メガテニストはディストピアでもヘコたれない。   作:はめるん用

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グルーピング:6

 とある小説で、こんな場面があった。

 

 上官からの命令で部下を死なせてでも時間を稼がなければならない指揮官が、偽善と知りつつ数名の少年兵を連絡役として選出し、その後は現地の部隊と合流して原隊復帰は禁止すると言って送り出す。その様子を見た部下たちは楽しそうに笑ってんだよ。自己満足だって自覚があるのに、それをやってしまったことを恥じている隊長の姿を見てさ。

 

 俺も逃がしてもらえる側の少年兵ポジションが良かったなぁ〜ッ! 気持ちの問題として部下たちを置いて報告のために帰れない、っていうのもあるけどさぁ〜、俺の知らない間にコロニーが崩壊して新しく東京が誕生したとかそういう……宇宙規模だからもっと範囲広いか? 2つ目の地球とか、そうでなければ日本列島とか。ともかく、当事者以外が高確率でお亡くなりになるような大規模なイベントが発生して知らん間にゲームオーバーとかなったら困るんだよォッ!! 

 

 

 つまり。

 

 ここで俺が選ぶべき正しい行動とは。

 

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 

 よ〜し、いい感じに封鎖できたど〜。

 

 

 じゃあ交代で休憩な。ただし、水分補給はほどほどにしとけよ。いつ奇襲があるかわからないからな。

 

「「「「了解ですッ!!」」」」

 

 

 探索? やるかよボケ。

 

 こっちはゲームやってんじゃねぇんだ、明らかに余計なイベントフラグが待ち受けていそうな場所にわざわざ突撃かます理由なんてあるかよ。そのへんに転がってる廃車を集めてバリケード作って知らんぷりするのが賢い選択ってヤツよぉッ!

 フフフ……この好奇心を徹底的に否定する判断、そんじょそこらのラノベ主人公にはできまい……ッ! アイツらだいたい最強チート持ってスタートしてるか、本格的に冒険する前にSSSクラスのスキルに目覚めてハーレムやってるからな。俺にとっては即死級のイベントも女の子とイチャラブするためのスパイスってワケだ。強がりでもなんでもなく、ハーレムって面倒そうで普通に羨ましくねぇんだよな……せっかくチート持ってるのに不自由過ぎるだろ、常に女に張り付かれてたら。

 

 

「ほほー? これなら施設の内部にヨモツイクサがいたとしても、充分に防壁として役目を果たしてくれることでしょう。えぇ、イチイチ結界を展開するよりも何倍も簡単で大変結構なことです。ですが……こうして、いざ隠してみると……少々、向こう側が気になりますね?」

 

 コラコラ、登るな覗くな。

 

「おや……? 医療施設というわりには、通路に剥き出しの……コード? ふぅむ、パイプらしき物からはなにやら液体が漏れ出しているようで……そういえば、奥のほうが微かに明るいということは、電力などが生きているのでしょうか? 上の様子からしてコロニーの照明が差し込んでいるということも考えられませんし……」

 

 ハハハ、なにも聞こえないな。

 

 カゲツ曹長そこのアホ巫女を引っ剥がせいますぐにだ。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 優れた閃きと判断力でイベントをスルーした特務中尉、俺氏。イヤね? 一瞬だけ元気な奴を伝令に走らせようかとも思ったんだけどね? コイツらまだまだ甘ちゃん成分が抜けきっていないから、情報を持ち帰る大切さを説明しても「仲間を置いて逃げるなんてッ!」みたいな問答が始まりそうで面倒だったもんでね? 

 シキガミ関連の不利については、海軍にはそもそもシキガミ使いがいないから別に報告が遅れたところで……とは思う。だがマガツカが目玉の部分にさえ物理的なダメージを与えることができれば破壊できる、って情報は1秒でも早く共有したかった。したかったけど、心身ともに疲労困憊となってる連中の回復のためには余計なストレスはご法度だろう。

 

 

 なんつーか。不憫? だな。

 

 

 最初に隣の区画を見たときは「俺たちは最初から死んだらソレまでの環境に放り込まれたのにッ!」って苛立ちがあったのに、こうして一緒に戦ってみるとコイツらには……生存本能というか、ちと上手く言えないけど生存本能と一緒に育てるべきナニかが足りていない気がする。

 少なくとも女神転生の世界で生き残るための条件は足りていないと思う。だが、コレまで俺が接してきた陸軍で残念だった人は一部だけ。つまり、彼らの育ち方は普通ではない。わざわざ普通ではない特別な育て方をしておきながら生き残るために必要なメンタルが未熟ということは────彼らに、生き残られては困るのだろう。

 

 

 結果として死んでも構わない前提、と。

 

 最初から何処かで死ぬことが前提、か。

 

 

 これもまた、ひとつの選択かな。コイツらをどこまで面倒見てやるのか。別にシナリオとプログラムでルートを制御されているワケじゃないんだし、適当にやれるだけ助けてやってダメになったら縁を切ったっていい。

 重要なのは状況に流されるよりも先に自分で決断することだ。先送りにすればするほど咄嗟の判断を鈍らせる枷となる。でも、ソレが出来るなら誰だって苦労はしないっていうね。ゲームはさぁ……選択肢にタイムリミットとかなければゆっくり考える余裕あるもん……違うじゃん、それは……。

 

 

 なんにせよ、まずは前線基地に無事退却することを考えよう。雑魚エンカウントは無し、視線を切るよう遮蔽物を利用して無理のないペースで移動しているから体力も問題無し。体調不良組も顔色はだいぶマシになったし、歩いていてフラフラしている様子もない。

 念のため、カゲツ曹長とホノカにルート確保を頼みながら小休止を挟む。これは俺の精神のバランスを保つのが目的だったりする。自分がなにを焦っているのかも定かでないのに、ただ時間が足りないという感覚に纏わりつかれているのは面白くないからな。こうして無理矢理にでも立ち止まる瞬間を作って少しでも冷静さを取り戻す。

 

 あとは……何事も無くふたりが戻ってきてくれればいいが。

 

 

 体感、数時間。

 

 でもたぶん、実時間は30分ぐらい? 

 

 カゲツ曹長とホノカが帰還したまでは良かったが。

 

 

「中尉殿。前線基地の見張りがひとりもおりませんでした。警邏班もです。わざわざ遠眼鏡まで使い、見張り塔も、隔壁上部の通路も、ゲート外側の詰め所も確認しました」

 

「なによりも静かすぎると思った。本隊はそれなりの人数で動いているのだろう? 私たちが接近したときに限って、まさか基地の人員全てが昼寝をしているなんて偶然はないだろう。車両の移動どころか人影すら見当たらない、というのは」

 

 そうか。

 

 カゲツ曹長、ホノカ伍長。花は咲いていたか? 

 

「「は?」」

 

 だから、花だよ。お花。

 

 前線基地には不自然な、色鮮やかな花畑は見当たらなかったか? 

 

「……はい、中尉殿。確かに前線基地にしては不自然なほど、自分は草花には詳しくないので種類などまではわかりませんが、咲いておりました」

 

「つまり、それらは兵士のメンタルケアのためではないことをリーダーは知っている……いや、私の知らない特務少尉時代の“特務”に関する話ということか」

 

 そんなところだ。

 

 ときに曹長、味方殺しの経験は? 

 

「はい、いいえ中尉殿。まことに情け無い話ではありますが、そちらの方については自分はまだ童貞であります」

 

 そうか。

 

 ちょうどいい、せっかくの機会だから全員に味方殺しのコツを教えてやろう。

 

 

 まず両手を開いて、その上にふたつ並べるんだ。自分の命と、相手の尊厳というふたつの考え方を。

 

 そして、自分の命を守りたいと思うなら迷わず殺せ。

 

 それで、相手の尊厳を守りたいと思うなら迷わず殺せ。

 

 どちらも選べないピーナッツ野郎はそのまま死ね。なにも出来ないまま、気にも留められず踏み潰される虫けらのようにただただ無意味に死ね。選んだ人間の邪魔をするぐらいなら、選べない奴は誰にも最期を知られず静かにひとりで死ね。

 

 まぁ、つまりこれから先はそういう状況だってことだ。撤退とか、報告とか、もうそんな話やってる場合じゃないってコト。

 

 仮に人間らしい原型を保っていたとしても、中身はもう別物だと思え。

 

 むしろ、姿形が人間から離れているようなヤツと対面したら幸運と思え。それなら躊躇う必要もないだろう? 

 

 

「リーダー、なんというか、アレだな。それだけ熱心に語っておいて、これで基地が無事だったら顔から火が出るどころではなくなるな」

 

 それならそれでいいよ。それってのはつまり、笑い話にして笑い飛ばしてくれるだけの生存者がいる前提なんだし。

 

「それもそうだな。先陣は私に任せてくれるか? オロバスの炎なら、なにかと丁度良い具合にヤれるだろう。変なタイミングで、中途半端に戦闘中にげぇげぇ吐かれるぐらいなら、最初から後ろに下がらせたほうが面倒が少なくていい」

 

 頼む。ありがとう。

 

 マモル、アキラ。ルーキーどもから目を離すな。

 

「「了解ッ!!」」

 

 曹長、コノミの護衛を。場合によっては紅葉の巫女として徹底的に使い倒す。過労死以外で死なせるな。

 

「了解でありますッ!」

 

「賜りました、中尉さま。身内の不始末も合わせ、命を燃やし尽くす覚悟でお役に立ってみせます」

 

 さぁ学生の権利を投げ捨てた愚かなクソ新兵ども、覚悟はいいか? 

 

 別に覚悟できなくても強制的に連れて行くから逃げ道なんて無いけど。

 

 さぁ、準備はいいな? 

 

 

 …………。

 

 

 返事がない。ただの新兵のようだ。

 

 しゃーない。

 

 

 

 

 ────────返事ィッ!!!! 

 

 

 

 

『『『『────ッ?! りょ、了解ッ!!』』』』

 

 

 よし。刷り込み完了。

 

 これで恐慌状態になっても怒鳴り声ひとつで正気を取り戻させることができる、かもしれない。使える手札は全部使わないとな。

 

 

 しかし、偵察から戻ったら基地がアウトかぁ。

 

 敵は最初から背後にいたワケだ。

 

 

 このぶんだと、俺が陸軍側の区画に行くよりも先に、リュウドウ閣下のお呼び出しよりも先に、コロニー浄化計画が持ち上がった時点でとっくに“詰み”だったのかもね。

 まったく、こんなことになるって知ってたらイミナ中佐をヒミツの情報で殴りつけて天丼とか奢らせてたのになぁ〜。やっぱり海老天の大っきいヤツとか食べたいよね。天つゆのしみたご飯がまた美味いんだわコレが。くそったれ。

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