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作:タロちゃん好き好き親衛隊
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ふしだらな



お ま た せ



 

 ナンジャモとの対面を終えて、パルデア地方でのやるべき事の80%を終えたと言っても過言では無い。ようやく肩の荷が降りた俺は、パルデア地方への造詣を深めるべく、アカデミーの蔵書に来ていた。

 

 歴史ある建造物なだけあって、ここにある書物の数は異常な程に多い。なんだったらアカデミーの卒業生に関する雑誌ですら置いてあったりするし、探せばペパーの好みなえっちな本だって見つかるだろう。多分。

 

 取り敢えず本の虫であるインテリジェンスなカル君を目指す為にも、まずは形から瓶底眼鏡を装着したいところ。だがそんな眼鏡は当然ながら持っていなかったので『こだわりメガネ』で代用する事にする。

 

 ふっ、我ながら知的なオーラを放ってるぜ。

 

 俺から滲み出るオーラに呼応してか、『リップさん』とか『ナンジャモを虐めやがって……』とか『チャンピオンのオキニだ……』とか聞こえてくるけど、十中八九羨望と嫉妬によるものなので、気にするだけ無駄である。

 

 しかしアカデミーの蔵書を網羅するとなれば、かなりの歳月を要するのは明白。チャンピオンクラスと戦うまでの残る日数を考えると、どう考えても読破は無理な話なので、本の題名を見て目を通すべき本を選別していた。

 

「お、月刊オーカルチャー。随分と胡散臭い本が置いてあるんだな。結構前に『ユンゲラーは本当に元人間なのか?』なんて記事を纏めた雑誌を置いておくのは、教育上悪影響だと思うんだが」

 

 でもそう言うの大好きだから思わず読んじゃう。俺は世界有数の天才で優等生だけれども、バカな事を本気でやる精神は大好きだからだ。隣の芝は青く見えると言う奴なのだろう。

 

 ちなみにユンゲラーの記事を見た俺はその謎を解明する為、ヤマブキシティに赴いた。道行く人に『ナツメさんが元ユンゲラーってマジ?』って聞きまくってたら、いつの間にか街中がその話題で持ち切りになったのを覚えている。火のないところに煙は立たないと言うし、きっと真実だったのだろう。

 

 そして気が付けば俺はヤマブキジムに監禁された。

 

 その時俺は悟ったね。ナツメさんはユンゲラーじゃなくてフーディンだと。それもメガフーディンだ。俺の体でスプーン曲げをしていたから良く分かる。

 『いつも生えてるヒゲはどうしたんですか?』って聞いた瞬間、首が捩じ切れたかと思ったし。いやー、鍛えてなかったら即死だったね。

 

 やはりサイキッカーは恐ろしい。幾ら美人でも心の無い非人道的行為に走る人とは関わるべきでは無い。

 

 そんなことを思い出しつつ、パラパラと月刊オーカルチャーを流し読みする。でも『そらをとぶピカチュウは実在した!?』なんて記事はひこうテラスなんてオチだし、やっぱこの本は何の役にも立たんわ。ペパーの部屋に投げ捨てとこ。

 

 て言うか『こだわりメガネ』のせいで見辛いな。誰だよメガネが必須だなんて言ったのは。外しとこ。

 

 ──と、パルデア特集のページが目に映って思わず手が止まる。

 

「……乾燥地帯で目撃されたイダイナキバ……奇書、スカーレットブック……? アカデミーの医務室、男子生徒が集結する美人先生の謎に迫る……だと……!?」

 

 おいおい……マジかよ……!

 

 イダイナキバの写生がどう見てもアオイちゃんが捕まえていたドンファン亜種だとかそんな事はどうでも良い。まさかアカデミーに保健体育の実技授業があるなんて知らなかった俺は強い衝撃を受けていた。

 

 ナンジャモと言い、パルデア地方はえっち過ぎるだろ。医務室から流れてくるいやらしい雰囲気が、エントランスホールまで伝わってくる気がする。これはもう俺のイダイナキバが大暴れする予感しかしねえな。

 早急に月刊オーカルチャーの真相を探る必要がある。これは一愛読者としての責務。性欲のせの字も知らない純粋無垢な俺だからこそ為せる真実の探求であった。

 

 そうと決まれば急いで医務室へと向かわねばならない。これでも勤勉な優等生である事を自負しているのでな。保健体育の実技を一度くらい学んでおくのも人生には必要な事だろう。

 

 そう考えて駆け足で行こう思った瞬間だった。

 

「パルデアの歴史に精通するべく、こうして勉学に励むとは……流石はシンオウの風雲児。チャンピオン対策としての目の付け所が違います」

 

 コツコツと床を叩く革靴の音と落ち着いた声。導かれるように視線を向けると、そこにはデンジュモク──もとい、オモダカさんがいた。

 

 何言ってんだこの人は?

 

「パルデアの歴史で精通するなんて下ネタはやめて下さい。するのは医務室ですよ」

「医務室? 何の話ですか?」

「さすが腹筋に興奮する部下をお持ちなだけありますね」

「……チリの狂言は兎も角として、貴方のナンジャモさんに対する行動も大概だと把握していますよ」

 

 ナンジャモのコラボ配信は昨日の今日だと言うのに、既に俺の行動を把握しているとは実に恐ろしい人である。もしかしたら『オーキド・カルクンの不定期川柳』のチャンネル登録者かもしれない。サイン強請られる可能性もあるし、油断は出来ないな。

 

 それにニコニコと笑みを浮かべてはいるものの、目の奥が笑ってないのも気になる。ただでさえ恐ろしい瞳をしているんだから、もう少し愛嬌と言うものを学んでもらいたい。

 

「感謝しています。まさか貴方の方からパルデア地方へと赴いて頂けるとは思ってもいませんでしたから」

「別にオモダカさんの為じゃないですよ。ブルーベリー学園の看板に泥を塗った、不甲斐ない友人の尻拭いなので」

「なるほど。それはシアノさんの期待に応えなければなりませんね」

「あの時は気付きませんでしたが……わざとですよね?」

「……何がですか?」

「うちの学生の前でカキツバタ相手に本気を出した事」

「まさか。結果的にこうなってしまっただけですよ」

 

 白々しい態度をしているが俺には分かるぜ。こいつは天下一のとんでもない大嘘つきだ。デンジュモクの振りをして、実は擬態してるだけのウソッキーだと言う事をな。

 

 『ゼニガメじょうろ』で水を掛けちゃうぞ? お?

 ほら、身体をくねくねさせてみたらどうなんだ?

 

 そんな事を考えながらオモダカさんの顔をジッと見つめているが、流石はトップチャンピオン。修羅場を潜ってきているだけあって、微塵もポーカーフェイスを崩さない。

 だが俺も天才と名乗り続けて幾星霜。気が付けば天賦の才を遺憾無く発揮し、世界最高峰の女性であるタロを口説き落とした慧眼の持ち主だ。

 

 故に理解する。ここで微塵も感情を顕にしない──それこそが既に肯定を意味するのだと。

 

 フッ、俺様を騙すには100万光年早いぜ。

 

 まぁそんな冗談は兎も角としても、この状況はオモダカさんの思惑通りらしい。随分と遠回しにめんどくさい事をしてくれたものだが、そこまでしないと俺が動かないのは俺自身も納得するところなので、特別に許してあげる事にする。

 何故なら俺はとても優しい紳士だからだ。アオイちゃんを『しおづけ』にする非人道的な性格だとしても、女性尊重の精神を決して忘れたりはしない。

 そう、例え相手がウルトラビーストであっても。

 

「で、何の用ですか? 俺はこう見えて忙しいんですけど」

「大した用事ではありませんよ。チリからチャンピオンアオイの様子がおかしくなったと報告を受けましてね」

「俺は医務室に行くんでぇ!」

「頭は治りませんよ」

 

 誰が頭の病気だよ。と言うか俺のせいじゃないのにそんなキツい目で睨みつけないで欲しい。アオイちゃんの潜在能力が開放されただけだろ。

 

「とは言え先にチャンピオンアオイから話は聞いていますので事情は把握しています。……理解し難いのは事実ですが」

「眼科に行った方が良いんじゃないですか?」

「ええ。私も彼女に打診をしたのですが、本人が断固として拒否しまして」

 

 いやアオイちゃんの話じゃなくてオモダカさんの話なんだけど。誰がどう見ても俺は絶世のイケメンなんだから、アオイちゃんが眼科に行く必要は無い。

 でもアオイちゃんの頭の方は要精密検査だね。荒縄で縛って研究所に寄与した方がいいと思う。きっと新種のポケモンだから。

 

「じゃあ俺と話す事無くない? 無いよね? じゃ、医務室に向かうんで失礼します」

「まぁそう邪険にしなくても宜しいではありませんか。積もる話もありますのでポケモンリーグへと向かいましょう」

「無いですけど。離して貰えません? いや力強いな……あ、ちょ──止めて! 触らないで!」

「いえ、何もしてないのですが」

 

 チッ、冷静だな。取り敢えず被害者の如く叫んでおけば煙に巻く事が出来ると思ったが失敗である。ざわざわと周りが騒いでるのに微塵も焦る様子が無い。

 

 このままある事無い事を口にされて周囲の耳に入り、風評被害で俺の輝かしい経歴に傷が付いても嫌なので、大人しくポケモンリーグへと向かうのだった。

 

 やれやれ、これじゃあどっちがポケモンなのか分からねえな。レッツゴーカルくんかよ。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「ふむ……この子が転入初日から騒がせているカルサイトくんですか?」

「ええ……自分も実物を拝むのは初めてですが。……あ、写真を1枚撮らせて頂いても?」

 

 おかしい。医務室の美人なお姉さんの授業を受けている予定だったのにどうしてこうなった。

 

 ポケモンリーグに着いて早々、オモダカさんから『ここで待ってて貰えますか?』と言われて玄関口の待合室で座っていると、何処からともなく現れたおっさんずに囲まれた。1人はチリちゃんとの通話で見た事のあるくたびれた男──アオキさんなのは分かったが、もう1人の巨漢おじさんには見覚えが無かった。

 

 あとアオキさん。物珍しいものを見たような反応止めてくれません? 写真を撮り始めたらいじめだと思います。

 

 でも撮られるのならばしっかりポーズを決めるのがイケメンの責務。今回は特別にバッテンを描くタロの真似をしておく。

 何故ならば俺とタロの心はいつ如何なる時も繋がっているから。

 

「……ふむ。ポケモンリーグに1人で居るのに、大した落ち着きようでありますね。カルサイトくんについては個性のある将来有望な生徒だと、セイジ先生から聞いていますですよ」

「ロケット団に関わるのは止めた方が良いですよ。レッドさんに地の果てまで追いかけ回されますから。今すぐパルデア地方から逃亡しないと、悪魔のようなピカチュウに感電死させられます」

「……その反応からしてご存知ないようなので説明しておきますと、こちらはハッサクさん。アカデミーの教師兼四天王の大将を務めている人です。悪の組織は関係ありませんよ」

「アオキさん、俺に対しての理解度が高くないですか?」

「チリさんから嫌というほど愚痴を聞かされていますので。本当に嫌というほど。……今度、さっきの写真を現像して祈祷師に持っていこうかと思っています」

「誰が疫病神だよ」

 

 俺はゴーストタイプじゃねえんだけど。むしろ縁起の良い存在なのでその写真を待機画面に使う方が正しいと思う。

 

 しかしチリちゃんもまだまだだな。会ってもいないアオキさんでさえここまで俺の事を理解しているのに。マブダチを名乗るならもう少し努力をしてもらいたいところだ。

 これから毎日、ナゾノクサと俺のツーショット写真を送って自意識を高めてもらうとしよう。

 

「……ってもしかしてアオキさんも四天王なんですか?」

「ええ、不本意ながら。……ちなみにジムリーダーも兼任しております」

「ジムリーダーと言い四天王と言い、本職との兼任が多すぎだと思うんですけど。アットホームな雰囲気で働き易いのが売りのポケモンリーグだったりします?」

「小生はアットホームな雰囲気は好きでありますよ。忙しい中お互いが手を取り合い支え合うチーム! 素晴らしいじゃありませんか!」

 

 そう言う意味で言ったんじゃないんだが。劣悪な労働環境で働かせるブラック企業みたいですねって皮肉だったのに、ハッ、ハッサ……ハッサン先生はポジティブ過ぎませんかね。

 それにしても四天王の大将ってなんだかカキツバタみたいだな。そう考えるともしかしたらこの人はカキツバタのお父さん──もとい、カキツパパなのかもしれない。

 

「もしかしてカキツバタのお父さんですか?」

「違いますよ」

 

 そうだよな。素行不良が過ぎて息子だなんて思いたくないもんな。勘当されてても驚かないわ。

 

 でもアイツだって頑張って生きてるんだよ。部屋だってポケモン関連の道具で汚ねえし、指定の制服なんて着ないでオラチフのジャージとリーグ部のユニフォームだけ身に纏ってよ、毎回同じ服装だし洗ってねえんじゃねえかな。

 そう考えるとカキツバタはどうしようも無い男である。弁護の余地も無い。友人が俺だけと言うのも納得のだらしなさであった。

 

 カキツバタ、安心しろよ。俺だけは親友でいてあげるからな。だから今度、髪を下ろしたネリネと女装したスグリ君はどちらの方が可愛いのかについて、夜通し語り合おうな。お菓子とジュース代はお前持ちで頼む。

 

「……もしやカキツバタくんと友人関係でありますか?」

「いえ、俺の下僕です」

「げ、げぼ……?」

「事実とは言えゲボ扱いはさすがに可哀想だと思いますよ」

「い、いえ! 小生にそのような意図は……!」

「……ハッサクさん、これがカルサイトさんの話術ですよ。チリさんに言われた通り、話半分で聞くべきです」

「……そうでした。小生とした事が失念していたようです」

「あんたら学生相手に大人げ無さすぎるだろ」

 

 なんで初対面の人にそこまで言われるのか。初手から怒涛の嘘八百と言う俺の楽しみがチリちゃんのせいで潰されてたんだけど。これはチリちゃんを弄らねば気が済まない。覚悟しておけ。

 

 呆れた様子で呟くアオキさんの言葉を受けて、ハッと我に返ったハッサク先生が次いで口を開いた。

 

「ですがカキツバタくんをご存知なのですね。ブルーベリー学園でのあの子はどう言った様子ですか? シャガさんから成績も不振で留年していると聞いているのですが、最近ではアカデミーでも話題に上がるようでして……」

「……悪い話と良くない話、どっちから聞きたいですか?」

「良い話は無いんですね……」

 

 無いのがカキツバタだもの。

 

「では良くない話からでお願いしますですよ」

「……実は先週、ブルーベリー学園で歴史学の筆記テストがあったんです。普段はサボっているカキツバタが珍しく出席したんですけど……」

「普段からサボってるのが既に良くない話ですよね……」

「そしたら100点満点中6点と言う奇跡の点数を叩き出して最低点記録を樹立。その後、『歴史なんてもんはよ、ツバっさんの歩いた後ろに出来るもんだぜぃ!』って胸を張って叫んでました」

「……すみません。自分は悪い話が聞きたくなってきました」

「し、小生はもう……頭がクラクラしてきたですよ……!」

 

 おいおい、こんなのはカキツバタ入門編みたいなものなのに、本当に大丈夫か? 真のカキツバタを知った瞬間、精神崩壊の可能性さえ有るんじゃねえの?

 頭を押さえて苦しんでいるハッサク先生を見るに、やはりカキツバタは人類史史上最大最悪の特級呪物だ。オモダカさん、こいつにこそ『しおづけ』を頼むぜ。

 

 ちなみに歴史とはカキツバタのような男ではなく、俺のように華のある主人公格の後ろに出来るものだ。一等星の如く光り輝く俺のようなスター性はカキツバタには無い。せいぜいヒトデマンが関の山だろう。

 

「悪い話についてですが……ブルーベリー学園にはリーグ部って言うポケモンリーグを模した実力主義の部活があるんですけど、カキツバタは部長に就任してるんです」

「カキツバタくんが! 素晴らしいではありませんか!」

「持ち上げるのは嫌な予感しかしませんね……」

「実力主義なだけあって部長となると多くの権限が与えられるんですけど、独裁と言う訳じゃないんです。基本的に四天王との会議の上で物事を決めるのが通例なんですよ。……ですがあのカキツバタと言う男は……ゴロゴロしたいと言う私利私欲の為に、部費の大半を巨大なカウチソファの購入に充ててしまったんです……!」

「カキツバタくん……それは幾ら何でも……! シャガさんの顔に泥を塗る行為でありますよ……!」

「もはや横領罪では無いのですか……?」

 

 歯痒そうな表情を浮かべてテーブルを叩く俺を見て、ハッサク先生とアオキさんは同情の眼差しを向けていた。

 

 ちなみにかなり良さげなカウチソファを見つけたのは俺だし、カキツバタに勧めたのも唆したのも俺だ。とは言え決定権を持つのはカキツバタなのでカキツバタのせいなのである。俺は悪くねえ。

 

 実物のソファが届いた当日、俺とカキツバタはそれはもう大興奮で喜んだ。『カルサイト・カキツバタ専用』の看板まで掲げ、もう死ぬまでいたい場所と魂が叫ぶほどに。

 

 そして翌日。俺達のカウチソファは忽然と姿を消し、代わりに茣蓙(ござ)が敷いてあった。

 

 タロがクーリングオフ制度を利用した為である。

 

 その茣蓙の上で正座をしながら俺は悟ったね。この子こそがオレの嫁に相応しいのだと。そう思って即座にプロボーズしたらカキツバタはゲラゲラ笑うし、タロは余計に怒るし散々だった。

 

 そんな過去をふと思い出していたが、おっさんずはカキツバタの生態系を知って半ばドン引きした様子である。

 だがカキツバタの親友を自負している俺は決してフォローを忘れたりしない。俺は唯一無二の優しい友人だからだ。

 

 任せておけカキツバタ。お前の汚名は俺が晴らしてやるからよ。だってその方が俺のイメージアップに繋がるからな。

 

 だから俺は神妙な面持ちを浮かべながら、淡々と言葉を紡いでいく。

 

「これまでの経緯だけを聞くと、確かにカキツバタは腐ってしまったように聞こえると思います。マタドガス、ベトベトン、ダストダス、カキツバタ……そのポケモン達と名を連ねても違和感の無いほどに」

「それは言い過ぎだと思いますが……」

「それにダストダスは『でかいきんのたま』を極稀に所持しています」

「……カキツバタくんと何か関係があるのですか?」

 

 全く無い。

 

「……そんなだらしのないカキツバタでも、様々な苦悩を抱えて苦しんでるんですよ。妹分のヨ、ヨ……リスがチャンピオンへと躍進。そんな中でのドラゴン使いとしての重圧、ジムリーダーの孫としての責務……将来を見据えれば見据えるほどに、自身の立場に焦りを感じているようです」

「……あの朗らかなカキツバタくんが……」

 

 いや実際は知らんけどな。大体リーグ部で昼寝してるし、劣等感は感じてもそこまで考えてないと思うわ。

 でもここはカキツバタの立場を重んじる為にも、俺は決して茶化したりせずに頷いておく。

 

「カキツバタはその運命を真正面から乗り越えようと、第一歩を踏み出したところなんです。叱咤、そして研鑽する友人に恵まれて、ようやくシャガさんの期待に応えるポケモントレーナーとして自覚が芽生えました。……今となっては文字の読み書きだって出来るんです」

「……そう、だったのですね……小生はカキツバタくんの苦悩を知らずに……。良き友に恵まれて良かったですよ……う、う……うぼぉおおい! おいおいおい!」

「文字の読み書きを出来なければそもそも入学が……って聞いていませんね……」

 

 ワッ、泣いちゃった……。

 

 大のおっさんが人目を気にせず声を上げて咽び泣いている。分かりやすいツッコミどころを残しておいたのにまさか真に受けると思わなかった俺は困惑してしまう。

 

 でもアオキさんは驚いた様子を見せないどころか、呆れた表情をしている辺り、この光景は良くあるのだろうか。真人間に見えてこの人達も大概なんだな。さすがはパルデアのポケモンリーグだぜ。

 

 そしてアオキさんは腕時計を確認する。

 

「おっと、時間が……」

 

 おいアオキ。俺の対応をする時のチリちゃんみたいな顔をしてから時計を確認しなかったか?

 いくら面倒だと思ってもさ、同じポケモンリーグ仲間どころか四天王同士。もう少し横の繋がりから芽生えた絆とかある筈だろ。ハッサク先生とお手手繋いで二人三脚して連れてってくれよ。

 

 そんな俺の思いも虚しく、アオキさんは『自分、サラリーマンなんで……』と言う表情を崩さないまま、背を向けて去って行った。なんて非情で惨い人なんだ。

 と言うかパルデアには人の心を無くした怪物が多すぎる。なんだかんだ優しくしてくれるツンデレなペパーを見習って欲しいものだ。

 

 しかし俺もこんな大男が泣き喚く傍にいるのも嫌だったし、わざわざオモダカさんを待つ義理も無い。アオキさんの後を追うようにして移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『関係者以外立入禁止』

 

 アオキさんが入って行った扉に書かれた文字。恐らくはこの先がポケモンリーグに務める職員達の仕事場なのだろう。

 しかしポケモンリーグへの挑戦者が間違って入るとは考えられない場所である。何故このような注意書きが書かれているのかまるで理解出来ないまま、オモダカさんに呼ばれた関係者の俺は室内へと入った。

 

 そこにはブラック企業に揉まれた一流の企業戦士達がいた。どいつもこいつも目が死んでやがるぜ。

 

 仕事に集中してパソコンに張り付いている為か、俺の存在に気が付いていないのが大多数だったので、何食わぬ顔で座り心地の良さそうな場所を物色する。

 

 お、ここだな。ここが良い。ドオーの小道具やらチリちゃんとオモダカさんの写真が飾られているここが俺の席だ。はい、決まり。

 

 結構な上座な気もするけど俺の席なので気にしない。とりあえず俺の席である事を証明する為に、机のど真ん中にカキツバタ顔写真を大量に貼り付けて六芒星を描いておこう。

 

 ……よし、何とか足りたな。こんな時の非常用に作成しておいて良かったぜ。

 

「……は? なにしてんの?」

「見て分からんのか?」

「分からんからチリさんの机でなにしてんのか聞いてるんだし」

「黒魔術だよ。俺の邪魔ばかりするチリちゃんの心を浄化する為に必要な事なんだ。カキツバタの邪悪性をぶつけて対消滅させる事で、綺麗なチリちゃんに生まれ変わると思ってね」

「……頭おかしいん?」

 

 俺の机を覗き込むように見ながら、罵倒してくる常識外れの女の声が聞こえる。まるでゼイユのように性根の腐った人間がパルデア地方にいるとは思わず、俺は驚きのあまりそのご尊顔を確認した。

 

 そこにいたのはアオイちゃんのハーレムメンバー、イーブイガールである。

 

 まるで不審者を見るような目付きが実に気になる所だが、俺からして見ればアカデミー生がここにいる事が既に違和感の塊だ。関係者以外立入禁止の空間である以上、もしかしたらポケモンリーグ関係者の親族だったりするのかもしれない。

 ここは俺のコミュニケーション能力を活かして友好な関係性を築いておくべきだろう。

 

「イーブイガールは何故ここにいるんだ?」

「うちはボタンって名前だよ」

「それは悪かったな。……で、イーブイガールは何故ここに?」

「は? 人の話を聞けし」

「分かる。話を聞かない奴が多くて困るよな。ネモとかオモダカさんとか。特にアオイちゃんなんて筆頭だろ」

「バカなん? カルサイトの事なんだけど」

「うっせえな……オマエ調子乗んなよ」

「キレた時のペパーのつもり?」

 

 え、あの心優しいペパー君を怒らせたのか……中々に破天荒な才能の持ち主だな……。

 しかしまともに話していないイーブイガールですら俺の名前をちゃんと覚えているとは驚きだ。きっとアオイちゃんが死ぬほど俺の自慢と惚気話をしているせいなのだろう。

 尤も、惚気ける事は何一つしていないんだけどな。

 

 そうなれば俺もイーブイガールを名前で呼ばなければ失礼だな。ここは距離を縮める為にも愛称で呼ぶとする。

 

「ボタちゃんってポケモンリーグの関係者なのか? もしかしてハッサク先生の娘? お父さん、外の待合室で泣いてるぜ」

「ボタちゃん言うなし!」

「あっ、その眼鏡良いね。俺の『こだわりメガネ』と交換しない? 見にくくて困ってたんだよね」

「……あぁ、そういうネモなタイプね。どうせ話聞かんしもうボタちゃんで良い……。うちはポケモンリーグにスカウトされてて、こうして手伝いに来たりしてるんよ」

「え、パルデアのポケモンリーグはブラックを超えた漆黒だぞ。止めとけって。見てみろよ、あのアオキさんの顔。まるでゴルバットに『きゅうけつ』された後みたいな顔してるだろ」

「や、それ死ぬやつだし」

「『きゅうけつ』される前はカイリキーみたいな身体をしていたらしいぜ」

「やめて! 想像したらキモいし!」

「腕も4本あったのにな……」

「そこまでカイリキーなん!?」

 

 ボタちゃんもペパーと同じでツッコミ体質なんだな。ブルーベリー学園じゃタロと俺しかいないから羨ましいよ。

 カキツバタ、ゼイユ、アカマツ君、ネリネ……全員存在そのものが冗談だと言っても過言じゃない。真人間サイドには荷が重過ぎる。

 

「……って、そんな話をしてる場合じゃないし」

 

 だが、さすがに仕事中に喋り続けるほど非常識では無いようで、ボタちゃんはそそくさと自分の席へと移動する。

 

 そして俺は時間を無駄にしたと言わんばかりの表情を見逃さない。折角楽しんでもらう為に道化を演じたと言うのに、そのような態度をされてしまってはカルサイトの名が廃ると言うものだ。

 その後ろ姿にこっそりついて行き、パソコンを操作し始めるボタちゃんの画面を覗き込んだ。

 

 俺がついてきた事に気が付く様子も無く、パソコンに向かいながらカタカタとキーボードを打っている。見たところプログラミングのようだ。

 どうやら陰キャオーラを纏うだけあって、その手の作業はお手の物らしい。

 

「へえ、随分といやらしいのを見てんだな」

「うわっ!? なんで後ろにおるん!? ……て言うかそんなの見てないし、プログラム書いてるんだけど!」

「見ろよ、ここ。条件が合わなくて無限ループするぞ」

 

 そう言って俺は指を差してプログラムのソースコードを指摘する。これでも多能工の天才児なんでね、簡単なものくらいなら分かるのさ。

 

 何故ならばゲーム部の支援ボード依頼で、スマホロトムで遊べるシューティングゲームを作ってた事があるからだ。

 何故ゲーム部の癖に外部にゲーム制作依頼を出しているのかはまるで理解出来なかったが、プログラム自体は理論と法則さえ理解してしまえば、俺の頭脳ならば御茶の子さいさい、アカマツ君にテストで勝つくらい簡単な事である。

 

 だが課題となったのはグラフィック面だった。三日三晩考えた結果、ここはリーグ部らしさと個性を前面に出すべきだと判断した俺は、カキツバタの顔をした自機が歯磨き粉を飛ばして、ゼイ──悪魔の顔をした宇宙人を撃ち落とすゲームを完成させたのである。

 

 ちなみにストレスが溜まっているであろうスグリ君には『にへへ……ねーちゃんが顔を真っ赤にして逃げてくべ』と大好評だった。パルデア地方に来る直前の話なのでまだゼイユには気付かれてない。ゼイユは関係ない話なんだけどな。

 

 そんな俺の指摘が的確だったのか、ボタちゃんは少し考えた後、驚いたように声を漏らした。

 

「……あ、ほんとだ」

「かっこいいカルサイト君、ありがとうございます……だろ?」

「うっさい……でもありがと」

「にしてもこれは……いやらしい穴だな……」

「感謝するべきか怒るべきか分からんから止めろし」

「今からボタちゃんのいやらしい穴を修正──」

「死ね。本気で死ね」

 

 滅茶苦茶冷たい目線と声を掛けてきたボタちゃんの手によって、ソースコードを差していた俺の人差し指が反対方向にひん曲げられた。

 

 やだ……めっちゃ痛い……。

 

 こんなバイオレンスな女とは付き合いきれない俺は慌ててチリちゃんの席へと戻る。カキツバタの顔が机に並んでいて随分と気色悪いが、そんな文句も言ってられない。

 

 脂汗が滲む痛さだ。いやらしい事を除けば間違った事は一言も言っていないのに、何故こんなにも酷い仕打ちを受けなければならないのか。

 こんなに指が痛かったらもうアオイちゃんとは戦えないだろう。モンスターボールを投げる行為は全身に多大な負荷が掛かる。非常に残念だがボタちゃんのせいで戦えなくなったのを伝えなければ。本当に残念だ。

 

「……こんな所にいましたか」

 

 激痛の走る人差し指を必死に動かしていると、呆れた声が上から掛かる。顔を上げて確認するとモンジャラの化身がポスターらしきものを手にして立っていた。

 

「まるで俺が勝手にいなくなったみたいな言い方ですね」

「そう言ってるのですよ」

「オモダカさんの部下であるハッサク先生が泣き始めたせいですよ。あんな玄関口で大男に大泣きされる俺の身にもなって下さい。……つまりこれは、上司であるオモダカさんの責任だと思うのですがどうお考えで?」

「黙りなさい」

 

 黙る事にした。

 

「チャンピオンアオイとのポケモン勝負についてなのですが、中々大きなイベントとなりそうですね」

「……何の話?」

「……? チャンピオンアオイから、カルサイトさんが一大興行として勝負を望んでいるとお聞きしたのですが」

 

 いや確かにナンジャモにそう言ったのは覚えてるけどさ、そんなの嘘も方便だっての。軽妙洒脱のカル君の異名を発揮し過ぎてしまったか? 我ながら無意識の才能が恐ろし過ぎる。

 

 だがアオイちゃんも詰めが甘い。まだまだ年相応のお子様ってところだ。そう言うのは完全に逃げ道を潰されなければどうとでもなると言う事を覚えておくべきだったな。

 

「オモダカさん、大いに誤解していますよ。確かに俺はチャンピオンクラスとポケモンバトルをする為にパルデア地方に来ましたけど、誰と戦うとまでは決めていないんですよ」

「ナンジャモさんの配信をチャンピオンアオイから見せて頂いておりますので、説明は不要です」

「あれはAIによって作られた巧妙なディープフェイク動画ですよ。アオイちゃんと戦うことを宣言するどころか、可愛いナンジャモちゃんを弄ぶなんて、俺がするとお思いですか?」

「ちなみに本人であるナンジャモさんからも相談を受けております」

「へえ、恋愛相談?」

「黙りなさい」

 

 黙る事にした。

 

「ですが……もう作ってあるのですよ」

 

 そう言ってオモダカさんが手にしていたポスターを広げるのを見て、俺は視線を送った。

 

『オレンジアカデミーVSブルーベリー学園!』

 

 いや仕事早すぎだろ。

 

 そこには大々的にポケモンバトルを開催する旨が書かれていた。3日後の正午、オレンジアカデミーって勝手に決められてるし。しかも使われてるのは俺とアオイちゃんのツーショットの写真。全然勝負する雰囲気のポスターじゃねえだろ。

 

 て言うか既に外堀を埋められてるし、逃げ道があるとは何だったのか。アオイちゃん怖過ぎるわ。

 でもタロの外堀をガチガチに埋めたいから後でコツを教えてもらうとする。

 

「とりあえずその広告は捨てましょう。愛しのマイエンジェル、タロちゃんに見られたら婚約破棄されてしまう」

「した方が彼女の為だと思いますよ」

「あ? 『ゼニガメじょうろ』の出番か?」

「……何が言いたいのか理解し難いですね。しかしこのポスターは既に各ジムリーダーへ配布済みです。今ごろ町中に張り出されてますよ」

「指名手配かよ」

「ええ、いつかやると思っていました」

 

 テレビのインタビューじゃねえんだけど。

 

 しかし困ったな。関係者だけ集め、ポケモンリーグの場所を借りて細々と戦えば良いだろと思ってたけど、ナンジャモの配信の視聴者どころか一般人にまで浸透したとなれば覆すのは難しいだろう。

 こうも早々に先手を打たれるとは。医務室の誘惑を払い除けられなかった、俺自身の未熟さ故の結果と言える。

 

 この誘惑から耐え忍ぶ為にも、俺はタロとお医者さんごっこをする決意を決めたのだった。

 もちろん俺が医者役だ。整体師でも行けるぜ。決めゼリフは『あくまで施術の一環ですから』と『大丈夫ですよ、みなさんやってますので』である。日頃からイメトレは万全だ。

 

「大体、なんでそんな物まで準備出来てるんですか? ナンジャモの配信は昨日の午後の出来事ですよ? 幾ら独裁国家オモダカ帝国の奴隷制度の働き方改革とは言え、早過ぎて死人が出てないとおかしいですよね」

「チャンピオンアオイの指示の元、そこにいるボタンさんが事前に準備してくれていたのです。後、パルデア地方のポケモンリーグは健全です」

「クリムガンヘアカラー眼鏡女のせいか」

「は? 今なんて言ったん?」

「お? 顔面クリムガンか?」

「……うっざ! ムカつく! ちょっと手が滑ってパソコン投げそうだし!」

「じゃあこっちはオモダカガード! 投げたらどうなるか分かってんだろうな!?」

「……私を挟んで遊ばないで貰えますか?」

 

 滅茶苦茶恐ろしい程に見開いた目で睨まれたので元の位置に戻る事にした。助けてくれ、黒魔術のカキツバタ陣。

 

 オモダカさんが現れた事で空気の張り詰めた仕事場。そんな場所で声を出せば視線を集めるのは必然であり、ボタちゃんは周囲の視線に晒された事で羞恥を覚えたのだろう。顔を真っ赤にして顔を伏せていた。

 

 ふっ、所詮は闇属性を司る陰キャクリムガンだな。俺のような神々しく煌びやかな光属性を前にして顔を伏せるのは当然の事だ。

 偉大な相手と言うのは、輝いて見えるものだよ。

 

「格の違いを分からせてやったな。これで俺がチャンピオンクラスを超えた人格者だとポケモンリーグの職員達も理解しただろう。……と、言う事でブルーベリー学園の体裁も保てたので、ポスターは破り捨てておくように指示して下さい」

「面接に落ちた貴方が人格者……ですか」

「ええ。アオイちゃん、ネモ、そしてオモダカさん……他のチャンピオンは知りませんが、この三者の共通点を考えるに、チャンピオンとは人格破綻者である事は間違いないです。即ち面接に落ちる事──逆説的に人格者である証左では無いのでしょうか?」

「黙りなさい」

「この一般市民に対する高圧的な態度。それがトップチャンピオンがするべき態度だとお思いで? やはりこの独裁国家は──あ、痛い。こめかみをグリグリしないで。拳の骨が食い込んでるから」

「少々手荒にせねば止まらないとナンジャモさんからお聞きしたので」

「手荒にしたところでパルデアチャンピオンの人格は破綻したまま──いたたたっ!」

 

 くそ、これがパルデア地方の誇るポケモンリーグのやり方かよ。独裁国家オモダカ帝国は、暴力による支配と深夜残業の圧政を好む腐った悪の組織。

 

 必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬ。

 

 カル君は激怒した。

 

「あーもう無理。指がへし折れた上に世界有数の脳細胞まで死滅したとなれば、ポケモンバトルで十全の実力が発揮出来ません。これはもうブルーベリー学園の為、オモダカさんが接待プレイで勝たせてくれなきゃ割に合わないですよ」

「大丈夫ですよ。貴方は本気を出して戦いますから」

「親しくも無い人に我が物顔で語られるのはちょっと気持ち悪いと思うので、止めた方が良いんじゃないですかね……」

「ここを見てください。貴方はブルーベリー学園の生徒であると同時に、シンオウ地方のトレーナー代表の肩書きも持ち合わせているのですよ」

 

 さっきから俺の発言が半ば無視されているような気もするが、とりあえずオモダカさんが示す部分へと視線を向ける。

 そこには小さな文字で『シンオウ地方のチャンピオンのお墨付き』って注意書きがされていた。

 

 書いて良い事と悪い事ってあるんじゃないですかね。

 

「そこは『鉱山王の愛娘が一推しの男!』って書くべきじゃないの? 関係の無いシロナさんの名前を使うなんて……嘘は良くないと思います」

「それこそ嘘ではありませんか」

「そういうのよくないと思います!」

「……なんですかそれは」

「タロの決めゼリフとポーズだが?」

「知りませんよ」

 

 なんの為にブルーベリー学園の視察に来たんだよ。イッシュ地方の文化をしっかり学んでから帰って頂きたい。

 

 そんな俺の発言を受けて、疲れたように溜め息をするオモダカさんであるが、むしろそうしたいのは俺の方である。

 戦いたくもない目立つ戦場に半強制的に駆り出され、挙句の果てにはシロナの肩書きまで利用されるなんて泣きたくなるレベルだ。

 

「もう少し手心と言うか……誠意ってものを示すべきじゃないですか? 策を講じるのは構いませんけど、手段を選ばないようならこちらにも考えがありますが」

 

 ヒカリを召喚!

 ディアルガとパルキアの壮絶バトルフェイズ!

 オレンジーアカデミーにダイレクトアタックだぜ!

 でも俺は会いたくないから早々に逃げるけどな!

 

「それについては少々熱くなり過ぎたと反省しています」

「反省してこの注意書きは面の皮が厚すぎるのでは?」

「……これは言い訳にしかならないのですが、実は各地方のチャンピオンとの交流会で、パルデア地方が誇る珠玉の人材を紹介したのです。その際に彼女──シロナさんから一言言われました。『確かに中々の人材ですね』と」

「事の発端が下らなさ過ぎる」

「彼女に悪気が無かったのは理解していますが、チャンピオンアオイを中々と評価される事に私も苛立ちを隠せない若輩者でして。言い争った結果、結果としてお互いの地方が誇る若手トレーナーの自慢話へと発展したのです」

「孫自慢するババアの井戸端会議じゃねえんだぞ」

「そのまま口論を重ねたのですが結果は平行線。しかし最後の最後で『あぁカルサイトくん? 旅先で会ったけど彼って面白くて良いよね。ボクも気に入ってるよ』と言い出す人もいて引くに引けず」

「いや引けよ。そいつは石に性的興奮を覚える変人なんだから無視しろよ」

「今ババアって言いましたか?」

「言ってません」

 

 なんだそれ、チャンピオン同士の下らない論争のせいで駆り出される俺は被害者でしかないだろ。

 て言うか結局シロナのせいかよ。経緯を説明した時、何が『あら、そうなの? それは大変そうね』だよ。知らねえフリしてんのか若年性アルツハイマーなのか分からないだろ。心配になるじゃねえか。

 

 しかもとどめを刺すのは石マニアって。チャンピオンの座から退いて、旅するやまおとこになったんじゃないのかよ。なんで交流会に出てんだよ。

 これには流石の俺も大誤算だぜ。ダイゴさんだけにな。はははっ!

 

「笑い事じゃねえけどな」

「ええ、その通りですね。……ですがその一方で、それほど話題性のある若手トレーナーとなれば、栄えあるパルデアの未来をより高みへと導ける存在だと思っております。人格は兎も角としても。……何かお望みがありましたら、出来る範囲でなら私が叶えますよ」

「金、金は全てを解決する」

「金額は?」

「100万円」

「口座を教えて頂ければ振り込んでおきましょう」

 

 Q.神様を見た事がありますか?

 A.目の前にいた。

 

 おいおいおい……ゼイユから強奪されたお金に色がついて返ってきたぞ。それどころかシアノ先生に再度揺さぶりを掛ければ倍増さえ有り得る。ヤバい女であるアオイちゃんには目をつけられたものの、旅行を楽しんでナンジャモとのコネを作り、バトルするだけで200万円(仮)と授業の単位獲得は美味し過ぎる。

 本気で戦う俺のかっこよさでタロも惚れ直すし、カキツバタと言う一生頭の上がらない配下も手に入る。シアノ先生への恩義を応えた上で更に30万円の女が胸を触らせてくれるとなれば、不満などある訳が無い。

 あ、何でも言う事を聞くチリちゃんもいたな。ついでにナンジャモとも約束した体でゴリ押してみるか。

 

 そうと決まればこんな所で時間を潰している場合じゃない。おかげさまで折れていた指も完全復活し、死んでいた脳細胞も活性化してきた。

 

 カキツバタの顔が並べられた気持ち悪い机から席を立ちつつ、俺は口を開く。

 

「ではオモダカ様。広告を見せて決意を固めさせる目的も済んだようですし、俺はブティッ……では無く、パルデア地方の歴史を紐解き、アオイちゃんのポケモン達の根源を知る必要があるので、失礼しますね」

「現金な性格をしているのはともかく、ブティックと聞こえたのですが」

「ブティックにコライドンの巣があると聞いたのです」

「やはりカルサイトはバカなのですね」

 

 人が様付けしているのに呼び捨てでバカ扱いするとは、やはりとんでもないポケモンリーグである。

 こんなふざけた人と遊んでいる時間は無い。早くブティックへと赴き、タロのご機嫌を取る為にもブランド物を買い漁る必要があるのだ。

 

 そうして背を向けた俺に向かって、静かにオモダカさんは言葉を投げかけて来る。

 

「その金額が貴方に寄せる期待値だと思って下さい。歴代最強のチャンピオンの一人と名高いシロナさんの寵愛を受けたトレーナーとして、期待していますよ」

「へえ、心が折れちゃっても知りませんよ?」

「……ほう。チャンピオンアオイの心がですか?」

「いや俺の」

「ゴーストタイプの『のろい』ですら効くかも怪しい貴方が言う台詞では無いですね」

「見ての通りノーマルタイプなんでね」

「アブノーマルな上に『のろい』はタイプ相性関係ありませんが」

 

 おいおい。幾ら金を積まれた相手だからと言ってもよ、俺にだってプライドはあるんだぞ。でもオモダカ様がそう言うなら仕方ないっすね。へへっ。

 

「あ、1つだけ訂正があるんですけど」

「……なんでしょうか?」

「歴代最強の一人では無く最強。そこは譲れない」

「……ふ、ふふふっ。その熱量を見られただけで大満足です。名に恥じぬ活躍を期待していますよ」

「ええ。負けそうになったら服を脱いで暴れるので覚悟して下さい」

「それはシンオウ地方の恥晒しですよ」

 

 見た事が無い程に笑みを浮かべたオモダカさんに対して特に返事する事もなく、俺は踵を返してポケモンリーグを後にするのだった。

 

 にしてもチリちゃんの机のカキツバタ陣はホラーだったな。変な趣味してるぜ。

 





本当ならここからタロのお説教編に入る予定だったけど、短編並みの長さになったので割愛した。ボツにするかもしれないし、次に投稿するかもしれない。


登場人物紹介

・カルサイト
実はシロナと関係のある人物。大半の読者は気が付いていなかったし、作者は未だに気が付いていない。
トレーナーとしての腕前は一流であるものの、自分の中に明確な線引きと立ち位置がある為、勝負の結果に拘らない。
基本的に快楽主義だが譲れない部分もあるらしい。タブンネ。

・オモダカ
独裁国家オモダカ帝国の総統。SVに於ける悪の組織である。ブルーベリー学園と姉妹校になったのは、プラズマ団の残党をパルデア地方に迎え入れる為だと、まことしやかに囁かれている。嘘である。

・ボタン
ブイズ使いは仮の姿で本来はクリムガンの名手。嘘ではない。
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