メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
機械の敵を水浸しにして電気で痺れさせる、あるいは水に濡れた敵を凍らせてカチカチにする。どちらもあらゆる媒体で定番の作戦である。
問題があるとすればそもそも水が確保できるのか、確保できたとしてもそれは人体にとっては猛毒なので立ち回りをミスるとこっちがピンチになるということだ。
あと、うろ覚えだが水って純度が高いと絶縁体みたいな感じになるんだっけ? この星の地表から降りてくる水は重金属イオンで汚染されてるらしいのでそこは心配してないが。
タイムリミットは軍曹の体力が尽きるまで、ではない。余裕が残ってるうちに発見できなければ水源へ移動する前にやられ「見つけたホーッ!」る心配はなくなったぜナイスだユキダマくんヒャッホーッ!!
よっしゃ軍曹! 楽しい楽しいランニングの時間が始まるぞッ! やっぱ軍人さんは体力があってナンボの商売だからな、元気いっぱいゴール目指して死ぬ気で走るぞッ!
「了解であります少尉殿ッ! 申し訳ありません副官殿、本日の教練はこれにて失礼させていただきますッ!」
「そう簡単に逃がすとでもッ!」
そう簡単に見逃してくれるなんて思ってないし、なんの対策も無しで背を向けるとでも?
──イッポンダタラッ!
「ヒィィィトォ、ウェィブッ! イッヒャアァァンッ!!」
「ぐぅッ!?」
どんなに動きが素早くても、来る方向とタイミングが限定されるなら迎撃も狙いやすい。大変だなぁ、なにがなんでも追い掛けなきゃいけない立場ってのはさ?
◇◆◇◆
逃げるときは、全力でなければならない。余計なことを考えてはいけないし、変な希望を抱くのもよろしくない。ときには義務や責任ですら棄てる覚悟が必要なのが『逃げる』という行為なのである。
わざわざ自分で自分に言い聞かせているのは、一瞬“このままワンチャン拠点まで逃げることができるかも? ”なんていらんことを考えてしまったからだ。
ムリだからね? このエリアにいたヨモツイクサは少年が合体悪魔に変身するときに駆除してくれたけど、拠点までの帰り道にはたぶん普通にいるからね?
そもそも拠点にたどり着くまでにMAGもスタミナも使い果たすわ。ゲームみたいにダンジョンの入り口から出口まで走り続けるとか普通にムリだから。あいつらもう人間じゃねぇよ。
と、いうワケで坑道へ逃げ込みたい気持ちをグッと抑えて豆腐建築の合間を縫うように逃げる俺と軍曹とヒーホーちゃん。
さてふたりとも。たぶん俺が水を使って悪いことを企んでることはカネサダちゃんも承知しているだろう。そもそも普通に会話してたしね。
なので普通の方法では一緒に水遊びをしようと誘っても断られてしまうでしょう。つまり普通じゃない方法でどうにかしなければなりません。
と、いうワケで。ゴニョゴニョっと。
「……なんと申しましょうか、ずいぶん豪快な作戦でありますなぁ。下士官としては少尉殿の負担が大きいのが気になるところではありますが」
「う~ん、気持ち的には私もあんまり賛成したくないんですけど……。じゃあ代わりのアイディアがあるかと聞かれたら、急になんてなにも思い付かないし……」
ヒーホーちゃんの閃きにこっそり期待してたのはナイショの話。
ユキダマくんの案内に従いながら、ときどき後ろへ魔法を放ち足止めを繰り返しつつ走ることしばらく。なかなかいい感じの水溜まりが……というか池だなもはや。
ここがどれだけ深い場所にあるのか、真っ暗な天井から細い水の線が何本も垂れ下がっていた。そのどれもが色鮮やかな光を優しく放っており、見ただけでコレ飲んだら腹痛程度では済まされないぐらいヤバいだろうな……とわかる。
なんなら周囲の地面も濡れてるところがほんのりと光ってるし、靴の裏もピカピカになっちゃってるよ。
なにこれ怖っ。重金属イオンって水に溶けるとこんなことなんの? コレどこまでが化学でどこからがオカルトによる現象なんだ。まさか未来からやってきたネコ型ロボットが光る苔の種をばら蒔いたワケでもないだろうに。
「なるほど。強力なジオンガを当てることは難しい、しかし範囲重視のマハジオでは私に充分なダメージを与えられない。ならば水を浴びせることで火力不足を補えばよい、ということですか。
悪くない作戦だと思います。あるいはブフによる凍結効果が強化されることを期待して動きを封じる、などという搦め手を狙うこともできますね。チームが使える手札の特性を理解した、悪くない作戦であると私も思いますよ」
カツ……カツ……と靴音を鳴らしてゆっくり近付いてくる姿は実に強ボスって感じで、いよいよ追い込まれてる的な意味でクライマックスの雰囲気出てるねぇ!
俺ボス戦はどっちかっていうとレベルをガンガン上げて楽々撃破を狙いたいタイプなんだけどなぁ。真面目に戦って真面目にMAG結晶体食べて強くなってるはずなのに、それを実感できるタイミングが無いのはどうかと思うよ?
おっと、すぐに愚痴が頭に流れるのは悪い癖だな。でもたぶん一生治らないだろうな~コレ。──状況、開始ッ!!
「「了解ッ!!」」
俺の合図に合わせて左右に散開するふたり。当然カネサダちゃんはふたりを逃がすワケにはいかないので必ずどちらかを追い掛けようとする。そうして背中を見せた瞬間、俺が攻撃することで出鼻を挫き流れをつかむ。
我ながら実に完璧な作戦だ。これまでの戦闘で得られた情報から相手の動きをちゃんと予測して計画した、いつもの行き当たりばったりな作戦モドキとは違うのだよッ!
強いて問題点をあげるなら、カネサダちゃんが離脱したふたりを一瞥もせずに俺を見据えているということぐらいさッ!