風来坊といえば、映画「男はつらいよ」の寅さんだろう。第27作ではおなじみの東京・柴又から瀬戸内海を渡る船へとひとっ飛び。直後に呉沖の大崎下島の漁港で売り口上を響かせる▲続く舞台は隣の豊島。美しい自然と人の営みが溶け合う映像は見ものだ。マドンナに出会って物語は動き出すが、寅さんが突然広島県を訪れた訳は謎のまま。劇中のせりふから探れば「風の吹くまま気の向くまま」か▲トラさんならぬネコちゃんだが、似ている。本紙土曜連載「かなしきデブ猫ちゃん」の主人公マルだ。兵庫県から光のトンネルで瞬時に福山へ。広島県内を山に空に海にとさすらう▲寅さんばりにほれっぽく、他猫や他人の困り事は放っておけない。「こんないい街、そうはないよ」。尾道の少女にかけた言葉など、あの江戸弁でも違和感はない。きょうから県央の東広島。物語も中盤にさしかかる▲住む人に見慣れた光景の特別さに気付いてほしい―。かの名画と同じく実在の地を登場させる理由として、作者の早見和真さんが本紙で語っていた。共通点をもう一つ。主人公の堂々とした姿は題名と違って、つらくもかなしくも見えない。それを言っちゃあ、おしまいか。