2025.09.11 05:00
小社会 さよならハルウララ
まず一つ。彼女は顔立ちが美しい。瞳の光沢は深く、しっとりと潤う小顔をなでた。そう言えば現役時代、黒柳徹子さんが喝破した。武豊騎手が乗る前々日、誰も入れない厩舎(きゅうしゃ)に特別に入り、顔をなで、繰り返し呼んだ。「あなた美人ね!」
大変賢い馬であることを初めて知った。飼育者の宮原優子さんとは日々「会話」をしたそうだ。「ウララ、おばあちゃんになったね」と声をかけると強く怒り、壁を蹴った。「蹴っては駄目よ」としかると、またちゃんと分かっていて、今度は「手加減をして」蹴ったそうだ。
食事風景にも品がある。飼い葉のチモシーをはむ音は静かで荘厳、クローバーの群生をはむ姿は絵画のようだ。咀嚼(そしゃく)を録音しながらそばに座ると、心地よくて眠くなった。
美人の馬は、神経質で気分屋で寂しがり屋で、人を選んで暴れ回って、一見手に負えないようでいて、どうしてか見る人を集わせ、自然に人を癒やしていく。たくまざる天性を持っていた。
ハルウララ死すの訃報が、終(つい)のすみかから届いた。ブームの時代は人々を励まし、引退後は訪ねる人を癒やし、生涯活躍した。咀嚼音を聞く。心にぽっかりと穴が開いた。