幼馴染への束縛が強め(になる)ヘルタと幼馴染


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作:ヘルタファンクラブ永遠の最後尾
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第一話


その少女は異質だった。

問いを、問いをと貪欲に次の問いを求め、まるで知識の全てを飲み込もうとしているようにさえ感じられた。

しかしというべきかだからというべきか、彼女は孤立していた。

幸か不幸か、そんな彼女の座る席は俺の隣だった。

だから、俺は自分の抱いた感情が好奇心なのか同情なのかもわからないまま、彼女に声をかけた。

 

「そんな問題が解けるのに、なんでまだ学校来てるんだ?」

「……ここの教員に元大学教授がいるの、彼は私の家族よりも私の話を理解してくれるから」

「大学!?もうそんな範囲やってるのか。すげえなヘルタは」

「……ふっ、まぁね」

 

彼女──ヘルタは少し得意げに鼻を鳴らした。

それから数週間、根気強く彼女に話しかけていると、いつのまにか彼女からも声をかけてくれるようになった。

 

「どうせ今回も、何の勉強もせずにテストに挑むつもりでしょ?最低限くらいは教えてあげる」

 

など、少しツンケンとした態度が目立つがそれでも彼女から話しかけられたことが嬉しかった俺は彼女に教えを乞い、その代わりに彼女の実験を手伝う、一年のテストが全て終わる頃にはこれが慣例となっていた。

そうして、そこからさらに数年の時が経ち俺たち初等教育から中等教育に移る頃には、クラスメイトにヘルタと会話するのは俺の役割とまで言われるようになっていた。

 

「……さて、わかってるよね」

「なにが?」

「進路希望、当然決まってるでしょ?」

 

自信満々の顔で言うヘルタ。

しかし、はっきり言って俺には心当たりが一つもないが、彼女がこの表情をして俺に何かを言うときは彼女の中に予想された答えがある時だ。

必死で脳みそを回転させるが、俺の脳味噌にはヘルタと将来を語り合った記憶はない。

だから、正直に答えることにした。

 

「…ここを卒業したら、旅に出ようと思う」

「は?」

 

いつも気怠げだったヘルタの目が珍しく見開かれた。

そして、しばらく固まった後なにかを察したようにため息を吐いて

 

「はぁ、私がこれまで何のためにあなたの面倒を見たかわからないの?」

「えっと……?」

「あなたは私の助手になるの。わかった?」

 

───────────────

 

「あなたは私の助手になるの。わかった?」

 

その言葉を聞いた彼は、目を見開いて固まっていた。

私に教わらないと学校のテストでさえ赤点を取るような彼がいきなり私の助手になれるのだ、あまりの好待遇に言葉も出ないのだろう、そう思っていたのに

 

「……ごめん。でも、俺は旅に出たいんだ」

 

今度はこちらが言葉を失う番だった。

私にとっては当たり前のことを、何度も何度も褒めたのはあなたなのに、私のことを他の人に向けるのと変わらない真っ直ぐな目で見たのはあなただけなのに。

それなのに、彼はあと三年弱で私の元を離れると、そう言うのだ。

 

「どうして」

 

それだけしか言葉を発せなかった。

我ながら、情けない声だったと思う。

 

「ヘルタのおかげで、この広い銀河を旅したいって思ったんだ。俺は、お前のしてる研究がなんなのか全くわからなかったし、アレをお前以外に理解できる人なんて一人もいないって思ってた。だけど銀河にはお前の研究を理解できた学者が沢山いた。この銀河は俺の想像してるよりも広くて、俺が想像してるよりスゴイものがいくらでもあるんだって気づいたんだ」

 

「だから、俺はこの広大な宇宙を旅して、できるだけ多くのものに触れたいんだ」

 

楽しそうに空を見上げながら言う彼の言葉を、私は否定できなくて

 

「そう、じゃあ助手の枠は空けておくね。旅が終わったら会いに来て」

 

口から出たのは、彼の旅の終点を定める言葉。

旅を止められなかった私に言えたのはこれだけだった。

彼は笑って、「約束だ」と言った。

これだから、私は彼を憎みきれず、彼の旅の終点で彼の到着を待つ他になくなってしまったのだ。

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