ブルーベリー学園はポケモンバトルの育成に力を入れている為か、ブルベリーグと呼ばれる学内に於けるランク制度がある。学園最強のカキツバタ、次いでタロ、ネリネ、アカマツ。四者は生徒の中でも群を抜いており、四天王と呼ばれる強者だった。
本来ならばカキツバタはチャンピオンと呼ばれる立場になるのだが……チャンピオンとなるとブルベリーグ参加者が集まる部活──リーグ部の部長となる形式もあってか、色々と責務や業務が増えるのを嫌がっているようで。
その為にチャンピオン兼部長を空席にして、四天王に居座り、仕事を四人で分担しているのだった。
幾ら何でも無責任過ぎると皆から呆れられているが……まぁそれがカキツバタだ。仕方ない。
俺はリーグ5位だから本来なら四天王だけど、カキツバタのおかげで職は無い。最初は四天王の一人として仕事しろよと言われたが、正論のマシンガントークでカキツバタを黙らせた。秒で蜂の巣だ。それにタロの手伝いならまだしも、自分から仕事とかめんどくさい。
四天王の特権は羨ましいけど挑戦者の相手とかするくらいなら相棒と昼寝したい。タロでも可。むしろタロと寝たい。色んな意味で。
あー! タロと寝てーなー!
とは言え俺も立派なリーグ部部員だ。部員としての特権を余す事無く利用するべく、部室内にあるパソコンへと向き合っていた。
放課後の自由時間となった生徒達がリーグ部の部室に集まってくる。気が付いたら顔も知らない部員も増えたなぁなんて思いつつも、俺はひたすらに私用に勤しんだ。
人も集まってざわざわし始めた頃だろうか。そろそろタロも部室に来る時間になると踏んだ俺は、言葉を唇に乗せて愛を込めた。
「タロー、いるー?」
「いないぜぃ」
心が荒んでいく。天使の囁きが聞こえてくると信じていたら、だらしの無いオーラを纏った男の声で返ってきた。はっきり言って気分は最悪だ。今すぐにでも耳を引きちぎって洗いたいくらいだ。だが俺も大人。静かに現実を受け入れる事にする。
その声の主は学園最強の留年生、カキツバタの声であった。
「じゃあカキツバタで我慢するか……」
「じゃあって。……いやぁオイラも忙しい身でね」
「忙しいなら昼間からダラダラしてないだろ」
「オイラは四天王だぜい? 仕事が山積みってもんよ」
「やってないから山積みなんだろ。俺くらい真面目に過ごしていれば、今頃は山が谷になってる筈だぞ」
「谷は机にめり込んでっからな? それにカルサイトだって5割──いや、7割くらいはボーッとスマホロトムを眺めてたじゃねえの。ツバっさんが手伝う必要はねえって」
おいおいバカにするなよ。カキツバタはそう思うかもしれないが、俺は昼間から部室のパソコンを操作したり、タロの写真を眺めたり拝んだり喋り掛けたりしてるんだぞ。居眠りしたりスマホロトムを弄ったりしてるカキツバタと違う。忙しさは火を見るより明らかだ。
固まった身体を伸ばしながらカキツバタは呻き声を漏らす。それでも定位置の座席からは動く気は無いのか、机の上に上半身を預けて声を出した。
「て言うかそんなにタロに会いたいならよー、同じクラスなんだし授業に出れば良かったんじゃねえの?」
「愛は会えない時間で募っていくものだ……」
「たまーにオイラでさえ、バカじゃねえのって思う事口にするよな」
「喧嘩売ってんの?」
「お、ポケモンバトルか? 良いねー、格安だぜぃ!」
「買うとは言ってないけどな。……まぁ実際のところポケモンバトルの座学はなぁ……。更に言うと移動教室で隣がタロじゃないし」
「気持ちは分かるが、ちゃんと聞いた方が良いぜぃ?」
「3回も留年してる奴が言うなよ」
授業に出てないカキツバタが学内最強で、勉強についていけないアカマツが一年生で四天王だぞ? センスの有無も大きいんだろうけど、ポケモンバトルに関する座学がいかに無意味に近いのかが良く分かる。
そんなことを考えながら俺は、スマホロトムを目の前に浮かべて、通話アプリを起動してタロへと発信した。
ロトロトロト……ロトロトロト……
2コール、3コールと発信音が鳴り響いてもタロと繋がる事は無かった。
「授業に出ないから嫌われちゃったって奴かー?」
「……倦怠期……?」
「いや付き合ってなくね?」
「事実婚って知らないのか?」
「話が飛躍し過ぎてツバっさんでもついていけねえって……」
おいおい、時代の最先端を行く俺についていけないって、ジェネレーションギャップって奴か。学生の3歳ってやっぱでかいんだな。
「可哀想な目で見てるけどよ、それ、オイラが向けるべき視線だぜい?」
「カキツバタみたいになるなーって毎日言われてるのにか? それがタロの認識ならつまり学園の認識。ひいては世界の判断だぞ」
「タロは神かい? ……いや、キョーダイの中では神みたいなもんか。でも考えると、カルサイトってオイラと似てるよなぁ」
「タロを神と崇めてんの?」
「そこじゃねえって。中身だよ中身」
「は? 似てないだろ」
誹謗中傷だろ。
止めろよ、そう言う自爆式誹謗中傷。
「雰囲気は違うけどよ……なんか所作とか行動の節々っつーの? ツバっさんもそうするなーってとこが多いぜ?」
「でも頭に歯磨き粉付けてないし」
「そこが基準ならオイラは唯一無二だねぃ」
「頭に歯磨き粉付けてないし」
「2回も言う必要あったかい?」
「出席日数計算してるから3回も留年しないし」
「……まー時には回り道をするのも人生、ってな」
カキツバタは将来的にジムリーダーを継ぐ責務もあるだろうし、今のうちに自由を謳歌したい気持ちは分からなくもないけど。
それなりに年上ならもう少し大人になっても良いんじゃないのか──なんて思っていると、タロへと発信しっぱなしだったスマホロトムが、電子音と共に応答した。
『もしもし? ゴメンね、ちょっと取り込んでて遅くなっちゃった』
可愛らしいタロの顔が、画面いっぱいに表示される。癒された。俺の中での荒んだ心が一瞬にして浄化されていく。
やはり歯磨き粉と天使では心地良さが雲泥の差だ。
「カキツバタで暇を潰してたから大丈夫」
「暇潰しって」
『それなら良かった』
「いや良くねーって」
『……って、そうそう! なんで午後の座学に出席しなかったの? そう言うの良くないと思います!』
「オイラは良いと思いまーす」
『な……!?』
「俺も良いと思いまーす」
『カルくん! カキツバタになっちゃ駄目って教えてますよね!?』
「おぉ、タロがお母さんみたいだねい……」
分かる。ママって呼びたくなる。甘やかしてくれないだろうか。添い寝とかあれば尚の事良し。
『……それで、何か用事でもあったの?』
「あ、そうそう。移動教室のことなんだけどさ。第一講堂の時にタロの隣に座ってる……誰だっけ?」
『あー……ユージくん?』
「そうそう。その何とか君って何部?」
『何部ってユージくんはリーグ部だよ? 後、名前覚えてね?』
「あれ、そうだっけ? ……なら良いか」
それならすぐに話をつけられそうだ。
「後、第二講堂の時に隣に座ってるのは……」
『レオンくん?』
「そんな名前だったか? そのユージ君が何部か知ってる?」
『……ユージくんじゃなくてレオンくんは写真部だったと思うけど……』
「写真部ね。サンキュー」
『ねえ! クラスメイトの名前くらいは覚えようよ!』
「必要あったらなー」
『絶対覚える気ないよね?』
「ユオン君とレージ君だろ。今日が最初で最後の会話になるし、ちゃんと覚えたって」
『……もう良いです。わたしは諦めました』
溜息を吐くタロが可愛い。勿論、覚えてないのはわざとだし、通話中の映像は録画済みだ。抜かりは無い。
そして俺はカタカタとパソコンを操作して写真部の支援ボード──部費の足りない部活動へBPを支援して相応の対価を得るシステムである──に目を通し、BP募集欄を一括選択して承認した。
みるみる内にスマホロトムに表示されているBP残高が減っていく。うーん、これで手持ちがスッカラカンになったな。
それを後ろから眺めていたカキツバタが面白そうにからからと笑う。
「ははっ、やるじゃねえの! 大盤振る舞いだねぃ」
『え、何? 何の話なの?』
「じゃあ俺はまだ用事があるから、またなー」
『何の話か聞いてるんですけど!』
「時間がある時に教えるって。また夜にでも話そう」
『ね、優しいカルくんなら今から教えてくれるよね?』
「愛してるって言ってくれたら」
『……じゃ、また夜に教えてね』
プチッと通話を切断された。悲しい。でも俺は忙しい身だ。悲しんでいる暇は無い。高い壁を乗り越えた先にこそ本物の愛があるのだから。
そして俺は写真部の部長に必要最低限の内容のメールを送る。内容はBPの支援報酬について。
「で、そいつらが何をしたって?」
「タロに気があってしつこくアプローチしてるとファンクラブに報告があった。だから釘を刺すだけだ」
「愛だねぃ……」
「ついでにその座席を奪って授業へのモチベに変える」
「私利私欲だねぃ……」
「俺のタロに手を出すとは良い度胸だよな、本当に」
「今振られたところなんだが、既に記憶にねえのかい?」
タロはモテる。それはもうモテる。
残念美人と評判であるゼイユの100倍はモテるだろう。
しかもそのことを自覚して愛嬌のある行動をする上に、異性から好意を持たれたら、父親の名前を出したりのらりくらりと躱すからタチが悪い。
ゼイユ曰く、性悪な女だとの事。
でも可愛いから仕方ないんだ。可愛いは正義だから。
それにタロは元々優しい女の子。その優しさを好意だと勘違いする男子がいけないんだ。ファンクラブ会長として教育してやらねば。
徹底的に、歯向かえない様にな!
「て言うか今の話を聞くとよ、やっぱオイラじゃ代わりにならねぇよな」
「俺が……タロと同じくらいカキツバタの事が好きって言ったら?」
「……そう言う趣味は否定しねえけどよ……」
「寝起きと毎晩、必ずカキツバタの事を思い出してな」
「……おぉ、寒気がすげえな」
「歯磨き粉を使うとどうも脳裏に過ぎるんだよ」
「それをオイラに言われても困るぜぃ」
振り返ってみると、マジで迷惑そうな顔でカキツバタはこちらを見ていた。
て言うか仮に同性が恋愛対象でもだらしないお前を好きになる理由は無いだろ。常識的に考えろ。
「さて……おーいユージ! カルサイトが呼んでんぞー!」
突如として大声を出したカキツバタは、部屋の対角で話し込んでいたユージ君とやらに声を掛けた。その声に応じるようにしてこちらを視認したユージ君が悠々と歩いて近付いてくる。
うーん、見た事あるような無いような……それにしても敵意丸出しだ。俺はタロと仲良いからなぁ。
仲良いからなぁ! ごめんなぁ!
「……何?」
「俺の名前はカルサイト。お前はトリコ?」
「いやユージだよ。何度も話してるしクラスメイトなんだけど……」
「そうか。だったら第一講堂の授業の時、席替わってくれ」
「は? ……意味が分からん。替わる理由が無いだろ」
「タロの事が好きだもんな、仕方ないよな」
「は? そ、そんなんじゃねえし!」
思春期だなぁ。初々しいなぁ。
でも人間って素直な方が人受けは良いんだぜ?
「……そういうお前はどうなんだよ?」
「カルサイト、言われてんぜ?」
「わたしは今! ユージくんの話をしています!」
「タロさんみたいな喋り方するんじゃねえよ!」
「ポージング含めて完璧だろ?」
「完璧だけど!」
バツ印を前面に出してキリッとした表情をする。タロのポーズはキレのある動きをするのがコツだ。
だがユージ君は揶揄われて不機嫌を顕にしている。そんな様子をニヤニヤと見ているカキツバタが、仲介するかのように言葉を挟んだ。
「まぁまぁキョーダイ。今はカルサイトが呼んだっつーことを踏まえて、大人しく話くらい聞いてやろうぜぃ」
「……それで? 席を替わるつもりはないぞ」
「そう結論を焦るなよ。ここに貴重データがある」
スマホロトムを浮かべ、カメラアプリを起動して操作する。タロと記名されたフォルダを開いて無数の写真から一枚を選び出した。
それはグランブルのお腹に抱き着いて寝ているタロの写真である。
すっとスマホロトムをユージ君に向けると、大きく目が見開かれる。まるで世界の真理を知ってしまったかのような、絶望と希望に満ちた驚愕の表情を見せていた。
分かるぞ。このデータは俺しか持っていない奇跡の一枚だからな。ファンクラブの奴等でさえ1m越しにしか見せない幻の写真なのだから。
「ちなみにタロ公認の写真であり、俺が煮るなり焼くなりする分には自由にしていい権利を持っている写真だ」
尚、ポケモンバトルで勝って得た権利である。
「このデータと座席を賭けて勝負だ。ポケモンバトルで決めよう」
「……む、むむ……いや、うーん。だが……」
「いーじゃねえか! なぁキョーダイ!」
幾ら喉から手が出るほど欲しくとも、ポケモンバトルの実力差は明白。ユージ君が言葉に詰まっていると、カキツバタが肩を抱いて朗らかに笑った。
「俺達はポケモントレーナーでありリーグ部だぜぃ? 互い欲しいものはポケモンバトルで決める──良くある事じゃねえの!」
「……分かった。だが実力差はリーグ順位からも明白だ。対策とハンデを貰うぞ」
「持ち物検査でもタイプ指定でもシングルバトルでも。好きに決めればいい」
「それならツバっさんが証人として立ち会わせてもらうぜぃ! 久しぶりにカルサイトのバトル見てぇからな!」
やる気に満ちているユージ君とカキツバタの背中を追うようにして、リーグ部の部室を後にする。
ちなみに俺は、タロ絡みのバトルに限ればカキツバタにも負けた事は無い。つまり無敵モードであった。
結果、一匹たりともひんしになる事も無く、圧勝する。
同様にして写真部。部長を支援ボードの報酬で抱き込み、同じ手口で制圧したのだった。
☆ ☆ ☆
カルくんは、イケメンだ。
突然なんて事を言い出すんだって思われるかもしれないけど、十人が十人、美形だと答えると思う。
ただ性格がちょっと不真面目と言うか、好きな事にしか真っ直ぐじゃないから残念系……いわゆる、ゼイユさんと同じカテゴライズになるのかも。
あっ、ゼイユさんには内緒だけどね! そんな事考えてるって知られたら怒られちゃうから!
藍色のグラデーションをした艶やかな髪。整った顔立ちに切れ長の目。背も高いし、女の子には良く話し掛けられている。
……なのに、何でわたしなのかなぁ?
わたしはかっこいいよりも可愛い方が好きなのに。たまに見せる無邪気な笑顔は可愛いと思うけど……普段は可愛いとは掛け離れて憎たらしいくらいだ。
そんなカルくんは今、私の隣で険しい顔をしている。移動教室先の第一講堂。ポケモンバトルの座学の時間だ。
前回までは隣にユージくんが座ってた筈なんだけど……今では遥か遠い、カルくんの席──本人が一度も座ってるところは見た事が無い場所──からこちらを睨み付けていた。
私は苦笑いをしてその視線から目を逸らす。カルくん曰く、お互いの同意の元で決めた結果らしいけど……何かあったのかな。
と、あまり余所事を考え過ぎないように授業に集中する。今日の授業はいつもと趣旨が違っていて、有名なトレーナーがノウハウを教えてくれているのだから。
誰かと言うとライモンシティのジムリーダー、カミツレさん。
わたしの生まれ故郷の、美人でかっこよくて可愛いの三拍子が揃った憧れの人。
可愛いフェアリータイプの育成に力を入れてるわたしが、思わず電気タイプのポケモンを育てちゃったくらいだ。
カミツレさんの説明はとても分かり易く、現役のジムリーダーなだけあって、とても為になる話が多かった。
少しだけ、空気が凍るような寒いギャグがあったけれども。
パパがジムリーダーをしている関係上、カミツレさんとは言葉を交わす程度には交流があった。個人的なお話をした記憶は無いけど、互いに顔の名前を知っている程度の仲。今日の授業がちょっとだけ楽しみだったのは秘密だ。
再びちらりとカルくんに視線を送って様子を確認する。未だ眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
寝ないで授業を聞いてるから良い事なんだけれど……どうしたのかな?
「俺ってシンオウ生まれだから、あまりイッシュについて詳しくないんだけどさ。カミツレさんって電気のジムリーダーなんだよな?」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
私の視線が気になったのかな? 絶妙とも言えるタイミングでカルくんは私に話を掛けてきた。
こちらに目を向ける事は無い。カルくんはカミツレさんへと視線を固定したまま、再び唇が開く。
「つまりライモンシティ……タロの生まれ故郷か……」
「あれ、話した事あったっけ……?」
「こう、2人とも同じ匂いがするし」
「さすがにそれはちょっと気持ち悪いかな」
「嗅いだ匂いじゃねえよ。それはもう変態だぞ」
本当かなぁ。カルくんって常識で考えちゃいけないとこあるし。
「街の匂いとか、そういうのだよ」
「なるほど……って、それはやっぱり嗅いでるやつ!」
「嘘だよ。ヤーコンさんと会った時に聞いただけだ」
冗談なのか本気なのか分からないような顔でニヤニヤと笑っている。思わずムキになってムッとしてしまうが、頑張って平常心を保つ。頑張れ、わたし。
「しかし俺ってタロとナンジャモのファンなんだけどさ、カミツレさんも容姿端麗で良いよね。純粋に美人って言葉が似合うよ」
「わたしのファンって言われても」
「それにセクシーだし」
「授業中に何考えてるの?」
私を慕ってくれる男子生徒の鎮圧化を目的としてファンクラブを立てたとは聞いてたけど、詳細不明で教えてくれないし、何してるのかな。
でもカルくんってナンジャモさんのファンなんだ。パルデア地方でジムリーダーをやってる可愛くて明るい有名配信者、だったよね。
それにカミツレさんまで……なーんかちょっと面白くないから、少しだけ意地悪しちゃおうかな。
「会ったばかりで性格も分からないカミツレさんのファンになっちゃうなんて、カルくんは顔だけ良ければ良いって人なの?」
「へえ、タロって自分の顔が可愛いって思ってる人なのか」
「…………」
「そっかー。可愛いもんなー。自覚してるよなー」
ゆ、誘導尋問!
ニヤニヤと意地の悪い笑みを見せながら、流し目でこちらを見ている。
これは絶対に意図してやったやつ! 悔しい!
カルくんは、頭が良い。
頭が良いと言うか、頭の回転が早いって言うか……狡賢いって言うのかな? 勉強はとても不真面目だから。
なんて言うか、本気でポケモンバトルをすると思考の裏を的確に読んでくる。その裏をかこうとすれば更に裏を。裏の裏の裏を──なんて読み出したら支離滅裂な戦い方になって相手の思う壷でボコボコにされちゃう。
脳が半端無く疲れるとか言ってて、わたしに関係する戦いでしか本気出さないのは良くないと思うけど。
そんな片鱗が、こう言う会話の時だけ見え隠れしてるのは何だかなーって思いつつも、カルくんらしいとも言える。
だからわたしは少しだけ頬を膨らませて、不満げな表情をした。
「……いじわる」
その瞬間、なぜかカルくんはスマホロトムを取り出して写真を撮ってくる。
目にも留まらない速さだった。しかも連写。
ちょっと意味が分からない。
「そんな事よりも」
「そんな事扱い?」
「考えたら電気タイプのジムリーダーって美人が多いよなぁ。ナンジャモとかカミツレさんとか」
「……その二人だけじゃないの?」
カルくんの言葉を考えてみるけれど……他の地方のジムリーダーは男の人ばかりだった気がする。わたしが把握してない部分はあると思うけど、凡そは間違ってない筈だ。
「マチスさんとか」
「……カントーの? 男だよ?」
「ジムリーダーと戦う為にゴミ箱をガサゴソ漁る必要があるんだよ。すごいよな」
「ねえ、美人の話だよね?」
「しかも中身はゴミばっかりらしいし。意気揚々と訪れた挑戦者の心を折りにきてるよな」
「わたしの話聞いてる?」
いや聞こえている筈なんだけど聞く気が無いと言うか何と言うか。カルくんは頬杖をつき、視線だけをカミツレさんに向けながらブツブツと喋り掛けてきた。
もう放置していいかな。話を聞いてないなら、わたしはカミツレさんの話に集中しよう。折角の特別講義なんだもん。勿体無いよ。
「ちなみにシンオウだとナタネさんが人気かなぁ。タロとは違う方向性で愛嬌があるからね」
「…………」
「でも俺のイチオシのジムリーダーはやっぱりイッシュだな。詳しくは無いけど一人だけよく知ってるし」
「…………」
「最高に可愛いよな。ヤーコンさん」
「──っ」
あぶない。声を出すところだったよ……。
「ヤーコンさん……貴方のもみあげは素敵だ……」
「……っん……」
「……冗談は兎も角として……この前、タロに内緒でヤーコンさんに会ってきたんだけど」
「え、ちょ」
「一緒にご飯も食べてさ、鉱山の調査にも連れてってくれて。めっちゃ楽しかったよ」
「は、初耳です……!」
さ、さすがに看過出来ないってば!
「『オレ様の可愛い一人娘について語り合える日がくるたぁ……タロの事、宜しく頼むな!』なんて言われてさ。嬉しくて思わず、『はい、僕が幸せにします!』って」
そういうのは良くないと思います! ──なんて思いながら、勢いで頭を叩いてしまったわたしは悪くない、悪くないはず。
声を出さなかったのは幸いか、前回のように注目を集める事は無かった。しかしカミツレさんには一連の行動をバッチリ見られてたみたいで、目が合ってしまう。
パパに告げ口されそうだけど、何か言われたらわたしからもパパに文句を言おう──そう、心に決心したのだった。