俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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今回も新しいファンアートをいただきましたので紹介させていただきます


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かっこいいモブくんのカットイン!


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日本支部社長のかっこいいカットイン!

本当にありがとうございます!



レガシー編開幕です



レガシー編(第二期 2~3クール)
二十七話 ドローとは、デッキからカードを引くことである


 

 平和である。

 

 メガバベルの日本支部におけるビルが不思議なことに倒壊した日から一ヶ月ほど過ぎた。

 連日流れ続けていたメガバベル社のニュースだの、人体実験の疑惑だのが殆ど見かけなくなったこの頃。

 俺がバイトに入っているMeeKingは平和なものである。

 ドアが壊れたり、店の中がなんか荒れたりしたが、業者の手にかかり新しい頑丈なものになったし、店の模様替えも少しずつ進めている。

 というのも店長が近所の所有者のいない小さめの土地を購入して、新しいガレージを建てることにしたのだ。

 今までの店の部分で最新レギュレーションの在庫販売と展示、それとバトルスペースなどの交流場所に優先。

 かなりのスペースを取っていたカードの在庫類とかをガレージに移して店を広くすることにしたらしい。

 

「今までは小さくやっていくつもりだったからなんとかなったけど、お客様が増えるようなら少し気合をいれないとね」

 

 あと、在庫のリストもかなり見当がつくようになったしとのことだ。

 ちまちま棚卸しとカードのデータ入力をしていた僕の半年以上の犠牲が報われるというものだ。

 あのストレージの整理も三人がかりなら多分一年以内には終わるだろう、多分。

 いや本当に多いんだよな、あのストレージというかほぼ店長の私物に等しいカードの山。

 山積みになったトレカ保存専用の段ボール箱だけでも2~30個あったわ。

 さらに同じぐらいの規模で何個も借りてるトランクルームに保管してるとか、さらっと聞いた時は宇宙猫になった。いややるべき作業を考えると現場猫か?

 一人であんなそこそこのお店経営してることも踏まえてやはり店長はセレブのお嬢様なんじゃないだろうか……

 

 いや元プロだっていうからそんなものなのか?

 それらをガレージが完成次第、移していって同時に棚卸しをして、販売在庫のデータリストにいれていくって……

 三年、いや五年ぐらいくれ。

 やってられるか! 正社員でも増やしてそいつに引き継ぎしろ!

 専用の業者とかいるだろう、そういう仕事の!

 え、いるけど信用出来るかわからないって? そりゃあまあ何十、何百万もしかねないカードが山のようにあったら目も眩みやすいっすね! 今後もここで、進路決めとか受験で辞めるまでは働きたい僕みたいなのじゃなければ!

 畜生!

 バイトが一人増えたからって、今までのスペースでも二人でやっててそこそこ忙しかったのに規模増えたら忙しいに決まってんだろ!

 

 あ、あとこんななんか色々変わったのは店長がセレブお嬢様(断定)なのもあるが、臨時収入が入ったからだ。

 

 僕がぶっ倒した闇のカード使いというか闇ファイターか? の、プロフェッサーとかいうやつが賞金首だったらしい。

 

 その額、実に1億円。

 それも生死を問わずに最低額でそれ。

 税金で色々差っ引かれるだろうけど、すんごいお金が入ったらしい。

 店長が搬送された先の病院で駆けつけた警察にそんなことをいわれて、振り込まれることになったらしい。

 

 あ、その教授を斃したのは店長ってことにしておいてもらった。もちろん賞金も店長宛てになる。

 

 もちろん店長は僕がエニグマでコンボ殺したのを知っているから困惑されたし、辞退しようとしたのだが受け取ってもらうことにした。

 第一に僕はまだ今生では未成年の学生だ。

 こんな金額入ったら両親は全然悪くないし普通の人だからめちゃくちゃ困るだろうし、説明するのが難しい。

 次に言うと、なんか有名人だったらしい教授を通りすがりのバイトの僕がぶっ倒したって誰が信じるんだ問題がある。

 エニグマのリストを公開しろとかいわれたら、まだ布教もし終えてないのに魔女狩りされても困る。あれ動き方がキメてる自分がいうのもなんだけどキモいし、右手がピカピカしてない一般僕でも回せるから普通なんだが、この世界だと普通じゃない扱いをされるだろう。

 バイト入ったばかりの時に、テーブルでだが、複数コードをぶち込まれた店長が宇宙を見る雌猫になってたし。

 いや1つずつコンボギミックを説明したり、カードを並べて説明していったらなんとなく……なんとなく? ゆっくり理解していってくれたけど、本当に納得がいってない顔だったんだよね。

 

「ま、魔王……?」

 

 とかいわれたんだが、ひどくね?

 だぁれが魔王ですか! 父さん、魔王が来るよとか言われるのか!

 世の中もっとキモいデッキはあるよ、ヤチとかヤチとかヤチコンとか、自分のデッキの枚数とシナジーと相手のデッキのリスト一目で完全暗記する女狐とか。いや今生じゃねえな、世の中といったが。 いやでもなんか変なこと聞かれたんだよな。

 

 羆嵐にあったみたいな辻ファイトされたことないか? とかなんとか。

 

 羆嵐ってなんだよ。

 ヒグマとか出るのか。

 真正面からならともかく不意打ちされたら死ぬぞ、タフネスは人間だから2もないもん。先手で殴らんと勝てん。

 

 話がズレた。

 ともかくもエニグマは危険なんだ。完全な形でリストを布教するのはまあまず無理だ。そもそも必須カード多いし、全部揃えるのまだ出来ていないし、獅子の心臓パンチしたいんだが発行されてないんだよなぁ、あいつ。誰か除外枚数分だけパワーとタフネスが上がるクリーチャーくんくれ。ステはX/Xでいいぞ。

 だから1つずつ使われるギミックのコンボを使ったデッキを用意していく。

 別々のデッキを用意して、そのコンボを使うことを覚えたり、使われて死んだりするのが広まっていったら、それらを混ぜたツインエンジンのデッキを用意する。

 次はトライ、次はフォース。そうやって少しずつ増やしていき、コンボの楽しみと、それぞれシナジーがある動きに気づいて、脳汁をキメてくれれば成功だ。

 エニグマへの適性者が増える。

 ウルトラになる参加者が増える。

 同胞が増える。

 俺が研究しなくても勝手に研究してくれるやつが出来る。

 コードが増える。

 見せびらかしたくてリストを流す奴が出来る。

 エニグマ使いが増える。

 

 完璧だ……

 

 エニグマはキメるのも楽しいんだけど、エニグマ同士で殺し合うのも、エニグマを頑張ってメインローター止めてぶっ壊すのも楽しいんだよな。

 

 完璧だ……

 

 まあそんな沢山デッキ作る金がねえんだけど! 時間もないんだけど!! 何年かかるかなー! MeeKingでレンタルデッキサービスでも始めて布教するにしてもレンタルデッキとかストラク文化がぬぇー! 畜生が!!

 また思考がずれた。

 まあそういうわけで教授を斃したのなら、元プロの店長なら誰もが納得するだろうことでお願いしておいた。

 賞金分に関しては、まあバイト代を上げてくれってことで。あと幾つか確認を取った上で在庫のカードを貰った。

 それでとんとんということになった。

 

 それとこの一月で変わったことといえば……お店にバイトが一人増えました。

 美少女のサレン=アンダーちゃんです。

 カードショップなんて8割力仕事メインだから男手が増えてほしかったんだけどなぁ!

 

 まあプライベートの変化はこんなもんで。

 

 僕の非プライベート。

 学生生活は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげえよな、うちのLife部。大会優勝だってよ」

 

「エレウシスとかだっけ? マジですげえよ」

 

「まさかなぁ、うちみてえな学校でなぁ、高校最強か~」

 

「馬鹿だな、高校生最強だろ、あのド――」

 

 どうでもいいことだが、うちの高校が大きな大会で優勝したらしい。

 学食のパンを買う帰りに、そんな話題がどこもかしもから聞こえた。

 

 エレウシス……

 

 この世界の甲子園のようなものらしい。

 エレウシスとかいう街で行われる学生最強のファイターチームを決める大会だとか。

 この一月の間に行われていて、そこにうちのLife部が出て優勝した。

 凄いことだ。

 校舎の壁に垂れ幕が降りていて知ったことだけど。

 ここ占光(せんこう)高校は特に代わり映えのしない一般公立高校だし、部活動はどっちかというと運動部のほうが強いぐらいしかなかった。

 Life部も全国出場なんてしたのはとっくの昔の話で、ここ数年は予選敗退が当たり前だった。

 だからまあ勝つのは騒がれるだろう。

 

「ふぅん」

 

 ま、どうでもいいんだけど。

 

 階段の踊り場を占有するお喋りたちに引き返し、回り道。

 教室で食べようと思ったけど、庭でパンでも齧るか。

 

 長い渡り廊下を進んでいって。

 

「あっ」

 

 あまり会いたくない顔を見た。

 

「……」

 

 気づかれてない。

 気づかれてないかな? 無言で横を通っていけばいけるか?

 

「あの」

 

 いや……無理か。

 思いっきりこっち見てるし。

 

「えっと……」

 

 

「優勝おめでとう。天儀さん」

 

 

 僕はそっと必要なことを目の前の少女――天儀ドロシーに告げた。

 社交辞令は大事だ。

 

「……」

 

 もういっていいかな?

 

「あ、ありがとう」

 

 駄目か?

 失礼だよなぁ。

 

「それじゃ」

 

 華麗に去るぜ、僕はよぉ。

 

「まって!」

 

 駄目か!

 ため息つきたい気分をぐっと飲み込んで、振り返る。

 

「……なにか?」

 

「あ、あの……」

 

 気まずい空気。

 ゆっくりと言葉を選んでそうな目の前の少女――といっても同級生で、別クラスの子を見る。

 

 天儀ドロシー。美少女だ。

 

 結わえながらも腰近くまで伸ばされた銀髪、サラサラしてる。

 それにも負けないぐらい白い肌に、異国の血が入っているだろう整えられた顔つき。

 背丈は僕よりも目線が少し下ぐらいで女子としては背が高めだ。

 真っ直ぐと、普段はピンと立った背筋で歩く姿は非常に目立つ。

 

 それだけでもマジで美少女としかいいようがない。

 言いようがないんだが。

 

「お礼を言いたくて」

 

 そのね。

 目の前で話してるとね。

 

 でっっ!

 

 かっっ!

 

 いのが!

 

 目と鼻の斜め下にあるんですよ。

 凸ってるんだよ。

 うちの高校の制服、こんな拡張性あったの? ってレベルで拷問受けてるのが見えるんよ。

 さすが推定ホビーアニメとかだな、ファッションセンスはリアリティを凌駕してやがる……!

 

「お礼って?」

 

 ありがとうございます! とでも言えばいいのか!

 何の気まずさも過去もなくて、彼女とかだったら絶対言わせてほしいレベルで言ってるぞ、おい!!

 

 しかし、失礼だから出来るだけ目線は合わせん。

 上を見る。ぐっと我慢して上を見る、天井に、あ……蛍光灯に埃。

 

「エレウシスで、その、勝てたお礼です」

 

「?」

 

 言われた言葉に、目線を戻す。

 

「僕はなにもしていないよ」

 

 いや本当に心当たりがない。

 

「そんなことはないです。その……Life、教えてくれたから」

 

 天儀さんの上目遣いの言葉に、少しだけ記憶を探る。

 が、心当たりがない。

 

「教えたって、最初の頃だけだよ。基本の数日ぐらいだし」

 

 3日もなかったんじゃないだろうか。

 Life部の体験入部で、ルールを教えて、遊びかたを教えたぐらいで。

 

 それで結局中断してしまった。

 

 殆ど追い出されたようなもんとはいえ自分から辞めたのだから、自分から見捨てたようなもんだ。

 

「それだけでなにかの役に立ったなんて言えない。優勝したのは君の力と、チームメイトの力だろ」

 

 エレウシスを優勝したチームに、天儀さんがいるのは聞こえていた。

 だから凄いもんだと驚いたし、感心した。

 

 だけどそれだけだ。

 

 もう終わった話だし、嫉妬とかそういうのもない。

 

Dor(ドア)の力じゃありません。リナやジグのおかげです。でも、その御礼とあと謝罪をしたくて」

 

 そういって天儀さんの目線が動く。

 動いた先は……ああ。

 

「なんともないよ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう言う。

 

「あの、本当にごめんなさい。ドアのデッキで」

 

「大丈夫。別に怪我してるわけじゃないから。これ、ちょっと見苦しいから嵌めてるだけだし」

 

 学校だと色々聞かれたり、説明するのがしんどいから嵌めているだけで。

 家だともう普通に外してるし。

 

「でも」

 

「なんともないから大丈夫。もう()()()()()()()()()()()()()()

 

 はっきりと誤解されないように言う。

 関わるつもりはないのだ。

 ああ、全く本当に本当に、めんどくせえから。

 

 めんどくせえ()()()()()()なんて関わりたくもない。

 

「以上。終わりでいい?」

 

「え、その」

 

「終わったことだから。そんじゃ」

 

 軽く頭を下げて、早足で逃げる。

 なにか声を掛けられた気がするが、聞こえない。聞こえない。

 

 そうして結局回り道に回り道をして、自分の教室でパンをもそもそ食った。

 コーヒー牛乳も一緒に買っておけばよかったなと思った。

 

 それで終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だと思ったんだけどなぁ。

 

「なぁなぁ、君が茂札普夫くんか?」

 

「は?」

 

 放課後。

 週に一度の平日大会(お楽しみ)のためのデッキを、シャッフルついでに机で確認していた時だった。

 

 知らない女子に声をかけられた。

 しかも上級生の……二年か?

 

「誰です?」

 

 

 

「え、嘘、あれって」

 

「Life部の……」

 

「え、なになに?」

 

 

 

 ざわつく同級生の声が解説してくれているが、悪目立ちしてる。

 それもそうか。

 普通一年の教室に、上級生がこないもんな。

 

「ちょっとここだと場所が悪いみたいやね~、少し付き合うてくれへん?」

 

「だから誰だよ」

 

「うちは羽島(ハジマ)リナ。二年や」

 

 ニコニコと、いや、ニヤニヤと。

 糸目のコッテコテの京都キャラみたいな美女は、シャランと鈴のついた手首を鳴らして。

 

 

「ちょっと顔貸してくれへん?」

 

 

 といった。

 

 

 






「前を見よと言うが、お前は我の後ろを見ている。その時点で追いつけぬと知れ」


                       ――対峙する者ディダン(対顔合わせより)

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