メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
RPGのお約束に“序盤のボスが後半のダンジョンでザコ敵として普通に出てくる”というものがある。
かつて苦戦した強敵を流れ作業でサクサク倒せる感覚は、それだけ主人公パーティーが成長したことをわかりやすくプレイヤーに教えてくれる。
俺はそんなに嫌いじゃない流れだけど、ボスキャラは特別であってほしいという気持ちも理解できる。どんなゲームでもボスとの戦いは物語の節目として扱われるし、誰だってなにかしらの思い入れがあるものだろう。
ボスは、特別な1体でいい。
1体でいいっつってんだろッ!!
「遠くからも派手な音が聞こえるッ! 私たちを追いかけているヤツだけではないのか!?」
「逃げることを提案してくれたFさんには感謝ですね! こんなのに包囲されたら勝ち目なんてありませんよッ!」
ホントだよッ!
少しは加減しろよバカ野郎ッ!!
だがしかし、これはこれで責任問題が分散されるというメリットがあるので一概にマイナスイベントとは言い切れない。
複数箇所で発生したおかげで俺たちが連れてきた、あるいは俺たちのせいでデカブツが現れたと責められる心配は無くなったワケだし。
もちろんデメリットというか、心配事が増えた部分もある。俺のように悪魔が見える人間や、ふたりのように魔法の力を手に入れた人間に反応して発生したのかもしれないという心配事が。
◇◆◇◆
スタート地点に必死で逃げ帰ってみれば、固く閉ざされたゲートの前で助けを求める子どもたちの姿。
俺は自分のことを善人だとは欠片も思っていないが、それでもこう言わざるを得ないだろう。控え目に言って最低の光景だと。
この3年間、思いの外まともな人間として扱われていると思っていたが……この世界の日本帝国とやらがどういう国家なのか、俺たちDクラス帝国市民がどういうポジションなのかハッキリしたな。
……な~んて。とかなんとかシリアスぶって考察してるけど、ぶっちゃけ前世の記憶あるから名前に番号割り振られた辺りでこんなもんだろうと想定してたけどねぇ。
トラブル起きたら簡単に見捨てられることは知ってたよ。だからMAG結晶体を食べるなんて暴挙に出たんだし。
だからと言ってこのままデカブツに大人しく殺されるワケにはいかない。ついでに死の恐怖でパニくってる子どもたちも可能な範囲で助けられないか試してみるとしようか。
ハラ一杯に息を吸い込んでぇ~。──裏手に回れぇぇぇぇッ!!
……よし! 意識は集まった! とにかくパニックから抜け出しただけでも生き残れるヤツは増えるハズだ!
全員ッ! 壁沿いに逃げて基地の裏側に回り込めッ!!
大丈夫だッ!! デカブツどもは軍人たちがきっとなんとかしてくれるッ! それに俺たちの仕事はクリーチャーを倒すことだが、逃げてはいけないなんて規則はねぇッ!!
「クク──ハハハッ! やるじゃないかFッ! いいぞ、烏合の衆が少しはマシな動きになった! 見ろ、壁の上にいる軍人どものマヌケな顔を! ……奴らめ、私たちを囮にして戦うつもりだったな」
「まさか、そんなことが──ッ!? 帝国軍は国民の生命と財産を護るための組織だと……僕たちは国民では無いとでも──ッ!! ……ともかく、皆を誘導しなければ! 僕は右回りに避難している仲間たちを誘導しますッ!」
「ならば私は左回りに逃げている者たちを指揮するとしよう! 場合によっては逃げるためにも交戦が必要かもしれないが、まぁなんとか上手くやってみせるさッ!」
お前たちが左右を担当するなら、俺は真ん中だな! ……は? 真ん中は頑丈そうな基地の扉があるだけですけど? これをブチ破って基地の中に誘導すればいいのかしら。
っと、アホなこと考えてる場合じゃないな。今度こそ足止めが必要な場面だろう。逃げる子どもたちに追い付かせないのはもちろんだが、まだ廃墟から逃げてくる子どもたちもいるからな。
「Fッ!? あのバカ者がッ! ──えぇい、受けとれぇぇぇぇッ!!」
Cちゃんがハンドガンを投げてきた。よくまぁこの距離で届くもんだな? いや、あの子もMAG結晶体を取り込んで身体能力が強化されてるなら不思議でもないか。
「15発だ! 貴方には聞きたいことがあるんだ、死んでくれるなよッ!」
倒せと言われたら全力でお断りしたところだが、死ぬなというリクエストならば応えるのもやぶさかではない。
改めてデカブツと対峙する。ひと言で表現するならブタ頭のケンタウルスだろうか? 上半身は女騎士の天敵でお馴染みのオークっぽい見た目で、下半身は……なんだかハイハイしてる赤ん坊にも見えて不気味さが半端ないわ。
気分はベルセルクに登場する一般モブ兵士だよ。普通の犬ぐらいのサイズだったザコクリーチャーから、4tダンプ並みに大きいボスクリーチャーとかサイズ感間違ってないかい?
状況整理。このブタさんの化け物を倒すのは現状ではまず不可能だが、俺にとって勝利とは敵を倒すことではない。
ほかのD民が逃げるための時間を稼ぐこと。そのためにも俺は生き残り、そして複数いるブタどもの意識を自分へ向けて引っ張る必要がある。
ナイフは使う余裕は無いとして。荷物から悠長にマガジンを取り出す暇もないだろうし、攻撃手段は二丁拳銃の弾丸が合計で30発か。なんで俺は格上相手に命がけで縛りプレイやってんだろうな? 頼むから銃反射とかしてくんなよ。
(ニンゲン! ギリギリまでガマンしてあげるけど、アタシがもうムリだって判断したら攻撃魔法使うからね! それがイヤなら気合い入れてガンバってよ! ──スクカジャッ!)
身体が軽く感じるだけじゃなく視界が広がってクリアになる感覚……ほぅ、これが命中回避が高まるということか。効果が切れた瞬間に、頭が身体の反応の違いに戸惑って転ばないといいけど。
記念すべき最初のボス戦、ほぼ負けイベント確定の上に防衛対象の子どもがたくさん。わりと本気で泣きたくなるレベルで酷いなコレは。後ろの軍人さんたちも働いてくれると嬉しいなぁ~期待しちゃうな~るんるんッ!!
うん?
なんかブタさんの様子が……喉が膨らんでる? あ、なんかヤバそう──うげ、なんか吐き出したぞ!?
うわっ。うわぁ……アレ完璧に人間じゃん。人間だったナニカじゃん。微妙に俺たちと同じ作業着の原型残ってるのがまたなんとも。
言ってしまえばクリーチャーの出来損ない。つまりアイツらの正体はおそらくだが、このコロニーに住んでいた人々だったワケだ。そして捕まれば俺もアレの仲間入り、と。
…………。よし! ムリっぽそうなら余計な見栄はらないで素直に逃げようッ!