俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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これにてメガバベル編完結です




二十六話 プレイするとは、使用カードを宣言することである

 

 

 

 勝った。

 勝った!

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 胸が痛い。

 肺が割れそうなぐらいに痛い。

 必死に息をする、頭がふらついて、立っていられない。

 

≪ユウキ、大丈夫?≫

 

「うん……」

 

 崩れそうになったところを、実体化していたアリーシャが支えてくれた。

 なんか若くなったせいか、目線が近くなっちゃった。

 

 ……胸は変わってないけど。

 

 いやよくみるとハイヒール履いてて、羽根がないからそう見えるだけであまり変わってな。

 

≪なんかある?≫

 

「なにもないよ?」

 

 なんか冷たい声に、慌てて否定する。

 

「それよりサレンさんと、そうだあの子もなんとか」

 

 倒れているサレンさんを起こして、あと地下での装置を止める方法を聞かないと……

 

 

 なにか破裂するような音がした。

 

 

「え」 

 

 音がした方角に目を向ける。

 私たちが斃した少女の傍に、誰かが立っていた。

 それは今まで部屋の隅で隠れていたはずの秘書さんで、その手には白い煙の上がる……

 

「な、なにを!?」

 

 拳銃だった。

 漫画とかテレビでしか見たことがないような真っ黒で、大きな拳銃だった。

 

 

「残念です。子供に負けるなど」

 

 

 それであの子を撃った。

 

「なにをしてるの!? 貴方の、社長なんでしょ?」

 

「社長? こんなもの、メガバベルにおけるハグルマ、換えの利く備品に過ぎません。それも失敗作の」

 

 淡々と、聞いたこともないぐらいに冷たい声で秘書の女性は告げて、手をこっちに――

 

≪危ない!≫

 

 銃声。

 

「きゃあ!?」

 

 とっさに手を突き出す。

 それが弾かれたように痛くて、すぐにアリーシャの背中が見えた。

 何度も銃声。

 

「ちっ。精霊の干渉か、メイルも厚い」

 

≪真明裁判たるファイトに負けたのに、武器を振るうなんて……恥を知れ!≫

 

「敗北したのはこの失敗作です、私は関係していません」

 

≪屁理屈を!≫

 

 アリーシャが護ってくれている。

 けれど、怖い。

 なんで。

 なんでファイトに頑張って、必死に頑張って勝ったのにこんな……

 

「メガバベルに敗北はありません」

 

 そういって秘書の人が、なにか箱みたいなのを取り出して。

 

≪爆弾!?≫

 

「そんな」

 

 

「全員消えな「消えるのはお前だけだ!」ぐぁ!?」

 

 

 風切音と共に、掲げた手が弾き飛ばされた。

 とっさに目を向ける。

 倒れたままのサレンさんが、その手でワイヤーを跳ばしていた。

 

 そして。

 

≪ユウキ伏せて!!≫

 

 轟音。

 弾き飛ばされた箱が、壁に当たって……爆発した。

 ガラス窓が砕け散る。

 空へと吸い込まれるように風が、突風が吹いて。

 

 

「ぁ゛ああああああああああああ!!?」

 

 

 叫び声、いや悲鳴。

 一番傍にいた秘書だった人が吸い込まれていって……

 

≪見ちゃ駄目、ユウキ!≫

 

「ひ、人が……」

 

 人が死んだ。

 あんな高さから落ちたら、人は、人は……

 

≪! ……まずい!≫

 

 また新しい音が聞こえた。

 考えている暇もなく地面が、いや、この部屋が揺れている。

 

「地震?!」

 

「ファイトの影響と……今の衝撃が決定打になったみたい」

 

「サレンさん!!」

 

 肩を掴まれて振り返ったところに、サレンさんの顔があった。

 よかった。

 すごいボロボロだけど……そんな血とか怪我はしていない、格好がボロボロだけど。

 デッキホルダーとボロキレだけでなんかエッチだけど。

 

「この最上層、いや、高層階が崩れる」

 

「崩れるって」

 

「脱出する。アリーシャ、空は?」

 

≪浮かび上がるぐらいなら大丈夫だよ≫

 

「エレベーターを使ってる暇はない。飛び降りる」

 

「とびって、え」

 

「大丈夫。落下速度は一定速度までしか加速しない、これ物理法則」

 

 そういう話じゃないと思う!

 この人、やっぱりなんかこう映画の人なんじゃないだろうか!

 私は果てしなくそう思った。

 とても思った。

 

「時間がない、急ぐ」

 

≪マスター、早く≫

 

 揺れが激しくなってきた。

 アリーシャの肩を借りて、サレンさんが窓に向かっていく。

 

 私もその後を追おうとして……最後に振り返った先に見えた光景に、とっさに飛び出した。

 

「ユウキ!?」≪マスター?!≫

 

 

「二人共先にいって!」

 

 揺れる床の中を走って、走って、とても長く感じるぐらいに走って。

 でも実際はたった数秒ぐらい。

 それで辿り着いたのは……倒れて、血を流している子供の。

 

 メガバベルの子供社長のところだった。

 

「大丈夫?!」

 

 下から担ぐように抱える。

 命衣流(メイル)というやつの力だろうか、すぐに彼女を持ち上げられて。

 

 びっくりするぐらい軽くて……小さかった。

 

「ッ、すぐに病院に連れて行くから!」

 

「……に、を」

 

 声がした。

 かすかな声、よかった生きてる。

 

「喋らないで!」

 

 けど視点が合っていない。

 血が滲んでる、それでも私は彼女を抱えてグラグラ揺れる中を必死に戻る。

 

「ユウキ、このワイヤーを掴んで!!」

 

 伸ばされたワイヤーを片手に握る。

 

≪マスター! 真っ直ぐに!≫

 

 落ちてくる瓦礫を、アリーシャが砕いてくれた。

 傾きつつある床を必死に、私は少女を――名前もない彼女を掴んで進んで。

 

「んで……」

 

 なんで、といわれて。

 

 答える。

 

 

「――カードの遊び(ゲーム)なんかで人が死んでいいわけがない!!」

 

 

 Lifeは紙遊びだ!

 始まりは脅されて、変なのと戦う羽目になったけど。

 少なくとも普段は遊びだった。

 みんなファイトで色々決めたりするけど、お店でやるには、部活でやるにはただの遊びだ!

 競技もだったりもするし、みんな真剣だけど、私はMeeKingで店長や、ミカドくんやマキヤくんたちと……えーとモブさんとかがいるお店で遊んでいるぐらいが好きだ。

 命を賭けたファイトなんて一度だってやりたいと思ったことはない。

 だから。

 だから!

 

「人が死ぬなんて嫌なんだよ!」

 

 私のお父さんはいなくなった。

 たった1つの小さな鍵とカードを残していなくなってしまった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ファイトが関わってるんだって。

 

 だから。

 だから私は、あの日までファイトなんてしたくなかった。

 カードのルールだって知らなくて、覚えなくて、目を閉じていた。

 友達を助けないといけなかったら、きっと大人になるまで、大人になってもしなかったと思う。

 強くなるのは楽しい。

 ファイトをするのは楽しいって知った。

 けど、人が傷つくようなのは大嫌いだ。

 だから。

 

「だから、私は貴女を死なせたくない!」

 

 歯を食いしばって、踏み出す。

 私のこの気持ちだけは絶対に曲げたくないから!

 

「……ばかな、人」

 

「知ってるよ!」

 

 私は結構馬鹿だ。

 だからこんなところにいる。うん、本当にね!

 

「ユウキ! 手を!」

 

「サレンさん!」

 

 伸ばされたサレンさんの手を――掴んだ!

 

 あとは飛び降りて、脱出するだけ……え?

 

 世界が、斜めに傾いた。

 いやちがう! これは。

 

「落ちる?!」

 

「ビルが、折れた!?」

 

≪こんな、私の力じゃあ!?≫

 

 浮遊感。

 絶望的な浮遊感。

 

 部屋ごと空に浮いているようで、空が、外の景色が流れていく。

 

 逆さになった景色、窓の外に薄い光の線が見えた。

 

 世界がゆっくり動いていく。

 

 もうすぐ夜明けなのかなんて考える。

 

 これで落ちたらどうなるんだろう。

 

 普通なら死ぬと思う。でもメイルというのがあるなら耐えられるんだろうか。

 

 そしたらサレンさんは?

 

 アリーシャはカードだけど、折れたり破れたら?

 

 大怪我してるこの子は?

 

 

 ――私だけ生き残る。

 

 

 何故か、()()()()()()()()

 いやだ。

 いやだ。

 そんなの、いやだ。

 みんなで。

 頑張ったみんなで。

 帰りたい。

 お家に帰りたい。

 やだ、やだ、やだぁ! 

 

 そんなのは――いやだ!

 

 

 

              

鍵が輝いた。

 

 

 纏っていたメイルの光が、鍵に吸い込まれていく。

 そして、目の前が全て真っ白な光に染まって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは地上で、大きな掌に包まれていた。

 

 瓦礫の煙が舞い上がる中で、大きな、大きな。

 

 

 

「えぇ」

 

 

 

 ――普段の十倍以上大きな巨大勇者王・轟の掌に包まれていた。

 

 夜明けの光が、とても眩しかった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからとても大変だった。

 とっても大変だった。

 メガバベルのビルはなんかへし折れているし。

 私たちをゆっくりと地上に降ろしてくれた勇者王はなんかいい感じに消えるし。

 警察と救急車と消防車のサイレンがすごい勢いであちこちから聞こえて。

 なんか一際大きい青白い光を放つサイレンの車両に「ファイトポリスだ、捕まると面倒だからごめん!」「え!?」 とかいってサレンさんが逃げちゃうし。

 しっかりサレンさんが応急処置してくれた子供社長と一緒に保護――逮捕――確保? されたりして。

 救急車に運び込まれるのを見届けつつ、地下にたくさん人が捕まってるんですってポリスの人に訴えたりして。

 そしたらなんか地下の装置が止まってたり、気絶してる黒服の人たちが山積みになってたり、いるはずだったモブさんがどこにもいなくて。

 

 あ、あとなんか捕まってた人の子供とか女性の人は大きな頑丈な装甲車のトラック? に押し込められていた。

 ファイトポリスの女性刑事さんみたいな人が「優先的に生命力が高い女子供だけ確保しようとしたのかもしれないわね」 なんていってた。

 それが本当だったらなんて悪い奴らなんだろう。

 でも逃げる時間がなかったから結局運べなかったみたいでよかった。

 

 それで。

 それで私も一応拉致された一人みたいになって、家に連絡が入って、病院で手当されてたら駆けつけてくれたお母さんに抱きしめられた。

 ワンワンと泣いてしまった。

 怒られたりもしたけど、それ以上に嬉しかった。

 

 時間があっという間に過ぎていく。

 学校にいけずに、病院とかで検査入院をして、その間にテレビでニュースをやっていて。

 メガバベル社とかが映っていて、偉い人なんか色々いっていて。

 時間だけが過ぎていく。

 まるで遠い世界みたいで、現実感がなかった。

 

 そうして。

 そうやって。

 

 私がなんとかお母さんから赦してもらって家を出て、MeeKingに向かえたのは3日後だった。

 

「セトさん……どうなってんだろう」

 

 店員(モブ)さんとはなんかすれ違えたけど、店長(セト)さんはどうなったのか。

 あの時、置き去りにしてしまったモブさんはどうなったのか。

 誰も残ってなかった。

 ただあそこにあったのは激しいファイトの跡らしい痕跡だけで。

 もしもなにもなかったら。

 誰もいなかったらどうしょう。

 

 

 そんな不安を抱えながら、お店が見える曲がり角を曲がって。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そこのドアです。お願いします」

 

「はーい。では取り付けますねー。電子機器もあるので少しお時間もらいますねえ」

 

 ガガガガーと。

 

 なんか作業服を来た業者さんみたいなのと一緒に、ドアを直してるところを見ているセトさんと。

 

「というわけで働かせてほしいんですけど」

 

「いやーうーん、店長がいいならいいんだけど……あ、お客様。今日は臨時休業中です」

 

「なんかピンピンしてるー!!!?」

 

 普通に箒で掃除をしてるモブさんがいたんだけど!

 あと私服っぽいサレンさんもいるんだけど。

 

 どうなってるの!?

 

 あと、私の不安返して!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本支部(ジャパン)が落ちたか』

 

『予定外の損耗だ。()()()()()()プロジェクトの進行は止めざるを得まい』

 

『セキュリティポリスの追求が厳しい。国連管理機関(クーヴァディス)による後押しだろう』

 

十二聖座(ラスール)の介入はありえるか?』

 

『ジャパン・リーダーユニットの性能ならば五位以下ならば対処可能だった』

 

三英傑(トライスター)への対策は?』

 

『非現実的だ。幸い、”覇手”と”魔王”は現時点で動く気配はない。三番手ならばありえる』

 

『日本支部を切断(カット)する』

 

『肯定』

 

『肯定』

 

『ジャパンサブユニットのカバーストーリーは設定済みだ』

 

『三英傑への対策は40年スケールで続行維持』

 

『賛成』

 

『賛成』

 

『ジャパンリーダーユニットの回収は?』

 

『否定。敗北と共に、メモリクリーナーの作動を確認している。生態機能を有しているだけだ』

 

『回収さえ出来ればユニットの増産に転用も可能だったが、許容リスクを超えている』

 

『伝説の十二聖座(ラスール)礎の聖女(ザ・ワン)といえども、この程度だったか』

 

『複製体とはいえ、内部データと専用レガシーがなければ性能の全ては引き出せまい』

 

『伝説が全て真実とは限るまい。ゼブルバベルの稼働データは?』

 

『回収済みだ。”タルタロス”へのフィードバックは済んでいる、実用テストも行う予定だ』

 

『十二聖座への実装はまだ早い。円卓か、”闇”か、それとも』

 

『フロム・ヘル……あるいは、エレウシスか』

 

『実用データの性能確認が完了次第、()()()()()プロジェクトを進行する』

 

『”(ダークネス)”による()()()()()()()プロジェクトは40日後の予想だ』

 

方舟教会(アーク)もそのまま黙っては見ていないだろうが、どう変動するか』

 

『誰が滅ぶか』

 

『誰が滅ぼすか』

 

『いずれにしても』

 

 

 

 

『『『我らメガバベルが、三天の頂点に立つ』』』

 

 

 

 

 

 

 

 






 エク=マキナの知識と手腕は完璧であった。
 しかし、それを実行する者たちが完璧な歯車ではなく不完全な肉だったことだけが誤算だった。

                        ――完璧なる計算違い
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