たろいも!


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作:タロちゃん好き好き親衛隊
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はいしんで



感想と高評価とここすきと誤字報告、ありがとう、ありがとうね。
そして遅くなり申した。24000文字書き申した。時間があるとき読んでね。

今回は簡単な特殊タグを使用した配信回。
多分最初で最後の試み。




 

「アオイ氏ー! コラボ案件ありがとー! まさか話題シビルドン登りの新チャンピオンから連絡来るなんて思わなくて、幸せ過ぎて天に召されー!」

「こちらこそ急なお願いなのにありがとね! カル君からどうしてもナンジャモに会いたいって言われちゃって!」

「構わないよ! ボクとしてもバズるチャンスは見逃せないからね! アオイ氏の頼みならおけおけなるへそ物語の一言で合点承知之助だよ!」

「何言ってんだこいつ」

「キミは初対面から失礼だな!?」

 

 ハッコウシティに辿り着いた翌日。アオイちゃんに連れられるがままにオフィス街の一角の建物へと訪れた俺は、遂に目的の人物との対面を果たす。

 

 特殊仕様のダボダボな黄色いコート。特徴のあるコイル型の髪飾り。そして年齢不詳の可愛らしい童顔と異様なギザ歯。

 学生の中で話題沸騰のインフルエンサー、ナンジャモであった。

 

 そして俺は少しばかり困惑していた。独特の言い回しからナンジャモ語と呼ばれる口調と、場を盛り上げる妙に高いテンション。

 まさか配信外でもこのノリで来るとは思わなかった俺は、冷静に鋭いツッコミをしてしまう。

 

 配信歴を考えれば20代半ばと思われる女性がプライベートでもこれ……? いやー……キツくね?

 

 仮にシロナがやってたら腹抱えて笑いまくる自信があるんだが。『あなたの心にドラゴンダイブ! こんにち考古学者! シロナです!』とかやってくれないかな。

 こんにちはと考古学者が全く言葉遊びになってない辺りがシロナらしいポイントだ。恥ずかシロナでおもシロナである。

 

 でもナンジャモは年齢不詳で可愛い。可愛いは正義だから良しとする。

 

「キミがあの……カルサイト氏……で良いんだよね?」

「『あの……』の意味はよく分かりませんがそうです。でも身バレは防ぎたいのでカル氏と呼んで貰えると」

「あい、わかった! ……って言いたいところなんだけど、カル氏はボクの常連視聴者と被っちゃっててね! 申し訳無いけど別のネーミングを考えてくれるとありがたやーなんだよね!」

「じゃあナンジャモで」

「ボクの配信乗っ取るつもりなの!?」

「そして私は現地妻です!」

「キミもいきなりどうした!?」

 

 さすがインフルエンサーの配信者。返す言葉がキレキレである。アオイちゃんもキレキレ過ぎて触れたら切り裂かれそうだぜ。

 常識人の俺がついて行けるか不安だ。

 

「僕もドンナモンジャTVは見てますので、カル氏がどんな人かはご存知ですよ」

「その前に! そんな堅苦しい口調は『ボルトチェンジ』だよ! ゲスト企画で盛り上げる為にはキャラの濃さ──つまり個性が無いと放送事故になるからさ! はい! いち、にの、さん!」

「おいナンジャモ。来客に飲み物ひとつも出さないとかどう言うつもりなの? 生配信中にオモダカさんの悪事について話しちゃうぞ?」

「キャラ濃すぎるし炎上系は求めてないがー!?」

「私が良い情報持ってますよ! 本来トップがするべきジムリーダーの視察を私に任せてですね──」

「それガチなヤツ! 配信で詳細を話せばトップ激おこだからNG!」

 

 面白い情報が出てきて笑える。将来、アオイちゃんをポケモンリーグへ引き込む為に仕事を任せたに違いない。

 話題シビルドン登りのアオイちゃんなだけあって、秘匿ネタを沢山持ってそうだ。さすがパルデアの渦中の人と呼ばれるだけの事はある。俺も絶賛巻き込まれ中だもの。延々と途切れない『ほのおのうず』だぜ。早く弾切れになってくれねえかな。

 

 そうしてフラフラと立ち上がったナンジャモが、部屋の隅に置かれていた冷蔵庫からミニサイズのペットボトルを持ってきた。

 振られたノリのままに冗談で言ったんだが……なんだか少しだけ申し訳無い気持ちになりつつも素直に受け取っておく。

 

 インフルエンサーと言えどもさすが責任感のある社会人である。ゼイユの部屋に押し入ってそんな事を口にした瞬間には、蔑んだ目で唾吐きされるだろう。

 

 想像しただけで特殊な性癖に目覚めそうだな。さすが30万円の女だぜ。

 

「……ボクのチャンネルを見ててくれてるなら、カル氏がエレキン氏と並んで常連の古参なのは知ってるでしょ?」

「あぁ。エレキブルの癖に金持ってるよな。ビックリするよ」

「エレキブルのエレキンじゃないから!?」

「レジエレキの方か?」

「何それボク聞いた事ないよ……」

 

 まぁ俺も詳しくは知らねえけど。

 

「スパチャの額からしてカル氏がどこの御曹司なのかは分からないけどさ、ボクの配信から得た『げんきのかけら』で、病気に立ち向かって旅に出てる男の子なんだよね! ハンカチ無しでは語れないような、全パルデアが号泣する物語を配信したくて、今コラボを打診してるところなんだから! そんな無碍にするような扱いは『かみなり』ドッカンだよ!」

「カル君って病弱なんですか?」

「生まれつきバカみたいに丈夫だな」

「ですよね! 私もこう見えて頑丈なんです!」

「ボクの話聞いてる!?」

 

 聞いてるけど、俺が即興で考えた存在しないカル氏の話だからなぁ……。

 

「そうは言われても個人的にカル氏と繋がりがあってな。話は通してあるから大丈夫なんだよ」

「……ホントかー? ボクもカル氏とは仕事用のフリメで繋がってるから確認できるぞー?」

「合点承知之助!」

「使い方違うから!?」

 

 そう言って疑惑の眼差しを向けてくるナンジャモは、赤と青に彩られたスマホロトムを宙に浮かべて操作し始める。恐らくはカル氏──つまり俺に確認のメッセージを送っているのだろう。何ともシュールな光景だが敢えて口に出さないことにしておく。

 

 にしても何故初対面のナンジャモが疑り深い言葉を投げてくるのか。空想上のカル氏に大きな信頼を寄せて……る訳も無いだろう。所詮は配信者と視聴者の立場でしか無いのを重々承知している。

 

 俺は結婚指輪まで買うシアノ先生のような、勘違いガチ恋勢とは違うのだから。

 

「……送信っと。ニシシ! これでカルサイト氏の言葉が真実かどうか分かっちゃうよー!」

「……なぁアオイちゃん、俺の人物像をどんな風に説明したの?」

「これ以上ドクケイルが増えないように、カル君の個性を5倍増しで伝えました!」

「あ、そう……」

「ちなみにチリ氏からジムリーダーに向けて注意喚起の通達が来てたから、カルサイト氏の事は知ってたぞよ!」

 

 バッと両手を上げてポーズしてるけど、それ俺に話して良い内容じゃないだろ。

 そしてチリちゃんは何をやってんだよ。もうちょっと手心とか無いんか? 無いんか。チリちゃんは無いものばっかりだな。可哀想で泣けてきたわ。

 

 ピロリン。

 

「失礼」

 

 なんて考えていると、俺のスマホロトムがメッセージの着信音を鳴らす。十中八九ナンジャモからなのは間違いないが、一言告げてから俺はスマホロトムを取り出した。

 

『カル氏のハンドルネーム、利用許可を出したってホントにー?』

 

 『合点承知之助!』とだけ打って返信すると、直後にナンジャモのスマホロトムの着信音が鳴った。

 

 そしてナンジャモはスマホロトムの画面と俺の顔を繰り返し視界に入れた後、全身をワナワナと震わせている。

 

 どうした? 『でんじは』でも撃たれたのか?

 

「ねえ!? 病弱少年はどこに消えたの!?」

「カル氏は合点承知之助のもずくとなったよ……」

「藻屑!!」

「ほらー! 私は言ったよ! カル氏とカル君は同一人物だって!」

「だってだって! 信じたくないよ! 御曹司の病弱薄幸美少年がさ! 四天王が疫病神なんて表現して、新チャンピオンの語る野生のイッカネズミを1匹ずついたぶる悪逆非道だなんて!」

「5倍増しどころじゃねえな?」

「えへへ」

 

 えへへじゃねえんだけど。ナンジャモもそんなやつとのコラボを承諾した事にビックリだよ。

 

「ボクの配信でね! 万バズの予感がビリリと! そしていずれはボクを迎えに来る白馬の王子様に……!」

「ナンジャモの妄想はもずくとなったよ……」

「藻屑!!!!」

 

 キレのあるツッコミはするものの、俺=カル氏である事が余程衝撃だったのだろう。目に見えて気落ちした様子で、ガックリと肩を落として頭のコイルも目を回していた。

 

 そのコイルって髪飾りなんだよな? どう言う仕組みでシンクロしてんの?

 

 しかしそこで折れてしまうナンジャモでは無いようで、バッと顔を上げたかと思えば俺の顔をジロジロと見た。不躾な視線に少々不快さを感じるものの、これは美青年である者の定めなのは承知している。

 云わば歩く美術品。生ける彫刻像と呼ばれた俺ならば仕方ないだろう。

 

「……ここまでの性格とみんなの評価からして、キミの内面が残念なのは仕方ないとして」

「なんだって?」

「でもそのカル氏を騙ったビリリダマのような演技力! 人目を引くマルマインのような容姿!」

「例え方が下手か?」

「更にブルーベリー学園の生徒だったよね! これなら映え方次第では視聴者数がシビルドン登りの爆上がりに……!」

「私もいますからね!」

「更に激バズで話題の中心新チャンピオン! 二ヒヒ……いける! ボクならいけるぞー!」

 

 なんだかよく分からんが、元気を出したナンジャモがテーブルに書類を並べていく。視線を向けて軽く目を通すと、どうやら配信に向けた企画の内容のようだった。

 

「わ、すご……」

「なんたって今回はマジのマジだからね! ビリッとバリッとくる配信の為なら、例え火の中、水の中、草の中!」

「この『スパチャの額に応じてインナー姿になる』って全員か?」

「そんな事書いてないよね!?」

「え……カル君脱いでくれるんですか!?」

「なんで自分が脱ぐ危機感を先に覚えねえんだよ」

「……書いてない……よね?」

 

 残念ながら書いてないな。俺の願望だよ。

 

「ボクの配信を見てるカル氏なら分かってると思うけどさ、健全な全年齢向けでコツコツとやってここまで来たんだからね! そんなやり口で視聴者を獲得だなんて、ボクのプライドが許さないぞよー!」

「えっちな体してるくせに良く言うぜ」

「ボクのせいじゃないけど!?」

「……ナンジャモ、今のはイエローカードだから。レッドカードになったらトップに報告するよ」

「アオイ氏もさっきからおかしいよ!? ボク何もしてないんだけど!?」

 

 今のアオイちゃんにとって女性らしい体つきってのは悪の組織みたいなものだから。不用意に屈んで胸元を露出してみろ。その瞬間にアオイちゃんが『きょけんとつげき』の体勢で突っ込んでくるからな。

 

「……とりあえず流れを説明していくよ! まずはいつもの口上から始まったらアオイ氏、次いでカル氏とサプライズ登場してもらうぞー! その後は雑談を交えつつ自己紹介をしてもらうから! 特にカル氏については全力の『とっしん』で質問するからよろー!」

「あぁ。『だいばくはつ』で期待に応えるよ」

「死なば諸共の精神は勘弁願うが!?」

「死ねばニョロトノ?」

「みずタイプに殺意高過ぎるだろ。さすがでんきタイプのジムリーダーだな」

「ボクの話を聞いてよ!?」

「本当に殺意を向ける相手は『ちょすい』持ちドオーだと言うのに……」

「あ、私のジムリーダー戦見てたんですか!? でんき対策のつもりで育ててたんですけど、『ドわすれ』を覚えさせたドオーがあそこまで刺さるなんて思ってなくて!」

「あーん、止めてよ! あの放送後はドオーを育てたトレーナーだらけになっちゃって、ジムバッジを渡し過ぎってトップに怒られて調整が必要になったんだぞ!」

 

 草。いやでんきとじめんだけど。

 

 あの配信は街角ジェントルさんばかりが話題になっていたが、ナンジャモの手持ちポケモンの明確な弱点が露呈した配信だったのは間違いなかった。

 でんきタイプと特殊技が主軸となった構成。明確な弱点であるじめんタイプへの対策が『みずでっぽう』のみ。そりゃあ『ちょすい』ドオーが猛威を振るうのは当然である。

 

 それを生配信で不特定多数に見せたんだもんな。自業自得だろ。

 

 初心者向けのジムリーダーとは言え、『ドわすれ』を覚えたドオー1匹でどうにかなってしまうのは、オモダカさんと言えど黙認出来ないだろうし。

 

 だがさすがに本気のナンジャモはドオーだけじゃ対策になってなかったが。でもドンファンもどきの見た事もないポケモンに蹂躙されていたのは目に焼き付いている。

 これでも努力家なんでね。アオイちゃんの癖を掴む為に、配信動画を穴が空くほど見返してるんだよ。

 

 その結果、ナンジャモのインナーはえっちだねって結論に達した。コマ送りで確認したのでこれは世界の真理である。アルセウスもそう言ってると思います。

 

「そんな事より! 配信までの時間が迫ってるから説明するよ! 進行はボクがしつつも基本的に会話の中心はアオイ氏にまっかせるから! カル氏は個性を出しつつも流れに沿う形でよろしくだぞー!」

「俺が主人公って事か」

「じゃあ私はヒロインですね!」

「あれー! 言ってる事と逆なんだがー!?」

「ナンジャモがヒロインになりたいって事か?」

「……この()フォッコが……!」

「ちょ! アオイ氏の『げきりん』に触れてるから! て言うか何なのさ!? キミ達は恋人なの!?」

「見ての通り『ロックオン』されてる身でね。『でんじほう』をいつ撃たれるかとヒヤヒヤしてるところなんだ」

「ふ、夫婦だなんてそんな……気が早すぎるよ……」

「誰も言ってねえからな?」

「あ、うん。なるほど。そういう関係なんだね」

 

 世にも珍しいドン引きした素のナンジャモを見れたところで、俺達は真面目に話を聞き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモです! おはこんハロチャオー!」

 

 おはこんハロチャオ!

 待ってたよー!

 おはこんハロチャオー!

 ナンジャモちゃん……かわいい、かわいいね

 

 そしてついにナンジャモの生配信が始まった。狂気に満ちたアオイちゃんを見て、最後の最後まで不安そうだったが、時間になってしまえば覚悟を決めるしかない。

 いつもの口上と持ち前の明るさを前面に出した挨拶。その切り替えの早さはさすがベテランのプロである。

 

 ちなみに俺とアオイちゃんは画面の外で待機中。ナンジャモの合図があってから参加しろとしつこく釘を刺されたので静かに大人しくしていた。

 

「皆の者、昨日のゲリラコラボの告知は見たかー? なんと今回は! 巷で話題の珍しい激バズゲストを含めて! 2人も来てるよー!」

 

 誰? ジムリーダー?

 まさかまさかのリップさんとか?

 巷で話題と言えば解散したスター団じゃないの?

 カル

 ¥1,000

 良いなぁ! 僕も参加したかった!

 

「ぶっ!」

 

 うわ、配信中に思いっきり吹き出したよ。ドンナモンジャTVの一視聴者としてコメントをしただけなのに何て酷い配信者なんだ。

 顔を真っ赤にしながらギザ歯を丸出しでこっちを睨んでるし。カメラの方を向けっての。

 

「ご、ごめーん! カル氏の久しぶりの登場にビリビリっとビックリしちゃってさー! ……あ、カル氏、スパチャありがとねー!」

「どういたしましてー」

「……んぐ」

 

 そう配信中に睨まないでほしい。ビビって本来の力が発揮出来なかったらどうするつもりなんだよ。

 

 なんか声が聞こえたけど……ゲストは男?

 リップさんの声だろ

 リップちゃん声変わりしてんのな……

 ナンジャモちゃん! こっち見てー!

 

 ほらー、配信のコメントも荒れちゃうから早く紹介しろって。俺がイケメンなのは分かるけど、視線を向けるべきなのはカメラなんだよ。

 終わった後なら好きなだけ見せてやるさ……隣のヤツはずっと俺をガン見してるけどな……。

 

「じゃー気を取り直して……今日のゲストは毎日話題沸騰中のシビれるチャンピオン! アオイちゃんだー!」

「はーい、おはこんハロチャオー! アオイです!」

 

 すげえ、プロかよ。ヨルノズクのように首を回しながら、瞬きもせずにこっちを見ていたアオイちゃん。まさかナンジャモに呼ばれた瞬間に愛嬌を振り撒くアイドルになるとは恐れ入ったぜ。

 

 新チャンピオンだ!

 愛嬌力チャンピオンか?

 アオイちゃん……可愛い、可愛いね

 学校最強大会で優勝した名実共にチャンピオン!

 オモダカさんも参加したって言うあれ?

 

 へえ……そんな大会やってたのか。類い稀鑑賞で実力を発揮出来なさそうなオモダカさんはさておいて、やっぱりアオイちゃんはネモよりも強いようだ。

 ポケモンに関する知識には自信のある俺でも見た事ないやつ使ってたりしてるみたいだからなぁ。タイプすら分からないのは勘弁して欲しい。

 

 どうせなら珍しいポケモン同士、俺のホウオウと交換しないか? アギャスドンとなら特別に交換してあげない事も無いぜ?

 

「忙しい身なのにボクの配信にだけ来てくれるなんて……嬉し過ぎて天に召されー!」

「いえいえ! 私もこうして配信に出られるのは楽しいので!」

「嬉しい事いってくれるなぁもう! さーて、もう1人のゲストはアオイ氏の友人と言う事なんだけど……ボクはまだ会ってないんだよね! 一体どんな人なのか教えて欲しいなー!」

「いわゆる3Kが揃ってるすごい人です!」

「さ……3Kって言うとアレだね! 登場する前からハードルがマシマシになってるけど……!」

「高身長! 格好良い! カル君!」

「最後が名前!!!」

 

 キレッキレ

 アオイちゃんはボケ担当なの?

 お、漫才コラボか?

 カル君って誰だよ。リップさんか?

 3Kが揃ってるのはグルーシャくらいでしょ

 カル

 ¥1,000

 そんな……僕が出たかったのに……

 カル君さぁ……カル氏に謝った方が良いんじゃないの?

 リップさんさぁ……

 リップガチ勢は帰れ

 

 ごめんな、病弱カル氏。お前の仇は俺が取るよ。誰よりも俺が目立って、最強のポケモンマスターだって事、証明してみせるから。

 

 しかし登場する前からハードルが上がりまくったな。さすがにそこまで持ち上げられると鋼の精神を持つと言われてる俺でも緊張する。

 手が震えて冷や汗が滲み、自然と高まってしまう心拍数。果たしてこの俺がしっかりと責務を果たせるのだろうか。ここで大失態をやらかしてしまえば、ブルーベリー学園の汚名を晴らすどころか恥の上塗りになってしまう──そんな重圧が俺を襲う。

 

「──と、言う訳で! アオイ氏一推しのカル氏の登場だよー!」

 

 極度の緊張から感じる浮遊感を味わいながら、遂にその時が来る。歩みを進めてカメラの前へと移動した瞬間、俺は覚悟を決めた。

 

「んふっ! ジャモちゃんと久し振りにコラボなんて……リップ嬉しいわ!」

「うわキモ! 何者なんじゃ!?」

「メイクアップアーティストのリップよ」

「後でリップ氏に怒られるから止めてよ!?」

「視聴者の期待に応えたかっただけなんだが……」

「期待してるのは本物のリップ氏だからね!?」

「そんなこと言っちゃメッ! せっかくの美しさがナシダイよ?」

「リップさんの再現度凄いですね……」

「アワワワワ……」

 

 やっぱ男じゃねえか!

 めちゃくちゃでグラスフィールドですよ

 ほらー、やっぱりリップさんじゃん

 お前らの中のリップさんはこんなので良いのかよ?

 気持ち悪過ぎるんで吐いても良いですか?

 【悲報】ナンジャモ、初登場の男にキャラ負けする

 

 どうやらクネクネしながらの登場は不評だったようなので、とりあえずいつも通りに姿勢を正してアオイちゃんの隣に立つ。

 緊張? たかだかネット配信でする訳ないだろ。

 

「と、まぁ台本通りの行動はこのくらいにして……」

「ボクが指示したみたいに言うのご勘弁なんだがー!?」

「アカデミーの姉妹校、ブルーベリー学園から留学で来ているカル君だ。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正の権化とも言われている。よろしくな!」

「会ったばっかりのボクでも品行方正だけは間違ってるって分かるよ……」

「はあぁ……尊過ぎてしんどい……。ねえナンジャモ。スパチャって言うのは手渡しでも良いの? カル君にお布施として渡したいんだけど」

「ボク! 配信者はボクだから! ──って札束が分厚いな!?」

「ありがとな。昨日美人局に30万円取られたところだから」

「すっっごく気になる発言だけど、ここ健全な配信だからやめてー!?」

 

 ガチの美形来たわ

 グルーシャ、チリレベルのイケメンじゃん

 なお、中身

 俺は好きだぜ! 友達にはいらないけど!

 【悲報】新チャンピオン、ただの面食いだった

 悲報多すぎだろ

 

「私面食いじゃないんだけど! グルーシャは琴線に触れなかったもん!」

「俺は世界一かっこいいからな」

「そうです! カル君は特別なんです!」

「あぁうんそうだね。じゃあ次の話題に行くね」

 

 めちゃくちゃ適当にスルーしたナンジャモは気を取り直したように咳払いをする。そして大袈裟にポーズを決めたかと思えば大きく口を開けて言い放った。

 

「配信史上初! オレンジアカデミーとブルーベリー学園の生徒同士の対談をはっじめるよー! 滅多に見れない組み合わせだからねー! きっと視聴者数もシビルドン登り……フヒヒ!」

 

 気持ち悪い笑い方だった。とは言えブルーベリー学園を若者達に知ってもらうには実に良い機会だと言える。

 

 シアノ先生……見ていてくれよ……。俺がブルーベリー学園の良さを伝えるからよ……。

 だから50万円、さっさと振り込んでくれよな……。

 

「視聴者層的にもアカデミーについては知ってる人も多いし、まずはブルーベリー学園について聞いていくぞよー! ぶっちゃけカル氏ってポケモン勝負はバチバチビリビリな感じ!?」

「学園内の5本に入るくらいだな」

「あっ……エリートなんだね……」

「ナチュラルでバカにする感じはNG」

「……あれ? 学園最強じゃないんですか? 戦ったチリさんがカル君の本気を引き出せなかったって言ってましたけど」

「エリートどころじゃないじゃん!?」

「見て分かるだろ?」

 

 はえー、ブルベ学園にも天才っているんやな

 四天王でも本気を引き出せなかったって……

 アオイちゃんやネモ並みの天才って事?

 でもブルベ学園最強がトップに負けてた動画あった気が

 偽物なんじゃね。頭に変な物ついてる男だったぞ

 

 アオイちゃんの発言力が強過ぎて勝手にカキツバタが偽物扱いになるのは笑えるんだが。順位的に最強はカキツバタだし、そこを覆してまで汚名返上するつもり無かったってのに。

 ……んん? あれ、汚名返上出来るなら俺戦う必要無くね?

 

「……さて! 実力的には代表と言っても過言じゃないって事は分かったところで! グイグイ突っ込んで行こうと思うぞー! ……ちなみにブルーベリー学園ってどんな学園なのー?」

「最新技術をここぞとばかりに盛り込んだ成金施設」

「……と、言いますと?」

「まず学園そのものが海面と海中に存在する。この時点で莫大な資産が使われてるのは間違いないんだが、更にテラリウムドームと言うテラスタルコアの搭載した人工空間に、全く環境の異なる4つのエリアがあるんだ。場所はイッシュ地方でもテラスタルの影響もあって独自の生態系が作られててな。……そうだな、スケールの小さいナッペ山やパルデア海が存在する学園と思ってもらった方が分かりやすいか」

「はへー……そう言われるとかなりスケールの……ムムッ、ビビッと来たよ! 激バズりの予感がするね!」

「配信に来たいなら校長に話をつけておくけど」

「マジマジ!? あーん! カル氏様々神様だよー!」

「ずるーい! 私も行きたいです!」

「悪いな。テラリウムドームは2人用なんだ。俺とナンジャモのブルベデート配信、指を咥えながら見ててくれ」

「狭すぎない!? そんなとこならボク行かないんだけど!?」

 

 【悲報】ナンジャモも面食いだった

 ブルーベリー学園でデートとかマジ?

 どう見ても脈無しのバズり目的でしょ

 アオイちゃん……悲しいね……

 ブルーベリー学園凄くね?

 アカデミーも階段をウリにしてる場合じゃねえだろ

 地獄の階段は寮に入らせる為の嫌がらせだよ

 

 フッ、俺の軽妙なトークにブルーベリー学園の株は上がりっぱなしだ。来年の新入生の数には期待していいんだぜ、シアノ先生。

 だから延滞金込みで80万円、振り込んでくれよな。

 

「ぶっちゃけた話、ブルーベリー学園とオレンジアカデミーのレベルってどっちの方が高い感じー?」

「チャンピオンクラスが2人いるアカデミーの方が上なんじゃないの? 私もドラゴン使いのやり手のトレーナーがトップに敗北してた動画をチラッと見たよ!」

「アイツは歯磨き粉なんだ。許して欲しい」

「あー、あの人が歯磨き粉!」

「え、誰のこと?」

 

 ただのしがない100円の歯磨き粉さ……。

 

「トップ層の強さで言えばアカデミーなんだろうけど、全体のレベルで見れば、俺はブルーベリー学園の方がレベルが高いと思うぞ」

「おー! そう言う反対意見が欲しかったんだよねー! ささ、具体的な意見も!」

「そんな大袈裟なもんでもないけど……要は地方の差だよ」

「パルデア地方は弱小地方ってかー!?」

「わざわざ対立を煽らないでくれる?」

 

 ナンジャモちゃんさぁ、ニッコニコの笑顔で恐ろしい事を口にしないで欲しい。不特定多数が見ている配信で失言したなんてなれば、明日から道路を歩いてるだけでイシツブテを投げられるだろ。

 視聴者獲得の為なら何でもする恐ろしい女だ。イシツブテを投げられる前に、俺はこの場でナンジャモをインナー姿にひん剥いて、発言そのものを有耶無耶にするしかなくなってしまう。

 

 本当に気をつけて欲しい。て言うか炎上系はしないんじゃねえのかよ。

 

「地方によってトレーナーの平均的な強さが変わるんですか?」

「いや、そう言う事じゃなくて……言い方が悪かったか。地方の風習って言った方が正しいな」

「パルデア地方はバトルの弱い風習……ってコト!?」

「リップさんの真似したのは謝るから意趣返しやめてくれよ」

 

 悪意に満ちた誘導じゃん

 これが噂の切り取り報道ってマジ?

 さすがムウマージの使い手、ダークナンジャモ

 地方でそこまでトレーナーの差があんの?

 ポケモンの違いはあれど差は無くね?

 その為の説明はさせて貰えない模様

 

「どっちも出身じゃないから憶測の域を出ないんだけどさ、パルデア地方の場合、ポケモントレーナーを目指すならアカデミーに入学するだろ?」

「そうですね。私も基礎知識は授業で学びましたから」

「老若男女問わず、ポケモンに関わると決めたなら誰でも通う場所だからねー!」

「だがイッシュ地方は違うんだよ。ポケモントレーナー見習いってのは、経験者から教わったり実践で実力をつけていくのが基本で、学術機関で学ぶ者のはごく一部だ。むしろ推奨入学年齢を鑑みるに、旅の半ばで入学する奴等が多い傾向にある」

「オレンジアカデミーに比べてトレーナー歴を積んだ人が多い……って事ですか?」

「そうそう」

 

 実際、入学当初に挑まれた……と言うよりタロの追っかけに絡まれたんだが、ジムバッジ未所持特有の素人じゃ無かったからな。なんだったら進化ポケモン使ってたし。

 

 ま、ダブルバトルに関してはズブの素人だったから適当にやってても勝てるんだけど。

 

 そう考えるとブルーベリー学園には伸び悩んでる人や独学での成長に限界を感じた人が多い傾向にあったと言える。ダブルバトル主体の不慣れな環境下で、柔軟な発想と知恵を身につけて成長を促すには良い機会だろうしな。

 

 あの聡明なシアノ先生の事だ。ポケモンバトルが盛んなイッシュ地方だからこそ、こう言った需要があると踏んで設立したのかもしれない。

 それを全面に広告を打てば学園のコンセプトが分かりやすいと思うが……いや、挫折半ばと称するのは多感な年頃のトレーナーのプライドを傷付ける場合もあるか。

 

 流石シアノ先生。見事な計画性だ。すごいすごい。だから早く100万円振り込んでくれよな。

 

 そう考えるとブルーベリー学園の無責任……もとい、奔放な在り方もいちポケモントレーナーとして扱うからこそかもな。まだ少年少女とは言え、旅先で起こりうる出来事は自分で解決していかなければならないのがトレーナーと言うもの。自己責任への徹底……そして降りかかる火の粉を自分で払う自己防衛の重要性。

 結果として実力至上主義になってるのは笑えるが。

 

 そうじゃなきゃあのカキツバタが無罪放免なんて有り得ない。アカデミーなら斬首ならぬ斬髪の刑に処されるだろう。

 

 髪が切られたその瞬間、カキツバタの全身が謎の光に包まれる────!

 

 つまりブルーベリー学園の方が全体的なレベルが高い事に、それなりの理由があるのだ。

 

 ただし脂質と糖質に特化した学食、テメーはダメだ。まだきのみでも食ってた方が健康的だ。

俺とタロのキメの細かい肌にニキビが出来たらどうするんだよ? 心に深い傷を負ったので早く120万円振り込んで欲しい。

 

「さてブルーベリー学園の内情について存分に語ったところで……」

「いやいやいや! まだちょっとしか触れてないんだけど!?」

「次はカル君に触れていきましょう!」

「触れるって物理的じゃないから。ベタベタしないでくれる?」

「……嫌でしたか?」

「嫌だよ」

「フォローしなかったナンジャモにイエローカード! これで2枚になったのでレッドカードで退場です!」

「『ほうでん』並みの巻き込み!? フォローする暇なんて無かったよね!?」

「ねえジャモちゃん。リップと究極の美を追求しない?」

「反省してないじゃん!!」

 

 まともに語ったのは僅か一瞬である

 高熱が出てる時に見る夢みたいな会話してんな

 アオイちゃんのファンが絶望してそう

 しかし相手にして貰えない模様

 エレキン

 ¥500

 アオイちゃん、お付き合いおめでとー

 

「あ、エレキン氏ありがとー!」

「エレキンさんありがとねー!」

「おいエレキブル、勝手にくっつけてんじゃねえぞ」

「さっきからめちゃくちゃ言うのは! どの口なの!」

「いふぁいれす」

 

 俺のほっぺたを引っ張らないで欲しい。デデンネみたいな顔になったらどうすんだよ。手持ちに加えてくれんの?

 

「あーもう! カル氏がふざけてるから対談コーナーの時間無くなっちゃったよ! これじゃあまともな配信が……って、チャンネル登録者数凄い伸びてる!?」

「ドジョッチ登りだねー!」

「アオイ氏……せめてでんきタイプで……」

「マッギョ」

「え」

「マッギョだ」

 

 マ ッ ギ ョ の た き の ぼ り

 登る気がしない

 地面と一体化してますね……

 もう少し……ナンジャモちゃんに手心と言うか……

 海上ジェントル

 ¥50,000

 カルちゃん、目的を忘れないでねー

 街角ジェントルさん!?

 違う! ヤツは海の上だ!

 

 おいクソジジイ! 俺が出演するって言ったらちゃっかり見てやがって! 払うなら俺の口座に振り込めよ!

 昨日30万円強奪事件を報告したら『そんな事になってたのー? ごめんごめん、気が向いたら振り込んどくよ』って言ってた癖に振り込む気ねえじゃん! ノズパスが南を向く方がまだ信用できるね!

 

 しかも初見さんが5万円もスパチャを投げるからナンジャモがガチビビりしてんじゃん。距離の詰め方が下手くそな童貞君か?

 かくいう私も童貞でね。さすがシアノ先生、気が合うな。

 

「……えーっと、海上ジェントルさんありがとー! も、もしかしてーっとカル氏の知り合いだったり……?」

「パトロンだよ。俺の一言でプライベートジェット機をだしてくれる金の亡者だ」

「言い方はあれだけど……つまりカル氏と定期的にコラボすればボクの人気やら色々とウハウハに……?」

「寵愛を受けたいのか? 良いぜ、俺の泊まってるホテルの部屋はこの番号だ。夜になったらノックしに来なよ」

「分かりました! 今夜も向かいますね!」

「アオイちゃんに言ってねえから。てか昨日の深夜勝手に来てただろ。変な気配に気付いて目を覚ましたら枕元でアオイちゃんが立ってるとか恐怖だったんだけど。ナンジャモと違って部屋に招き入れた記憶は無いが?」

「いやボクも入ってないから」

「エスパータイプのポケモンがいれば内鍵なんて簡単に開けられますよ!」

「へえ、そうなんだ。これからは違う街で泊まろうな」

「そんな……ご無体な……!」

 

 『ご無体な』じゃねえよ。俺でもタロの部屋に侵入しようなんて考えた事ないってのに行動力がおかしいだろ。

 俺じゃなかったら絶縁されてんぞ。

 

 ナンジャモの枕営業疑惑が吹き飛ぶ狂気凄くね?

 愛が重すぎてこれにはアオイファンもドン引き

 こんなのカル氏くらいしか受け止められないでしょ

 ナンジャモちゃんが枕営業ってマジ?

 マジ。ホテルの部屋に招かれてるの見た

 俺も見たわ

 

「いつも優しいみんながカル氏のせいで『いたずらごころ』特性なんだけど!?」

「みんな俺だと思えば良いじゃん」

「そいじゃーそろそろ……バトりを見ったいっ人ー!?」

 

 配信中なのに華麗にスルーされたんだが。初登場にして早くも苛めか? 俺の扱いにもう慣れてきてんな。才能があるぜ。

 

 しかし流石はジムリーダーの配信なだけあって、ポケモンバトルとなれば血気盛んなコメントが次々と流れてきて爆盛り上がり状態だ。

 その一方でトークショーの終わりを予感してか視聴者数が少しだけ減っている。ナンジャモは気付いていないようなので口にしないでおく。俺は神憑りなまでに優しいからな。

 

「ほいじゃバトルコートに移動するぞー! さてさて! ここは特別ゲストのカル氏の実力を拝見する──」

「ところですが! なんと! 今回は! ナンジャモガチバトルのリベンジマッチが開催となりました! お相手は連敗続きの因縁の相手、チャンピオンのアオイ! 実況はこの俺、カル君がお送りします!」

「え、待って」

「待ちません! ではバトルコートへ向かいましょう!」

「ナンジャモ! 本気で勝負しようね!」

「タイムターイム! ボクはオレンジとブルベのバチバチっとしたシビれるバトルを見たくてさ! 向かう前に話し合いが必要だと思うぞよー!」

「いやもう決まったから」

「決まってないけど!? 話し合うまでここから動かないもんねー!」

「めんどくせえな。担いでいくか」

「あ、ちょ──俵担ぎは止めて! セクハラ! ヘンタイ! 下から見えちゃうじゃん!」

「何色なんじゃ? ナンジャモです!」

「バカ! いくらボクでも怒るよ!?」

 

 フン、このカルサイトを甘く見て貰っては困る。背中をバシバシと叩く力が尋常じゃない事から既に怒っているのはお見通しだ。俺様を欺こうたってそうはイカサマダイスだぜ。

 そもそも見えたところでスパッツ系のインナー穿いてんだろ。知ってんだからな。

 

 み、みえ……見えなーい!

 ギリ見えないのはプロの犯行だろ。テクニシャンか?

 もうちょっと持ち上げてもらってだな……

 どの道スパッツしか見えない定期

 隠れてるスパッツなら下着と同等の価値がある

 お前ら! ナンジャモちゃんが虐められてんだぞ!?

 初登場でリップさんの真似する奴に勝てる訳ないだろ

 こいつ、入学初日にパモの真似してるの見たわ

 無敵過ぎて笑える

 顔面偏差値を代償に失った物が大き過ぎるだろ

 青いちゃんぴょん

 ¥500

 私も構って欲しいのに……

 チャンピオン、カル氏に言ってください

 俺達は何を見せられているんだ……?

 アオイちゃん、配信中にスマホロトムはマナー違反だよ

 

 なんだか酷い言われようだったが、とりあえずナンジャモと配信機材を手にして俺はバトルコートへと向かったのだった。

 尚、アオイちゃんの無機質な視線はナンジャモに突き刺さりっぱなしである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムバトルで使用されるハッコウシティのバトルコートへと来た俺達。担いでいたナンジャモと配信機材を下ろして、引き続き撮影の準備へと取り掛かる。

 移動中の配信をしても仕方ないので、今現在はCM用の動画が流れている……らしい。そこはナンジャモしか知り得ない事であった。

 

 とりあえず元通りに配信機材を戻しながら、忙しなく手を動かしていると、恨めしそうな表情をしたナンジャモが覗き込むようにして見つめてくる。

 

「……なんで戦うのがボクなの?」

「可愛い子には旅をさせろって言うだろ?」

「キミより歳上なんだけど」

「ババアには人権がねえのさ」

「掌の返し方が酷くない!?」

 

 ナンジャモは納得していないようで不満な様子を隠そうともしない。いつだって俺には愛嬌を振り撒くアオイちゃんの行動力を見習って欲しいものだ。

 そろそろ好感度も最高値に辿り着いた頃だろうし、『ナンジャモのパーカーで二人羽織してみた』とかさせてくれてもいいと思うんだよな。友愛の証のコラボとしてね。

 

 ……仕方が無い。ここはジムリーダーならば一撃で黙らせる事の出来る禁断のカードを使うしかない。インナー姿にする為に切るつもりだったが……残念ながらその機会はまた今度だな。

 

「実は俺がパルデアに来たのはオモダカさんとチリちゃんの思惑に乗ったのが理由でね。その内ポケモンリーグの方から通達があると思うけど、大々的に告知して一大興行としてバトルする予定があるから駄目なんだよ」

「うっそーん!? そんな企画被りなんてしたらトップに怒られる……!」

 

 いや嘘だけどな。そんな大々的にやるつもりは無いし、そもそもオモダカさんとはまだ話すらしていない。

 嘘と言うのは真実を混ぜつつ、堂々と大胆に吐くものなんだよ。ナンジャモ君、覚えておくといい。

 

 さすがに総大将の名前が出てはナンジャモとしても避けたいのだろう。恐る恐ると言った表情でアオイちゃんを見つめていた。

 

「……アオイ氏ー、そうなのー?」

「私も詳しくは知らないんだけど……チリさんやトップが絡んでるのは事実だよ。……でもトップの考え方ならその計画も有り得るのかも。カル君と戦う為にブルーベリー学園にも強気で攻めてたらしいし」

「ゲゲーッ……そ、そりは……ボクとしても美味しくないと言うか……て言うかそうなら打ち合わせの段階で教えてってばー!」

「配信中のサプライズって面白いだろ?」

「そう言うドッキリも打ち合わせの上で行われるのが配信なの!!」

 

 そう言う生々しい現実を突き付けるのは止めて頂きたい。

 

「じゃあボクとカル氏のバトりなら良いんじゃないの?」

「アオイちゃんに手持ちを見られたくないし」

「意外と狡いんだね……」

「対策も無しにジムリーダーに挑むトレーナーがほとんどいないのと同じだろ」

「あはは……良いよ、ナンジャモ。カル君が戦う気が無いのは知ってたし。それにパルデア全域を歩いてきて、私のパーティが如何に特殊なポケモンを使っているのか理解してるから」

「アオイちゃんも特殊なポケモンみたいなもんだしな」

「カル氏は黙っててくれる?」

「はい」

 

 初日でタロの域まで上がってくるとは……やるな。

 

「……これは楔なんです」

「……楔?」

「ナンジャモ! 『おにび』!」

「だから黙ってて」

「はい」

「……カル君には好きな人がいる。それでもせめてパルデア地方にいる間は私の事だけを考えてもらいたい」

 

 まだダートじてんしゃで飛び越えられるくらい浅い仲なんですけど。なのにとてつもなく重くないですかね。ほら、ナンジャモも『何言ってるのこの子……』みたいな顔してるし。

 

「カル君はとっても頭が良いから、私との勝負に向けてあらゆる想定をして戦略を組み立ててると思うの」

「え、これで頭が……?」

「バズり目的で頭にコイルを付ける女とは違うって事さ」

「バズり目的じゃないしこれは髪飾りだぞ!」

「感情に呼応して動く髪飾りなんてある? もしかしてナンジャモ……君はレアコイルなのか?」

「ボクもコイル枠にしないでくれる?」

「ナンジャモ、私の話を聞いて」

「ボクが悪いの!?」

 

 最年長の大人が責任を取るのは当然である。

 

「だから私は、私を知ってもらう為、カル君に全てを曝け出す。カル君は私を倒す為に、私の事を考え続ける。──その上で私は負けない。読み合いも作戦も全部乗り越えて、カル君を上回ってみせるから。……そうすればカル君の中で、私の存在は永遠に消えない楔になれると思うの」

「あ、はい……」

 

 そう言ってアオイちゃんは澄み切った純粋さと狂気を孕んだ表情を見せながら、静かに笑った。

 

 え、こっわ。

 

 こっっっわ。

 

「ポケモンバトルよりもタロとの新婚旅行の事しか考えてないぞ」

「楔を! 今すぐにでも!!」

「は、はひ……」

「ちなみに今はナンジャモのインナーを覗き見るのに夢中だ」

「ナンジャモ!!!」

「だからボクは何もしてないのだけどー!?」

 

 チリちゃんに勝った手前、期待してなかったけど……全く俺の事を侮る気は無さそうだな。初見のトレーナーなんて大体舐め腐ってるからそれなりでも勝てるんだけど……アオイちゃんは骨が折れそうだ。

 

 やはりネモかオモダカさんを相手にした方が遥かに楽そうだな、うん。

 それに狂人にはゼイユが適任だ。折角来るんだし30万円の働きとして戦ってもらおう。狂人VS狂人。いい戦いになりそうだ。拳と拳をぶつけ合って欲しい。

 

「っとと、そろそろ時間だっぞー! 起動は僕に任せて──」

「大丈夫。一回見たから俺でも何とかなるって」

 

 ゴソゴソゴソゴソ……ポチッとな。

 

「これで映ってる?」

「おけおけー! それじゃあいつもの──」

「あなたの目玉をつのドリル! 何者なんじゃ? カル君です! こんにちワンリキー!」

「いつもの口上を変えないでよ!?」

 

 こんにちワンリキー!

 こんにちワンリキー!

 おはこんハロチャオー!

 こんにちワンリキー!

 異教徒がいたぞ! 捕まえろ!

 遂にチャンネルを乗っ取った模様

 

「ドンナモンジャTVをご覧の皆さん! まさかこれ程のイケメンが映るとは思わずに失神してしまった方々もいると思いますが……なんと! 今から私ことカル君による臨時実況──ナンジャモとアオイのガチバトルの時間だー!」

「いえーい! さぁナンジャモ! バトる時間だよー!」

「あぁ……うん……どっちもボクのセリフなんだけどね……」

 

 渋々と言った様子でバトルコートの端に立つナンジャモとアオイちゃんの姿を視界に入れながら、俺は机と椅子を準備して実況の段取りをする。女性ファンへのサービスも忘れずにイケメンスマイルを送るのも配信者の嗜みである。

 まぁ俺は配信者じゃねえんだけど。

 

 即席の実況席を作り上げてマイクを座席を2つずつ用意する。これで完璧である。

 

「さて実況のカルさん。この戦いをどう見ますか?」

「そうですね。ナンジャモはでんきタイプのエキスパートである事を踏まえれば、じめんタイプで挑むのが定石だと思います。特に前回の戦いを鑑みるにリージョンフォーム──いわゆる亜種のドンファンのようなポケモンで挑むのでは無いのでしょうか? まぁドンファンの亜種とか聞いた事ねえんだけど。……カルさんはどう思いますか?」

「ナンジャモも頭にコイルを付けてるとは言えバカではありませんからね。しっかりと対策をした上でのバトルになるかと思いますよ。ドンファン亜種の見た目からして特殊技への抵抗力は低いと思いますので、タイカイデンの『おいかぜ』ですばやさを高めたハラバリーの『みずのはどう』が上手く決まるかどうかが見物ですね。しかしカルさん……問題はチャンピオンの手持ちが1匹だけでは無い事です」

「さすがカルさん。特にあの強力なスペックを誇るアギャスドンがネックでしょうね。恐らくはドラゴンと……ほのおかかくとうの複合タイプでしょう。スペック、相性としても不利と言える状況に、どう立ち向かって行けるのか、見物です」

 

 一人二役なのに内容は打って変わって真面目だった

 カル氏、実は頭脳派なのでは……?

 前回のガチバトルを頭に叩き込んでるじゃん

 イケメン、頭脳派、コミュ力……許されるのか?

 性格が帳尻合わせしてるのでセーフ

 

 そんな会話を1人でしている間にアオイちゃんとナンジャモも準備を終えたのだろう。互いにモンスターボールを構えて万全の体制と言った所だ。

 そして互いに視線を合わせて頷いた後、同時にモンスターボールを投げる。

 

「目をコイルにして視聴せよー! タイカイデン!」

「行け! コノヨザル!」

 

 前回と同様にタイカイデンを出したナンジャモに対して、アオイちゃんは相性の悪いコノヨザルを選択する。それが敢えての選択である事は俺の目からしても明白だった。

 

 『おいかぜ』と『ぼうふう』──その判断を瞬時に迫られるも、ナンジャモに思考する時間は決して多くない。トップクラスのポケモンバトルでは一秒足りとも無駄な行動は許されないのだ。

 

「おーっと! ここでまさかの相性の悪いかくとうタイプを選んだアオイちゃん! 読めたはずのタイカイデンに対してどう言う事でしょう!?」

「深読みし過ぎた結果にしては些か不可解な部分がありますね。即決での『おいかぜ』を牽制しての一手──なんて可能性もありますし、初手テラスタルで不意を突きながらも変化技を使用する可能性も考えられます。カルさんはどう思いま──」

「タイカイデン! おいか──」

「『アンコール』!」

「『おいかぜ』に合わせた完璧な『アンコール』! 俺の真似をしてるのか!? 完全に読まれた一手です! これにはナンジャモも白目を剥いて降参のポーズをしている!」

「してないんだけど!? 邪魔しないでよ!!」

「せっかくの『おいかぜ』なのにスカートを履くトレーナーがいないなんて。この世の地獄を見たとカルさんが嘆いております」

 

 ここは『ぼうふう』一択だよ

 俺ならアオイちゃん相手の時点で降参だね

 『アンコール』を完璧に決めてるの怖い

 ナンジャモちゃん頑張って!

 変化技の良さが分からん。使う暇あるなら攻撃するよな

 だからジムバッジを集められないんだよ

 なんだァ? てめェ……

 視聴者、キレた!

 

 何が良かったかなんて結果論でしかないけど。『ぼうふう』を撃ったところで、でんきテラスタルで『とつげきチョッキ』を持ったコノヨザルなら、『ふんどのこぶし』、『ビルドアップ』、『ドレインパンチ』辺りの技構成で殴り合うだけでパーティが壊滅する状況になりかねないし。

 

 『アンコール』によって『おいかぜ』を使い続けてしまうのを考慮してナンジャモがタイカイデンをボールへと戻す。そのタイミングでアオイちゃんはコノヨザルへと『ビルドアップ』を指示した。

 

 うーん、お手本のような素晴らしいプレイングだ。特に『ビルドアップ』をするコノヨザルが素晴らしい。何故だか久しく顔を見ていないゼイユを思い出す。

 

 そして同時に30万円を失った事を思い出してイライラしてきたわ。ホテルに帰ったらカキツバタに『ゼイユがお前の事好きだって言ってたぞ。口が悪いのも素直になれない裏返しらしいぜ』って伝えてリーグ部をギスギスさせとこ。ついでにネリネにも教えてやる。俺は本気だからな。覚悟しろよ。

 

「ここでナンジャモが出すのはレントラー! 特性『いかく』によって『ビルドアップ』の効果を減衰させる良い手ではあるが、特性『まけんき』だった場合にはナンジャモ終了のお知らせでしたね。……しかしコノヨザルを突破する手はあるのか!?」

「カルさん、それは厳しいと思いますよ。『おいかぜ』に乗ったレントラーは強力なのは間違いないのですが、元より耐久力のあるコノヨザルが『ビルドアップ』した状況ですからね。選択としては『サイコファング』になるのでしょうけど、真正面からの殴り合いならば『ドレインパンチ』を持つコノヨザルに軍配が上がるかと──と、最速最短で駆け抜けたレントラーが『サイコファング』を撃ちました! しかし噛みつかれると同時に『ドレインパンチ』が突き刺さります! 肉を切らせて骨を断つ! 耐久面に難のあるレントラーには厳しい一撃だ!」

「アオイちゃんの素早いポケモンへの対応は完璧。となるとここは『おいかぜ』を利用した翻弄作戦が必要になる訳ですね。さすがカルさん、まるでポケモン博士のようだ」

「オーキド・カルクンと言えば俺の事だ……」

「グリーンさんの前で言って怒られた奴ですね」

 

 ポケモン勝負にはめちゃくちゃ真摯で助かる

 瞬く間に変わる状況への理解度が高過ぎるだろ

 プロより実況が上手いのは笑う

 オーキド博士の隠し孫ってマジ?

 

 素早く翻弄するように走り回るレントラーに対して、その場から動かずに虎視眈々と狙いを定め続けるコノヨザル──もとい、ゼイユ。

 

 ん? 逆か? いや逆じゃないか。それなら『すいりゅうれんだ』も警戒した方が良いぜ!

 

「『ワイルドボルト』!」

「『ドレインパンチ』!」

 

 距離を取ったレントラーが稲妻を纏って急加速する。ジグザグと緩急を取り入れた不規則な動き。コノヨザルは的確に視線で追っていたが、ほんの僅かに遅れているのは『おいかぜ』による速度の上昇が要因だろう。

 

 高速で縮まっていく互いの距離。拳に力を込めて待ち構えるコノヨザルと交差する瞬間、レントラーの身体はコノヨザルを大きく飛び越えた。

 

 コノヨザルの視界から獲物が消える。反射的に追うようにして振り向く。

 

 その振り向きに合わせ、更にレントラーは反転して跳躍。そしてコノヨザルの背面に降り立つ。

 

 ──死角を見事に利用しているな。

 

 急停止した『ワイルドボルト』に本来の威力は無くとも、高電圧大電流を浴びれば一時的に行動不能に陥る可能性もあるだろう。追撃に『サイコファング』が決まれば、逆転さえも。

 

 だが──

 

「右斜め後ろ」

 

 アオイちゃんには見えていた。

 

 言葉を発する状況から鑑みて、レントラーが不規則な動きをしたタイミングでこの流れを見極めていたのか。

 

 ぼんやりとバトルコート全体を眺めながらも、アオイちゃんを見る。眩しいくらいに輝かしい瞳でポケモンバトルに集中していた。

 

 俯瞰的な視点での判断……と言うよりは、本能で感じ取った天性の直感だろう。あらゆる状況に対して思考を張り巡らせているようには感じさせない。

 

 そんな気がしたから──ヒカリやレッドさんが口にしていた、勝機を手繰り寄せる理不尽な才能。やはりアオイちゃんにもその力は宿っているらしい。

 

「やだねー、生まれ持った天稟ってのは」

 

 アオイちゃんの言葉を愚直に従ったコノヨザルは、振り向きながら『ドレインパンチ』を放つ。その一撃はバチバチを放電するレントラーの体を見事に捉えて、大きく吹き飛ばした。

 

 ポケモンに愛される才能も随一だな。あれほど獰猛なコノヨザルが目視をする事無く拳を振るうなんて、余程の信頼関係が無ければ成り立たない。

 それはつまり、ポケモンの潜在能力を最大限に引き出せるトレーナーの素質があると言う事だ。

 

「一瞬だけレントラーの姿を見失ったコノヨザルでしたが、アオイちゃんの的確な指示によって覆す事は叶いませんでした! 場の流れを完全に捉えている! ここまで的確な予測が可能なのは、俺を含めて一握りのトレーナーだけでしょう!」

「本来であればレントラーの見事な作戦だったのですが、相手が悪かったですね。これでも対応されてしまうとなると、通用する策が大きく絞られていきます」

「となるとここはやはり……?」

「相討ち狙いの『だいばくはつ』でしょう」

 

 どう考えてもだいばくはつは覚えない

 オーキド博士の面汚しか?

 あのタイミングで避けられるのはおかしいだろ

 毎度ながらアオイちゃんの勘が鋭すぎる

 カル氏はいつまで一人二役続けるの? 脳がバグりそう

 喋る度にちゃんと席まで移動してるの笑える

 

「吹き飛ばされて体勢を整えるレントラー。不意をつかれた一撃に残されたHPは極僅かと言った様子です。立て直す策を練りたいナンジャモですが『おいかぜ』にも時間制限がある以上、無作為に時間を潰すのは悪手と言えます──と、ここで愚直に『サイコファング』を指示! カルさん! これはさすがに悪手と思えますが!?」

「時間を浪費して『おいかぜ』の効果が無くなるのを忌避したのでしょう。レントラーの独断に任せたと言えますが……手持ちに戻すのは変化技の機会を与えると見ての特攻かもしれませんね」

「ちなみに一人二役はいつまで続ける予定ですか?」

「無論、死ぬまで」

 

 自身の不利を察してか、覚悟を決したレントラーが一足飛びに距離を詰めてコノヨザルの懐へと飛びかかる──と、同時にコノヨザルの拳に憤怒の念が篭もった。

 

 被弾覚悟の一撃の『ふんどのこぶし』。その刹那、レントラーは『サイコファング』を放つ。

 

「お、ナンジャモ……と言うよりはレントラーが見事だな」

 

 接近したレントラーの腹部へ痛烈な『ふんどのこぶし』。それでも尚、レントラーの『サイコファング』がコノヨザルの首元──急所へと見事に突き刺さった。

 

 両者に致命的な一撃。すなわち相討ちである。

 

 だがコノヨザルの首と言うか急所ってそこなのか? 

 よく知らねえけど一頭身に首ってあんのかな……。

 

「『おいかぜ』の有効利用が思い付かず、ナンジャモが指をくわえて見ている間に、レントラーが見事に互角へと持ち込みました! 実に素晴らしい! 勝機は無いと悟りながらも最善を尽くしたレントラーには手放しで褒めてあげたい! ……いや、未だ残る『おいかぜ』の分を考えるとナンジャモも若干有利と言ったところか!? だが安心するにはまだ早いところ!」

「そうですね。アオイちゃんの戦い方が普段と異なる一面を見せている事を考えると、奇を衒った『トリックルーム』での──あ、今度はトサキントみたいなポケモンが出てきましたね。……にしても随分と禍々しいオーラを放ってんな。雰囲気としてはダークライに近いし普通のポケモンじゃねえだろ」

「……かっこいいところ見せたかったけど、私にはカル君みたいに頭で戦うやり方は向いてないみたい。だからいつも通り! ポケモンを信じて全力で戦うね!」

「ふっふーん! 『おいかぜ』中ならまだまだボクにも勝ち目はあるぞー! 今日はもしかすると下克上で奇跡の配信になるかも! ……あ、カル氏は後でお説教ね」

「──と言う事らしいのですが。カルさん、どうなされますか?」

「ホテルで待ってるぜ」

 

 素のナンジャモちゃんが出るとか激レア配信か?

 ホテルに来てもガチ説教される姿しか思い付かない

 俺もカル君に抱かれたい

 アオイちゃんって見た事ないポケモン使うよな

 俺には分かるぜ。あれはトサキントって言うんだよ

 

 少し遅れてナンジャモが選出したのはエレキブル。高い攻撃性能と豊富な技を覚える優秀なポケモンだ。ネックとなるスピードは『おいかぜ』でケアしつつ、特殊技を使用するであろう超小型ポケモン相手への選出。

 さすがジムリーダー。相手のポケモンを様子見するのであれば良い手である。

 

「イーユイ! 最短最速で『オーバーヒート』!」

「『おいかぜ』中の速度なら先に叩き潰せるよー! エッレキブルー! 『サンダーダイブ』だ!」

 

 ──そこから先は一方的な蹂躙だった。

 

 『こだわりスカーフ』なのだろうか。圧倒的な速度で先制したイーユイの攻撃でエレキン氏は一撃でノックダウン。ナンジャモがエレキン氏をボールに戻すと同時に、アオイちゃんも燃え尽きているイーユイを戻す。

 

 『おいかぜ』が止み、次に出てきたのはタイカイデン。同タイミングでアオイちゃんの手元から出てきたのは、冷気を纏い、牙の伸びたペルシアンのようなポケモンだった。

 

 そのパオジアンと呼ばれたポケモンは、すばやさには一日の長があるタイカイデンを上回るスピードで翻弄し、一撃で屠る。死んではないんだけど。

 続くマルマインの速度には流石に追い付けてはいなかったが。だが攻撃力も非常に高いようであり、『かみなり』を放つマルマインも一撃でひんしへと追い込んだ。

 

 だがそれ故にピーキーな性能なのだろう。マルマインの『かみなり』で容易く大きなダメージを負ったようだ。

 

 そして満を持して……とまではいかないが、最後の決めに掛かったのはアギャスドン。特性が『ひでり』なのだろうか。『にほんばれ』を使用せずとも陽の光が燦々とバトルコートに降り注ぐ。

 

 同時に全身の羽を大きく奮い立たせて二足歩行へと移行。なるほど、これがアギャスドンのバトルフォルムか。俺の一張羅くらいイケてんじゃん。

 

 ナンジャモから出てきたハラバリーの『リフレクター』に対してアギャスドンは『つるぎのまい』。もう勝ち目が無いのをナンジャモ自身も悟ったのか、『アワワワ』と言いながらガクガクと震えて、マッギョのように地に伏せて白目を向く。もちろん嘘である。

 

 ハラバリー、そしてムウマージ。アギャスドンの圧倒的な性能に叩き潰されて、ナンジャモの完全敗北でバトルは終了した。

 

 うーん、特異なポケモンだらけで困ったな。こんなのヒードランが6体いるようなもんじゃん。一瞬で天井と壁が埋まっちゃうよ。

 そう考えるとやっぱり俺には健康的なネモっぱいの方が相応しいんじゃないのだろうか。

 

 でもあの戦闘狂具合は勝負以降もモンジャラ並みにしつこく絡んできそうだし……オモダカさんは……見た目がモンジャラみたいなもんだし……。

 

 と言うか才能をまざまざと見せつけられたな。俺にはまるで効果は無いけど、人によっては心が折れちゃうだろ。

 事実、配信のコメント欄は困惑や驚愕に満ちたもので埋め尽くされていた。

 

 好きピの前だからって張り切り過ぎでは?

 トークはカル氏に食われ、バトルはアオイに食われる

 エレキン

 ¥500

 ナンジャモちゃん! 負けないで!

 カル

 ¥10,000

 ナンジャモは 配信界の 敗北者

 おいカル氏がスマホロトムを弄ったらカル氏が来たぞ

 乗っ取りの方が可愛いレベルの詐欺である

 俺はリップちゃんを演じてた時点で疑ってた

 取り消せよ……!

 

 言うほど困惑と驚愕に満ちてなかった。むしろ俺が困惑するわ。チャンピオンが相手とは言え本気の現役ジムリーダーがボコボコにされてんだからもう少し驚けよ。

 

 そんな事をしながら配信上でグダグダと遊んでいると、肩を落としたナンジャモとドヤ顔のアオイちゃんが近付いてくる。

 

「私のポケモン勝負はどうでしたか!?」

「ほとんど曰く付きの雰囲気を放つポケモンばかりなのはズルくない?」

「ズルくないです! れっきとした私のポケモンなので!」

「そっかぁ……」

 

 フライパンを手にしたアカマツ君が、子供の料理教室に突撃するようなものだけどなぁ……。ちょっと大人気ないとは思うけど、パルキアに比べたらマシかぁ……。

 

「ボ、ボクの配信なのに見せ場が一つも無かったよ。新チャンピオンってすごすぎ……!」

「おっと! ここでナンジャモがまさかの罰ゲーム! ストリップショーの刑です!」

「なんで脱がないといけないの!?」

「1回くらい見せ場を作ろうかと思ってね……」

「見世物になるつもりは──って、視聴者数すごっ!? バズり過ぎじゃない!? ボクとしてはちょい複雑だけど……でもバズれば正義(ジャスティス)! だよねー!」

「となるとやはり……ここから先は成人向け有料コンテンツとなります。未成年のお方は──」

「黙ってて!!」

「分かった。そこまで嫌なら代わりに俺が脱ぐから──あ、痛いから止めて。頭グリグリしないで。顔にコイルが突き刺さってるから。俺がレアコイルになっちゃう。と言うかアオイちゃんは本気で脱がそうとしないで。服伸びるから」

「だって!! 腹筋が!!」

 

 絶対に脱がない女VS絶対に脱がされる男

 え!? お金払えばカル氏の裸体が拝めるんですか!?

 顔にコイルの跡が残っててくさタイプ

 台本ありきのコントですかね……

 コントの表情じゃないんだよなぁ……

 

 クソ、アオイちゃんの表情が本気だ。ポケモンバトルに集中してる時より本気だ。全ては俺の魅力を十全に伝えたチリちゃんと頑なに脱がないナンジャモが悪い。

 誠心誠意の土下座で謝って欲しいと思う。

 

 しかしいつまでもふざけている訳には行かないと思ったのだろう。ナンジャモは深く深呼吸をして落ち着きを取り戻した後、いつもの明るさを前面に出して、元気に振る舞い始める。

 

「計画とはかなーり異なる内容になっちゃったけど! ビリッとバリッとバトりを終えたところで今回の放送は終了だぞー!」

「あ、えーっと……チャンネル登録よろしくねー! 私が配信に出るのはドンナモンジャTVだけだから、また楽しみにして下さい!」

「あーん、幸せ! 嬉し過ぎて天に召されー!」

「ちなみにカル君のいない生ぬるい配信なんて見てられるかよって人は、先程開設したこの『オーキド・カルクンの不定期川柳』に登録してくれよなー! アクセス方法はここに書いてあるコードを読み込んでくれれば──って見せた瞬間からすげえ勢いでチャンネル登録者数増えてんだけど。配信する気無かったのに笑えるわ」

「ボクの視聴者で遊ばないでくれる?」

 

 あぁ、せっかく書いたフリップがくしゃくしゃにされて捨てられてしまった。真顔のナンジャモちゃんも素敵だね……。

 でもこんな事で諦める俺ではない。後でナンジャモのSNSにリプして宣伝しとこ。

 

「ではでは最後に一言! アオイ氏の方からどうぞー!」

「えーっとですね! 次の連休! 私とカル君が本気でポケモン勝負するので! 気になる人はアカデミーに来てみて下さい!」

「アオイちゃんと戦うとは決めてないんだけどな。チャンピオンクラスの誰かと戦う予定ではあるけど」

「え……」

「……あの……アオイ氏の顔が、この世の終わりみたいな表情になっちゃったけど……?」

「…………うぅ」

「いや、そんな顔されても……マジで泣くのは勘弁してくれって。切り抜き動画なんてSNSに上げられてみろよ。パルデアの街中を歩く度に後ろ指を指される憂いのあるイケメンに──あぁもう分かった、分かったから! 俺とアオイちゃんが戦うようにチリちゃんに話しておくって!」

「と言う事なので! アカデミーに来て下さいね!」

 

 ……何だこいつ?

 

 さっきまで涙が溢れ落ちる一歩手前みたいな顔してた癖に、約束した途端にニッコニコの笑顔でカメラに向かってウインクしてやがる。

 全部演技とか悪女かよ。『かそく』並みの『へんげんじざい』じゃねえかよ。

 

 もうマジ無理……ジャモ虐しよ……。

 

「……じ、じゃあ今回はこれで終わりにするねー! みんなの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモでしたー!」

「俺の一言は?」

「え……そ、そりは……ちょっと必要無いかなって……」

「ではここで一句」

「いらないんだけど!?」

「ナンジャモの インナー姿に 『かたくなる』」

「カル氏」

「みんなもポケモンゲットじゃぞー」

「今からお説教するから」

 

 そうして配信終了と共に、俺はナンジャモに首根っこを掴まれて引き摺られたのだった。

 

 やれやれ、モテる男は辛いぜ。

 

 

 





登場人物紹介

・ナンジャモ
若者に人気のインフルエンサーであり、ハッコウシティのジムリーダー。バズりに人生を賭けている為、話題に事欠かないアオイは推しの子である。
そんなアオイの頼みを安請負した結果、現れたのはとてもじゃないが御しれない奇人だった。しかも何故かアオイも奇人に進化していた。

普段の撮影と比べて数十倍の疲労にカル氏は共演NGと思いつつも、過去一のバズり具合にインフルエンサーとしてコラボし続けるべきか葛藤している。

・アオイ
何食わぬ顔で犯罪に手を染めるクレイジー。カルサイトと関わる事でその才能が露呈し始めてきた。
エリアゼロは自分の庭だし、ナッペ山は登山ルート関係無しにまっすぐ登っていく。それでも皆から愛されるのはまさに主人公である。

・カルサイト
現代ポケモンの第一人者とも言われてるオーキド博士の孫。本名はオーキド・カルクン。嘘である。
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