ある日、授業の終えた昼下がり。
上級生にツラ貸せと連れられて辞めた部活の部室に訪れた。
帰りてえ~。
が、無視すると後からもっと面倒くさくなるし、バイトの日じゃねえ分だけマシなんだよな。
美少女からの誘いだからまあいいかと思ってきたけど、これで強面の野郎が出てきたらリアルファイトも辞さんぞ。
そのパターンならどうせファイトだろうが。
「ここやわ」
そう案内されたのは小さな体育館だった。
授業で使っている普段の体育館より二回りぐらい小さいが、それでも十分でっかい。
で、少し観察して気づいた。
これLife用の室内バトルフィールドじゃないか?
「ここ……プレハブ小屋じゃなかったっけ? Life部の」
半年以上前だが、少しの間通った場所だったのだ。
多分間違えてないはず。
「うん? あ~、元は部員やったんやっけ?」
「ですけど」
ついでに言うなら君みたいな美少女の顔も知らん。
Life部とかいわれてたけど、僕が辞めたあとに入ってきた部員なんだろうか。
「ほな知らんか。Life部は移動になったんやわ。おっきな部室で、あっちの部室棟に移ったんよ」
聞くと、今まで使ってたのはプレハブ小屋は老朽化も進んでいたから取り壊しになったという。
それで大会で結果を出したから大きな部室に割り当てて貰って、部費も増えたんだとか。
そういえばなんか工事とかしてたな。
ここ、1年の教室の校舎棟とは正反対だったし、特に興味もなかったから全然気づいてなかったんだが……あとここ、成果主義だったのか。
公立なのによく予算がでたなぁ。
Lifeのことだから緩いのかもしれないけど。
いやでも部室じゃないのに、なんでここに?
「連れてきたでー」
そんな考え事をしている間に、糸目の先輩がドアを開けて入っていく。
僕も付いて入っていった。
「来たか」
二面コートになっている屋内バトルフィールドの真ん中に、イケメンが立っていた。
金髪の凛々しい顔立ちというか美形な顔。
背も僕と同じぐらいなのに背筋が伸びているのと造形が整っている細い腕で、なんていうかこうイケメンとしか言いようがない。
これが顔面偏差値ってやつか。
なんか薔薇が背景に見えてきたような……ん?
あれ? スカートってことは女?
「ご苦労様、リナ。悪いね、使い走りなんてさせてしまって」
「モヤシが無理するんやないわ。椅子ぐらい出しなはれ」
ツカツカと入っていって、糸目の先輩と話すイケメン女子。
「神聖なバトルスペースのど真ん中でパイプ椅子に座るほど僕には度胸はないよ」
「また入院生活されたら迷惑なだけやわ」
あらまあ仲がいいことですわね。
「ごめんごめん」
んーよくみると、ちゃんと胸あるな。うん。女性か。
しかし、銀髪のうおでっっっな天儀さんといい、金髪イケメンな王子様みたいな美女に、あと少し小柄だけど赤毛で糸目に八重歯の京都弁な女子って……
僕がいた時、こんな豪華じゃなかったんですけど。
女子は少なかったし、野郎とかなんて精々俺と同じぐらいの地味メンばかりだったじゃん。
もしや別の新しい同名なだけで真・Life部とかが出来てた?
「やあ。君が茂札普夫くん?」
「はい」
「ぼくは
部長?
前に入っていた時は……そういえばあの三年眼鏡、確か副部長っていってたな。
なんか入院云々いってたから最近復帰したってことか?
「ジグはんは留年しとるからほんまは2つ上やで」
「ちょっとちょっと、いきなり何を言ってるのさ」
「こういうのは最初に言わんとあかんやろ」
と、なんかわちゃわちゃしだした。
仲がいいんですわね~と思うし、好きにすればいいんじゃないかなと思う。
思うのだけど、とりあえず僕のいないところで勝手にやってほしい。
正確に言うと僕に用事がない時にだったら別に全然いいんだけど、要件はなんなんだろう。ファイトか? もしやファイトか? まさかファイトか?
「失礼したね」
一区切りついたのか、こほんと湊手嶋さんは咳払いをして。
「こんなところに呼び出して迷惑だったと思う、まず申し訳ない」
「いえいえ。どうせ暇でしたから」
平日大会は逃げはしないのだ。
……今から全力で自転車走らせたら間に合うか? 間に合わないかなぁ。
ちょっと出たかったなぁ、新しいデッキ組んだばかりだったし。
「それで何の要件なんでしょうか。Life部を辞めたのはもうかなり前だし、今更ケジメ取れとかヤキ入れ出すならファイトにて迎撃しますが」
「……どこのヤクザだい?」
「……こっわ」
ありそうなラインを訪ねたら、なんか引かれた。
違うのか?
そっか……ちょっと前まで人をカード化させようとしたり、ボロクズにしようとしたり、人体実験でバレたら口封じしにきそうな奴らがいたけど、さすがにそういうことはないか。
そうだよね、うん、普通の学校だもんな。
「もちろんそんな要件じゃない。聞きたいことがあるだけだ」
「聞きたいこと?」
「
「お昼ぐらいにかな。君が1階の廊下でうちのドロシーに脅す……ああ、この言い方だと誤解を招くな。強い言葉をぶつけていたという証言があってね、それでドロシーが泣いてしまった」
「と、まあ話を聞いているんやけど?」
二人の言葉、尋問に、自分の視界が勝手に狭まる。
「
キレだしそうな気持ちを抑えて、息をゆっくりと吐く。
「
まだ手袋を嵌めている右手をゆっくり握りしめる。
「
まあどうせ。
――俺の意見なんざ聞くことはないだろうが。
「ふむ。わかった」
「だねえ。やっぱり後日確認したほうがよさげやわな」
ん?
「えっ」
「どうしたんだい?」
「あ、いや……お……僕の話を信じるんですか?」
「? 違うんだろう? 違うのかい?」
「あ、いや違くないんですけど。あ、いや、この場合違うのか?」
「まあまあ、落ち着きんしゃい。水飲むか? ウォーターサーバーあるわ」
「なにそれ豪華だ」
「せやろ? そんな金あるなら最初から出せつう話や」
ちょっと頭が混乱したので、屋内バトルフィールドの隅っこに設置されているウォーターサーバーから水を飲んだ。
キンキンに冷えていたし、お湯も出せるやつだった。
Life部への期待が露骨すぎてちょっと引いた。
教室にエアコン配備とかしてくれませんかねえ、金があるなら。
「では少し落ち着いたところで話をまとめよう。茂札くん、君はドロシーに脅しをしたわけじゃないんだね?」
「はい。まあちょっと……色々あったのでトゲはあったと思いますが、変なことはしてないです」
ここらへんはしっかりと言う。
もしも目線とかだけでセクハラに感じるとか、傷ついたとか言われたらさすがに反論する。
あんなでけえ胸部装甲、もっと分厚いハードスリーブで包んでおけとしか言いようがない。
「それならなんで泣いたん?」
「なんか謝りたかったみたいですね」
知らんけど。
いやこの考え方は酷いか。
でも終わったことだとしたい。本当に。マジで。
「謝りたいって……部活辞めたトラブルってやつ?」
糸目の先輩が後ろに手を組んで、のびをしている。
この態度……
「あの……Life部の連中から聞いてないんです? そのあたりの経緯」
もしかして全然知らないのか?
それとも。
「ある程度は聞いたが、一方的な話過ぎてね」
「ドアっちに聞こうにもちょっとショック受けてるし、少し落ち着いてから確認はするさかい」
完全に部外者の、第三者の態度だった。
なるほど。
「彼らは”
「個人で全国三連覇をした伝説の生徒会長のデッキとかなぁ」
「まったく。デッキのおかげで勝っただの、ドアが選ばれたファイターだの天才だの、彼女がどれだけ努力していたのかも知らないで」
「ちやほや羨む暇があったらシャッフルの一つでも練習しとればええのに、みそっかす共が」
「称賛されるべき成果は出しているが、神聖視していいものじゃないだろう。あの子はまだ一年生なんだぞ」
なんだろう。
「……」
なんというか。
こう。
あの子はいい先輩を持ったんだなぁと思ってしまった。
「ああ、すまない。またちょっと話がずれた。すまないね」
「ああ、いえ。いいんです、Life部の連中は……変わってないみたいなんで」
Life部。
俺が所属していた時の彼ら、彼女たちははっきりいうとエンジョイ勢だった。
ただの公立で、Lifeが好きで、けどひたすら強くなりたいというわけじゃない。
どこにでもいる普通のカジュアルプレイヤーの部活だった。
悪い奴らではなかった。
普通の学生だった。
だから俺も入学して入って、普通にエンジョイしていた。
あの頃の俺はマグラもどきのカードも処分してたから、共鳴率もなくなっていた。
だからどんなデッキでも、カードでも、なんていうか事故もいい引きも引ける、
そんなに強くも、デッキの拘りもなく、なんとなくこういうのが強いのかも、向いているのかもと遊ぶだけのLife部は心地よかった。
まだMeeKingでバイトもしていなくて、ガチでやりあいたいなら平日大会とかやってるカードショップに行けばよかったから。
趣味として遊ぶにはよかったんだ。
学生の大会なんかがあるってきいて、それで俺もLife部だと強いほうだって扱われてたから、もしかしたら二回戦ぐらいは抜けられるんじゃないかもな。
そんなとても志の低い話をしていた。
していたんだ。楽しく。
それで昔は全国で優勝していた人もいたんだぞ、とか過去の栄光を語る上級生に怒られたりして、でも今は弱いじゃないすかとか笑っていて。
笑っていたんだ。
ただの学生だったんだからそれでよかったんだ。
変わったのはあいつが、彼女が、見学に来てから。
あの中学生の頃から美人で有名だった天儀ドロシーが、完全な初心者でLife部にやってきて。
それで。
それで。
「貴女たちは普通なんですね」
「キャラは濃いとはよー言われるけど、普通とは初めてやで」
「すまない。私が入院している間、色々と迷惑をかけてしまっていたようだ」
「あ、いえいえそんなことはあったりしますけど、湊手嶋さんのせいじゃないです」
ペコリと湊手嶋さんに頭を下げられて、慌てて止める。
「すまない。今の時期、ドロシーの周りは色々騒がしくてね」
「まさかのエレシウスの優勝やさかい。文字通り夢みたいなもんやわ、
「奇跡……などというにはぼくたちとデッキの力を信じないことになるな。とはいえ本当に法外の結果だ、おかげで君一人に事情を確認するのにも手間がかかった」
手間?
上級生がいきなり下級生のクラスに来ただけじゃ……?
「単刀直入に言うとだね。ここに君を呼び出したのは、Life部の部員たちにはまだ伝えていない」
「このバトルスペースの管理をしてるのは顧問と部長のジグなんや」
「つまり、どういうことです?」
「うちのドロシーを脅しつけて泣かした元部員に、部長のぼくとエースのリナが話をつけた」
ん?
「――という建前を信じさせるための流れだよ」
ん??
ん~~~~?
「……えーと……あ、そういうことですか? もしかして僕を守るために」
「せやで。うちとジグが直々に呼び出して、ヤキをいれた。
「幸か不幸か、今ぼくたちの名前は強いからね。ぼくらが話をつけたといえば、他の連中が君にちょっかいをかけることはないだろう」
なるほど。
あーなるほど。
つまり偉いやつがもうヤキをいれたから、これ以上の追撃は他の下っ端とかには出来ない。
なにかするようなら彼女たちの顔に泥を塗ることになる、そういうことか?
頭が回る話だなぁ。
しかもそういうことをする自分からきちんと事情を通してくれるなんて……この二人、めっちゃいい子なのでは?
顔がよくて、性格までよくて、あと声もなんか凛々しかったり、可愛かったりするのはなんていうか凄いわな。
これが(推定)ホビアニメ世界の力か!
「――と、ぼくたちからは提案したい一芝居なんだけど、どうだろうか? 少し君の評判は悪くなる、なるかもしれないが、そこはぼくたちが出来るだけフォローするし」
「もし女なんかにファイトで負けたなんて評判が嫌なら、うちらがアホみたいに強いってことで有象無象の一人にまで暴れてやるさかい」
申し訳無さそうな顔をする湊手嶋さんに、シャンシャンと手を鳴らす羽島さん。
なんていうか本当にいい子なんだなぁ。
多分これ、天儀さんとかを守る動きの一つなんだろうなぁ。
まだ学生だっていうのに、色々駆け回って、有名人になるのも大変だなと思う。
ここまで説明してもらって受けない奴はむしろ悪いやつだろ。
「おっけーです。それでいきましょう」
「……そうか。すまないね」
「いや、いいです。僕もうっかり天儀さんに遭遇してしまったのが元々の原因ですから」
「…………一応確認したいんだが、君は、その……ドロシーには接触する気はないんだね?」
「ないです」
「…………ドロシーとちゃんと話をしたいというならぼくから改めて場を設ける事も出来るが」
「ないです」
丁寧に確認をしてくれるのはありがたいが、僕にそのつもりはない。
「僕と関わっても、天儀さんが不幸になるだけですから」
渡り廊下で出会った時の顔を思い出す。
あの子の顔は辛そうだった。
そりゃそうだろ。
それも傷跡が残るぐらいの傷。
それを受けた張本人の顔とか見るだけで思い出してしまって辛いに決まってる。
謝罪をしたいっていってたが、もう受けているのだ。
――あの怪我をした時にたくさん謝罪は受けた。
――俺は気にしなくていいと伝えた。
話はそれで終わりだ。
その後に、難癖みたいに責められて部活を辞めたが、それも俺の選択だ。
あそこに無理していたところで、俺が苦痛を背負うだけだったから辞めたんだ。
むしろ傷ついてるだろう天儀さんを放って逃げた俺のほうが酷いやつだ。
あの子はまだ子供だったのに。
めんどくせえと投げ捨てたのだ。
俺なら半年、一年もしないでもう忘れられるから、もう過ぎたことだろと放置して……
まさかあんな引きずってるなんて夢にも思ってなかった。
だから。
「天儀さんには、そちらから気にしてない。僕のことはいなかったもんだと忘れてくれと言っておいてください」
だからといっていまさらしゃしゃり出るわけにもいかない。
天儀ドロシーがエレウシスの優勝者に、そのチャンピオンになったならなおさらだ。
汚点になるような顔は出てこないに限る。
…………………………………いや、この弱みに付け込んだ今からサインとか貰っておけば将来高く売れるか?
「中々ヘビーな注文を言ってくれるね」
おっと、少し邪念に囚われていた。
我ながらないな、ゲスの発想だったわ。
「それぐらいはしてもらわないとこちらもしんどいですから」
本当なら手紙か、あるいは電話でもかけて話せばいいんだろうけど。
そこまで頑張れる気力がない。
むしろそこまでされる天儀さんのほうが迷惑だろ。
所詮三日ぐらいのほぼ他人だぞ。
同じ中学出身ぐらいしか繋がりがないし。
「わかった。ではそれでいこう」
「それじゃファイトやな」
呆れたような顔でため息を吐く湊手嶋さんの横で、羽島さんが左手に腕輪を嵌めた。
「えっ、ファイト?」
「せやで。ファイトや、言葉で終わらせた~なんて信用ないやろ? だからファイトや。君、デッキもってるやろ」
まあ確かに、多少はやりあったっていう証拠があったほうがいいか。
しかしなぁ、
「……いいんですか? 僕、ファイトなら手を抜きませんけど」
バトルするなら真剣勝負。
教導するにしても相手がどれだけの腕なのか知らないし、困った。
今持ってきてるのは平日大会用のデッキだからカジュアルではあるが、弱いデッキじゃないんだよなぁ。
「はん、自慢やけど。うちらはエレウシス優勝したチームやで、勝つ気か?」
「負けるために組まれるデッキはないし、相性で無理ゲーじゃなければ勝つつもりでやるさ」
「やれやれノリノリだな」
「そういうジグも少しは期待してたやろ」
「ドロシー曰く、必要なテクニックは全てあんたから教わった。
「ぼくら以外の部員全員よりも強い、なんて聞かされていたらね?」
「弱点教えるためにメタデッキで倒しただけなんだけど、それは」
その後のコピーデッキでやり合うまではいけなかったけど。
「まあファイトですね。承知しました」
教室から持ってきていた鞄から、デッキを
「受けて立つ」
平日大会の分だ。
相手は全国最強のチーム、そのファイター。
相手にとって不足はない!
「じゃ、このテーブル借りますね」
「まてまてまて、なんで折りたたみテーブルを組み立て始めている!」
「え、ファイトするんじゃあ」
「バトルボードに決まってるやろ! フィールドあるさかい!」
「テーブルのほうがたくさんやれない? あとボードはLife部でも2つしなかったような」
「予算増えたから買えたよ!」
「うちらのは自前で買ったけどなぁ」
「わりと高いのに、すごくな!」
「誕生日プレゼントでね」
「うちはバイトやわぁ」
とまあ、ぐだぐだなスタートだった。
「話せばわかる! 話せば――」
――弁解は罪である