メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
F8492。それが2度目の人生で俺に与えられた名前である。
起床のサイレンは8時に鳴り響く。どこか軍隊を思わせるカーキ色の作業着に着替えてベッドと蛇口と便器だけの簡素な部屋からのんびり出れば、俺と同じように番号で管理されている『Dクラス日本帝国市民』の皆さまがゾロゾロと廊下に集まって移動を始める。
移動先の小部屋で俺たちよりは多少立場がマシであろうまともな軍人たちが監視する中で、山のように積まれた物資をひとつ掴んで背中に背負う。
中身はハンドガンとナイフ、それから10秒でチャージできそうなドロドロの液体。味は無いが腹持ちは良好で、手足がやつれる雰囲気も無いので栄養バランスは考えられているのだろう。
それから適当にトラックの荷台に乗せられて、いや載せられて楽しい楽しいピクニックの始まりだ。もちろん歌うどころか会話すら存在しないが。
しばらくするとトラックが停止し、降りるように促される。ここから12時間、お仕事の始まりだ。休憩時間の取り方はそれぞれの判断に任せられているので自分のペースで働けるのは実にホワイトだとは思わないか?
時間内にノルマが終わらなければ帰る場所があの部屋ではなく大地のベッドになってしまうのが難点と言えなくもないが、多少の救済措置もあるので案外なんとでもなるし。
目の前に広がるのは……そうだな、文明の廃墟とでも表現しようか。かつては前世で見た東京や大阪のように繁栄していたのかもしれないが、すっかり植物たちに飲み込まれて人間が生活している気配はない。
さっそく俺以外のDクラス国民たちはノルマをこなすために廃墟へと走っていった。仕事熱心なのはいいことだが、準備運動をするぐらいの心の余裕がないとケガしちゃうぜキミたち?
しっかりストレッチで体をほぐしながら上を見れば、そこには縦長の板に貼り付けられたような都市と、ガラス越しの宇宙が見える。
人類の生活圏が地球から太陽系へ、そして天の川銀河に広がってからどれくらいの月日が経過した世界なのかは知らないが、すくなくともこんなガンダムで見たスペースコロニーを建造できるぐらいには文明は進んでいるらしい。
残念ながらそれとは反比例するように人権問題は深刻化しているみたいだが。転生モノの作品は好きだし色々と読みはしたが、まさか培養液の中で自我に目覚めて名前の代わりに番号を与えられるとは思わなかったね!
適当にウォーミングアップを終わらせれば、いよいよ俺も出稼ぎ開始だ。
といっても仕事の内容はとっても簡単、ただ目の前の廃墟でクリーチャーを倒して体内で結晶化したエネルギー物質のようなナニかを規定数回収して戻ってくるだけ。
3年だよ、3年。こんな生活を12歳からカレコレ3年も続けてなんとか生きてる俺って偉くない?
一応この仕事は18歳になるまでの義務だと説明されてはいるが、果たして生き延びたヤツがいるのか、そして本当に解放されるのかは疑問である。
例えば、義務を終えたら個室に連れていかれて銃を突き付けられたりして「この仕事は危険因子を炙り出すための実験的プロセス、生存者は全員始末するセオリー」とか言われてズドンッ! の可能性だってあるかもしれない。
チート能力とかいう身の丈に合わない贅沢は言わないが、せめて前世の記憶を消すぐらいのことはしてくれよな~頼むよ~。
Dクラス国民の中には国家貢献の義務を果たすぞとヤル気満々の連中もいるし、俺も素直に洗脳……ゲフンゲフン、教育されてたのにな~残念だなぁチクショウめ。
まぁ、前世の記憶が全く役立たずというワケでもないし、針の先ほどではあるけど希望も見付けることはできただけマシだろうか?
◇◆◇◆
ハンドガンに異常がないか、ナイフは欠けてないか確認したりしなかったりしている間に周囲からクスクスと嗤う気配が突き刺さる。
階級章らしきものがシンプルな軍人さんたち、それも若い連中が生き残るために一生懸命な俺を見て優越感に浸っているのだろう。
そんなものにはとっくの昔に慣れたし、俺も逆の立場だったら安全であることの幸福を噛み締めてニヤニヤ嗤っていたハズなので気にしていない。
が、階級が高いと思われる上官っぽい軍人たちがクスリとも笑わず真面目な顔をしているあたり、新人たちはあとで「勤務態度が悪いッ!!」って修正される可能性もあるんじゃないかと睨んでいる。
なにせこの世界の日本は日本ではなく『日本帝国』なのだ。軍人さんはとっても偉いがそれ相応に厳しく教育されているハズだ。新人はな。高級将校は知らんよ。
さて、いつまでも入り口でのんびりしているワケにもいかない。12時間というタイムリミットは長いようで実際長くてぶっちゃけ6時間もあればノルマどころか余剰分も稼げるんだけど油断大敵という言葉もあるし、事故防止のためにもお仕事は心に余裕を持ってやらんとアカンからな。
辛うじて電気は通っている薄暗い廃墟の中へ、懐中電灯も無しに入っていく俺。さっそく誰かの悲鳴がここまで聞こえてくるが、そんなものにビビるのは最初の一週間だけ。いまでは運が良ければ武器とメシを拾えるかな~ぐらいにしか感じねぇや。
今日も素敵な捨て駒生活、いつか自由を掴める日を夢見て頑張ろうじゃないの!