メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
俺は、運が良い。
少しでも、屁理屈でも、とにかく前向きにそう思わないとやってらんないねぇッ!?
それで?
オカルトの専門家である紅葉の巫女から見て、シキガミ使いたちは戦線復帰できそうだったりすんの?
「はい、いいえ中尉さま。生体マグネタイトの流れが著しく乱れています。コレではシキガミの制御など不可能であると判断してよろしいかと。自力で撤退する余裕があるだけでも助かった……と、言えなくもありませんが。次の目玉との戦闘でも、またシキガミ使いの半数は戦線離脱となる可能性が高いでしょう」
マガツカの破壊は、成功した。
シキガミ使いがメタ戦力となる俺の推測は当たっていた。本体から生成されるMAGをシキガミに積極的に取り込ませることで悪魔召喚の条件を崩し、逆にこちらがパワーアップした状態でマガツカが呼び寄せたヨモツイクサを討伐するという作戦は成功した……が。
ある程度までマガツカに接近したときにソレは起きた。部下たちが操るシキガミが赤黒い泥のようなモノに襲われ纏わりつかれ、急激に衰弱して使い物にならなくなったのだ。いつかのメシテロどものときのように奪われたり、という被害が無かったのは不幸中の幸いだろうな。
たぶん、シキガミ使いはペルソナに近いイメージなんだろう。サマナーが召喚する仲魔は実体化に生体マグネタイトを必要とするものの、バッテリーのように蓄えておけるからリアルタイムで繋がっている必要は無い。
しかしシキガミは違う。ゲームでスキルを使うたびにMPを消費するように、常に召喚者と相互にMAGで繋がっているため、あの赤黒い泥による衰弱効果の影響を受けてしまった……と、仮定するしかない。いや、俺やほかのメンバーの仲魔はまだ泥を食らってないから正解かどうかなんてわからないけど気軽に試せるようなモノじゃないし。
咄嗟の悪足掻きとはいえ、銃弾という物理的な破壊がマガツカに効果アリと判明したのは悪くない。むしろ、マガツカの目玉そのものは耐久力がそれ程でもないと知れたのは大きな収穫である。しかも、体調不良による戦線離脱者が多数出たものの死者はゼロ。軍隊という組織的戦闘における戦果としては上出来と言ってもいい。
だが、怖い。
ただ、俺は怖い。
要塞で帝国の裏切り将校が持っていた練気の剣らしき武器がそうであったように、今回のマガツカが使用してきた泥もそうかもしれない。
もしも。
もしも、仲魔を奪われたら?
俺はマモルやホノカのように異能が使えるワケじゃない。ピクシーさんたちを奪われるようなことになれば、この世界を生きるための手段を喪うも同然なんだ。
イヤだ。
死にたくねぇ。
…………ふぅ。そうだ、コレでいい。恐怖を認めることは、弱者に許された生存戦略でもあるんだから。それは危険に対する警告でもある。どれだけ恐ろしくても、仲魔をロストする可能性から目を背けるな。知らない危険に備えることはできない。部下たちが、シキガミの力を弱体化させられて取り乱した姿を忘れるな。もしも俺がああなってしまえば、誰かが助けてくれる保証なんて存在しないんだ。
恐怖に怯えろ。
死臭に竦め。
そして、その上で────泣いて喚いて小便を漏らすほど情けなくビビり散らかしてもいい、その先に生きるための道を死に物狂いで見つけ出せ。
実際問題、これからどうすんべな? カラ元気も指揮官らしい演技もそろそろ限界ではあるんだが、さすがに部下たちが全員撤退を終えるまでは仮面を脱ぎ捨てるワケにもいかない。その義務がいまの俺にとって精神的な支柱になってる部分もあるんだし。
だけどなぁ。アレも仮定、コレも仮定、なんもかんも想像の域を超えない情報ばかりが増えている中で敵地の奥に侵入するとか、いい加減もう自殺行為でしかなくね? 案の定、奥の方にも目玉はありました。シキガミ使いによるヨモツイクサ召喚の妨害は成功しましたが精神に過剰な負荷がかかり戦闘不能になりました。しかし銃弾で目玉を破壊することはできたので長距離射撃の有用性は期待できるものでした。これだけ情報あれば逃げても許されるくね?
さすがにもう、ムリだろコレ。
もう少し希望のある展開があれば……いや、どうかな。俺自身が諦めたがっているということは、つまりここから奇跡のような出来事が起こったとしても諦めるための理由を10でも20でも探して並べて言い訳をするだろう。
壮行式、いつ終わるのかな。
隣の区画で大規模な戦闘が始まれば、生成されるMAGも短時間で相当な量と密度になるかもしれない。巨大なガラス壁……1枚がビルの高さよりも分厚いであろうそれが、それぞれの区画を島を分断する海のように広がっていても……こちらの区画に影響が出ない、なんて期待をしてはいけない。
思考の輪郭と方向性がぼやけてきたか。
マズいな、解決するべきトラブルの優先順位を整理できなくなってきたのかも。
違う。違うぞ。確かに俺はもう諦めている。だが、それはコロニー浄化作戦によって引き起こされる被害とか、そういうヤツをどうにか、少しでも犠牲者を減らせるならというヤツを諦めたのであって、まだ、俺自身が生き残るためのヤツを諦めたんじゃない。生きるのを諦めるのは、死んでからでも遅くない。
事実を整理して、事実の中から俺にとって都合の良いモノをしっかりと見逃さないように選ばなければ。
部下のシキガミ使いは全滅したのか? 答えは“否”だ。赤黒い泥を振り解いて、いまも戦闘が可能な程度に回復している部下もいる。神社で戦ったソウゴ少年たちも含めて、まだ余裕が残っているシキガミ使いもいる。
だから、つまり、それは、あの泥はそこまで絶対的なルールを孕んではいないということだ。神話的な強制力に人間が立ち向かうのは難しいが、人間の力で抵抗できるという前例があるのだから、まだ、耐えられる。神話の世界なら、西洋でも、東洋でも、本気で逃げればどうにかなったかもしれない場面なんて沢山ある。たぶん。
ヨモツイクサの呼び名……ヨモツイクサ、ヨモツシコメ的な……黄泉比良坂? どうせ全部仮定ばかりなんだから、こじつけでもなんでも可能性探るなら、日本神話ネタにでも……暴食界、か。イザナギが黄泉比良坂でイザナミの追っ手から逃げるとき、アレはヨモツシコメのほうだった気もするが……なんだっけ、櫛を投げ捨ててタケノコにしたんだったかな? 3種類ぐらいあったよな。コロニーそのものが儀式の装置なら、そういう概念的な封印とか……あり得る、かな。
今日もいつもの情報不足、お腹が痛くなっちゃうよ。だけどまだイケる。前に進むのは全身全霊で諦めモードだが、後ろ向きに進むのはまだまだ頭が働くし意地汚さは健在だ。後は、俺にとってのタケノコが仲魔や部下にならないようひとつひとつリスクを潰せばいい。
よし。
まずひとつめ。戦闘不能となった部下たちを少しでも安心して休める場所に避難させること。
身を隠す程度の高さの壁があって、だけど崩壊のリスクを避けるなら二階建てはNG。なんなら天井なんて無くてもいい。周囲に高い建築物さえなければ上方向からの奇襲はできないワケだし。
大型商業施設、学校、役場、公共のナニか、医療施設……この辺りなら建築材も比較的頑丈か? どれだけ前にボロクソにされたのかは不明だが、全体的に風化して砂漠化するほど劣化していないから、一時的な避難場所としては使えるはずだ。
ふたつめ。さらなるマガツカの発見。撤退の最中にいきなり目線いただきましたが始まっては困る。
同じ偵察でも戦う前提と逃げる前提ではやるべきことが違う。だって逃げるんだから、余計なリスクを背負う必要がない。マガツカそのものを発見できなくてもいい、マガツカが発生してそうなポイントが見つかるだけでも充分。方向さえわかれば、例えば大通りの真ん中でなく端のほうを1列になって歩くだけでも相手の視界は制限できる。このはし渡るべからず、の逆バージョンだな。
コロニー浄化作戦なんてクソ喰らえ、こんな死亡フラグだらけの場所になんていられるか! 俺は安全なところへ逃げるぞ! その為にもまずは休息だな。人間という生き物は休息無しでは活動できない生き物なのです。ホラ、気合入れて歩くどー。壁際からは離れるなよー。
そして。
選ばれたのは廃病院でした。
……メガテンで、病院かぁ。コロニーという土地が限られた条件だからか、地下駐車場があるのは助かるが。施設の真下ではなく、ズレた位置にあるから崩壊のリスクも最小限だし、確実に視線を切れる。包囲のリスクはあるものの、入り口だけ警戒すれば足りるので心理的な負担は少ない。周囲にビルのような高い建物が無いのもよろしい。そういうの、ヨモツシコメの巣になってたら面倒だしな。
つまり、逆に言えば……病院の中、探索して安全確保してやらんとダメって話で。そら地下駐車場から直接施設に入れないと患者さんも困るよねって話だもの。ほんの数時間、軒先を借りるだけだから見逃してくんない? ダメ? ですよねーww そのへんの廃車とかで出入り口塞いだらどうにかなんねぇかなぁ〜。
まぁ、最低限の安全さえ確保できれば仮眠ぐらい取れるだろ。となると、誰が病院の中を調べるかって話になるが……。
「中尉さま。もしかして、中尉さまも結界の扱いに心得があったりするのでしょうか?」
おん? なして?
「いえ、この建物の中から力の流れを感じるので。外へ、拡散しているかのような……あるいは、内へ、収束しているような……不思議なMAGの流れを感じますので、それを承知でこの場を避難先に選ばれたのかと思いまして」
なんで逃げの一手に舵取りしてからそういうの出てくるの? 物欲センサー? 俺はもう諦めたから新しい発見なんていらないんだよオラァァァァンッ!!!!
特務中尉は組織的抵抗を諦めました。
(個人的抵抗をしないとは言ってない)