メガテニストはディストピアでもヘコたれない。   作:はめるん用

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VSミコンの花嫁/該当データ無シ 推定 丙型原種実体:3

「私は叩けるなら叩いておくべきだと思う。確かに偵察任務としては充分かもしれないが、例の御三家とやらの()()()()()を思うなら……今後の、私たちのためにも戦闘経験はどれだけ積んでもムダにはなるまい」

 

「俺もホノカ伍長の意見に賛成ですね。こっちの人数が増えれば増えたぶん不利になるかもしれないんでしょう? 仮に上の人たちがそれを信じてくれたとしても、ちょっと偉い人が本当かどうか確かめてやるなんて言い出したら……とか。やっぱ、そういうの考えちゃいますよ」

 

 

「僕は撮影だけを済ませて撤退するべきだと思います。気持ちの部分ではホノカさんやアキラくんに賛成したい部分もありますが、今回のことで海軍の上層部は柔軟な対応をしてくれることがわかりましたから。リーダーの権限では使用できないような機材などもまだまだあるでしょうし、まずはイミナ中佐に相談するべきでしょう」

 

「自分も撤退に賛成であります。中尉殿の実力は疑っておりませんし、むしろ信じているからこそあの目玉の厄介さは小隊規模で対応するものではないと判断しました。海軍の権限では、ましてコロニー内部では重装戦闘車両など動かせないかもしれませんが……マモル伍長の言う通り、長距離での攻撃に特化した楽しい玩具などもありますからな」

 

 

「あの目玉、視力が機能しているのですか? では、わたくしのカボタマくんのマハラギオンで周囲を焼き尽くして煙攻めにしたらどのような反応をしてくれるのか、興味が尽きませんね。瞬きなどもできそうにありませんし、あのような化物でも涙を流すのか……わたくし、気になります」

 

 

 交戦派2、撤退派2、燻製派1、か。

 

 誰も間違ったことを言っていないのが実に悩ましい。特にコノミ女史、攻めるにしても退くにしても煙攻めを試すのはアリかもしれないと思ってしまった。魔眼の使い手として知名度ナンバーワンといっても過言ではないメデューサだって、鏡の盾というシンプルな対策で倒されているワケだし。

 いっそのこと、部隊を分けてしまうか? 偵察任務の目的は情報を持ち帰ること、マモルとカゲツ曹長にカメラを持たせて帰還させればその時点でミッションコンプリートだろう? より詳細な情報を入手するために現地に数人残りましたと言えばそれはそれで認められるんじゃないかな。お小言は頂戴することになるかもしれんが。

 

 

 と、いうことで。

 

 小隊を戦闘組と帰還組に────え? 戦うなら全員で良いだろうって? なるほど……新たな情報を引き出すことに成功したとしても、それを持ち帰ることができないのであれば結局のところ意味が無い。それなら部隊を分けるにしてもギリギリまで粘ってからでも遅くはない、と。

 

 うん、言われてみればその通りとしか。ちょっとアライメントによる対立を意識し過ぎたかな。呉越同舟という言葉もあるし、先の演習だって陸軍と海軍が協力して実施されてるし、なんでもかんでも壁を作って考えるのはよくないな! 

 

 

「そういえば中尉さま。中尉さまは帆立貝というものをお試しになったことはありますか?」

 

 ホタテ? 

 

 まぁ、あるけど。

 

「あの食材、まんまるな貝柱がメインの食材として扱われておりますが、周囲のヒラヒラとした“ひも”と呼ばれる部分もなかなかよろしいものでして。紅葉の台所を預かる者に乾物を少し食べさせてもらいましたが、噛めば噛むほど旨味が口の中に広がるのがとても楽しい食べ物なのです」

 

 なんでこのタイミングでそんな話した? 自由人かよ。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「視界を遮るための鉄板の盾、ですか。ヤバいと感じたら投げ捨てて逃げてもいいって言ってくださるのはありがたいことですけどね。それでリーダー、その……デカいダンボールはなにに使うおつもりで?」

 

 なんだ、知らんのかアキラ戦闘員。これは頭からスッポリ被って周囲に溶け込むためのカモフラージュだ。偵察任務のプロフェッショナルはダンボールひとつで敵地の奥まで侵入して情報を丸ごとすっぱ抜いてくるんだぞ? 

 

「うわぁ、芳ばしいほどにウソ臭いけどリーダーならマジでやりかねないから否定しにくぅ。ま、どんなときでも平常運転な中尉殿は部下としては頼もしい、ってコトにしておくであります」

 

 

 鉄板の盾でマガツカの視線を遮りながらアキラが接近を試みる。ほかのメンバーは建物を利用しながらいつでもフォローできるように。俺はダンボールを抱えて建物の内部を先行。

 

 指揮官が一番前を進むのは間違いなく間違っているのだが、情報を持ち帰るという目的を優先した結果こうなった。どうやら巫女の扱う結界とやらには物理反射のテトラカーンや魔法反射のマカラカーンなども含まれているとのこと。いざとなればそれでアキラを保護して離脱してもらう。それで余裕があれば次いでマモルとホノカ、俺とカゲツ曹長は殿を務める。アキラに危険な役目を押し付けたんだ、最後の貧乏クジぐらいは自分が引き受けるのが筋ってもんだろ。曹長? 俺と出会った不運を呪うがいい。

 

 んで。

 

 あくまで悪魔を召喚するために必要なのは人間を視認すること。で、正解らしい。物影からうっかり視線を合わせないよう注意しつつ、チラチラとマガツカの目玉の動きを探っていたが……露骨に怪しい物体がジリジリ接近しているのにまったく注目する様子なし。

 どうせならピクシーさんにも協力してもらって観察してみるか? MAGを奪って悪魔を召喚するのではなく、俺から生成されているMAGと周囲のMAGを混ぜ合わせて召喚しているというのなら、豊富なMAGを蓄えていても生成しているワケではない仲魔はトリガーにならないはずだが。ウェンディゴたちも無事だったしな。

 

 いや、1度はどうにかなっているからと他人を囮に使っている状態での検証なんて論外だろ。嫌いなヤツや敵対したヤツを生け贄や捨て駒にするならまだしも、俺を信じてムチャを引き受けてくれたアキラを見捨てるぐらいなら俺が外に飛び出すほうが精神の安定によろしい。

 

 問題は、このまま接近できたところで攻撃手段をどうするかだが……。

 

 

『ニンゲン。ちょっとマズいかも』

 

 ふぇ? 

 

『アイツから生体マグネタイトが溢れ始めてる。それもけっこうな量が。あの目玉の威圧感にのまれてんじゃない?』

 

 マジで?

 

 だって俺のほうがマガツカに近いけど、さっきまで感じてたようなプレッシャーなんて────ルールの上書きッ!! 屋内を移動しているから、ミノタウロスによる空間支配で俺の耐性が強化されて反応が鈍ったのかッ!? 

 

 

 待て、じゃあマガツカは……アキラに気付いたッ!! 

 

 

 反応が速い、微量でもMAGを察知されて────違うッ! たぶん仮定が間違っているッ! 

 

 

 クソッ……本物のバカか俺はッ!? 相手は人間より生体マグネタイトの扱いなんて何枚も上手な存在なんだぞッ!? 視線を切っただけで見失う程度なら、ピクシーさんだってヨモツイクサの奇襲に反応できる道理は無ぇッ!!

 屋内に避難したときのアレは俺を見失っていたんじゃない、悪魔召喚のためのルールが適用されない状態だから注目する必要がなかっただけ。だけどアキラはそうじゃない、マガツカの空間支配を感じ取って感情が揺さぶられているのなら、悪魔を召喚するための条件がひとつ整う。ヤツは気付いていなかったんじゃない、ただ待っていただけだった……ッ!!

 

 

 マズい。

 

 どうする? 

 

 

 撤退、却下。

 

 まだその判断は早い。

 

 

 飛び出してマガツカの注意を引き付けるか?

 

 だがそれでなにが解決する? その先まで考えられないのなら、自己犠牲で助けられるのは俺の自尊心だけだ。

 そんなクソの役にも立たないモノはすり潰してゴキブリにでも食わせてしまえ。いまの俺は助けられる側じゃねぇ、助ける側だ。

 

 

 生体マグネタイト。

 

 MAGの発生をどうにか。俺が前に出る、マモルたちにアキラを保護させる、コノミに結界の────できるか? アイツらだってマガツカのプレッシャーを感じ取っているはず。敵を増やす可能性。

 

 

 スキル。

 

 MAG。

 

 消費。

 

 MPの代わりになるなら吸魔のように、吸収。

 

 

 

 消費────消費? 

 

 

 

 アキラッ!! 

 

 背中に隠すように仲魔を召喚しろッ!! 

 

 

「は、あぐぅ……はぁ、はぁ……リーダー……? ────はッ!? りょ、了解ッ!!」

 

『…………ッ! アキラ、大丈夫ッ!?』

 

 

 マガツカの反応は? 

 

 特に無しッ! まず一手ッ! 

 

 

 そのままアキラからMAGを奪い取れッ! 

 

 身体から溢れ出てるぶん、全部だッ! 

 

 

『MAGを奪い取れ、なんて急に言われても……えっと、マハブフッ!!』

 

 

 魔法? 

 

 そうか! 無駄打ちで消費したぶんを新たに吸収するつもり────。

 

 

 

 

『その、ゴメンなさいッ! ……えいっ!』

 

「へ? あ、おわッ!?」

 

 

 

 

 おお〜っとォッ!! 

 

 マーメイドくん、アキラに背後から抱き着いた〜ッ!

 

 

 女の子から男の子にやってもあすなろ抱きって言うのかな……? 

 

 

 

 

『ゴメンなさい……迷惑、かもしれないけど……ほかに方法が思いつかなくて……その、イヤかもしれないけど、少しだけ……ガマンして、ね……?』

 

「あ、いや……。違っ、いまのは抱きつかれるのが嫌って意味じゃなくってッ! その、別に……全然、大丈夫ッス……」

 

『そう、なんだ……そう……よかった……』

 

 

 

 

 お、急にジャンル変わったか? 

 

 逃げてもいいと言っておいたにも関わらず恐怖を押し殺して────MAGが溢れ出た時点で逆効果なのは置いておくとして、巨大なプレッシャーに立ち向かう中で誰かが背中を抱き締めてくれるのは、それはもう安心感があるだろうねぇ。なんなら顔も良い美少女だし。

 しっかり鉄板の盾は構えたままで、自分が危険な状況にあることを忘れたかのように照れているアキラ。抱き着くマーメイドのほうもちょっと嬉しそうなのは、自分が抱き締めている人間からプラス方向の生体マグネタイトが生成されているからだろう。あらやだ、ロマンスの永久機関が完成しちゃったネ☆ カァ〜〜ッ! ペヤァッ!! 

 

 

 もう放置でいいだろアキラのことは。

 

 どうせ放っといてもアイツ死なねぇよ。

 

 

 視界が切断され、MAGの反応も薄まったことでマガツカは再び周囲を警戒するモードに切り替わったようだ。自分の命を天秤に掛ける覚悟をしていたら急にイチャコラが始まって俺の情緒もだいぶ乱されているが、とにかくマガツカの行動パターンが多少は解明できたので良しとしておこう。

 しかし……なんだろう、まるで機械のようにロジックで動く相手ってヤツがこうも厄介だとは。逃げるだけなら楽な相手なのかもしれないけれど、攻めに転じるための条件をどうやって整えればいいのかわからない。遮蔽物を使えば簡単に接近できるのはともかく、マガツカの領域に取り込まれて精神を乱されれば発生したMAGを感知されて悪魔召喚の待機状態に移行されてしまうのはいただけない。

 

 

 よし。

 

 逃げるか。

 

 

 だって勝てんもの。アレとかコレとか撮影だけ済ませて尻尾巻いて逃げよう。なにも得るものが無かったワケじゃない、真っ向から倒そうとしてもムリだという情報を獲得して、しかも小隊員全員生存。これ以上の高望みはロクなことにならんよ。でも折角だから煙攻めだけは試してから撤退しとこ。

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