VRChatというゲームの『最大の問題点』
結論から
日本コミュニティにおけるVRChatというゲームの最大の問題点は、日本ユーザーが開発者の想定外の遊び方をしている関係で、日本ユーザーのニーズや遊び方に、ゲームの仕組みがほとんど全く対応しきれていないということだ。
日本と海外の違い
これがどういう意味かというと。
VRChatは「みんなで集まれるゲーム」として作られている。
海外の場合
海外のVRChatは「みんなで"集まれるゲーム"」部分の延長。
つまり遊び散らかすし、はしゃぐし、歳も身分も無く"遊ぶ"。
広く浅い関係を重視して、その場その場で出会った人と場当たり的に遊ぶのが主体となる。
日本の場合
一方で日本は「"みんなで集まれる"ゲーム」という認識だ。
ゲームが主体というより、人と集まる要素が主となっていて、その後に“遊ぶ”がついてくる。
狭く深い関係を重視して、出会った仲の良い人たちを作って、その人たちと遊ぶための世界という認識だろう。
↑日本と海外のVRChatの違いをまとめている動画。
もちろん誇張的な表現はあるし、全員がそうであると断言するつもりはない(どちらの文化圏にも例外的なプレイヤーは存在する)のだが、全体の大雑把なイメージとしては間違っていない。
↑日本コミュニティは、自分の体験を中心とした刹那的な関係ではなく、個々人の深い繋がりに価値が見出される文化だからこそ、ルールに対しては海外と比較して、厳格に定められる傾向がある。
結果、ゲームの仕組みが日本ユーザーの遊び方や文化に、ほとんど全く適応できない
本来、VRChatの設計思想はどちらかといえば海外的な「広く浅い関係」に寄っている。
ところが、日本式の「狭く深い関係」を前提とした遊び方は、ゲーム内の仕組みでは対応しきれないのが実情だ。
人間関係の調整手段として用意されているのは、せいぜい「オレンジステータス」と呼ばれる拒否設定程度にとどまり、きめ細かな棲み分けはできない。
具体的には、こういう問題が起こる
海外のように「誰でも歓迎」「その瞬間出会った人々と騒いで遊ぶ」といった大らかな遊び方が浸透していれば問題は表面化しにくいが、日本コミュニティはむしろ深い人間関係の構築を重視する。
そのため、一人でも人間的に問題がある(あるいは個性が強すぎる)フレンドが交友関係の中に混じってしまうと、ゲーム内のシステムではうまく排除できなくなる。
例えば、あるプレイヤーが新しいフレンドを作ったとしよう。ところが、その相手が問題の多い人物だったと後から判明した場合、本来なら距離を置きたいところだ。
しかしVRChatというゲームは一度関係がつながってしまうと厄介で、その問題のある人物が既に自分の他のフレンドともフレンド関係を結んでしまえば、完全に排除することは難しくなる。フレンド+の設定を用いたとしても、どこかの経路から必ず入り込んでしまう。
フレンド関係を切った上で、フレンド限定のインスタンスを立てることは可能だし、他にもVRC+のグループオンリーのインスタンスを立てることで特定のユーザー間で閉じこもることは可能だが。
自分からフレンドのいる場所には行けなくなる(問題のある人物とバッティングする危険性がある)ため、結果的に避けようのない関わりが続いてしまうのだ。
理想としてはフレンドを通じて新たな出会いを広げたい。自分からフレンドの場所に気軽に行きたいのに、個性が強すぎたり雰囲気が合わなかったりするフレンドとバッティングするリスクが生じるため、ユーザーは閉じこもらざるを得ない。
他にも相性の悪いフレンド同士が同じ場に居合わせてしまうことを避けたいのに、システムで調整の余地がなく(例:フレンドAと一緒にいる時はフレンドBに自分のステータスが非表示になるといったような細かな住み分け機能がない)、日本ユーザーの遊び方に対して、VRChatに標準実装されている機能だけではこういったバッティングによる摩擦はほとんど全く避けられない。
だからプレイヤー達はディスコードに流れていく
こうした点で、外部のDiscordの方がはるかに柔軟だ。
本当に気の合う仲間だけで即座に集まることができて、不要な衝突を避けながら関係を維持できるからである。
VRChatで自由に遊んだ結果トラブルを避けられない(身内で閉じこもる)なら、常にワンボタンで集まれるDisocordの方に軍杯が上がるのは必然だ。
そして、問題のあるユーザーの存在が後から判明したら、仲の良いユーザーだけを招待して別のチャンネルを作ればそれで解決。
余計な摩擦を避けながら仲の良いフレンドとの関係を維持できるからだ。
これは外から見ると「陰湿」「排他的」に映るが、実際は文化的に自然な人間関係の作り方であり、「悪意」ではなく「安心の確保」に基づいた行為なのだ。
なんなら、問題が起こらなかろうと日本コミュニティのユーザーはDiscordに篭りがちだ。
先の項目でも説明したが、日本のユーザーは「色んな人と遊ぶこと」そのものよりも「誰と遊ぶか」を何より重視する傾向が強い。つまり、『不特定多数と交わって“何を遊ぶか”』より、『親しい仲間との時間』そのものに価値を置いている。
つまり、大多数の日本ユーザーにとってはVRの空間そのものが一番大切な価値を持っているわけではなく、「仲の良い人がいるからこそのVR」に過ぎない。
だからこそ、わざわざフルトラやVRゴーグルを装着する手間をかけるよりも、簡単に集まれるDiscordで気心の知れた仲間と集まれれば十分だと考えてしまう。
結果として、一度Discord上にコミュニティが形成されてしまえば、その環境で満足してしまい、ほとんどの日本人プレイヤーがわざわざVRChatへ戻る理由を失ってしまうのである。
VRChat、最初はパブリックやイベントでワイワイしてたのに、だんだんフレンドとだけプラベで遊ぶようになって、最終的にDiscordにこもって喋るだけになる現象、めちゃくちゃある
— 鳥ちゃん (@monanotorichan) June 23, 2025
これって要するに、「関係が深まるほどVRChatをやらなくなる」っていう皮肉な流れなんだよね…
VRChatに存在する仕組みは海外向けであるがゆえに住み分け機能が大雑把で、プレイヤー同士の関係性の調整が極めて困難。
あるいは仲の良いメンバーだけで即座に気軽に集まれないため、ユーザーはやむを得ずオレンジステータスやグループインスタンスを使って特定の仲間内で閉じこもったり、外部のDiscordにサーバーを立ててコミュニティを形成してそこから出てこなくなってしまう。
きちんとした理由があるのだ
その上で日本のユーザーは狭く深い関係を重視するため、仲間内のつながりが強固になる一方で、新規のプレイヤーが入り込む余地が少なくなる。
新規参入者が勇気を出して輪に加わろうとしても、ほとんどのプレイヤーが最終的にはDiscordにこもってしまうし、たまにVRChatで遊ぶにしてもせいぜいプラベを開く程度なので新しい繋がりも発生しなくなる。
これが日本コミュニティの活気を次第に失わせてしまう原因となり、新規プレイヤーの定着率を下げる要因となってしまっている。
こうなると閉じこもりとは無縁のプレイヤーにも影響が出てくるようになる。
Trustedでフレプラやパブリックを単独徘徊しているユーザーがやばいと言われる理由
それだけではない。
こういった流れの最終的な帰結として、どのコミュニティでもうまく立ち回れなかった「問題を抱えたユーザー」ばかりがプラベやDiscordには入れなくなって、VRChatのフレンドプラスやパブリックを頻繁に徘徊するようになる。
つまり、最終的に初心者以外でプラットフォームの表層に残るのは人間関係の摩擦を抱えた者ばかり(※もちろん、Trustedの全員がそうだと断言するつもりはないが)となり、VRChatのパブリックは次第に“出涸らし”のような空間へと変質していくのである。
これでは、余計に新規ユーザーが定着するのは困難になるだろうし、既存のユーザー同士の新しい関わりも構築されなくなる。
日本のコミュニティ全体の活気は次第に落ち込んでいく。
まとめ
日本のVRChatコミュニティが直面している最大の問題は、プレイヤーの文化とゲームの設計思想の齟齬にある。
本来は「広く浅く遊ぶ」ために作られた仕組みが、日本的な「狭く深い人間関係」にはほとんど全く対応しきれず、結果としてユーザーはDiscordやプラベに流れ込み、新規参入も難しくなり、やがてパブリックは“出涸らし”のような空間へと変質していく。
この状況を変えるには、運営側が文化差に基づいた仕組みを整えるか、日本ユーザー自身が遊び方を問い直すのかのいずれかになる。
しかし、どちらも困難であると言わざるを得ないだろう。
まず運営側の視点からすると、VRChatはグローバル市場を前提に設計されており、日本のような「狭く深い関係」を前提としたニーズは全体の中ではニッチなものに見える。
多くの工数を割いてシステムを作り変える必然性は薄く、採算性を考えても優先度が下がるのは避けられない。
細かな「棲み分け」や「相性調整」の機能を実装するのは技術的に可能だとしても、グローバル全体に適用する仕様として成立させるのは非常にハードルが高い。
一方、日本ユーザー側が「遊び方を問い直す」というのも現実的には難しい。なぜなら、文化的に「誰と遊ぶか」が最重要という価値観はすでに根付いてしまっており、プレイヤーが自発的に「浅く広い交流」にシフトするとは考えにくいからだ。
Discordという便利な代替手段が存在する以上、あえてVRChat内で不自由を抱えながら新しい交友関係を築く理由がなくなっている。
交流を主としたグローバルなツールは、そもそも日本人に向いていないのかも。
……というか、結局のところ、VRChatに限らずSNS全般を見ても、日本人が本当の意味で相性よく過ごせるツールは存在していない。
欧米式のプラットフォームであるXにしても無法地帯のような空気が支配している。即ちグローバル展開しているサービスの時点で日本的な文化には対応していないのである。
国内発のサービスでさえ十分な解決策を示せていないし、昔から日本のインターネットで人気を集めてきたのは匿名掲示板のような場ばかりだ。
つまり根本的な性質として、日本人は欧米プラットフォームが主流の現代インターネット上で、コミュニティを築くこと自体がさほど得意ではなかったり、相性が良くない可能性がある。
例えばSkypeやDiscordがない時代の、かつてのMMORPGやオンラインFPSのようにレベル上げや勝敗、報酬といった明確な目的があるゲームの中でなら、多少人間関係に摩擦があってもユーザーは交流とは別の目的があるため我慢して継続していれたかもしれない。
厄介な人がコミュニティに混ざっていても、装備を整えたいとか、レイドに行きたいとかランクを上げたいといったコミュニケーションとは別の主とした動機がある、つまりその環境・世界の中に留まる理由が別に存在していたのだ。
(最も、この環境の本質は寛容ではなく強い我慢でしかない。それが故にガス抜きとして匿名掲示板での晒し行為が横行したり、陰口や暴言と言ったトラブルにつながっていたのも事実だ)
しかし、これに対して現代のVRChatや他メタバースのように「人との交流」自体が遊びの目的になる環境では、そこで生じる人間関係のストレスがそのまま居心地の悪さにつながり、耐える理由がなくなる。
結果的に、人とのコミュニケーションそのものを目的に据えたグローバルなメタバースは、日本では根付きにくいのかもしれない。
プレイヤーとの交流そのものが目的化すると最終的にユーザーは外部ツールや小規模コミュニティに流れていってしまうからだ。
何かあるとすぐにサーバーが立てられるようになってしまった日本のDiscordの功罪と危険性
そして、やはりそういった日本人のインターネットコミュニケーションにおいてワンボタンでサーバーを作れるDiscordの存在は大きすぎたように感じられる。
これはVRChatに限った問題ではなく、様々な、規模の大きい日本のゲーム内コミュニティやインターネットコミュニティの中で、ひとたび人間関係に問題が生じたり、話が合うユーザー同士が出会うと「じゃあ新しいサーバーを作って内輪で集まろう、閉じこもろう」という方向に瞬く間に傾くようになってしまった。
人数が増えれば増えるほど分裂も起きやすく、結果としてプレイヤー全体がバラけ、大元のプラットフォームそのものの活気自体は失われていく。
(では海外はどうかというと、事情が全く異なる。欧米圏では人間関係を「その場その場で生まれては消えるもの」と捉えるのがスタンダードであり、パーティーやイベントに参加してそのとき一緒に盛り上がればもう十分と考える。
つまり「その瞬間、自分自身が楽しむこと」が主目的であり、他者との関係が長く続くかどうかは重要視されない。だからサーバーを転々とすることにも罪悪感はなく、むしろ自然な流れとして受け入れられている上に流動性も高いのでコミュニティ全体の活気も維持される)
日本においてDiscordというツールは個々のつながりを深める力を持つ一方で、「閉じこもりやすさ」「分裂の容易さ」というマイナス面を同時に抱えてしまっている、と言えるだろう。
今後のVRChatはどうなる?
これらをまとめると、現実問題として、運営もユーザーもどちらも方向転換しづらい構造にある。
そのため、この文化的な齟齬は「解決される」というより「今後も固定化される」可能性の方が高い。
結果として、日本のVRChatは今後も閉鎖的なコミュニティと“出涸らし化”したパブリックが並存する形に落ち着くのではないかと思われる。
とはいえ、だからこそVRChatに深く関わり、日常的に遊び続けているユーザーほど、この問題を単なる愚痴や不満として消費するのではなく、考えた上で互いに議論をしてみたり、課題として認識をして、提起していくことが重要だといえる。
ユーザー自身が声を上げなければ、運営にとっては「小規模な文化差」として片付けられてしまい、改善のきっかけは永遠に訪れないためだ。
使用NGアバターの一覧ポスター及び該当記事の作者です。 https://note.com/byebye_hojorin/n/n8af3e2947040 引用自体は禁止していませんし、記事の内容は個人の自由なご意見かと思います。 しかし、画像をそのまま転載する行為は「使用条件を提示せずに不特定多数に保存させ得る行為」であり「再配布」と同等の行為と考えられます。 また、使用条件の上で再配布は禁止しております。