【父親になることで男性はどのように発達し、それを規定する要因は何か?】本研究は、この問いに対し、幼児期の子どもを持つ父親を対象に、質問紙調査と面接調査を組み合わせて検討しました。
その結果、父親になることで生じる発達は、「家族への愛情」「責任感や冷静さ」「子どもを通しての視野の広がり」「過去と未来への展望」「自由の喪失」という5因子に整理されました。特に前4因子は、父親が育児に積極的に関与することで促進されることが明らかとなりました。一方で「自由の喪失」は、発達に伴う制約や負担として位置づけられました。
さらに分析の結果、父親の育児関与を規定する要因として、①平等主義的な性役割観、②親役割受容感(親であることを肯定的に捉える意識)、③夫婦関係の満足度、④子どもとの関係性の肯定的認識、⑤職場の理解や労働環境が重要であることが示されました。つまり、父親は単に子どもの発達に影響を与える存在ではなく、子どもや配偶者との関係、社会環境から影響を受けながら自らも発達していく存在として捉えられるべきであると結論づけています。
この研究は、父親研究を「子どもへの影響」から「父親自身の発達」へと視座を広げ、家族心理学・発達心理学における重要な知見を提供しています。