分配金遅れ「みんなで大家さん」勧誘資料、リスク説明不十分の声
不動産投資商品「みんなで大家さん」の分配金の支払いが7月以降滞っている。実際に投資した人に聞くと、商品がうたう不動産から得られる安定的な分配金などに魅力を感じ、出資を決めたケースが多いようだ。だが想定されている大規模な不動産開発は遅れており、分配金は滞る事態となっている。勧誘時の資料をみると、リスクの説明が十分でない点が目立つ。
「株式は価格が上下するので怖くて買わないが、土地を開発したり、造成したりするなら分配金が安定しているのではないか」――。関東地方に住む70代の男性は、2024年1月に、「みんなで大家さん」に400万円の出資金を振り込んだ。
男性が出資したのは、「シリーズ成田」と呼ばれる、成田空港周辺の開発プロジェクト用地に投資するファンドだ。プロジェクトの土地の造成工事については成田市が開発許可を出しており、「安心できる巨大プロジェクトだと思い込んだ」という。
出資は1口100万円からで、運用期間は5年間。年7%の想定分配率をうたう。男性は「出資金は5年たてば返ってくるのだから、貯金するよりも、利回りが高い商品の方が年金生活の足しになると考えて出資した」と話す。
7月に支払いができないとの連絡
出資後、2カ月ごとに3万7000円前後の分配金を受け取った。当初は順調に分配金が支払われており「安心していた」が、突如、今年7月、支払いができないとの連絡を受けた。
男性は「これは元本が戻ってくるかどうかもわからない」と考え、すぐに解約手続きをしようとしたが、「半年から1年は手続きできない」との通知を受け取った。出資した400万円は大切な老後資金の一部。「一部でも返してほしい」と弁護士に相談。ほかの出資者とともに、元本の返還を求めて、提訴に向けて動き始めている。
「みんなで大家さん」は不動産特定共同事業法(不特法)に基づく不動産投資商品だ。運営事業者は投資家から集めた資金で不動産を買い、発生する賃料を投資家に配当する。運用期間中に物件を売り、売却金で元本を償還するものが多い。一般的にはマンションやオフィスといった物件が投資対象のケースが目立つ。
パンフレットでは元本の安全性を強調
男性が出資した「シリーズ成田」のパンフレットでは、元本の安全性が強調されている。「みんなで大家さん成田17号」では、表紙に「元本の安全性を重視した資産運用」と書かれ、商品のコンセプトとして「元本の安全性を高め、魅力ある利益分配金を実現した」との記載がある。
パンフレット内の図表によれば、「みんなで大家さん」は、投資信託や不動産投資信託(REIT)よりも低リスクで、収益性が高いとしている。ほかの投資商品との比較が示されており、例えば、株式投資の特徴では「株価の変動により元本割れの可能性も」と記載。一方で、みんなで大家さんは「高い収益性と安定した利益が見込める」と書かれている。
Q&Aでは、「元本保証はされていますか?」という問いもある。回答は「出資法により、元本の保証は禁じられています」と書かれている。加えて、優先劣後システムという事業者も出資する仕組みがあるため、「賃貸利益による対象不動産の評価額が下落した場合でも、20%以内であれば出資元本への影響はありません」としている。
出資者の代理人を務めるリンク総合法律事務所の小幡歩弁護士は「勧誘時のリスク説明は十分でない」と指摘する。パンフレットは、対象不動産の「空室リスク」、運営事業者の「信用リスク」、「災害等リスク」を挙げる。
「開発失敗時の土地の価値について説明なし」
シリーズ成田の投資対象不動産は、成田空港周辺の土地で、「ゲートウェイ成田プロジェクト」という計画のもと、今後開発を進める想定だ。だが「ゲートウェイ成田プロジェクトが失敗する確率はどのくらいあるのか、失敗した場合、土地の価値はどのくらいになるのかといった説明はない」(小幡氏)。
不特法では、重要な事実の隠蔽などは処罰の対象となると定められている。「本来は『ゲートウェイ成田プロジェクト』に関わる各種リスクの説明が十分に果たされなければならない」と小幡氏は指摘する。ただ、法律にはリスク説明についての詳細は明記されていない。
一般に、不特法に基づく仕組みに適するとされる不動産は、マンションやオフィスなど中小型の物件で、安定的な収益が見込めるものが中心だ。小幡氏は、「シリーズ成田が想定するような大規模な開発案件について、不特法で出資を募ってもいいのか、といった点から規制が必要ではないか」と指摘している。
運営元の共生バンク(東京・千代田)に問い合わせたが、個別での取材対応は一律で断っているとのことだった。
(川本和佳英)
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