阪神大震災、地下鉄サリン事件と日本が揺れた30年前の今ごろ、その映画は評判を呼んだ。岩井俊二監督の「Love Letter」。二役ヒロイン、故中山美穂さんの若き日の姿にリマスター版上映の劇場で再会した▲婚約者を冬山で失った神戸の女性が奇妙な文通を重ねる。亡き彼と同姓同名でしかも中学の同級だった小樽の女性と―。生と死、そして初恋の記憶が冬の風景と織りなす映像詩のような構成。改めて見て涙がにじんだ▲韓国でも一大ブームを起こした作品を製作したのがフジテレビだ。深夜枠のドラマで若手を発掘し、劇場映画に挑ませた一つ。社内の空気がよどみ、人権軽視が指弾された局に、そんな時代があったのかと思い返した▲「物言う株主」側の株買い増し。別のタレントのハラスメント疑惑。第三者委員会の報告後も混迷し、少々の人事刷新では信頼回復に遠いフジの姿は往年の作品のファンとしても残念だ▲あの映画の撮影中の気持ちを中山さんはこう語った。「この幸せな日々がいつまでも続けばいいのに」。目先の面白さより後の世も感動を分かち合える。見る方も作り手も幸せに思う。そんな名作を再び世に送る日が来るだろうか。