AivisSpeech「Anneli」問題について、現時点でわかっていることをまとめてみた
TechDive編集長の野崎です。
「ずんだもん」や「ゆっくり霊夢」など、今や私たちの日常に溶け込んでいるAI合成音声。まるで人間が話しているかのような音声を手軽に作れるこの技術は、動画やゲーム制作の現場で欠かせないツールとなっており、私自身動画のナレーションにAI合成音声を多用しています。
しかしこの便利さの裏側で、AI合成音声の根幹を揺るがしかねない、深刻な問題が起きました。
AI音声合成ソフト「AivisSpeech」の標準モデル「Anneli」が、声優・山村響さんの音声を無許可で使用して作られた生成モデルだったことがわかり、波紋を広げています。
今回は、2025年9月9日時点でわかっていることをまとめてみます。
AivisSpeechとは?
2024年11月19日にリリースされたAI音声合成ソフト「AivisSpeech」は、その使いやすさと感情豊かな自然な音声品質で瞬く間に人気を集め、リリースからわずか半年で累計5万ダウンロードを記録しました。
注意:2025年9月9日時点では新規インストールができません
AivisSpeechの魅力は以下の通りです
感情豊かで自然な音声合成
Windows・Mac対応の手軽なローカル実行機能
個人・法人・商用問わず、基本的にクレジット不要で自由に使える
(モデルのライセンスによる)初心者でも直感的に使える操作性
特に、デフォルトで搭載されていた「Anneli」モデルは、可愛らしいアニメ風の少女ボイスとして、動画ナレーションやボイスドラマなど、多岐にわたるコンテンツで広く活用され、リリースからわずか半年で5万ダウンロードを記録し、動画クリエイターを中心に絶大な人気を誇っていました。
衝撃的な告白で事態は急変
Hugging Faceでの告白
2025年9月6日頃、事態は急変しました。Anneliモデルの制作者自身が、Hugging Face上で衝撃的な告白を投稿したのです。
実際の投稿ページがこちらです。(日々新しい情報が更新されていますので、今ここに書かれているよりも新しい情報があるかもしれません)
制作者は、「このモデルは、声優・山村響さんが関係する商業作品から音声を無断で抽出し、学習させて作成されました」と明らかにしました。具体的には、ノベルゲーム「月に寄り添う乙女の作法2」のメインヒロイン「エスト・ギャラッハ・アーノッツ」の音声データを用いたとされています。
また、ゲームメーカーのNavel、声優の野々山紅さん(エスト役)、あるいは同じような声を持つ声優・アイドルの山村響さんの許諾は一切取っていないことを明記しています。
個人プロジェクトが商業利用される予期せぬ展開
制作者は当初、このモデルを小規模な個人的・非商用コミュニティ向けに作成しました。彼は、「声優やキャラクター名を伏せていれば、現状の法律では違法ではない」と考え、これを一種の「グレーゾーン」の活動と捉えていたのです。
しかし、AivisSpeechがAnneliをデフォルトモデルとして採用し、その利用が爆発的に広まると事態は一変しました。
何千ものユーザーがダウンロードし、AITuberチャンネルや動画ナレーションなど、商業的な目的で利用されるようになったのです。これにより、多くのユーザーに「企業が正当な権利に基づいて作ったモデル」という誤解が拡散しました。
こちらの動画でも、AivisSpeechが紹介されています。
ちなみに制作者さんは、Aivis ProjectがAnneliをデフォルトモデルに採用する直後の2024年11月20日には、Aivis Project運営に対しモデルの由来を共有し、潜在的なリスクについても伝えていたと述べています。
罪悪感から生まれた告白
「NOMORE無断生成運動」の盛り上がりを目の当たりにし、制作者さんは自身の行動が声優に与える苦痛について深く反省しました。
罪悪感に駆られた彼は、声優の事務所が行動を起こせるよう、モデルの学習元を公にすることを決意し、さらに2025年9月8日にHugging Faceからモデルファイルを削除しています。
声優・山村響さんの「悔しい、悲しい」
この騒動に対し、声優の山村響さん自身も2025年9月5日に自身のX(旧Twitter)アカウントで「悔しいし、悲しい」と投稿しました。
彼女は「どこをどう聞いても自分の声。だけど明らかに自分ではない、読んだこともない文章を自分の声が読んでいる。私の知らないところで。」と語り、このAIによる無許可利用がクリエイターに与える感情的な負担を鮮明に示しました。
注釈:山村さんご自身は今回の投稿がAivisSpeechについてとは言及していません
山村さんの投稿は、「データは単なるデータではなく、個人のアイデンティティと生計の一部である」ことを、すべての関係者に改めて思い起こさせる出来事となりました
実際、法的にはどうなのか?
Anneli騒動は、AI時代における知的財産権の複雑さを浮き彫りにしました。
では実際、現行法で今回の事案はどのような扱いになるのでしょうか?
3つの法的観点から私なりに解釈していきます。
1. 著作権法と著作隣接権の限界
日本の法律では、「声」自体に著作権は認められていません。しかし、声優の「実演」は著作隣接権で保護される可能性があります。
とはいえ、これまでAIの学習や生成物に対してこの権利を主張することは困難とされてきました。
現状、具体的な判例がないため、国や専門家も明確な判断を下せない状況です。
2. パブリシティ権への影響
パブリシティ権は、著名人の氏名や肖像が持つ顧客吸引力を保護する権利です。Anneliモデルが動画ナレーションやAITuberチャンネルで商業的に使われていたことは、山村響氏の顧客吸引力を無断で利用したとして、パブリシティ権の侵害となる可能性もあります。
3. 不正競争防止法の新展開
最も注目すべき法的な進展が、不正競争防止法です。
従来、「グレーゾーン」とされてきた声の無断学習について、日本の経済産業省は「事案によっては、不正競争防止法違反となる」との見解を示しました。
この見解は、AIに追いつくために法的な状況が急速に進化していることを示しています
AivisSpeechユーザーへの影響
この騒動を受け、AivisSpeechのユーザーは、自身が作成したコンテンツが潜在的な法的リスクを抱えているという不安に直面しています。
現時点では公式からのアナウンスがないため、明確な対応策は示されていませんが、専門家の間では以下のような見解が示されています。
動画コンテンツの扱い
無断学習モデルの使用: 多くのユーザーが、無自覚のうちに法的に問題のあるモデルを使用してしまった可能性があります。現時点では、訴訟リスクは低いと見られていますが、今後の動向を注視する必要があります。
コンテンツの削除: 最善策としては、Anneliモデルを使用したコンテンツを削除するか、非公開にすることが推奨されます。これにより、将来的な法的なトラブルを未然に防ぐことができます。
コンテンツの差し替え: 削除が難しい場合は、別のAI音声モデルや、自身でナレーションを収録するなどして音声を差し替えることも有効な手段です。
企業で動画製作する場合には、「商用利用可」と明記されたVOICEPEAKなどのソフトを有償で利用するのが無難なのではないかと、私自身は考えています。
(声にこだわりが出てくれば出てくるほど、いろいろな声色を使いたくなる気持ちはわからなくないのですが…)
AI業界の新たな正念場
「Anneli」騒動は、AI業界が技術革新だけでなく、倫理的、法的、そして社会的な成熟を求められる新時代に入ったことを象徴しています。
誰でも自由に使えるフリーソフトだからといって安易に手を出すと、後から思わぬしっぺ返しに合う可能性もあるんだということを、改めて思い起こさせる事案となったのではないでしょうか。


コメント