メガテニストはディストピアでもヘコたれない。   作:はめるん用

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 誰かが言っていた。軍人とは走って走って走りまくる商売であると。

 

 だったら俺もその理屈に従ってみようじゃないの。テッセン曹長とヒーホーちゃん改めコレオ伍長と、頼れる副官ホムスビちゃんの3人を連れて基地の周囲をランニングしてみるのも悪くない。

 

 ちなみにヒーホーちゃんの名前がコレオに決まるまで一悶着というか……なんでも「せっかくだから強そうな名前にしよう!」とか言い出してゴンザレスとかゴリマッスルとかゴルベエザンとか個性が爆発してる名前にしようとしたところを担当者から優しく諭されたのだとか。

 その確固たる意思による『ゴ』推しはなんなの? 実際強そうだけど。特にゴルベエザンとかパワーをメギドに集中していいですともとか言いながら使えるようになりそうなほど強そうだけど。もしかして魂の出身地が俺と一緒だったりするのかな? もちろん怖いから確認なんてしませんよ。

 

「それにしても、なんだか大変なことになりそうな任務ですね~。トラブルが起きるとわかってて一緒に行かなきゃいけないなんて。もう少し説明してくれてもいいと思うんですけど」

 

「軍隊とはそういうものだ伍長。いちいち納得が無ければ動けないようでは組織として機能せんからな。もっとも、出来るなら魅力的な指揮官の命令で動きたいと考える気持ちはわかるが」

 

 ホムスビちゃんが聞いてる前でギリギリの発言、勇気があるなテッセン曹長。それともコレオ伍長が洩らした不満を誤魔化すためにわざとやったのかな。

 

 っと、他人事みたいに感心してる場合じゃないな。このふたりが正式に俺の部下になってしまった以上、俺も発言に気を付けないと連帯責任でとばっちりを食らわせてしまうことになる。

 何気無いひと言が人間関係の悪化に繋がるってのは軍隊に限ったことじゃないし、前世でも発言内容を悪意のある解釈をされて叩かれるとかあったもんなぁ。危険思想の持ち主とか、そういう濡れ衣を着せられないよう俺も気を付けないとね! 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 基地では大勢の軍人が活動している。当然、訓練に励んでいるのは俺たちばかりではない。例えば運動場では陸軍幼年学校なる教育機関を卒業したBクラス帝国上級市民の少尉候補生たちと、Bクラス帝国下級市民の二等戦闘員候補生たちが模擬戦などで心身を鍛えていたりする。

 

 説明ありがとうホムスビちゃん。もしかして早口言葉とかも得意だったりするのかな? なんか難しいというかややこしい単語が多くて少尉殿は頭が頭痛になりそうだよ。

 え? そういう部分での補助をサポートするのも副官の仕事だから気にしなくてもいいって? カネサダちゃんのときも思ったけど、キミたち人造超力兵ってけっこうノリがいいというかお茶目さんだよね。

 

 しかし、この光景。実にテンプレート的で苦笑いが我慢できないかもしれん。

 

 服装の雰囲気と、敵に包囲されたときの訓練だ~とか楽しそうにゲラゲラ笑ってる様子からして3人組のほうが少尉候補生だろう。そして銃のストックの部分で殴り飛ばされて、駆け寄った女の子ふたりに支えられているほうがたぶん二等戦闘員候補生かな。

 よし、無視して通り過ぎよう。ナツミ少佐殿にもトラブルには関わらなくて良いって言われてるし、なんか教官っぽい……ホムスビちゃん、あの人の階級ってなに? 大尉? また大尉かよ。ともかく大尉殿も監督していらっしゃるし、俺は関係ないよねぇ? 

 

 

「生意気な下級市民に教育してやるのもボクたちの役目だからね。大丈夫、まさか訓練で命まで奪うようなことはしないさ。

 ちょっと足を何発か撃つだけだよ。これも痛みに耐える練習だと思って、ありがたく指導を受け取るといい!」

 

 

 ねぇホムスビちゃん? 人間って足に太い血管とかあるから、下手に怪我したら血液がドバァーっと出て大変なことになったりとかは……やっぱりしますかそうですか。出血多量により最悪の場合は多臓器不全に? なんかもう聞いてるだけで致命傷っぽさがエグいね! 

 

 これは死傷者に該当しますね間違いない。しかし現在はまだ任務開始前であり、俺に介入する権限があるのかは微妙なラインでもある。

 どうしよっかな~困っちゃうな~、でもコレオ伍長がユキダマくん召喚してブフで少尉候補生の持ってたライフル凍らせて破壊しちゃったからもう逃げられないゾ☆ お前なんばしよっとね? 

 

 注目される俺たち。

 

 当然、大尉が突然現れた俺たちに何者かと問い質す──より先に少尉候補生たちが出しゃばってきましたねぇ。なんだお前らはってか? 俺は日本帝国……海軍所属、F8492特務少尉だ。観戦武官として陸軍の精兵ぶりを勉強しにきた(ことにされた)者だ~よ。

 

 

「へぇ……? それはそれは。そんなことのために宇宙からわざわざ地上まで降りて来られるとは、海軍の特務少尉殿はずいぶんと暇人──失礼、勉強熱心でありますね」

 

「まったくだな。俺たちみたいに幼年学校で必要な教育がしっかり終わってると、いちいち宇宙へ上がって勉強してこい~なんて時間と予算を与えちゃくれねぇからな」

 

「羨ましい限りですねぇ。海軍では知識や経験が浅いまま少尉になっても、こうして学習の機会を与えてくれるなんて。

 それも、Dクラス出身で名前すら持たない下等市民にも分け隔てなく。いやはや、本当に羨ましいことですねぇ?」

 

 

 ここまで素直に見下してくると逆に可愛く見えてくるなコイツら。あと最後のインテリ風のお坊ちゃんよ、ソレ嫌味のつもりかもしれないけど俺マジで知識も経験も足りてないんだわ。故に煽りとして成立してないんだわ。なんかゴメンね? 

 

 それにしてもここからどうしよう。俺がそれなりのアクションを起こさないとコレオ伍長の立場がなくなっちゃうし、なんか下級B民らしき若者たちから芳ばしい期待の視線が飛んでくるしで立ち去るタイミングなんて砂粒ほどにも残っちゃいねぇ。

 ここは先人の知恵に倣うべきかな。丁度いい具合にさっきテッセン曹長が手本を見せてくれたし。えー、大尉殿、陸軍の訓練とは随分と厳しいようでありますな? こんな戦闘員候補生のうちから包囲戦という不利な状況を想定し、怪我を伴う指導まで組み込んでおられるとは。

 

「……限界まで追い込まれたとき、最後に頼れるのは訓練で鍛えられた精神力だ。痛みに耐えられるだけの強い精神がなければ戦闘はもちろん撤退すら儘ならんのも間違いでは、ない」

 

 うわぁ、気の毒なぐらい嫌そうに言葉を選んでフォローしていらっしゃる。どうやら今度の大尉殿は真面目に部下たちの成長を願っているタイプのようだ。

 少尉候補生と大尉では権力にかなりの差があると思うんだが、それでこんだけ配慮しなきゃならないってことは……まぁ、身分とかそういうアレだよねぇ。同じくB民でも上級下級があるみたいだけど、実際はもっと複雑で面倒なんだろう。

 

 

 まったくもー、ディストピアやるならその辺の細々したとこも残さず排除しとけよ。そんなん管理する側もややこしいだけだべや。

 

 しょうがねぇ~な~。えー、なるほど。ご教授のほどありがとうございます大尉殿。しかし、陸軍では実に独特の価値観を訓練に取り入れておられるのですな。

 座学ならばともかく、実技訓練まで知識が先行している者を指導役として適当であると認めるとは。それに比べると、海軍の訓練というものは野蛮で前時代的かもしれませんなぁ。

 

 まぁ知らんのだけどね。俺、まともな訓練受けてねーし。

 

「──ほぅ? それはまた、指導教官を任されている身としてはなんとも興味を唆られる話だな。なぁ特務少尉、我々陸軍は貴様に学習の機会を与えているのだから、俺にも貴様に海軍のやり方を聞くぐらいの権利はあると思わないか?」

 

 あらよぉ~! 頼もしいニヤリ顔してくれるじゃないですか大尉殿ってば。アンタ俺がこのあとナニやらかすつもりか理解してて踊らせる気マンマンだな?

 あとテッセン曹長。お前俺の後ろにいるから見えてないと思ってるかもしれないけど、笑いたいのを我慢してるの気配でバッチリわかってるからな?

 

 なに、簡単なことですよ大尉殿。海軍では大層なご身分のお歴々にわざわざ訓練場までご足労願うようなことはしないというだけのことであります。

 いちいちそんなことをしなくても、訓練の指導役など生徒より能力さえ秀でていれば務まると考えているからです。

 

 

 あぁ、万に一つでも誤解の無いようにもう少し噛み砕いてご説明させていただきますね? 実戦経験の無い肩書き以外無価値な候補生の指導などというクソの役にも立たないモノに頼らねばならないほど人材に不足していないということです。

 何故なら無抵抗の相手にさえ複数人でなければ挑めないようなゴミムシに指導されたせいで、貴重な戦力となるはずの候補生たちを無能な烏合の衆にされたのでは困るからであります。

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