片足切断の寝たきり91歳男性を歩かせた!「脳」を知り尽くしたリハビリ医だからわかる“攻め”の回復術
全方位いいことづくめ
“攻めのリハビリ”を簡単に言うと、筋肉の増強だ。 「筋肉が増強すると、身体全体にいいことが起きる。筋力がついて、耐久性が上がる。関節の柔軟性が高くなり、バランスが良くなって、転倒リスクが減る。そして筋肉が大きくなる過程で、身体の中でインスリン系の反応が良くなり、糖尿病の治療・予防にもつながる。逆にいうと、高齢の糖尿病患者さんって筋肉量が少ないんです(笑)。 さらに、筋肉を鍛えることで内臓脂肪が減って、コレステロール値が下がるし、血圧や体重のコントロールもできる」 なんと糖尿病、高脂血症、高血圧の予防、つまり生活習慣病全般の予防になるのだ。さらには… 「筋肉を鍛えると、たくさんの刺激が骨にも入るわけですね。よって骨粗鬆症が予防できて、関節変形の予防にもなるんです」 身体に痛さや辛さがなく、元気になれば、今までどおりのコミュニケーションを取れる。家にこもることもなく、外に出かけたり、人に会ったり、学ぶ意欲も湧いてくる。 「すると脳に刺激が行って、認知症の予防もできるという流れなんです」 さらに目に見えない大きな効果も。 「筋肉を鍛えると、マイオカインというホルモンが分泌されます。このホルモンは、身体の各組織を元気にしてくれる。そしてBDNF(脳由来神経栄養因子)も活性化するので、脳神経を元気にします。また、身体の中で壊れた細胞があった場合、その細胞に代わって細胞を修復してくれるミューズ細胞も増えます。つまり、壊れた細胞を修復して、がん化するのも防いでくれるんです」 全方位にいいことだらけ。筋肉さえ鍛えていれば、もはや高齢者になることが怖くないかもしれない。 「そうなんです。この流れを“脳筋連関”といいます。だから、筋肉を鍛えたら健康になるんですけど、多くの人はやらない。やっぱり、しんどいから(笑)。“楽して予防できず”が、健康の原則なんですよ」 筋力は90歳でも向上するが、酒向先生は、50歳から筋力増強を始めるべきだと提唱している。 「80歳のときに60歳代、90歳のときに70歳代……実年齢よりも20歳若い筋肉、骨、脳を実現しましょう。そして、95歳以上まで非介護を保ち、人生100年時代を自分らしく、楽しく、快適に過ごせるようにしましょう。世界一の超高齢社会の日本で、シニアライフが世界の憧れになってほしいです。それが一番の世界貢献だと思います」 では、具体的にどんな“筋肉増強術”が効果的なのだろうか。【記事後編】では、自宅で始められる簡単すぎる方法を紹介している。これをやらない理由はない…! 取材・文/池谷百合子フリーライター。これまでに芸能人や著名人を500人以上インタビュー。 デイリー新潮編集部
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