たろいも!


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作:タロちゃん好き好き親衛隊
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てれかくし




感想、高評価、ここすき。ありがとなー!
誤字報告も助かってましゅ。





 

 かの有名な哲学者、カルサイトは言った。

 

 ──タロのスカート姿を見てみたい。

 

 そのポツリと呟いた野望は瞬く間に多くの男達の心を虜にし、ブルーベリー学園の一室で野太い咆哮が響き渡った。

 

「なんなのよこれ……」

「わ、わやじゃ……」

 

 学園側に許可を取って貸し切った講堂。その教壇に立つ俺の指示で集まった数十の男子生徒達。それは知らない人から見れば異様な光景だろう。

 

 現に今回のゲスト参加であるスグリ君──何故か隣にはゼイユもいるが──が理解の及ばない表情でそわそわしている。

 

 そう、これはタロのファンクラブによる集会。非日常とも言える雰囲気に呑まれてしまうのも無理はなかった。

 

「さて、どうすればタロをスカート姿にする事が出来るのかという議題に入る前に……今回は2人の除名者が出てしまった事を俺は憂いている」

 

 ダァンと教壇を叩いて強い言葉で話せば、一瞬で静まり返る精鋭達。ただ一人、驚くように肩を震わせたのはスグリ君だけだった。

 

「名前は伏せるがまずは1人目。タロへの盗撮行為が発覚した」

「あんたじゃないの」

「……本人は風景を撮った際に写ってしまったと供述していたが、タロにのみピントが合っている写真を複数確認した為、然るべき処分後に除名となった」

 

 健全な写真しか無かったのが救いか。とは言えルールはルールだ。ルールは絶対である以上、除名処分になるのは仕方ない。

 ちなみにその写真は物的証拠として俺のスマホロトムに保存されている。ファンクラブの監督責任としての戒めとしてな。他意は無い。

 

「そして2人目。タロへのストーカー行為が発覚した」

「あんたじゃないの」

「……タロの行く先々に待ち伏せ、偶然を装って話し掛けていたらしい。これはファンクラブからの報告では無くタロ自身から相談を受けた為、対処した案件ではある。事前に防げなかった事を各々胸に刻むように。万が一が起きてからでは遅いからな」

 

 俺は野次馬の女の声を無視して話を続ける。

 

「タロの嫌がる事をしない──シンプルであるが故に難しいルールだが、天使の笑顔を守る為にも徹底して欲しい。そして未然に防ぎ、安全を確保するのも俺達の使命だ」

「でも昔のあんたって散々タロの嫌がる事してたわよね?」

「…………」

「ねえ、聞いてるー?」

「ね、ねーちゃん。でっかい声さ、出すと目立つよ」

「スグ、覚えておきなさい。カルサイトには言うべき時に言っておかないと、すぐに調子に乗るのよ」

 

 静寂に包まれた講堂にゼイユ姉弟の声が響き渡る。放置してても好き放題喋ってるし、内容が内容なので事情を知らない1年生達はざわめき始めていた。

 

 おい、いい加減にしろよこの野郎。

 野郎じゃないけど。

 

「ゼイユ君さぁ……なんで君はここに来たの?」

「スグがタロのファンクラブに顔を出すって言うから、悪影響があるかと思って一応見に来たんじゃないの」

「スグリ君はアカマツ君の紹介での参加だ。部外者は帰れ」

 

 ここはタロによって浄化された紳士達による集い。ゼイユが場違いであるのは明白である。

 ちなみに当の本人であるアカマツ君は四天王への挑戦者の対応で参加に遅れるとの事だった。おいアカマツ君。こいつまでついてきた責任を取ってくれよ。

 

「おーい! はよ帰れよー!」

「あんたがタロに避けられてた当時、『今のタロから見たら空気の読めない軽薄な男に見えるかもだけど、カルサイトは結構良い奴だし話してあげたら?』ってフォロー入れてあげたあたしが部外者だって?」

「みんな、紹介しよう。このファンクラブ創設に当たって大きな貢献をしてきた人物。尤も美人で有名な彼女の事だ。見知った人も多いだろう。……そう、ゼイユだ。彼女の活躍が無ければ今の俺はいない──即ち、このファンクラブや君達の手に渡っているタロの写真の数々は存在しなかったと言える。多大なる貢献者に拍手と喝采を」

『ウオォォーッ!』

「相変わらず都合が良いわね……」

 

 ゼイユ、信じてたよ。俺は1ミリも疑ったりはしてない。やっぱりゼイユは良いやつだった。

 初対面で『ゼイユって面白いやつだなー!』って笑いながら言った記憶しかねえけど。善人の良さと言うのは善人には自然と伝わるものなのだ。多分。

 

「さ、副会長。一般会員の席に座らないで壇上へ。ここにある俺の席に座って好きなだけお菓子を食べて良いから」

「誰が副会長よ。感謝してるならそんな席じゃなくて、ここにお菓子とジュースを持ってきなさい。スグの分もね」

「持ち上げたら持ち上げたでめんどくせえ女だな、おい」

「誰がめんどくさいって!?」

「スグリ君、言ってやってくれ」

「ね、ねーちゃ──」

「手ぇ出るよ!」

「いっ……痛え!」

 

 哀れスグリ君。意味も無く殴られて可哀想に。

 

「良いわよ。すぐにでもそっちに行ってあげる」

「そのふんどのこぶしを下ろせ。……ここはアウェーの地。バカでも分かるな?」

「何か言ったかしら?」

「ふっ、俺のスマホロトムには誰も手にしていないタロの寝顔データが入っている。これを褒賞として会員を奮い立たせれば、ゼイユを拘束する事なんざ楽勝だぜ?」

「……そんな全力の他力本願で女子を拘束するなんて、恥ずかしくないの?」

 

 冷静に考えるとぶっちゃけ恥ずかしいな。でも背に腹はかえられぬ。ゼイユの身柄を拘束できるなら俺のプライドなんてオラチフに食わせときゃいいんだよ。

 

 だが間違い無く劣勢であるゼイユの顔に未だ変化は無い。それどころか眼力がヤバくて怖いわ。今日こそ殺されるんじゃないかな。

 

「さぁ選べ。ここで拘束されるか、大人しく俺に従うか」

「例え手足が動かなくなっても、あんたを殴るわ」

「俺はゼイユの親の仇か何かか?」

 

 その熱意をもうちょっと違うところで発揮するべきだと思う。

 

「大方、不機嫌になって俺に八つ当たりするのも『あたしにはファンクラブなんて無いのに、どうしてタロにはこんなにファンがいるのよ! キィィイイイイーー!!』って所だろ。そう言う嫉妬は醜いぞ」

「ねえ、あたしの発言に少し……いやかなり誇張が無かったかしら?」

「俺に好きになって欲しいって女心は分かるけどな……」

「女心が分かってたらそんな事を口にしないわよ」

「分かった、分かったよ。俺が悪かった。そこまで言うならゼイユのファンクラブも作るから。会長は俺がやるし兼業になるけど頑張るよ。……多分、ファンもタロの100分の1くらいしか集まらないだろうけど」

「それあんた1人しかいないって事じゃないの! と言うか頼んでないんだけど!?」

「……ね、ねーちゃんにファンなんてわやだべ……」

「スグ!」

 

 あぁ、スグリ君おいたわしや。また殴られてる。自業自得だけど。

 しかし上下関係がハッキリした姉弟だな。言いたい事を言って殴る姉に、オドオドとして言いたい事の言えない陰キャのスグリ君。

 

 でもスグリ君ってゼイユにはちょくちょく毒を吐いてんな。似たような姉弟らしいとも言えるが、意外と胸の奥に強い意志を秘めてるタイプの人種だろ。しかも1度決めたらなかなか曲げずに姉弟仲とか人間関係を拗らせそうな感じの。

 

 スグリ君もやっぱり面白い原石だなぁ。いずれ宝石のような輝きを放つよ。ゼイユみたいに。

 

 ……と、かなり話が逸れてしまっていたな。気が付けばファンクラブの会員達も雑談や笑い声が聞こえてきてる。ここは会長として威厳を見せつつ、本題に戻らなければならないだろう。

 

「さて本題に戻るぞ。……タロのスカート姿を見たいと渇望するのは同志とて変わらないと理解しているので、多数決による決議は省略とする」

 

 俺が言葉を発せば静まり返る会場。真剣な視線が全域から突き刺さる中、1人だけ呆れた様子の女が気になる所だが、俺は言葉を続ける。

 

「俺でさえタロのスカート姿は拝んだ事が無いのを考慮すれば、恐らくは過去最高難易度の課題だと思う。実行も責任も、全て俺が負う。どうか同志らの斬新な意見を募りたい」

 

 会員同士が顔を見合せながら、相談しあって意見を交換している。いくら天才的な頭脳を誇る俺とは言え、アイデアを生み出すのには限度がある。

 俺以上に頭のおかしい奴等が沢山集まったこの場ならきっと──常軌を逸した結論を生み出してくれる筈だ。

 

 そしてまずは1人。会員が静かに手を上げる。

 

「発言を許可する」

「そもそも、タロさんはスカートを持っているのでしょうか?」

 

 名前も顔も覚えていない同志の1人が根本的な部分へ的確な疑問を投げ掛けてきた。確かに所持の有無についての確認をしなければ事前準備にも影響は出てくるか。

 タロにはどのようなスカートが似合うのか──などの議論を踏まえる必要もあるとなれば、一朝一夕で決定出来る案件では無くなるだろう。

 

「……ゼイユ副会長。調査のほどは?」

「副会長じゃないし調査なんて頼まれてないけど。……でもあの子だってスカートくらい持ってるわよ。1度部屋で見せてもらったもの。ブルレク活動向けのスポーツスカートもあったし」

「想像したらムラムラしてきたんだが?」

「そう言うあんたみたいな下らない男子がいるから、穿けないって悩んでるのよ!!」

 

 むしろスポーツスカートを穿いたタロに欲情しない男がいるのか? 聖人君子である俺でさえ無理なんだが?

 

 そう考えると他人に見せるのは非常に危険な気がする。俺が傍にいて守護らねばならないだろう。必要ならば俺自身がスカートになる事さえ辞さない覚悟で。

 

「さて、タロへの想いが加速したところで……」

「あんたの中で何があったのよ?」

「何か意見は無いか? 些細な事でも疑問でも良い。もしかしたらそれが解決の糸口になるかもしれない」

「じゃあ……僕から」

 

 名の知らない同志その2が手を挙げて起立する。

 

「素直にカルサイトが頼み込む……じゃ駄目なのか? 僕らだと全く相手にされないだろうけど、君ならば僅かながら希望があると思う」

「……その方法は俺も考えた。何度も何度も土下座をして頼み込めば、極僅かな可能性だけどしてくれると思う」

「……なら──」

「だが!!」

 

 ダン、とテーブルを叩いて言葉を遮りながら大声を出す。瞳には強い意志を宿して同志達の顔を見渡す。

 ぶっちゃけほとんどの会員の顔と名前が一致してないけど、俺は曲げる事の無い強い意志で彼等に言葉を投げ付けた。

 

「それは密室における2人だけの秘密。恥じらいといやらしさを伴う空間。恐らくはその先まで進む成人向けの内容となるだろう──って、おい。ブーイングの嵐は止めろって。話してるところだから」

 

 汚い野太い声を響かせるな。

 空き缶とかゴミを投げんなって。

 いくら俺がイケメンだからって僻むんじゃない。

 

「いってーな! 誰だよネストボールなんて投げた奴は! 俺の方が弱いってか!? 今日の参加特典のタロの写真を配らねえぞ!?」

『…………』

 

 一瞬で静まり返るなよ。

 

「……ったく。勘違いするなよ。独り占めして満足できるのをわざわざ議題に上げる訳ないだろ。俺が見たいのはコスプレ撮影のタロじゃない。ミニスカートで自然体に過ごすタロの姿だ」

「なんで勝手にミニスカートに変わってるのよ」

「ゼイユも穿くか?」

「穿くわけないでしょ」

「スグリ君もミニスカートが似合いそうだな?」

「にへへ。俺、似合っかな……?」

「なんで似合ってる言われて嬉しそうにしてんの!? ミニスカートよ!?」

「だ、だって似合ってるなんて言われたことねえべ……」

「ミニスカートだって言ってんでしょ!?」

 

 なんだか楽しそうだな、愉快姉弟。

 

「良いか? お前らの心の中にはタロに目を奪われた瞬間の思い出がある筈だ。何気無い優しさ、仕草、笑顔……それぞれの心の中には多種多様のタロの姿が存在してると思う」

「まるでタロが死んだみたいな話し方ね」

「だがな! どんなタロだろうと、お前らが心酔する姿はありのままの自然体のタロの姿だろうが! 俺だってそうだ! 自然なタロが1番好きなんだよ!」

 

 俺の熱い言葉に呼応するように、静まり返っていた講堂が熱を帯びていくのを感じる。皆が大人しく耳傾ける中、俺は言葉を続けた。

 

「自然体のタロであるからこそ、俺はお前達と共有したい! それを実現するには今までに無い奇抜な発想が必要なんだよ! ……頼む、力を貸してくれ!」

「……会長。その熱い思いは皆の心にしかと刻み込まれました。……しかしそろそろ講堂の貸切終了時間です。それを次回までの課題としてはどうですか?」

「そう、だな。結論を急いで失敗しては元も子も無い」

 

 名前も知らないが進行役の男子生徒にそう言われてはこれ以上の進展は望めないだろう。結論が出てこなかった事を憂うも致し方ない。

 

「最後にファンでは無い人物からの意見も聞きたい。……スグリ君。君ならではの考えもあると思うんだがどうだ?」

「え、お、俺……?」

「実家に住んでいた頃、やりたくもない家事をゼイユから押し付けられたり、どうでも良いような命令をされたりしただろ?」

「え……見てたん……?」

「スグ?」

 

 見てなくても2人の性格を考慮すれば、手に取るように分かる。理不尽に怒るゼイユと良いように使われるスグリ君。そんな光景が瞼を閉じればすぐに浮かんでくるぐらいに。

 驚いたように顔を上げたスグリ君をゼイユは睨みつけているが、当の本人は気が付いていないようであった。

 

「それも最初の頃は拒否していたけど、理不尽な暴力に晒されて渋々従っていた……違うか?」

「す、すげぇ……! 手品だべ……!」

「み、見てもないのに推測で話さないでもらえる!?」

「だとすればスグリ君の中ではどうしても耐えられない瞬間があったと思う。なんとかしてゼイユ自身にやらせたい──そんな時、永い年月をかけて思い付いた苦肉の策がある筈だ。是非とも教えてもらいたい」

 

 やりたくない事をやらせる為に命懸けで生み出した妙案が必ずある筈だと踏んだ俺は、スグリ君を真っ直ぐに見つめて問い掛ける。

 隣の女は両拳を掲げながらプルプルと震えているが気にする必要は無い。思う存分に語って欲しい。

 

「……んと、ねーちゃんは機嫌が良いと優しい事が多いから……そう言う気配さ、した時に事前に褒めんだべ……」

「あんたが急に良い子になってたのはそう言う事なの!?」

「ははは、弟に良いように操られてんのはウケんなぁ」

「ぶん殴るわよ!」

「ごほん……うん。グルトンもおだてれば木に登る訳だな。ありがとう、参考になったよ」

「何も言い直せてないけど!?」

「ね、ねーちゃん、痛い……!」

 

 スグリ君、痛いよな。分かるよ。俺を実験台にして強化されたヘッドロックを存分に味わってくれ。

 ぶっちゃけ参考になるかどうかは微妙なところだが、やれるだけの事は事前に試しておくのも会長としての責務だろう。

 

「では次回までにタロをスカート姿にする手段を考えてくるように」

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「──みたいな事があってさ、是非ともタロにスカート穿いて貰いたいんだけど」

「そんな流れを聞いて穿く訳無いじゃないですか!?」

 

 ここはコーストスクエア。屋外での実践的な授業も多々あるブルーベリー学園では、課せられた課題を達成すれば後は自由時間と言う授業も少なくない。

 

 自身を追い込んでこそ真の実力を発揮出来ると理解している俺は、とりあえず課題をする前にビーチパラソルで休憩と勤しむ──ところをタロに早々に見つかり、窘められた。

 

 とは言え窘められたところでやると決めたらやるのが俺だ。残念だったな。

 

 そして折り畳み式のビーチチェアを準備しながら、昨日に行われたファンクラブの議題内容をタロに話している。

 残念ながらスカートを穿いてくれる気配は微塵も無いけど。

 

「大好きなカルくんの為に頼むよ」

「そう言っていつも否定されてるけど虚しくないの?」

「虚しいから慰めて欲しい」

「それだけ元気があれば大丈夫そうですね!」

 

 両手を合わせながらニコニコと言わなくても良くね?

 

 なんか俺の前でそのぶりっ子……もとい社交的モードのタロを見るのは凄い久しぶりな気がする。胸がキュンキュンするほど可愛いけど、ちょっと距離感を感じるのはいただけない。

 

 もしかして本当は俺の事が嫌いなのだろうか?

 

「……嫌いだったらわざわざ追ってきませんから」

「やっぱり以心伝心──」

「じゃなくて! カルくんは顔に出るから分かるの!」 

「顔を見れば分かるレベルの仲良しって事だな」

「……もう!」

 

 ガチャガチャとビーチチェアを組み変えていけばほら完成。1人用のビーチチェアが2人用のベンチへと早変わりである。

 こんな時に備えて高いBPを払っただけの事はあるな!

 

 砂浜で野晒しだったビーチチェアにそのままタロを座らせるのは紳士として有るまじき行為。常日頃ありとあらゆる事態に備えている俺は、バッグからタオルを取り出してビーチチェアへと敷く。

 そう、俺は出来る男。さり気無い気遣いの出来る良い男アピールであった。

 

「さぁ、どうぞ」

「授業中ですけど」

 

 アピール以前の問題だったらしい。

 

 優等生のタロをサボらせるのもあれなので、俺は1人寂しく座る事にする。そんな気落ちする俺の姿を見てなのだろうか、溜め息を吐きながらもタロは隣へと座り込んだ。

 

 天使か? ……天使だな!

 

「……勘違いしないで下さい。わたしはですね、カルくんがカキツバタツーにならないように見張ってるだけです」

「おいおいツンデレ属性まで身に付けちゃってさぁ。可愛いの塊か?」

「授業に戻りますね」

「ごめんなさい、調子に乗りました」

 

 ガチなトーンで吐き捨てて立ち上がろうとしたので、俺は慌ててその腕を掴み、逃がさまいと力を込めた。

 

「わたしは学んだんです。カルくんは調子に乗ると手に負えなくなるので、その前にしっかり釘を刺すのが大事って事に」

「ちなみに何で学んだの?」

「ゼイユさんですよ」

「あんの野郎……俺とタロの時間の邪魔ばっかりしやがって。今度スグリ君を使って陥れてやる……」

「ス、スグリくんを巻き込むのは良くないと思うよ?」

 

 いや、スグリ君もゼイユヘの不満はかなり溜まってると思うから、俺みたいな起爆剤と化学反応を起こせば素敵な花火を打ち上げてくれるんじゃないかな。

 

「なんで突然、わたしのスカートの話になったんですか?」

「あー……それはだな……」

 

 議題に持ち上げたのは俺なので当然それが起因しているのだが、その先まで追求される事を考えたら思わず言葉に窮する。

 

 何故ならばそこには山よりも高く海よりも深い事情があるのだから。

 

 ゼイユの部屋で満足するまで遊んだあの日、俺は早々に部屋に戻った。

 自室で1人の俺は皆が驚くほどテンションが低い。て言うか1人でも高かったら流石に頭がおかしいので当然なのだが。何が言いたいかと言うと、自然と冷静になるので知的なインテリジェンス系カルサイトへと変貌するのだ。

 

 そして一日を反芻してふと思った。

 

 ゼイユの太ももエロかったな、と。

 

 まだ冷静さを欠いていると判断した俺はこの邪念を払うべく、熱めのシャワーを浴びて心身共にリフレッシュする。そして姿鏡に映った引き締まった肉体に惚れ惚れはしながら、ふと思い出した。

 

 ゼイユの太ももクソエロかったな、と。

 

 思ってもない事を考えてしまうあたり、どうやら俺は想像以上に疲弊しているようだ。その狂った思考をリセットする為、俺は早々にベッドに倒れ込んで瞳を閉じた。

 そしてライモンシティにいるタロに迎えに行く為、日が昇る前に目が覚めてふと思い出す。

 

 ゼイユの太もも。

 

 そこで俺の気は狂ってしまった。

 

 狂うまでは流石に嘘である。とは言え想定しなかった思考回路にパニックに陥っていたのは事実だった。

 まさかタロじゃなくてゼイユに気が──なんて、ほんの1秒だけ考えたけど、ゼイユの事を考えても微塵もドキドキしたりしないのでそれは無さそうだった。

 

 良かった良かった。ゴーリキー♂になるのは流石にね。

 

 そんな経緯を経て俺が辿り着いた結論。ゼイユの太ももは魔性の力を持つ悪魔の脚なのだと。

 だがいつまでもそんな脚に魅了されていては頭がおかしくなってしまうと判断した俺は、その解決策として、ゼイユを超える衝撃を持つであろうタロの太ももを堪能する必要があると判断したのだ。

 

 まぁ膝枕は堪能したけれども。やっぱ生よ。生。

 

 つまり、だ。

 こんな話をタロに出来る筈の無いので言い淀んでいたのである。

 

 そんな俺の思いを知ってか知らずか、タロは訝しげな表情をしたままポツリと言葉を零した。

 

「……まぁカルくんって脚フェチ……? ってやつだもんね。大方、ゼイユさんの私服姿を見て、わたしのも見ないとって思ったんじゃないですか?」

 

 完全にお見通しってヤツだな! はっはっはっ!

 

 いや待てよ。俺が脚フェチってどう言う事だよ。いや確かに通話ではそう言ったけどふざけてただけだぞ。

 

「タロの膝枕が恋しいだけで脚フェチじゃないんだが」

「……あんなに露骨で気付いてないと思ってるんですか?」

「いや何の話だよ。真面目な話なんだけど」

 

 脚フェチの話題で真面目な話ってのも笑えるが。

 

「本気で言ってるの?」

「タロへの愛くらい本気だぞ」

「……連休とかでわたしと一緒に本土へ行く時とか、身に覚えない?」

「あぁ、あのいつもしてる手繋ぎデート?」

「手は繋いでません! それに当たり前のようにデートって言ってるけど、いつもカルくんが土下座してお願いするから、特別に同行を許可してるんだよ?」

「おかげで正座と土下座が上手くなったよ」

 

 しかし真顔で尋ねられたので真剣に考えてみるが、まるで身に覚えがなかった。

 タロ可愛いなぁってガン見してたのは覚えてるけど。

 

「うーん、タロの顔をガン見してた記憶しか無いなぁ」

「確かに看板に気付かず頭ぶつけて血を流してもわたしの事見てたのは驚いたけど……ってそうじゃなくて!」

 

 ずいっとタロが顔を近づけてくる。

 めっちゃ近いんだが。キスしていいか?

 

「例えばわたしが店員さんと最近のトレンドについて話し合ってる時、わたしの一歩後ろでミニスカート穿いてる女の子をチラッと見てるよね?」

 

 身に覚えしかなかったわ。うけるー。

 

 いやでもさぁ……年頃の男の子だもん。生理現象みたいなもんだし仕方なくね?

 このゆびとまれを使われてるようなもんだぞ。

 

 でもそんな事を悟られる訳にはいかないので、俺は真顔で口を開く。

 

「気のせいだろ。基本タロのうなじをずっと見てるし」

「どこ見てるんですか!?」

 

 首の後ろを押えながら、顔を真っ赤にしたタロは勢い良く距離を取る。そんな逃げるように離れなくても……。

 

「……お店の中にある鏡とかガラスに反射して映ってるんですよ。カルくんが女の子を見てる姿が」

「俺のこと大好きなの?」

「た、たまたま目に入っただけだから! その後は意識して確認してたけど、やっぱり目で追ってるし!」

 

 実は俺の事大好きなのでは??

 

「俺は好きで見てるんじゃなくて、本能的に視線が吸い寄せられちゃうだけなんだってば。多分、老婆がミニスカート穿いてても見ちゃうぞ。死ぬほど後悔しながらな」

「……だから脚フェチなんじゃないんですか?」

「そうか? その定義で行くとむしろタロフェチだろ」

「わたしを性癖のカテゴリにしないでくれる!?」

 

 ご尤もだった。

 

「大体さ、ブルーベリー学園にスカート姿の女子がほぼいないのがおかしいんだよ。イッシュなんだからパルデアの風習を取り入れる必要ないだろ。なんで制服が男女共用なんだよ。女の子ならスカートを穿けよ! スカートを!」

「やっぱり脚が好きだよね?」

「そしたら今頃タロのスカート姿を思う存分に堪能できてるのにさぁ!」

「……好き、なんだよね?」

「そんな学園生活だったらタロの下着がちらりと見えるハプニングの1つや2つ……!」

「怒るよ?」

 

 もう怒ってるよね?

 女の子がしちゃいけない顔になってるけど。

 

 でも実際にブルーベリー学園に来てから女子のスカート姿を見る機会が極端に減った。否、皆無と言っても過言では無いだろう。

 シンオウ地方にいた頃は、それこそ野生のポケモンの如く存在していたミニスカートのトレーナー。当時はクール系超絶イケメンの俺に纏わりついてくるルージュラくらいにしか思わなかったが、こうして愛に目覚めると如何に魅力のある服装なのかを思い知らされる。

 

 これも全てシアノ先生の運営方針が悪いのでは無いのだろうか。スカート型の制服の導入を早急に対応しなければブルーベリー学園に未来は無いと言っても良いだろう。

 

 そう考えると姉妹校であるアカデミーがそもそもの発端の可能性もあるか?

 

 となると理事長であるオモダカさんの責任か。そのような悪手を放置しておくとは。そろそろ世代交代するべきだろうな。

 

「俺、パルデア地方のトップチャンピオンになるよ」

「……何を考えてそこまで飛躍したのか知らないけど、カルくんって結構妄想癖あるよね」

「まぁな」

「いや『まぁな』じゃなくて……」

「まぁね」

「言い方の問題じゃなくて! ……もう良いです」

 

 さきほどまでの怒ってますオーラはどこに行ったのやら、タロは諦めた様子で背もたれに体重を預けていた。

 

 そんな隙を見せたタロへと透かさず接近して真隣へと移動する。接触した瞬間にビクッと身体を震わせたタロが席を立とうとするも、俺は逃がさまいとその肩を抱いた。

 

 ふっ、隙を見せるとは愚かな。タロ、貴様の負けだ。

 

「ここでキスをすればハッピーエンドってとこか?」

「刑務所がゴールならそうだと思いますよ」

「刑務所に入ればキス出来るのかぁ……悩むなぁ……」

「逆だから! 悩まないで!」

「分かった。キスするから」

「悩まずに諦めてって意味だからね!?」

「難しい事はキスしてから考えるか!」

「しーまーせーん!」

 

 強引に顔を寄せようとしたが両手でぐいぐいと顔面を押され、近付くどころか離されてしまった。

 

 刑務所に入る覚悟を決めたってのにおかしいだろ……。

 でも冷静に考えたらおかしいのは俺か……。

 

「ごめん、冷静さを欠いていたな」

「ほんとですよ」

「タロがあまりにも可愛かったからさ」

「……そう言うので騙されませんから」

「だってタロの使ってるティントリップがいつもと違うだろ? 今日のは色合いが淡い代わりに潤いがあって可愛くてさ。キスもしたくなるよね」

「え……ぇ……っと……」

「どう? 俺が必死に考えたタロキュン作戦。細かいところに気が付いて褒めるイケメン編──って聞くまでも無さそうだな」

「ず、ず……ずるい、ずるいですよ! いつもは気が付いてないのにこんな時だけ不意打ちなんて! そういうのよくないと思います!」

「気が付いてるから可愛いって褒めてるんだけど」

「その褒め方は普段と同じじゃないですか!」

「あはは、照れてるタロを見れて大満足だなぁ」

「笑わないで下さい! もう!」

 

 今まで見た事が無いくらいに顔を真っ赤にしたタロがポカポカと叩いてくる。全然痛くない。むしろ可愛過ぎてにやけてしまう。

 

 やはりギャップ萌え。ギャップ萌えしか勝たん。

 俺が本気を出せば失われた太古の技術と呼ばれる、ニコポやナデポを実現する事さえ可能だろう。

 鬼才を自称する俺に不可能は無いな。

 

 そして俺はスマホロトムを取り出してカメラを起動してタロへと顔を寄せた。

 

「タロ胸キュン記念日の写真でも撮るか!」

「そんな記念写真はいりません!」

「俺が欲しいし。はい撮るよー」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 待ちませーん。

 パニクってるタロちゃんが可愛いので撮りまーす。

 

 パシャリとスマホロトムが電子音を告げる。どんな具合に撮れたのかと確認すれば、それはもう色鮮やかな真紅に染まる大層なりんごのタロが──

 

「……削除です!」

「あー! 勝手に消すなって!」

「勝手に撮ったんだから当然じゃないですか! そんな恥ずかしい写真、残しておけません!」

「せっかくの貴重な写真が……」

「これに懲りたら勝手に撮らないでね!」

「なんてな。撮った時点でクラウド上にあるし」

「……くぅ」

 

 今日もタロの『くぅ』を頂きました。ご馳走様です。

 そして俺はすぐさまクラウド上の写真をダウンロードしてスマホロトムの待機画面へと設定する。何だったらメッセージアプリのプロフィールアイコンも変更。

 

 我が家の家宝です。

 

「……カルくんってすぐに写真を撮るよね。なにか理由でもあるの?」

「んー、影響でも受けてんじゃないの?」

「……影響? なんの?」

「可愛いポケモンを撮りたがるタロの」

「……じー」

「そんな疑り深い目をしても特に理由は無いけど。この瞬間の光景はこの瞬間にしかないんだから、写真として残しておくのはおかしい事じゃないだろ。オボンのみ1個分に含まれるビタミンCはオボンのみ1個分だぜ?」

「似たような言い回しだけど、全然意味が違うしビタミンCの話は理解できないからね?」

「それに結婚式でプロフィールムービーを作る際に選べる写真が無いと困るだろうし」

「勝手に決めないでくれる?」

「大丈夫、ムービーに使うかどうかは2人で決めるから。安心して欲しい」

「わざとやってますよね!?」

 

 まぁ落ち着けって。わざとだけど結婚するのが事実ならこの写真をプロフィールムービーで選ぶのも事実な訳だから。前提条件が満たされればつまり事実なんだよ。

 そしてプロフィールムービーを作れるように普段から写真を集めてるのも事実。

 

 つまり真剣のガチなんだよ。

 

 そんな俺の揺らぎない覚悟を見てか、わざとらしい大きな溜め息をしたタロが空を見上げた。

 そして俺もタロに釣られて空を見上げる。幸せの青いウッウが飛んでいた。

 

 ……ブルーベリー学園にウッウなんて生息してたか?

 

「……なんでわたしの事を好きになったんですか?」

「んー? 一目惚れって伝えたと思うけど」

「ほんとに?」

「本当だって。自己紹介説明にも書いてあっただろ」

「じ、自己紹介説明……?」

「新聞部のピックアップした生徒の情報を載せるコーナー。ちなみにタロの自己紹介は俺が書いて提出したよ」

「自己紹介だよ!?」

 

 そんな大きな声を出さなくても。タロが個人情報を一切漏らそうとしないから代わりに答えただけだよ。

 何故ならば新聞部部長が俺ピをタロピの彼ピのように持ち上げるから。そう考えるとかなりのやり手だったな。

 

「今だから言えるけど、出会ったときのカルくんの第一声って覚えてる?」

「久しぶりだなピーチドン。あの日の因縁……そろそろ決着を着けようか」

「……ふ、ふふ。良いですよ。……あ、あの日わたしを倒さなかった事、後悔させてあげますね!」

「…………」

「……は、反応して下さいよ!」

「ノリノリじゃん。可愛過ぎか?」

「チリさんと楽しそうにしてたから少し真似してみただけです! やって後悔したのでもう絶対やりません!」

 

 真っ赤になった顔を両手で隠しながら前屈みになったタロの背中を、俺は優しく叩いて慰める。

 

 うんうん、頑張ったね。その恥じらいを忘れずにこれからも挑戦してね。次は絶対に動画に残すから。

 

「って、そうじゃなくて! ちゃんと答えてよ!」

「覚えてるよ。『お前、俺と付き合わないか?』だろ」

「……違います。それは2回目の顔合わせの時です」

「2回目で告白するとか頭おかしい奴だな」

「カルくんだからね!?」

「はははっ! カルくんおもしれー!」

「第一声なんて『無節操な八方美人だな』だよ!?」

「はーはっはっ! 笑い死ぬ!」

「絶対覚えてるくせに!」

 

 勿論覚えてますとも。ええ。あんな男子をぞろぞろと引き連れて歩く女子なんて初めて見たし。今思えば連れ歩いてたんじゃなくて付き纏われてたんだろうけど。

 

 当時の俺は今と違ってそれはもう切れるストライクのような存在。何言ってるか誰も分からねーと思うが適当に思いついてるだけで俺もよく分かっていない。

 ただ言えるのはツンツンなクール系イケメンだったのは確かだ。つまり今のような平穏そのものと違い、尖った思考回路。切れるストライクだ。

 

「まー確かに『男を連れ歩くクソビッチのいる学園に誘いやがって。あんのクソジジイが』って内心思ってたけど」

「ねえ想像より酷いんだけど!?」

「でもおかげで俺が最初に顔と名前を覚えたのはタロだし。どう考えても一目惚れだろ」

「う、うーん。やっぱり何回考えてもおかしいと思う……」

「良いんだよ。俺だけ分かってれば」

「……カルくんって自分の事になると誤魔化すよね」

「ぎくー!」

「そうやっておちゃらけてる感じで」

「まぁな」

「『まぁな』じゃなくて」

「ま──」

「『まぁね』でもなくて。以心伝心でも無いからね?」

 

 俺の考えを先の先まで読まれたんだが?

 

 タロ、腕を上げたな。俺と同じ考え方になってくれてとても嬉しいよ。でもそれってどう考えても以心伝心の域だと思うんだが、いじっぱりのタロちゃんは認めてくれないようだった。

 タロの視線が突き刺さり続けるも、俺は何食わぬ顔で空を見つめる。

 ピカチュウを咥えてるウッウが空を飛んでいた。

 

 ……ブルーベリー学園にピカチュウなんて生息してたか?

 

「でも誤魔化してるのはタロも同じなのでは? 俺の告白をいつまでも受け入れてくれないし」

「それは誤魔化してるって言わないんです」

「スカートも穿いてくれないし」

「……穿いて欲しいなら穿きますけど。写真を撮らない前提で」

「俺はね、自らの意思で自然とスカートを穿いてる、ありのままのタロを撮りたいんだよ」

「めんどくさいなぁ……。やっぱり止めとくね」

「それはそれ、これはこれ。穿いてくれるなら当然見たい」

「……もう。知りません」

「ほらー! 誤魔化したー!」

「誤魔化したとは違うと思います!」

 

 両手でバツ印を示したタロが不満そうな顔でこちらを見ている。

 だがどんなタロの顔でも可愛過ぎるほどに恋に落ちてる俺には何一つ効果は無い。ただテンションが上がるだけであった。

 

「俺の事を好きって言ってくれないし」

「だからそれも──あっ」

 

 何かに気が付いたように声を上げたタロが立ち上がって一歩踏み出す。そして背を向けたまま硬直……とは違うな。僅かに肩が上下しているのは深呼吸しているからなのだろうか。

 

 数瞬後、タロはくるりと振り返ってこちらを見つめてくる。少しだけ頬を朱に染めて強い意志を持ってこちらを睨みつけてきた。

 

 え、何? 怒ってんの?

 

 と思えば口元が弧を描いて笑みを見せる。どこか蠱惑的で小悪魔な笑み。どこか悪戯っぽい表情に思わずドキリとしてしまう。

 タロは前屈みになると俺の耳元へと顔を寄せた。首元から微かに柑橘系の香りを漂わせながら、口を開く際の吐息が耳元を擽る。

 

 そして小さな囁き声が俺へと届いた。

 

「──わたしはカルくんのことが好きですよ」

 

 ────。

 

 ……ん? んんん?

 

 理解が及ばない。頭が真っ白になって思考が停止する。

 

 好き? 俺の事が?

 

 タロの不意打ちに心拍数が上がり、顔に熱が集まるのを感じる。

 落ち着け、落ち着くんだ、カルサイト。波乱万丈な人生を歩んできた俺がそんな簡単に心を乱すなんてあってはならない。認めよう。タロに好意を向けられるのに慣れていない事実と、想定以上に純情な自身の心を。

 俺の脳内シミュレートでは大人の余裕を見せる感じでサラッと受け止める予定だったのだが、本能はそう簡単に許してくれないようだ。

 

 目を閉じて深く深呼吸をする。頬の熱と高鳴る心音を鎮める為に──

 

 パシャリ。

 

 ──と、考えている間に、聞き慣れた電子音が響き渡った。

 

 嫌な予感がする。否、嫌な予感しかない。

 

 恐る恐る瞼を開いて確認すると……そこにはスマホロトムを構えて、ドヤ顔のタロの姿があった。

 

 顔は真っ赤だけど。

 

「おいこら」

「あ、あはは。わたしが即興で考えた……え、えーっと……そ、そう! カルキュン作戦! カルキュン作戦は完璧でしたね! とーっても珍しいカルくんの恥ずかしがってる写真が撮れましたよ!」

「謀りやがったな……?」

「友達として好きって伝えただけですよ? ……うんうん! タネマシンガンを食らったマメパトみたいな表情になってますね!」

「それは結構致命傷だろ──ってそうじゃなくて」

「カルくんが先にわたしをからかったんだから、これでお互い様です! ……じ、じゃあわたしは行きますね!」

 

 そう言ってタロは呆然としている俺を放置して駆け足気味に去って行った──となるのが一般男子の反応だろうけど、超人カルサイト君のメンタルは最強。既に平常心を取り戻していた。

 

 逃げようとするタロが走り出すよりも早く、俺は即座に立ち上がってその腕を掴んで逃がさまいとする。

 

「んと……放してくれると嬉しいかなぁー……なんて」

「ライン越えって知ってるか? 好きってタロに言われて我慢出来る筈が無いだろ。男の純情を弄んで逃げられると思うなよ」

「だ、だってカルくんってナルシストだから普通に褒めても照れないんだもん!」

「『だもん』って。可愛い過ぎるので罰ゲーム。今から俺とハグしてもらいまーす」

「そ、それこそライン越えだと思います!」

「ラインなんてもんはな、いずれ越える為に引くんだよ」

「さっきと言ってることおかしいよね!?」

 

 確かにおかしな事を言っている自覚はある。だけどそれ以上にタロの放つ魔性の方がおかしいんだから仕方が無い。

 俺は悪くねえ。悪くねえんだ。

 

 それにサーナイトやマスカーニャに興奮してる男に比べたら健全も健全。

 つまり俺はおかしくない!

 

 俺が身を寄せればタロが華麗に回避する。砂に塗れるのも気にせずにしゃがみ込んで逃げようとするタロを、俺は強引に腕を引っ張り上げて腰へと手を回した。

 

 そう、俺達の動きはさながらダンスと言った所か。タロの動きに対して、自然と柔軟に身体が対応していく。

 以心伝心を超えた、一心同体であるが故に。

 

 オドリドリも嫉妬に狂う完璧な踊り。りゅうのまいを積んだカイリューでさえ、この舞踊は真似出来まい。

 

 ただひとつ。既に冷静さを取り戻したタロの冷めた視線を除けば、であるが。

 

「刑務所に行きたいんですか?」

「ヤーコンさんと同じ経歴を辿るのも鉱山王になる者の務め……」

「パパは悪いことしてないけど!?」

「あの貫禄で埋めてないのは無理があるだろ」

「ねえ埋めるって何? 何を埋めるの?」

「深夜にヤーコンロードを通ってると、恨めしい声が聞こえてくるらしいぞ」

「こ、怖いこと言わないでよ!」

 

 でもヤーコンさんなら揉めた相手をネジ山の一部にしちゃってても不思議じゃない。盗掘団とかいたら掘削事故扱いで生き埋めにしちゃうんじゃないかな。

 

 などと下らないやり取りをして妙な雰囲気が見事に霧散した頃だった。騒がしくしていたタロが驚いたように側方を見つめている。

 それに釣られて俺も視線を向けると、どこか見た事あるような女子生徒がいた。……タロによく話し掛けているクラスメイトだった気がしないでも無い。

 

 ただタロが完全に硬直して固まってしまっている。微動だにせず女子生徒を見つめたまま、それはもうウソッキーもビックリの静止具合だ。

 

 なんだか良く分からないので、取り敢えず可愛過ぎるタロを強く抱き締めることにした。

 

「──ッ!」

 

 ビクッとタロの肩が大きく跳ねる。わなわなと震えている体に比例して頬の赤みが増しているようにも見えるが、拒絶しない今こそがまさにボーナスタイム。

 この隙とタロの頭を撫で撫でしちゃお。髪の毛もさらさらで可愛いの権化かよ。

 

 そんな俺達を見てか、クラスメイトはバツの悪そうな顔をしながら口を開く。

 

「あー……邪魔してごめんね?」

「コーストエリアは俺とタロの愛の巣だって知らねえのか? 非常識な奴だな」

「カルサイト君にだけは常識を語られたくないよ……」

 

 こいつ、タロの友人(仮)なだけあってズケズケと物を言うな?

 

「カ、カルくん! 放してってば! 勝手に頭も撫でてるし、普通にセクハラだからね!?」

「そりゃあ罰ゲームだからな」

「自分が罰ゲーム扱いで虚しくないの!?」

「イチャイチャしてるところ悪いけど、もう課題報告の時間で先生が呼んでるよ?」

『…………え』

 

 俺はタロと目を見合せながら、慌てて腕時計の時間を確認する。タロも余程時間が気になるのだろう。俺の時計を覗き込むように顔を寄せてきた。

 

 うん、集合時間どころかもうすぐ授業が終わりそうだね。

 

「タロ、課題は?」

「やってる訳ないじゃないですか!? ……あーもう。皆勤賞だったのに授業をサボるなんて最悪です……」

「奇遇だな、俺もだ」

「サボり癖のカルくんに奇遇の要素は無いよね?」

「そうツンツンするなよ。必ず最後に愛は勝つんだぜ? だから正直に伝えよう。2人でずっとイチャイチャしてたって」

「絶対に! 言わないです! それにイチャイチャしてません! そういうのよくないと思います!」

「……夫婦漫才もそこまでにして早く行った方が良いよ。先生怒ってたから」

「どこが夫婦なの!?」

「そうだぞ。まだ恋人だからな」

「違うからね!?」

「……それが夫婦漫才なんだけど」

 

 なんて無駄話をしている時間も惜しい状況。早々に会話を切り上げたタロは俺の手元から離れて友達(仮)と駆け足で集合場所へと戻って行った。

 その後、タロは先生に怒られた上で追加の宿題が出されたらしい。

 

 俺は怒られたくないので戻らずにリーグ部へ直行し、カキツバタと椅子取りゲームで盛り上がっていたのだった。

 





登場人物紹介

・タロ
からかうつもりで好意を伝えたが、冷静になって考えると普段の自身から逸脱した行為であったことに気付く。後から徐々に羞恥心が押し寄せていた。ふと思い出しては赤面して悶絶し、クラスメイトから心配されていた模様。
しかし、そのまま授業をサボってリーグ部で遊んでいたカルサイトを見て、恥ずかしがってる自分が馬鹿らしくなって普段通りに戻る。

・カルサイト
細かい変化に気付く男。その観察眼もあってか破綻した性格とは裏腹に、デートでは気遣いの出来る紳士へと早変わり。(タロ限定)
カキツバタと全力で遊んだ後、自室に戻りふと気付く。タロを抱き締めて頭撫で撫でした時点でスカート姿を拝むよりも遥かに貴重な経験をした事に。思い出してゼイユの生脚よりも悶々したのは言うまでも無い。
尚、タロのスカート姿は諦めていない模様。
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