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世界が見たい[2011] 踊ってばかりの国(アルバムレビュー)

今回は2nd fullアルバム『世界が見たい』。このアルバムに関しては長めのインタビューが残っているので半分以上がそれに依拠している。最後にリンクを載せてある。

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このアルバムは踊ってばかりの国にとって大きな転機であった。その理由は大きく分けて二つある。

一つはサウンド面でギターの大きな役割を担いつつ、下津と共に踊ってばかりの国のブレーンでもあった滝口敦士の脱退だ。理由として下津との方向性の違いがあるとされている。この脱退によりギターは林が中心となり、重厚感のあるサイケデリックギターサウンドが特徴だった踊ってばかりの国は、サイケを残しつつもガレージロックやサイケロックをはじめとするアメリカのクラシックロックなどの下津が多く影響を受けたサウンドがより主流となってくる。

下津:(2月に脱退した)滝口くんが辞める前は、ポップな方に行こうとする僕と、もう少しコアな、アンビエントっぽいものを求める滝口くんっていうふたつのフィルターがあったんですけど、そこで食い違うようなことがなくなったんですよね。
今こそカウンター・ミュージック 踊ってばかりの国インタビュー 2011.10.27

二つ目は2011年3月11日に起きた東日本大震災である。踊ってばかりの国のみならず日本のほとんどのアーティストたちがなんらかの影響を受けたのは間違いない。踊ってばかりの国もその例に漏れない。これまで(少なくとも見かけ上は)内省的で私的な歌詞が多くを占めていたが、このアルバム以降は(広い意味で)日本社会にコミットした歌詞へとなっていく。アメリカ特に西海岸で60〜70年に隆盛を極めた“カウンター•カルチャー”からの影響を見てとることもできるだろう。

だが実のところこの社会を歌う、カウンター・カルチャーを全身に纏うのは次作とその次作においてよりはっきりとする。今作はまだまだ私的な曲が多いと思われる。

アルバム全体として。何よりのアイデンティティであるサイケデリクスという特徴は相変わらず健在だ。先程書いたようにギターの重厚感が弱まりつつ、一方で揺らいでいて踊るようなリズムが特徴となった。やや強引ながらもサイケロックとガレージロックの融合と言える。同時代のVampire Weekendを始めとするアメリカのインディーズシーンに影響を受けているのも確かだろう。日本だとゆらゆら帝国などを連想する人もいるはずだ。

下津:基本的に、最先端が好きなんすよ。70年代を軸に、最先端とルーツを同時に追いかけてる感じ。最近のUSインディーもそうだと思うんですよね。
同インタビュー

下津の歌声にも歌詞にもより毒味が強くなっている。ハイな感じや突き抜ける感じもしっかり根を張っている。こうした様々な点で『グッバイ、ガールフレンド』の路線を引き継いでいると考えられる。

1.世界が見たい 

表題曲かつ一曲目。誰もが持つような“憧れ”,“羨望”,“嫉妬”というあまり無闇には表に出せない感情を下津らしく思いのままに、毒々しく歌っているのだ。だがこの曲の何よりも注目すべき点は政治的なものと私的なものの中間点に位置するような曲であり、このアルバム全体を象徴するということだ。

(下津)"世界が見たい"は戦時中の日本とアメリカの歌で、「あなた」がアメリカで、主観が日本みたいな感じですね。アメリカを妬んでぶつかって行ったけどボロクソにされて、みたいな。今、中国との関係もやばいじゃないですか? 今回は、そういう政治的なことばっかり歌ってます。
同インタビュー

かなり雑な解説というか歴史理解としてもあんまり納得いかないものだ。「妬んでぶつかって行った」など。純粋な政治を歌う曲としては抽象度を別として無理がある。下津が次のアルバムであれほどまでに露骨に歌うのを見るとここではまだ私的なものが多分に混ぜ込まれていると理解するのが良さそうだ。

まず「<私>が<あなた>を妬む」という構図は確実に読み取れる。
「あなたになって世界を見てみたい」「混じりっ気のない あなたとあなたに」
長い間、日本としての<私>がアメリカとしての<あなた>へ文化的にも経済的にも羨望の眼差しを持ち続けてきたのは確かだ。音楽もその例を漏れず、ジャズやブルース、ロック、ヒップホップに至るまで数えきれないほどの影響をアメリカから受けた。

一方で下津も小さい頃から父親の影響でそうしたアメリカの音楽などの文化に触れてきたことを話す。つまり下津は長きに渡り、そうしたアメリカの文化に憧れてきたはずなのだ。

私の考えとしてはこの曲における<私>は日本でもあり、下津でもある。<あなた>はアメリカでもあり、下津の憧れるロックスターやアメリカ文化そのものでもある。
「ドカドカドカドカやってる水色の悪魔 肉だけを食って生きてきた」
この曲のMVではこの歌詞のシーンでデヴィッド・ボウイの『アラジン・セイン』のジャケットを模した人物が映し出される。
「マチュマチュピチュピチュやってる長髪の悪魔 やがて声は薄くなり それでダメになったかい」
これは誰を指しているかは確定できないが、ロックスターであることは間違いない。下津の敬愛するロックバンドThe Strokesのジュリアン・カサブランカスか。

2.!!!

まずこの曲は「チックチックチック」と読む。時計の針の音を表してる。時計の針が進む音。年月がどんどん進む。肉体が老いていく。死んでも止まることない時間。そういう老衰や時間がテーマだ。ここでは政治性は見られない。「アタマカラダ」に近いテーマだ。

サウンドはロックだがレゲエとかダブ的で、特にフィッシュマンズ的だ。下津の声は重ねられており、いつになくメロディアス。ギターソロも耳にこびりつくような優雅な感傷さを持つ。フィッシュマンズのような近寄り難いオーラを持つと言ったら言い過ぎかもしれないがそれに近い。

3.Going Going

Goingと強引とブーイングが掛けられて言葉遊びになっている。私生活に焦点が当てられているが普遍的というか抽象的。

4.言葉も出ない

「血まみれの空を 血眼の君が這ってた」
グロテスクで生き生きとした感じ。サブカルっぽさとか若々しさとかそんな印象を抱かせる。
「言葉も出ないだろう死ぬんだから」
下津らしく毒気づいた生死を扱うパンチライン。ただこれまでのような無責任で無敵な感じというより成熟を感じる。
「もうごめんさ お別れは」「また笑って会いましょう」
ここには今なら多くの人々が感じるであろう彼の無責任ではない優しさが垣間見れる。だがロックは同時に(社会的な様々な制約から)無責任であり続けた。無責任に言い放つこと。下津がその両面を体現しようとしていると考えることは悪くないと思う。

下津:あの人(ブラーのデーモン)は、本物のロック・スターでしょ。だから、自分もロック・スターになりたいんですよ、それが小学校からの夢(笑)。無責任であるというか、「言いたいことは言うぞ、お前らの意見は聞かんけどな」みたいな、それが多分ロックであり、カウンター・ミュージックやと思うんです。
同インタビュー

5.ドブで寝てたら

いきなりテンポダウンしながらもグロテスクさ、若々しさ、躍動感を歌うという点では一つ前と繋がりがある。またアコースティックギターのメロディが心地よい。
「ドブで寝てたら 朝になったが 我を忘れて 飛んでいたわ 近くには血の匂いがした」
全体的に見ると、“君”は恋人と取るのが普通だろう。今(当時)とこれまでの自らと周りのことを歌っているようだ。ただ“白い”歌、肌は白人=ロックスターと取ることもできる。つまり『バケツの中でも』と同系統ということだ。とにかく“君”ははっきりしないイメージだ。

6.僕はカメレオン

下津は俳優でもやっていたのかとも思う人もいるかもしれないが、黒猫チェルシーの渡辺と勘違いしているようだ(おそらくそんな人はいない)。カメレオンというのは気分屋というニュアンスだろう。
「ビルの森で溺れても 誰も助けないよ」
ビルの森=都会では誰も助けてくれない。こういう歌詞は本当に巧い。またここでも“緑”というモチーフが出てくる。今回は緑の箱と緑の船だ。前々回では生命や希望のイメージと書いたがそう取っても不自然ではないが、結局よく分からない。完全に詩的な領域(?)だ。
「緑の箱を そこいらの馬鹿に渡すなよ」
「緑の船を 沈めろ 殺すよ」 

7.EDEN

この曲には下津が先ほどのインタビューではっきりと“福島の警戒地域”を歌っていると答えている。EDENはエデンの東(もしくは東のエデン)にかけているのであろうか。
「花は踏まれたら終わりだね 君は生かされるよ」「虫は平気で殺すんだね 君が虫ならどう?」
ここだけみるとセカオワの『虹の戦争』のような通俗な人間批判・生命賛美に思えるが震災下では異なった。誰もが目に見えない放射能に怯えていた当時においてはこの歌詞は無自覚で無責任な大衆への悪意と皮肉のニュアンスを帯びる。曲調としては一曲目と同系統にある。

8.反吐が出るわ

「朝方 5時ごろ 北から逃げなくちゃ」「君から 部屋の中死んでたわ」「辺りはボロボロ」北を東北と取るべきか。だとするならEDENとひとつづきの曲ということになる。

9.よだれの唄(リアレンジ)

曲名にもあるように『グッバイ、ガールフレンド』収録のものをアレンジしたものとなる。滝口の脱退によってできたサウンドの穴をキャッチーな音で埋め合わせたものとなる。好みは分かれそうである。


10.悪魔の子供(アコースティックヴァージョン)

これも同様に滝口のギターの穴を埋めたヴァージョン。これは明らかに気迫の迫る感じが減退してしまっている。この2曲から下津はなんとか滝口へのサウンド的な依存を抜け出そうとしているように思える。


11.お涙頂戴

インタビューの引用を説明に代える。正直なところここら辺の知識はあまりない。

THE MORNING BENDERSとかDEVENDRA BANHART、DIRTY PROJECTORSをサウンドの参考にして、そこにティン・パン・アレーの時代のメロディを乗っけってったら、ちょっと新しいんじゃないかと思って。"お涙頂戴"って曲は完全にそういう感じですね。
同インタビュー

聴衆が望むのは結局のところお涙頂戴(感動)だよね、という歌詞。疲弊し、感動ポルノが流行する最中でさらに響き渡るであろう。

12.何処にいるの?

Q.何処にそんな人はいるの?A.どこにもいない「バケツの中でも そばにいた」またしてもバケツというモチーフ。「人の心はカネで買えた」これは下津の実体験的なものだろう。次回以降は何回かこうした表現が出てくる。

13.セレナーデ

これは当時もかなり物議を醸したらしたらしい。1曲目とニュアンスが似ている。というのは嫉妬に似たものが混じっているのだ。歌詞の細部としては少し捻じ曲げて意味が取りにくいところも多いが、「ミイラ」はThe Mirrazで「引きこもりの少年」が神聖かまってちゃんなのは明らかだ。ここでもインタビューを見てみる。

インタビューアー: "セレナーデ"は、ある種そういうこと(不謹慎なワードを歌詞の内容に盛り込んで、狙うこと)への風刺になってるかなって感じました。

下津:それはそうっすね。コンセプトでやってる感が透けて見えるバンドって格好悪いでしょ(笑)。それに食いつくおっさんらもおっさんらやし、それをルアーにしてるバンドもバンドやし。そういうのはちょっと俺にはわかんないっす、っていう歌で
同インタビュー

コンセプト感が露骨なバンドへのアンチテーゼとして踊ってばかりの国は多種多様な顔を持つことを追求するのであろう。
東の街の大人に優しくされたのは神聖かまってちゃんだけでなく踊ってばかりの国もだったようにも思える。この頃下津は事務所とトラブルを起こしていたという。そうした大人の事情にムカついていたはずだし、少なからず自分たちの姿を重ね合わせていたはずだ。

無音が続いた後に、また曲が流れ出す。この曲は次作『Flower』収録のtonightのアコースティックバージョンだ。


批判・指摘はTwitter(@pooraiden10541)まで


参考、引用: 今こそカウンター・ミュージック 踊ってばかりの国インタビュー (https://www.cinra.net/article/interview-2011-10-27-000000-php)



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