がひとりで駆け回る羽目になるところだが、ありがたいことにベテラン軍人の皆さんが普通に善戦しているので戦況にも俺の心にも余裕がある。
「大人しくしろッ! そうすれば危害は加えんッ!」
「やかま、しいッ! 離せよテメェ、よぉッ! オレの召喚器をッ! 返しやがれェッ!!」
巫女に腕力で迫る軍人。なかなかわかりやすい構図だな?
襲われている巫女さんが申し訳程度に顔見知りのユウコ女史だから助けるけれど、今後は罠が仕掛けられているかもしれないと警戒が必要かもな~。
屈強なゴリマッチョと可憐な少女が揉めていたら女の子を助けたくなるのが人情だが、そんな人間性につけ込んでくるのが悪魔だからな。一番最悪なのは「貴方は素晴らしい人です!」とか言いながら天使が出てくるパターンかな、うん。
ま、今回は知り合いだからノーカウントだよ、ノーカウント! ──受けてみよッ! サーベルキィィックッ!!
「ぐほぁッ!?」
説明しよう! サーベルキックとは、右手または左手にサーベルを握った状態で助走を付けて、なるべく当てやすい相手の胴体辺りを狙って蹴りを叩き込む物理スキルであるッ!
つまりは……キックだッ!
「ッ! アンタは……へへッ、ナイスタイミングだぜ特務少尉さんよッ! よし、召喚器は壊れてねぇな。それで、コイツらはいったい何者なんだよ?」
さぁ? ただ敵なのは間違いないんじゃない? 俺にとっても、お前さんにとってもな。情報としてはそれで充分だと思うけど。
「なるほど、そりゃそうだ。ったく、こんなことならオレもひと口ぐらいソーマ飲んで回復しときゃよかったぜ。ちとキツいが……黙ってヤられるワケにはいかねぇってなッ! ──コロウマルッ!!」
MAG結晶体から作られた弾丸を頭に撃ち込んでシキガミという名の改造悪魔を召喚する。冷静に考えたら俺もやってることあんまり変わらん気がしてきたな。MAG取り込んで仲魔を呼び出したり強力なスキル使ったりしてるワケだし。
良し悪しで言うならユウコ女史のやり方のが何倍もマシというか羨ましいというか。食べてるとこ見られたらいけないってのもそうだけど、とにかく不味いのがなぁ。味さえまともならもう少し気分よくレベルアップできるのに。
おっと、そんなことより巫女たちの安全確認をせねば。えーと……お、よしよし! どうやらこの辺りにいた巫女たちは大丈夫そうだな。ほかの軍人たちも集まってきたし、巫女たちもそれぞれシキガミを召喚してるしで応戦態勢は整いつつある。
問題は襲撃者たちがどれぐらいの実力者なのか、というところか。いつかの合体悪魔よりは弱いと仮定したところで、そもそもあの合体悪魔が俺より遥か格上だから戦闘力を推察しようにもなんの参考にもなりゃしねぇ。
「チィッ!? 与えられた命令に従うことしかできない狗どもが、我らの大義をッ! 信念をッ! 邪魔することなどッ!! ──同志たちよ、臆するなァッ! 正義無き独裁者たちに操られるだけの連中に、我らが敗北する道理など無いッ!!
自由の歌をッ! 平和の歌をッ! 聖戦の開始を告げるラッパを高らかに奏でるのだッ!! 混迷の霧を吹き飛ばし、欺瞞に満ちた世界を破壊し、人々に新たな秩序をもたらし、真なる幸福の中で生きられるようにッ!!」
あ。
この流れはもしかしなくても。
「天に勝利を、地に解放をッ! 我々こそが、人々の未来を守護する最後の『救世主』であることを忘れるなァッ!!」
「「「「オォォォォッ!!!!」」」」
き、救世主だってぇ~ッ!?
つまりコイツら相手には説得はもちろん会話も試す必要がないってことだな。暴力と混沌が大好きな頭ガイアは一応会話が成立するけど、正義と秩序が大好きな頭メシアは会話そのものが成立しねぇもん。
まぁ、連中にも連中なりの考えと正義があって、世の中を良い方向へ変えたいって気持ちに嘘はないのかもしれない。それは理解してやろうじゃないか。でも俺の平和を乱す存在には違いないから遠慮なくブン殴るね?