メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
「あの……特務少尉、殿。助けていただきありがとうございます」
ん? あぁ、さっき包囲戦の模擬戦ごっこ遊びに参加していた戦闘員候補生くんか。はて、助けるとはいったいなんのことを言っているのやら。候補生同士が悪ふざけをしていたところに、少しだけ戦い方の指導をしただけの話だが?
俺が言っていることの意味がイマイチよくわかってないのだろう。少年も、両隣の少女たちもどう反応すればいいのかわからなくて困っているようだ。安心したまえキミたち、俺もワケがわからなくて困ってるからお互い様だよ! よッ!
よし、帰ろう。
俺もうお部屋に帰りゅッ! これ以上会話を続けているとまた面倒なことになりそうだもの。だって考えてみ? エリートのボンボンに絡まれてた少年でさぁ、女の子をふたりも侍らせてんだぜ? こんなんハーレム系ラノベの主人公の素質あるヤツに決まってんじゃんッ!
いや、メガテン世界でハーレムって成立するのか微妙なところでもあるけど。ペルソナはなぁ、学園が舞台だからアオハル要素としてそういうことも……いや、まぁ、女性関係の修羅場を青春劇にカテゴリーするのもどうかと思うが。
「あ、あのッ!」
お、おうッ!?
「助けてもらって……それに、戦闘員候補生のクセに特務少尉殿に向かって言うことじゃないのはわかってますが、その……もっと、違うやり方もあったんじゃないんですか?
それだけお強いのなら、あんなふうに殴らなくたって、もっと別の方法でアイツらを説得することだって! 暴力で無理やり黙らせるんじゃ、結局アイツらと同じじゃないですかッ!?」
はいキター、この子は確実に主人公ですね間違いない。その青臭さは嫌いじゃないが、残念なことに俺の生存戦略的にはとても関わりたくない部類の人間デース!
気持ちはわかってやれるけどな。転がって、泣いて、吐いて、無様に担架で運ばれていった3バカの姿は哀れですらあったもの。権力という名の暴力で嫌な思いをしたこの少年にしてみれば、暴力という名の暴力で事態を強制的に終わらせた俺を認めるのは難しいところだろうね。
うん、いいんじゃない? 少年、キミの考え方は別に間違ってないし、なんでもかんでも暴力で解決できるって勘違いされるよりは何倍もね、将来性あるよキミ。
「……へ? あ、あの、俺、特務少尉殿に対してけっこう失礼なこと言ってると思うんですけど」
自覚があるなら結構。そして、俺はキミの価値観を尊重しよう。何故なら他者のアライメントに口出しするのはメガテン世界では自殺行為に等しいからです。大事件に巻き込まれる的な意味で。
そんなフラグを建築することに比べたら、この程度の跳ねっ返りなんて微粒子レベルにすら生意気とは思いませんねぇ。いやマジでさ? 気まぐれな悪魔たちのせいで誰が急に理不尽なボスキャラになるかわかんねぇンだわ。
だから俺は許すよ。死にたくないから。
だからもういいでしょッ!? 俺のことはほっといてよッ!! キミの物語の主役はいつだってキミ自身で、俺は所詮通りすがりのモブキャラその1に過ぎないのさ。その証拠に名前なんてアルファベットに数字の羅列だぜ?
さ、もう行くべさ。俺はこれから勝手な行動をしたことについてナツミ少佐殿に地面に顔面を埋め込む勢いでエクストリーム土下座を実行しなければならんのだ。
それはもう誠心誠意の謝罪の気持ちを込めて、許してくれるまで部屋中を俺のデスマスク跡で埋め尽くす勢いで土下座することを宣言しようッ! それこそ、イッポンダタラに協力してもらって天井も俺の顔面まみれになるまでなァ……ッ!!
ナツミ少佐殿はどんな土下座が好みかな。王道のスライディング土下座、躍動感のあるジャンピング土下座、少し捻って超絶悶絶錐揉み大旋風土下座なんてのも捨てがたい。
ホムスビちゃんはどう思う? なになに、それならスライディング土下座と見せ掛けてからの後方宙返り土下座なんかどうだって? なるほど、そのスタイリッシュさは謝意を伝えるのに効果抜群かもしれない。採用だぞ副官ッ!!
◇◆◇◆
「貴方に与えられた権限を考慮し、任務中に処理させるつもりでしたが……なるほど。訓練中の指導であれば貴方が観戦武官であること、相手が少尉候補生でしかないことが巧く噛み合っていますね。
着任早々、なかなか良い仕事をしてくれました。この調子で輸送任務の護衛に関しても吉報を期待しましょう。あぁ、もう立ち上がっても結構ですよ。それと人造超力兵にあまり変なことを学習させないように」
わーい、許されたついでに褒められたー♪ これも優秀な副官が上手にフォローしてくれたおかげだな! 海軍に戻るときにはバイバイしなきゃならんだろうが、そういう穏便なお別れなら大歓迎だぜ!
ところで少佐殿、俺がポンポンを撫でてやったボンボンたちはどうなるんですかね? 性格には少し問題があったし、最初から俺に処理させるつもりなのは理解しましたが、アレでも少尉候補生なんでしょ? やっぱり再教育してから再利用したりとかそういう流れだったりするのかな。
「──どうしても、聞きたいですか?」
はい、いいえ少佐殿ッ!! 自分は能力に見合う程度の無理のない命令と、ついでに日に3回の美味い飯を与えてくだされば充分でありますッ!!
「結構。聞き分けの良い素直な部下は好きですよ? 貴方に陸軍の階級を与えて優遇すると伝えたときに、イミナ中佐殿が渋い顔をしていたのも納得です。
あぁ、いえ。そうでした。私としたことがついうっかり言葉を間違えてしまいましたね。貴方のことは資料を含め、快く派遣してもらいましたとも」
怖っ。
……ふぅ、危なかった。悪魔との戦闘では“知らない”ということが不利につながり命を落とすことになるが、人間との会話では“知ってる”ということが不利を飛び越えて命を落とすことに直結するからな。
これが普通のファンタジー異世界転生なら、何故か下っぱの主人公に懇切丁寧に軍の秘密を教えてくれる場面かもしれない。
だがここは人間が試験管で育てられ番号が割り振られるディストピア世界ぞ? 身の丈に合わないような情報の対価なんてそりゃもうとんでもない値段で目玉が飛び出ちゃうかもしれないね! 物理的に。