渡り鳥アビはかつて数千羽が瀬戸内の島々で冬を越し、広島県の鳥になった。今はめっきり飛来数が減ったが、夏場にロシアのカムチャツカ半島などで繁殖する習性は変わるまい。はるか3千キロ離れた故郷が大地震に見舞われた▲津波が海岸線を侵し、工場やコンテナを押し流す。現地メディアの映像に14年前の東北地方を重ねた日本人は多いはずだ。逃げてと心の中で叫んだ人も。アビの生息地も含め、最小限の被害で収まるよう祈るしかない▲影響は日本列島に広がった。津波警報に従った避難中に、車の運転を誤って死亡する事故が起きたのは痛ましい限り。海水浴場は当然として、鉄道や空の便、コンビニ営業にまで乱れが出た。四方を海に囲まれる弱点をこんな時に感じる▲外海だけではない。笠岡や倉敷といった瀬戸内海沿いの街にまで避難指示が出された。遠い海の出来事とのんびり構えた人が多いのではないか。津波はすさまじい速さで迫るというのに▲穏やかに波打つ瀬戸内海も、南海トラフ巨大地震が起きれば最大で5メートルの津波がうねると予想される。広島県が想定する犠牲者は14千人超。はるかかなたからの「警告」をしかと胸にとどめたい。