メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
マガツカがナホビノ強化のための素材にしか感じなくなったアナタは立派なメガテニストです。
(偏見)
深呼吸を一回。
コンクリートの壁に身を隠し、聴覚に意識を集中。
『ハーハッハッハッ!! ザコどもが、いくら頭数揃えたところでオレ様には指一本カスリもしねぇようだなァッ!! 全員まとめて氷のベッドでおネンネしてろやァッ!!』
絶好調のにこにこマークが見えそうなぐらいはっちゃけてるなぁ。そして声は聞こえないけど派手な金属音はイッポンダタラ、地響きだか破壊音の正体がワームちゃんかな。あれ、ピクシーさんはどこで戦ってるんだろう?
『よんだ?』
ピィッ
あーッ!! ビックリして心臓止まるかと思ったッ!? ……ふぅ。それで、ピクシーさんはウェンディゴみたいに大暴れしたりはしないんけ? いま力が漲っててハッスルしたい気分なんじゃないの?
『もうスッキリしてきたわよ? ホラ、あれ』
ピクシーさんの指差す方向をチラリ。ふむ、暗黒空間にバラまかれたかのようにスッポリ穴の空いた建物が見えますな。まさかジオンガで悪魔化したヨモツイクサごとブチ抜いたのか……スゲェな、威力もだけど建物が崩壊してないのが器用というかなんというか。
そのうちジオダインも使えるようになるかしら? それより安定してマハジオンガを使えるようになるのが先かな。無効、反射、吸収が出てきたときが怖くはあるが、やっぱり広範囲攻撃ってあれば安心だもの。
おっと、イカンイカン。ひとりでオニごっことかくれんぼせにゃならんと思っていたところにピクシーさんが助けに来てくれて気が緩んだか? 未来を見つめるよりも先に目の前のトラブルと向き合わないと生き残れないぞ!
さて、頼れる仲魔が戻ってきてくれたことだし少し強気に行動してみるか。まずは悪魔召喚のトリガーを確認するところから始めてみよう。
結局メタ知識に頼ることになってしまうが、マガツカが起動して赤暗い障壁がナホビノを取り囲むのは一定の範囲内に侵入してから。1度捕捉されてしまえばカメラを操作してマガツカを視界の外にやってもダメ。しかし離れたところから観察しているだけなら無害。
距離の問題はゲームシステムの都合だ。視界が通るなら距離があったところで気付かれればそれまで。認識されたからこそアンドラスは召喚された。逆に、指定範囲内への侵入というシステムが無ければ。こうして距離を詰めた状態でも視線さえ切ることができれば、コンクリートの壁でもマガツカの認識から逃げることも可能。
ならば、確かめてやろうじゃないか。
屋上までダッシュ。いざというとき、隣の建物に飛び移ってから物影へダイブして仕切り直すのに都合が良い。屋内は少数でも挟み撃ちのリスクが高い。何が起きても逃げの一手と決め打ちするなら障害物は少なくてもいい。
そこで俺は────敢えて、マガツカに背を向けて無防備な姿を晒すッ! ひとりだったら絶対やらないが、いまは謎解きのゲストとして名探偵ピクシーさんがいるので問題なし。召喚の予兆を察知することはできなくても、召喚された瞬間さえ把握できれば逃げるだけなら余裕で間に合う。
さぁ、どうだ……? 見付かっただけで問答無用で近くに召喚されるとか、それはそれで困るからもう少し条件が複雑だと助かるんだけど……。
『ニンゲンッ!』
よし跳ぶぞッ!!
逃げるってなにさ? 躊躇わないことさッ! 特務中尉は振り向かないぜぇ〜♪ 生き恥を晒す、私の好きな言葉です。何故なら、死んでしまったのでは自分の行動が恥晒しなのかどうかすらわからないからです。
もちろんアンドラスたちも追い掛けてくる。一緒に飛び降りたのが2体、建物の中から飛び出してきたのが2体。よろしい、ならば検証だ。このマガツカにとって視界がトリガーとなるのであれば、お前たちもそれが適用される可能性あるんじゃないの? 例えば────マガツカから見える範囲にいなければ再生できない、とかなぁッ!!
ひとつ、ふたつッ!
再生……動かずッ!
ピクシーさんッ!!
『マハジオッ!』
砕けて光の粒子になったかッ!
真上、みっつッ!!
「────、────ッ!!」
ラスト、退く様子なし。俺を殴ることしか考えていない? 状況を動かすための思考能力が足りていないのか。そんなお粗末な知能でアンドラスの姿を模すとは笑止千万ッ! ……なんてねッ!
よっつッ!! 成敗ッ!!
ンッン〜〜〜〜♪ お試しのつもりが再生の阻止まで全部想定通りに、スマートに終わらせちまったぜぇ〜〜〜〜♪ やっぱり俺って“持ってる”よなぁ。これがラノベなら俺の扱いに嫉妬したアンチからご都合主義まみれのカス主人公乙ww ってディスられるところだったぜ。
さて……と。
ビルを挟んでもマガツカのプレッシャーが半端ねぇ。ストレスで喉の奥のほうがペタペタして詰まってるような気がする。いつものガムシャラな状況と違ってゆっくり頭を使う余裕があるはずなのに、こうして戦闘もせず時間を消費しているだけでも追い詰められているような感覚が強い。本当に、ほんっとうに撤退が許可されてる任務で助かったぁ……ッ!!
そして、やはりトリガーとなるのはマガツカの目玉の『視界』か。まだ確定とするには早いかもしれないが、それなりに納得のできる答えではあると思う。
人間にとって当たり前過ぎて忘れそうになるが、視える範囲という形で境界線を設定する行為なんだから神話的には無視できない要素なんじゃないかな。
女神転生に限らずオカルト系の作品に触れたことがあるのなら、境界を区切る、あるいは領域を指定することが特別な意味を持つ場面なんていくらでも想像できる。ミノタウロスが建築物の内部を自分のテリトリーとして支配できるように、マガツカも視認できる範囲を自分のテリトリーとして支配できるのかもしれない。
う〜ん、厄介極まりねぇなッ!? たまたまそれなりの高さの建物に張り付いていたから視線も簡単に切れたけど、コレ奥のほうに見えてる高層ビルの上とかに陣取られたりしたら詰みじゃね? もしも最奥にボンヤリと見えている巨大な肉壁の正体がマガツカだったりしたらコロニー全域がヤツのテリトリーに────もしかして、全消灯で対応できたりする? ちょっと報告のときに意見出しておこう。
そういえばピクシーさん、敵が召喚された瞬間はやっぱり察知できなかった系?
『ひとつ、気がついたことならあるけど。アレ、アンタから生成されてる生体マグネタイトを使って喚び出してるみたいね』
…………。
…………なんて?
『MAGの流れを視たカンジだけど、アンタから漏れ出してるMAGと、まわりを漂ってるMAGが半分ぐらい混ざり合うようにしてアクマが召喚された……ような、気がする。
あとから集まってきたよわっちいのは別だけどね。たぶん、最初にいきなり出てきた1匹目もそうかもしれないし……アンタがジッケンで試した3匹目と4匹目はアンタから出てるMAGを使って喚び出してた……かも?』
はぇー、なるほどなー。
俺から生成されてるマグネタイトを使って悪魔召喚してんなら、そりゃ俺の近くにナンボでも召喚できるわな。召喚コストも半分は俺が支払ってんだもの。
なるほどなー。
…………。
うん。
それ、反則とかいうレベルじゃねぇぞ……?
百歩譲ってこの状況ならまだ納得できないこともない。物理的に視界を切っただけでこちらのMAG反応を探れないのであれば、こうして物影に隠れるだけでもマガツカの悪魔召喚を無効化できるワケだし。相手側にしてみれば自分は動けない定点観測に近いのに、敵側は自由に建物を利用して動けるんだからズルいのはお互い様みたいなものだろう。
だが集団戦闘を最大火力とする軍隊にとっては最悪の相手だ。100人の兵士を用意すれば100体の悪魔を、千人の兵士を用意すれば千体の悪魔をカウンターで召喚してくる。しかも召喚コストの半分は人間側が持ち込んでくれるのだから息切れ狙いの持久戦なんてまず不可能。なんならソレを見て人間側が戦意を奮起しても消沈しても生体マグネタイトは補充されるオマケ付き。もう終わりだよこのコロニー。誰かナホビノ呼んできてぇぇぇぇッ!! 同じ日本神話がモデルでしょぉぉぉぉッ!!
ま、無い物ねだりしてもしゃーない。少なくともマガツカの悪魔召喚を封じる手段をひとつ見つけることはできたんだ。ここはカゲツ曹長がメンバー連れて戻ってきてから対処法を皆で考えよう。あのアンドラスの紛い物、物理攻撃以外の手札無さそうだったし大丈夫だろ。たぶん。
威力偵察って意味では命令をクリアしてるのかもしれないけど……アレ、ヨモツイクサの肉塊が変性した植物を土台にしてるってことはさ、ほぼ確実にいるよね。このコロニー以外にも、同じように生体マグネタイトを吐き出す植物が生い茂っているような場所ならいるよね。ほぼ確実に。
だったら、ここで多少のリスクを飲み込んでもマガツカを狩る手段を探っておく価値がある。全員が仲魔持ち、しかも俺が指揮官だから命令できる立場、そしてこの場にいるメンバーなら少しぐらいメタ知識を隠したまま指示を出してもきっと協力してくれる。この先生き残るためにも、このチャンスを逃すワケにはいかない。
そのためにも、まずは────コソコソ隠れながらウェンディゴたちを回収するか。スッキリした表情のウェンディゴと、戦いに飽きたのか車を分解してご満悦なイッポンダタラはともかく、ヨモツイクサの食い過ぎでツチノコみたいな体型になってるワームちゃんは心の海に戻せるかな……?