ガザ地区への攻撃の手を緩めないイスラエル。今回のアングルは、そのイスラエルのネタニヤフ政権で閣僚を務めるニル・バルカト経済産業相とのインタビューをお伝えします。
(「国際報道2025」で9月3日に放送した内容です)
・「食料不足はハマスによるものだ」
バルカト氏はエルサレム市長を務めた経験もある、与党リクードの主要人物です。将来の首相候補の1人とも目されています。
私が真っ先に尋ねたかったのはガザ地区で広がる「飢きん」についてです。
国連は7月、食料不足の程度が最も深刻な「飢きん」が発生していると発表しました。 ガザの食料不足についてどう考えているのか聞きました。
バルカト経済産業相: 食料が市民に届いていないなら、それはハマスの責任です。我々や世界の支援でばく大な食料が搬入されていますから。ハマスが食料を盗んでいる。食料不足が起きているなら、それはハマスによるものです。(搬入される)量が問題なのではなく、きちんと配給されていないことが問題なのです。
辻󠄀キャスター:あなたは量が問題ではないと言うが、量について質問したい。 なぜなら量は重要だからです。イスラエル政府によると、例えば8月21日にはトラック220台がガザに支援物資を搬入しています。でもこれは、軍事衝突が始まる前の半分以下です。
バルカト経済産業相: あなたはハマスと話すべきだ。多くのトラックの搬入を認める ことはやぶさかではないし、反対していない。あなたの言うことには賛成しません。 量の問題ではないのです。
辻󠄀キャスター:ガザで飢きんが起きている。この発表に賛同しますか?
バルカト経済産業相: 100%反対です。それはフェイクニュースです。
辻󠄀キャスター:私たちは骨と皮だけになった人々の映像を、毎日見ています。
バルカト経済産業相: 事実ではない。
辻󠄀キャスター:どの部分が事実ではないと?
この質問を続けるのは、ガザ市民200万人が食料不足や栄養失調、飢きんで苦しんでいる からです。
バルカト経済産業相: 違います。まったく賛成できない。
辻󠄀キャスター:どの部分に賛成できないのですか? 栄養失調はない?
飢きんも起きていないと? 市民は殺されていない? どの部分に反対なのですか?
バルカト経済産業相: ハマスが市民を気にかけ、降伏し、人質を返せば、すべては終わるのです。あなたの言うことにはまったく賛成できません。
藤重キャスター: 飢きんについては話がまったくかみ合わないようでしたね。
辻󠄀キャスター:私もそういう印象を少し覚えました。ガザ地区では、これまでに多くの死者が出ています。地元の保健当局によりますと、その数はきょう(2025年9月3日)の 時点で6万3,746人にのぼっています。その半数近くは、子どもと女性だとされています。 巻き添えというには、あまりに大きな数字です。
市民の犠牲についてバルカト氏は次のように正当化しました。
・「戦争では望ましくないことも起きてしまう」
バルカト経済産業相: テロリストを倒そうとする際、彼らが市民の中に隠れると、 残念ながら巻き添えが発生します。殺された人の数で善悪を判断してはならない。
辻󠄀キャスター:死者6万人以上のうち、巻き添えはどれくらいだと?
バルカト経済産業相: 正確な数字はわからない。数字の問題ではない。ハマスが降伏し、戦争を終わらせなければならない。
辻󠄀キャスター:息子を亡くした母親や、親を亡くした子どもたちに何と説明を?
バルカト経済産業相: 彼らが始めた戦争です。降伏すれば1分で終わらせられる。彼らは邪悪でイスラム聖戦士なのです。
イスラエル軍は攻撃の手を緩めておらず、最大の都市、ガザ市の制圧に向けて準備を本格化させています。ガザ地区を今後どうしようとしているのか、長期的な戦略を聞きました。
バルカト経済産業相: 戦えばハマスは負ける。協力する姿勢があれば多くを得られます。どちらにするかは、ハマスが決めることです。イスラエルは、(国交正常化した)UAE(アラブ首長国連邦)とすばらしい関係を築きました。それがお手本です。ガザがドバイのようになるのを手助けしたいのです。
最後に視聴者から多く寄せられている、この質問を聞きました。
それは「ホロコーストを経験したユダヤ人が、なぜガザでこれほどの惨状を引き起こして いるのか」というものです。
バルカト経済産業相: ハマスによる奇襲攻撃の残虐行為は、ホロコースト以降、見た
ことのない最悪の事態でした。邪悪なガザのハマスを我々は絶対に権力の座に戻さない。彼らを降伏させるのです。これは戦争です。戦争では、望ましくないことも起きてしまうのです。
バルカト氏の発言からは、ハマスとガザ市民をまるで同一視しているかのような印象を受けました。
視聴者のみなさんの中には賛同できないと感じた人もいらっしゃるかもしれません。 それでも、対立する双方の主張を理解することは重要です。私たちは、あらゆる立場の主張を伝えることで、双方の主張を理解するためのお手伝いをしたいと思っています。
以上、イスラエル政府の主張をお伝えしました。
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※放送後から1週間ご視聴いただけます
【関連記事】(「キャッチ!世界のトップニュース」で2025年7月31日に放送)
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辻󠄀浩平(「国際報道2025」キャスター)
エルサレム支局、政治部、ワシントン支局、ロシア・ウラジオストク支局などを経て現職。パレスチナ問題やウクライナ情勢、トランプ支持者の取材など、各地で深まる対立や分断を取材。