片足切断の寝たきり91歳男性を歩かせた!「脳」を知り尽くしたリハビリ医だからわかる“攻め”の回復術
【前後編の前編/後編を読む】脳外科医が教える“攻めのリハビリ” 50代からスタート…自宅でできるカンタンな動きで「脳が実年齢より20歳若返る」! 【写真】え、動きがカンタンすぎません?ムリなくできる運動で、ラクラク筋肉を増強! 「“もう歩けません”“今後は寝たきりになるでしょう”と診断された高齢患者でも、私たちの“攻めのリハビリ”で、再び歩いたり、身の回りのことを自分でできるようになりますよ」 ***
こう話すのは脳神経外科医で、脳卒中や認知症などのリハビリのエキスパート・酒向正春医師だ。回復期リハビリテーションセンター『ねりま健育会病院』(東京都練馬区)の院長で、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)の第200回として2013年に密着取材をされている。 著名人からの信頼も厚く、2004年に脳梗塞を発症して右半身麻痺となった長嶋茂雄さんもそのひとりだ。2021年の東京オリンピック開会式の聖火リレーとして登場した際には、日本中が驚愕した。さらに2017年に脳出血を患い、右半身に麻痺や失語症が残った山田太一さんも酒向医師のリハビリによって、QOLが大幅に向上したという。
脳画像で判断
寝たきり状態になっていた91歳の男性のケースも驚きだ。脳腫瘍で手術をした後、筋膜炎で左足が壊死。これを切断して、左目も失明。“二度と歩けないだろう”、“このまま衰弱死してしまうだろう”と誰もが思っていた。 「でも奥さんだけは、できれば退院させて自宅で過ごさせたいと思っていた。“自力で歩いて、移動とトイレができるようになってほしい”という願いを持っていたんです」 そして、酒向医師のもとでリハビリに励んだ結果、なんと義足を使って自力で歩けるようになった。脳画像診断で確認したところ、回復できる脳機能が残っていたことがわかり、実現できたのだ。 酒向医師が自ら『サコーメソッド』と名付けた“攻めのリハビリ”とは、一体どんなものなのか――。その誕生は、酒向医師が脳神経外科医だったことに起因する。 「50歳までの患者さんならいい、多くの病気が完治します。ただ高齢の患者さんとなると、病気の完治が難しくなったり、再発したり、後遺症が残ったり…。例えば脳梗塞などでは一度脳が壊れると、その壊れた部分は治らないので後遺症が残ります。そういった方たちには脳外科的治療だけでは不十分だと感じました」(酒向医師、以下同) “たとえ治らない部分があったとしても、人間力を回復させる医療が必要”との思いを強くした酒向医師は、リハビリ医に転向。 「それが43歳の時だったので、妻や周囲は“何でいまさら”と止めましたが(笑)」 酒向医師のリハビリは、まず脳の画像診断から行う。 「脳が壊れるケースはふたつ。脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳出血や外傷で潰れる脳損傷です。これらによって壊れた部分はCTを撮ると真っ黒になる。この黒い部分の位置やボリュームによって軽症、中等症、重症にわかれる。私はこれを見て、患者さんが今後どのくらい良くなるかを診断できます」 前出の91歳のケースは、脳腫瘍治療後だったが、脳の壊れた部分が少なかった。 「残った脚側の筋力もさほど衰えておらず、なにより本人に“歩いて家に帰りたい”“頑張りたい”という強い意欲もあった。ほかの医師は匙を投げていましたが、私は“これならいける”と思いましたね」 軽症ならほどなく、中等症なら3ヶ月〜半年で歩けるようになるという。 「重症だと半々くらい。重症の方が歩けるようになるには、麻痺じゃない側の身体に筋力があることが必要です。とはいえ、80歳ぐらいまでは自分で歩けるように戻せますね」