たろいも!


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作:タロちゃん好き好き親衛隊
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かわりもの




たくさんのここしゅきありがとうございましゅ。





 

 ゼイユは完全無欠の女だ。背も高くて美人で面白い。前髪も長くておでこでバッテン。まさに完全無欠だ。

 

 右から見てもおもしれー女。

 

 左から見てもおもしれー女。

 

 正面から見たら面白過ぎる。まさに完全無欠だ。

 

「なんか馬鹿にされてる気がするんだけど」

「気のせいだろ。かくとうタイプにテレパシーなんて無いからな」

「馬鹿にしてるわよね?」

「だからかくとうタイプにテレパシーは──」

「手ぇ出るよ!」

 

 仲睦まじいと言える談笑が行われているここはキャニオンエリア。岩山が立ち並ぶ人工の渓谷。ポケモンには最適な環境かもしれないが、生徒が探索するには少々不便と言うか過酷な場所である。

 なのでポケモンライドで移動するのが必須なのだが……まぁ、兎にも角にも俺達はキャニオンエリアへと集まっていた。

 

「それで、こんな所でわざわざ集まって何の用なの?」

 

 凄い面倒くさそう、且つ不審な目でゼイユはこちらを見つめてくる。それでも呼び出したらちゃんと来てくれる辺り、人が出来ている証拠なのだろう。カキツバタなら絶対来ねーもん。

 

「ゼイユって美人だよな」

「はぁ? ……まぁその通りだけど、いきなりなんなの?」

「なのに全然モテないよな」

「ブルーベリー学園史上、最も残念美形ってシアノ先生に認定されたあんたにだけは言われたくないわよ」

「あの胡散臭いジジイぶん殴ってやろうか」

「そういう所でしょ」

 

 だってゼイユやカキツバタがいるのに史上まで言うのは違うじゃん。精々学園上位が関の山だろ。ふざけんな。

 

「で、良いから本題に入りなさいって」

「ゼイユって美人だよな」

「その話はさっきしたわよ!」

「そうカリカリすんなって。折角の美女が台無しだぜ?」

「あんたのせいだけど!?」

「ま、性格で元々台無しだけどな! あははは!」

「ふん!」

 

 我ながら上手い事を言ったもんだと笑っていたら、ゼイユからとんでもない速度の拳が飛来してくる。顔面が吹き飛びそうな勢いの拳だったが、ゼイユの性格など手に取るように分かる俺は、既に回避の行動へと移っていた。

 残念だったな。俺のみきりを以てすれば、ゼイユのマッハパンチなんて児戯に過ぎないんだ。

 

 尤も、性格を手に取るように分かるのはゼイユも同じだったみたいだ。俺の脛に追い討ちのけたぐりが直撃している。

 

 クソ痛い。

 

「ほんっとムカつくわね! 用が無いなら帰るわよ!」

「……俺にだって言いにくいことがある。緊張するんだよ」

「あんたが? 緊張? ……はっ」

「今度は俺が殴って良いか?」

 

 まぁ殴らないけど。クロスカウンター決められそうだから。

 だが本当に緊張もしているし、話しにくくて誤魔化しているのも事実である。訝しげなゼイユの表情から逃れるように、俺は視線を逸らして思わず頭を掻いた。

 

「まぁ……その、なんだ。真面目な話なんだ」

「……え、本当になんなの?」

「人気の無いところに二人きりなんて一つしかないだろ」

「は……? そ、それって……」

「そう。それしか無いだろ」

「で、でもあんたにはタロが」

「──今、タロは関係ないだろ!」

 

 声を張り上げながらゼイユとの距離を詰めて、壁に押しやる。右手を突き出し──所謂、壁ドンをしてゼイユの逃げ道を潰した。

 あれだけ調子に乗っていたゼイユが顔を真っ赤にして目を逸らす。俺は誠心誠意を込めて視線を送り続けた。

 

「は、話しなさいよ……」

 

 覚悟を決めたゼイユが意を決してこちらを見つめ返す。だから俺は淡々と自身の思いを告げた。

 

「俺にポケモンライドの仕方を教えて欲しい」

 

 ゼイユ の ばくれつパンチ!

 急所に 当たった!

 

 

 

 

 

 

 俺、カルサイトは高所恐怖症だ。

 ポケモンの背中に乗って、当たり前のように高速で飛び回る生徒達を見るだけで冷や汗が出る程に。

 自分のポケモンを信じる云々よりも、本能の恐怖の方が先に来ると思うんだが……どうやらそう言う生徒は極小数らしい。

 

 今はスマホロトムによる墜落防止機能があるから事故死は防げてるみたいだけど、万が一に作動しなかったら死ぬんだぞ。怖過ぎるだろ。全員頭ヤドンか?

 

 普段は空を飛ぶ必要が無いから、高所恐怖症については気にしていない。帰省やヤーコンさんに会いに行くのだって遠泳や低空飛行で十分なのだから。

 

 だがしかし、どうしても克服せねばならない事態に発展したのだ。

 

 それが必修科目である授業の課題である。

 

 普段から真面目に受けていれば結果が芳しくなくても単位は取れるのだが……何せ俺だ。

 多少は授業に出るようになったとは言え、試験結果が万全で無ければ単位を落としてしまう計算。致命的と言える状況だった。

 

 これは非常に宜しくないと思い、検討に検討を重ねて検討した結果、ゼイユに頼る事となったのだ。

 

「……それで、何であたしなのよ?」

 

 一通りの説明をし終えた後、酷くげんなりとした顔をしたゼイユが問い掛けてくる。心なしか前髪のバッテンにも元気がないような気がした。

 

 数多い生徒の中でなぜゼイユなのか。まぁその疑問は尤もだろう。

 

「タロに頼めば良いじゃない」

「好きな子に腰の抜けた姿なんて見せたくないっての」

「……確かにそうね」

「それに今後タロを弄った時に『カルくんって、子供でも余裕でやってるポケモンライドでぷるぷる震えてた可愛い子なんだよね』なんて思われて微笑ましく笑みを浮かべるようになったら、最早俺は無力だ。もう何を楽しみにしてブルーベリー学園を過ごせば良いか分からないしな」

「絶対そこが要点よね!?」

 

 良くわかったな。流石完全無欠。

 

「ならネリネはどうなの? ポケモンライドで空を飛ぶ事に関しては学園随一の筈よ。なんならポケモンの飛行性能を上げる丸薬を持ってるし」

「コツを教えるのは上手そうだけど、メンタル的な部分での考慮をしなさそうだろ。『何故原理を理解出来てるのに飛ぼうとしないのか、ネリネには理解出来ません』なんて言われたら泣くぞ?」

「あー……」

 

 何だかんだ仲間思いな面はあるからそこまで言わないと思うけれども! でもロボットかと思うくらいに機械的な所があるし。

 そんなネリネの親友であるゼイユとしても、俺の言葉を否定出来る判断が下せない。つまりネリネは却下である。

 

「カキツバタは絶対面倒くさがるし、アカマツ君は直感で済ませるタイプだし」

「……で、消去法であたしって事?」

「面倒見の良いお姉ちゃんって良いよな……」

「あたしはあんたのお姉ちゃんじゃないけれど?」

「そう言うなよ、ゼイユ姉ちゃん」

「誰がゼイユ姉ちゃんよ!」

「ん」

「指を差すな!」

 

 一言一句突っ込んでくる辺り、絶対面倒見良いって。適任だよ適任。

 

 でも実際、俺に残された選択肢は多くない。ゼイユに拒否されてしまえば、後は自力で何とかするしか無くなるのだ。

 だから俺は、素直に誠心誠意を伝えるべくて頭を下げた。

 

「頼む! タロやネリネでさえ見捨てるカキツバタに、ノートを見せてあげる優しいゼイユなら……!」

「う、うーん……」

「ま、まさか俺がカキツバタ以下だって言うのか!?」

「流石にそうとは言わないけれど! ……もう、分かったわよ!」

 

 俺に根負けしたゼイユが仕方なさそうに溜め息を吐く。

 

「ありがとう! 優しいゼイユ姉ちゃん!」

「その呼び方は止めなさい」

 

 割りとガチな顔で怒られたので止めようと思う。

 

 

 

 

 

 

「良い? 空を飛ぶにはとにかく慣れる事が大事なのよ」

「ふぁい」

「その返事はなんなの?」

「いや普通に怖くて」

 

 百聞は一見にしかず。百見は云々。要はやらなきゃ何も始まらないと言う事で、ゼイユと空を飛ぶ事となった。

 ゼイユのモンスターボールから出てきたムクホークの背中に二人で乗る。ムクホークの手網をゼイユが。ゼイユの手網を俺が握った。

 

「言っとくけど、変な事したら叩き落とすからね」

 

 と思ったが、ゼイユの手網を握るのは一筋縄ではいかないようだ。仕方ないので俺はゼイユの肩につかまる事にする。

 これから空へ浮くと思うと足がゾワゾワしてきた。そりゃあ顎もガクガクして滑舌がおかしくなる訳だよ。そして全身は震えてブルブルだ。

 

「……別に怖い事をバカにしないわよ。大なり小なり、誰でも最初は怖いんだから」

「え、ゼイユが優しい……?」

「はぁー!? さっきまで散々褒めてたでしょうか!」

「まぁ落ち着けよ。今から空を飛ぶんだからさ」

「叩き落とすわよ!」

 

 だって緊張し過ぎて嘔吐しそうだし。無駄に大声を出すゼイユで癒されないと俺は死んでしまう。

 

「……まったく、バカなこと言ってないで飛ぶわよ」

 

 そんな俺の気休めも虚しく、ゼイユの指示に従ってムクホークは空中へと浮いた。広がっていく視界。さっきまで岩肌しか見えていなかったのが嘘のように、どんどん、どんどんと高度が上がる。

 

「死ぬぞこれ……」

「死なないわよ。スマホロトム持ってるんでしょ。スグなんて持ってなくても後ろに乗ってるのよ?」

「弟の命軽すぎだろ。ゼイユならまだしも」

「何か言ったかしら?」

「いえ何も」

 

 恐ろしく怖い横顔だった。俺じゃなきゃ心臓止まってたぞ。でも弟の命は軽くて良いのかよ──なんて考えていると、次第にテラリウムドーム全体が見えるほどに高度が上がっており……テラリウムドーム、全体……?

 

 は?

 

「や……ちょ……高、過ぎ……!」

「うふふ、あたしに意地悪するなんて百年早いのよ! 因果ホウオウね、因果ホウオウ!」

「因果応報!」

「それよ!」

 

 いや『それよ!』じゃねえんだよ。さっさと高度下げろ。常識ねえのか。ある訳ないか。なんかもう高過ぎて夢心地のふわふわした感覚になってるから。なんとかしてくれ。

 

「まさかカルサイトの情けない姿を見れる日が来るなんてねー……今日は良い日かも!」

「おま、俺が誠心誠意頼んだのに! ばか! あほ!」

「恐怖のあまり語彙力も下がって、罵倒も可愛く感じるわね!」

 

 このクソ女、今までに無いくらいに嬉しそうな笑みを浮かべてやがる。一体俺が何をしたって言うんだ。心当たりがあり過ぎて全く見当がつかない。

 だが流石にふざけてる余裕が無くなってきた。怖過ぎて命の危機さえ感じ始める。

 

 て言うかもう無理。限界。

 

「もう……無理、死ぬ、ゼイユ、助けて」

「わ、きゃ……! ちょ、ちょっと! 抱き着くなっ! さ、触るな!」

「そ、そんな事言っても! おち、落ちるって! 死ぬ!」

「あんたが抱き着くからバランス崩して落ち──」

 

 頼るのはゼイユしかいないのは容認し難いが、背に腹はかえられない。組んず解れつと言った様子で取っ組み合いをしながら、死なば諸共の精神で抱きついた。

 なんかゼイユは奇声を上げているが、良く聞こえないし、いつもの事のような気もする。こっちはどこを触ってるとか何もしてるかも分からない状況だ。

 

 だがゼイユの言葉が途切れたにはそれなりの意味があった。

 何故ならば、俺達はムクホークから身を投げ出していたからだ。

 

 全身がふわっと浮くような無重力の感覚から一転し、大地に引っ張られるように落下。もはや声も出ない。

 恐怖──と言うよりも死を悟ったというべきか。死を目前って状況になると、どうやら意外にも人は冷静になるらしい。

 

 ゼイユを見る。思ったよりも冷静な表情だったが、何故か怒りに顔を真っ赤に染めていた。

 

「ゼイユ! もし俺が死んだら! タロに愛していたと! 伝えておいてくれ!」

「うっさいバカ死ね! ていうかあんたが死んだらあたしも死んでる!」

 

 それはそうだ──なんて言葉を返すよりも早く、ゴツゴツとした頑強な巨岩が目前へと近付いている。この勢いでぶつかれば即死は免れないだろう。

 

 あぁ、死ぬならタロと添い遂げて死にたかったなぁ。子供は二人いて、男の子と女の子で。女の子の結婚式には泣いたりしてさ、孫も産まれて夫婦円満で──。

 

 なんて想像をしている間に、スマホロトムの安全装置が起動し、衝突寸前で落下速度が急激に緩やかになる。落下時と同じようにふわりと浮き上がるような無重力の感覚。

 

 どうやら俺達は傷一つ無く地上に戻る事が出来たようだった。

 

「ふん、他愛も無い」

「足がガクガクじゃないの」

「武者震いだ」

「誰に?」

「この大いなる世界の青空に」

「人工空間だけどね」

 

 少し乱れた服装を正しながら、互いに軽口で話す。いやはや、本当に命があって良かったよ。心臓なんて痛いくらいに脈打ってるし。

 対してゼイユは怖がる様子を見せていなかった。スマホロトムに寄せる信頼の差なのだろうか。ただ突き刺さるくらいの視線で睨み付けてくるのは勘弁して欲しい。ハブネークに睨まれたケロマツの気分だ。

 

「……さっきの事、誰かに話したら許さないからね」

「正直な話、無我夢中だったから全然理解してないんだが」

「だったら良いのよ。忘れなさい。思い出したら殺すわ」

「やわじゃ……」

「間違ってるし、スグの真似はやめなさいよ!」

「だってこの手に伝わった柔らかい感触が脳裏にあるんだから仕方ないだろ」

「ふんっ!」

 

 三度目の暴力。何度でも言おう。俺はみきりを持ってるんだ。意味が無いっての。

 

 華麗に紙一重で避ける──その瞬間、ゼイユの拳は俺の頬を捉えた。

 何故だ。一瞬の時の中で俺の脳がひたすらに解答を求め続けている。みきりは間違い無く発動していた。構えと軌道に対しての予測は完璧。

 そして聡明な俺の頭脳はひとつの答えへと辿り着く。

 

「そうか。これはウーラオス ゼイユのかた──」

 

 俺の思考はそこで分断されて、きりもみ回転で吹き飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 一度死を覚悟して落下した為か、二度、三度と空を飛ぶにつれて徐々に余裕が生まれ始めている。本来ならばトラウマと化してもおかしくない出来事だったが、流石は適応力の高いカルサイト君。我ながら恐ろしい。

 もっと恐ろしいのはゼイユだけどな。むしろゼイユの方が怖くて克服できたまである。

 

「そろそろ慣れたでしょ。一人で飛んでみなさいって」

「ふぁい」

「何よその返事は?」

「ゼイユに殴られたせいで頬が腫れてるんだよ!」

「あんたが悪いじゃないの」

 

 俺か? 俺が悪いのか?

 急に高度を上げたゼイユは悪くないのか?

 

 だが俺はその思いの丈を口にはしなかった。何故ならばリスクアセスメントを徹底しているからな。君子危うきに近寄らず、だ。

 

「ほら、やってみなさいよ」

「ま、任せておけ」

 

 二人乗りもそろそろ終わりだと言わんばかりに、ゼイユはムクホークをボールに戻す。大きく深呼吸して心を落ち着かせ、俺はモンスターボールに手を掛けた。

 

「そう言えば……カルサイトのライドポケモンって何? あんたってあまり戦わないから使うポケモンについて良く知らないのよね」

「まだまだだな。そんなんじゃ俺のファンを名乗れないぞ?」

「名乗ってないし! 名乗りたくもないわよ!」

 

 まぁ知らないのも無理は無い。なにせタロ以外に見せた事の無いポケモンだ。俺は大きく体を捻って、野球部の連中から習ったガラルスタースタイルのフォームでボールを投げた。

 

「いけ! ホウオウ!」

「ショオーッ!」

「ッ!? ホウ……オウ!?」

 

 ジョウト地方に伝わりし神話に登場するポケモンの名を告げれば、ゼイユの目は大きく開かれた。

 

 現れた姿はまさに神話の象徴。太陽の如く光り輝く緋色の体。炎を彷彿させる神々しい翼。そしてまんまるなつぶらな瞳。

 それはまさに伝説と言い伝えられる──

 

「色違いのウッウじゃないの」

「ショオーッ!」

「ホウオウだって言ってるだろ。な、ホウオウ」

「ショオーッ!」

「いやウッウでしょ! ほら、サシカマスを咥えだしたわよ!」

 

 そう。残念ながらゼイユの言う通り、希少種のウッウである。しかも通常個体よりも5割増に大きい、まさにホウオウそっくりな非常に稀有な個体。

 

 しかしながらこのホウオウと名付けられたウッウ。とてもバカである。自分を本気でホウオウだと思い込んでいる程にバカである。

 その為、バトルメンバーには選出されない残念な子だった。

 

 多彩でトリッキーな動きを徹底する俺の戦い方は、ポケモン達にもその思考を強いる場面がある。なのにこのホウオウには殴られながら殴る選択肢しかない。

 つまりバカである。

 

「見ろよ、この自信たっぷりなつぶらな瞳……まさに言い伝えられしホウオウだろ?」

「じゃあかえんほうしゃでも撃ってみなさいよ」

「ホウオウの覚える技を知らないのか? 使える技はたくわえる、のみこむ、はきだす……」

「やっぱりウッウじゃないの!」

「あとみずでっぽう」

「もうほのおじゃなくてみずじゃん!」

 

 見ろ。この胸を張って自信満々の表情を。どう見てもバカのそれだ。俺の戦略とは絶望的に相性が悪いバカだ。

 

 でもそこが可愛い。

 

「ゼイユ、甘いな。このホウオウが真の力を発揮する時、神話と呼ばれるが所以の生命の力を宿す技『せいなるほのお』が──」

「炎テラスタルのテラバーストってオチじゃないわよね?」

「…………」

「ショオーッ!」

「よし、飛ぶ準備が出来たようだな」

「おい」

 

 ゼイユの突っ込みには反応をしない。何故ならば真実を知ったらホウオウが可哀想だから。

 俺はやる気になっているホウオウの背中に乗って、徐々に高度を上げていく。バカだけど言う事はちゃんと聞くし、筋力は他のウッウよりも遥かに高い為、滞空には抜群の安定力がある。

 

 つまり優秀なのだ。バカである事以外は。

 

 そして恐怖を打ち消した確固たる意志で飛び続ければ、周囲の岩山よりも高い場所へと到達した。手足は震えど、俺はたった一人で逃げること無くこの高さまで飛ぶ事が出来た事に感動を覚えている。

 

 やった……やったぞ……!

 

「ゼイユッ!」

「おー! やるじゃないの!」

 

 そう言ってゼイユは、にっこりと笑みを浮かべて親指を立ててくれる。優しい。タロがいなかったら惚れてた。でも暴力女は将来DVに発展しかねない。やっぱり論外だわ。

 

 だがこうして飛行が出来たのも、ゼイユが根気良く付き合ってくれたおかげだ。他の人じゃこうも上手くいかなかっただろう。

 今度何かしらお礼をしないとな。

 

 多少の余裕のある俺はこの光景を楽しむように周囲を見渡す。人工物とは言え、圧巻の大自然と呼べる光景に目を奪われながらも、俺は四天王専用エリアであるキャニオンスクエアの方角へと向いた。

 

 ネリネがいるかなーなんて軽い気持ちで見たのに。

 

 遥か遠い建造物。そこにはネリネらしき人物と──ピンク色の髪をした女子が立っていた。

 

「…………」

「おーい、どうしたのー?」

 

 硬直した俺を見てゼイユから声が掛かるも、返答をする余裕が無かった。

 

 ──まさか見られていた? いやまさかな……。

 

 浮気でも何でも無いけれど。それでも居心地の悪さを感じざるを得ないのは何故なのか。

 遥か遠い場所だから表情までは分からない。だがこちらを向いている事だけは一目瞭然だった。

 

 スマホロトムのカメラ機能で拡大──しようにも、高い場所で両手を空ける勇気が今の俺には無い。

 

 俺は早々に諦めて地上へと降り立つ。不思議そうに首を傾げていたゼイユを手招きして、俺は一言言い放った。

 

「ゼイユ、一緒、乗る」

「はぁ? なんでよ?」

「どうしても!」

「……しょうがないわね」

 

 渋々と言った様子で、今度はゼイユが俺の後ろに乗る。二人乗りでも流石ばかぢからのウッウ……もうウッウで良いや。ウッウなだけあって、流石の安定感で元の位置へと上昇した。

 

 まだ二人ともいる。

 

「ゼイユ、あれ。拡大」

「さっきから片言でなんなのよ……って、あれはネリネとタロ……?」

「見られてる、気配」

「流石に無いでしょ。キャニオンスクエアだからこっちからは誰だか把握出来ても、流石にあたし達の事なんて分からない筈だし」

「タロって俺の事大好きだからずっと見てたに違いないんだよ。これって相思相愛だよな」

「そんな訳ないでしょ。タロに振られ続けてる癖に」

 

 ゼイユ の 現実を なげつける!

 

「良いから! はやくスマホロトムで拡大して!」

「あーもう! やればいいんでしょ!」

 

 そう言ってゼイユはスマホロトムを取り出してネリネ達の方向へと向けた。

 

「……うわ」

 

 そのスマホロトムには何が映し出されているのかは俺には分からない。ただゼイユのドン引きするような声色が、想像を絶する物だった事を伝えていた。

 

「ねえ、見せてよ」

「……駄目。これは危険だわ」

「いや見せろよ!」

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのよ……」

「頭大丈夫か?」

「いつものあんたよりはマシよ! ……とにかく、今日の事は全部忘れて解散! お礼はまた今度よろしく!」

 

 そそくさと言わんばかりに、ゼイユはムクホークを取り出して即座に飛び移った。光陰矢の如し。まさに風となったゼイユが超高速で去っていく。

 

 いやマジでなんなんだよ。

 

 何も分からないままに取り残されて呆然としていると、突如としてスマホロトムが鳴り出した。

 

 ロトロトロト……

 

 着信画面を見るとタロからだった。嫌な予感がしつつも無視をする訳にはいかない。だから俺は意を決して通話を開始する。

 

『ねえカルくん』

「只今、電話に出ることが出来ません。ピーっと言う発信音の後に、お名前とご要件をお話下さい」

「ショオーッ!」

「おい、ホウオウ! やめろ!」

『カルくん。ちょっと来てくれるかな?』

「はいすぐに」

 

 最速でキャニオンスクエアへと向かう俺は、今日一番のポケモンライドの出来だった。

 





登場人物説明


・ゼイユ
ブルーベリー学園3年生。残念美人と言えばこの人と生徒ならば誰もが口を揃えて言う。気兼ねなく話せるカルサイトと友好な関係を築いているものの、同時に苛立ちも覚えるので情緒が少し不安定である。
最近では『クソ生意気な後輩を可愛がるのも先輩の役目ね』なんて悟るようになってきたが、その思考を見通してカルサイトが調子に乗っているのを、彼女はまだ知らない。


・タロ
毎日のようにカルサイトからラブコールやお誘いメッセージが飛んでくる。今日は珍しく何も来ないなぁと思っていたら、偶然にもゼイユと仲良くライドしてるカルサイトを見つけ、思わずイラッとする。仲の良い友達が取られた感覚になり、めんどくさい女のムーブをやってしまった。
後で激しく後悔。寝る時に思い出してベッドの上でバタ足をしていた模様。


・ネリネ
傍観者四天王。

・ウッウ
ホウオウである。
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