喫茶店のモーニング、発祥説は広島にも? 「原爆被害からの復興」の願いが背景に
コーヒーに、パンやサラダが付く喫茶店のモーニングサービス。愛知や岐阜が有名だが、広島市が発祥との説がある。
広島市中区にある創業79年の喫茶店「ルーエぶらじる」には1956年撮影の「モーニングサービス」と書かれた看板の写真が残り、記録としては日本最古の可能性がある。サービス開始の背景には、原爆被害からの復興の願いがあった。(共同通信=井上亜美)
3代目店長の末広朋子さん(45)によると、モーニングは初代店長の祖父、故武次さんが発案し、1955年ごろ初めて提供した。
コーヒーが1杯60円の時代に、卵とパンを付けて70円。食糧難も重なる中、採算度外視のサービスだった。
「祖父は出兵した台湾付近で多くの仲間を失い、1年かけて引き揚げた。原爆が投下され焼け野原になった広島を目の当たりにして、戦争で傷ついた人が前に進めるよう背中を押したかったのではないか」。
当時の利用者には、早朝から行方不明の家族を捜す人や被爆者の治療に当たる病院関係者もいたという。
現在提供されているモーニングは6種類で、1番人気の「Bモーニング」はコーヒー、トースト、サラダ、目玉焼きに日替わりでジュースやゼリーが付いて700円だ。
「発祥」の味を求める人や常連で朝から席が埋まることも。末広さんは「昔ながらの営業を変えることはなく、いろいろな人の居場所になれば」とにこやかに客を出迎える。
おいしいものをリーズナブルに提供する精神は広島市の老舗喫茶店関係者に多くみられる。
コーヒー豆の卸売りなどを78年営む寿屋珈琲飲料社会長の割方光也さん(71)は「戦後の貧しさを乗り越えようとした名残なのでは」と見解を示す。
戦後からモーニングが親しまれてきた地域は広島市以外にもある。一宮モーニング協議会(愛知県一宮市)会長栃倉勲さん(59)は「始まった時期は各地諸説ある」と解説する。
一宮市では戦後、織物産業関係者の商談などで喫茶店が頻繁に利用され、1956年ごろ、店主がコーヒーにゆで卵とピーナツを付けたことが始まりとされている。
他地域との関連は薄いとしつつ「店主のおもてなしの気持ちから始まったのは一緒」と語った。
モーニングサービスの発祥をたどれば地域の歩みが見えてくる。広島のモーニングは戦争の苦みも現在に伝えている。