「アレルギー性鼻炎の治療は、大きく分けて二つあります。一つは症状を和らげる対症療法で、もう一つが免疫療法です。免疫療法の中でも『舌下免疫療法』は、スギ花粉症やダニのアレルギー症状を持つお子さんの将来の負担を減らすことができるため “親御さんからのプレゼント”になると思っています」
岡山県岡山市にある「なかむら耳鼻咽喉科」は、耳や鼻、喉に関するさまざまな疾患や症状に対応し、患者の健康を守り続けてきた。理事長を務める耳鼻咽喉科医・中村毅が特に力を入れているのが「舌下免疫療法」だ。
舌下免疫療法とは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を含む薬を舌の下に毎日投与し、身体にアレルゲンを少しずつ慣れさせ、体質の改善を図る治療法のこと。効果は治療期間に比例して持続し、例えば3年間を目安に継続すれば、治療後も3~6年にわたって効果が続くとされる。
岡山市には小学生までが無料、中学生・高校生等は1割負担(通院のみ)の子ども医療費助成制度がある。そのため、例えば小学校4年生から高校3年生まで9年間治療を継続しても、経済的な負担は限定的で、成人の3割負担2年分ほどに収まる。9年間の治療後、9~18年間効果が持続することを考えれば、ぜひとも選択したい治療法だ。
「私は舌下免疫療法の治療薬に治験段階から携わってきたので、副作用や対処法、効果を熟知しています。だからこそ、高い効果が期待できるこの治療法を多くの患者さんにお伝えしたい。幼少期から治療を始めれば経済的負担が軽いうえに、長期間快適に過ごすことができるのです。当院では待ち時間の短縮など、始めやすい工夫もしているので、気軽に相談してほしいですね」
舌下免疫療法は5歳以上から可能で、アレルゲンに対する抗体量を調べる血液検査は指先から採血する方法も用いている。腕からの採血に比べて痛みが少なく、小さな子どもでも安心して受けられるという。
一方、耳の診察では、患者にベッドに横になってもらうことが特徴だ。診察を怖がって暴れる小さな子どもも、横になることでリラックスし、落ち着いて診察を受けることができる。また、家族はテレビモニターを通して耳の中を見ることができる。診察する側も安定した体勢で耳の中を確認できる利点がある。
「耳が聞こえづらい」と感じる患者に向けた「補聴器外来」にも注力している。診察と検査を行ったうえで補聴器を試用・調整し、機種決定後は「補聴器適合検査」で実際の聞こえ方を確認・調整する。この検査が可能なクリニックは県内でも限られている。ここまでの設備と体制を整えるのは、患者一人ひとりの生活に合った補聴器を提案したいからだ。
「試用してみて満足いただけなければ、補聴器を購入しないという選択も可能です。私が業者との間に入るので、強引に購入を迫られることもありません。高価な買い物ですから、納得いくまで試して判断していただきたいと考えています」
患者の状態を的確に把握するために、まずは丁寧な問診を行うのが中村のスタイルだ。その問診がアレルギー性鼻炎の小学生を救った例もある。
「アレルギー性鼻炎の薬には、“くしゃみや鼻水を抑える薬”と“鼻詰まりに効く薬”があります。ある小学生は別の病院で前者を処方されていました。症状や生活について詳しく尋ねたところ、鼻詰まりで困っていることが分かり、そちらに効く薬を処方しました。後日、『先生の薬が嘘みたいに効きました』とご家族から喜ばれたんです」
症状がすぐに良くならないからといって短期間で医療機関を転々とする「ドクターショッピング」状態の患者に対しても、「なんとしても当院で改善させたい」という強い想いで診療にあたる。
「たくさんの選択肢がある中で、当院を選んで来てくださった以上、『来てよかった』と思っていただきたい。医師は一度に多くの方とは向き合えませんが、目の前にいる患者さんから感謝の言葉を直接受け取れる職業です。そのことにやりがいを感じているからこそ、常に全力で診療しています」
中村は「患者を家族と思って接する」という姿勢も大切にし、そのことを同院の理念にも掲げている。
「人から何か指摘されると、不機嫌になる人もいますよね。だから、たとえ自分が正しいと思っても、相手が他人なら言わずに済ませることもあるでしょう。でも、私は患者さんのことを自分の家族のように思って接しているので、『家族なら伝えるだろう』と思うことは率直に伝えます。そうして、患者さんが適切な治療法を選べるようにしたいんです」
とはいえ、率直に伝えるだけでは受け入れてもらえないこともある。心がけているのは思いやりを込めた表現だ。例えば、聞こえにくいことを認めたがらず、補聴器の装用を拒む高齢の患者には、「もしあなたが私の祖母だったら、なんとしても補聴器を勧めますよ」と話すという。
家族のように思って接する姿勢には、「患者さんにもすべてを話してほしい」という願いも込められている。ドクターショッピングをする人の中には、他院での治療歴を話してくれないケースも多いが、それらを含めた正確な情報があれば、治療の選択肢が広がり、適切な対応がしやすくなるからだ。
さらに、親子連れにも安心して通ってもらえるよう、小児の診察では「病院は怖い場所ではない」と思えるような工夫も心がけている。
「診察を頑張ったお子さんには、『よく頑張ったね』と声をかけてハイタッチすることもあります。うれしそうに応えてくれる子が多く、それを見た親御さんも喜んでくれるんですね。楽しいやりとりを通じて、お子さんの病院嫌いを少しでも和らげられたらと思っています」
中村の幼い頃の夢は、電車の運転手だった。しかし、医師である父親の背中を見て育つうちに、いつしか医師を志すようになった。
「父も耳鼻咽喉科の開業医で、毎日のように患者さんから直接感謝されていました。とてもやりがいを感じていたと思います。その姿を目の当たりにするうちに、医師という仕事に魅力を感じるようになったんです」
耳鼻咽喉科医に決めたのも、父親の影響だ。
「父の姿から、耳鼻咽喉科医としての生活がある程度想像できたからです。夜は一緒に野球中継を観たり、休日に遊びに出かけたりといった家族との時間が持てる。父が私にしてくれたように、家族との楽しい思い出を自分の子どもにも残してあげたい。そう思って、この診療科を選びました」
医学部を卒業した中村は、都内にある大学病院の耳鼻咽喉科で、研修医としてキャリアをスタート。その後、地域医療への従事や大学病院での診療・教育まで幅広く経験を積みながら、父親と同じ開業医になることを見据えていた。
千葉県の大学病院で勤務していた2011年、東日本大震災が発生する。それを機に、幼い子どもの安全を考え、家族で妻の実家がある岡山県へ移住。そして2012年に「なかむら耳鼻咽喉科」を開院すると、主な利用者である親子連れの患者も利用しやすい予約システムを導入した。
「開院当初から、診療日時を事前に指定できる『時間予約』システムを導入しています。当時は『順番予約』が主流でしたが、それだと正確な診察時間が読めず、多くの患者さんが困っていたんです。特に親子連れだと、早朝の順番取りや待ち時間の負担が大きくなります。そこで時間予約を導入し、より利用しやすいクリニックを目指しました」
今後、中村が取り組みたいのは、舌下免疫療法や補聴器外来を中心とした患者が、より気軽に来院できる環境づくりだ。
その一環として、予約システムのさらなる改善を進めている。具体的には、Web問診システムやメッセージアプリ「LINE」と連携させ、順番が近づくと通知が届く機能を導入予定だ。
ほかにも、公式Webサイト上に親しみやすいキャラクター「くまっP」を新たに制作し、活用。情報を分かりやすく伝えるだけではなく、来院の心理的なハードルを下げようとしている。
「例えば、“くまっPの部屋”というページを制作し、くまっPに院内案内や診察の流れなどを説明させたいと考えています。『診察室に呼ばれたら、ここに荷物を置いて、このベッドで診察を受けてね』といった内容をキャラクターが伝えることで、患者さんはスムーズに理解でき、安心感も覚えるはずです」
また、院内での滞在時間の短縮にも「くまっP」の活用を見込む。中村が丁寧に問診するほど診察時間が延びて、患者の待ち時間も長くなる。すると、患者の話したいという気持ちが高まり、診察がさらに長引くという流れが生まれやすい。
そこで、必要な情報は事前に把握しておき、診察時に不足分を聞くことで効率化を図る。そのために、「伝えたいことがあれば、まずは受付でお知らせくださいね」と、くまっPを通じてやんわりとお願いする予定だ。こうした工夫を重ね、患者とクリニックが連携して、待ち時間の短縮に取り組んでいく。
耳鼻咽喉科医として地域の健康を支えてきた中村は、専門の枠にとらわれず、患者とその家族の力になりたいと考えている。現在、地元の医師会「御津医師会」の副会長を務めており、在宅医療に熱心に取り組む医師など多くの医師と共に、地域に密着した医療に貢献している。
「舌下免疫療法や難聴などで来院される方の中には、ご家族の看取りなどに悩んでおられる方がいるかもしれません。そのときは、私に遠慮なくご相談ください。耳鼻咽喉科医としてはもちろん、地域をよく知る医師として皆さんのお力になりたいと思っています」
日本医科大学医学部卒業後、同大学附属病院耳鼻咽喉科研修医、助手。山形県北村山公立病院に派遣。日本医科大学千葉北総病院耳鼻咽喉科では助教、医局長を歴任。2012年「なかむら耳鼻咽喉科」を開院、地域医療に貢献している。
資格
日本耳鼻咽喉科学会専門医
日本気管食道科学会専門医
補聴器適合判定医
補聴器相談医
音声言語機能等判定医
所属学会
日本耳鼻咽喉科学会
日本気管食道科学会
日本アレルギー学会
日本耳科学会
日本音声言語学会
インタビュー・執筆:流石香織/編集:室井佳子/校正:藤村希和
撮影:樋上 孝典
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