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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
921/921

897 クマさん、再会する

 体に魔力を纏い、城下町を歩く。

 妖刀のほうからやってくると嬉しいんだけど。

 ……そんな甘いことはなく、時間だけが過ぎていく。

 好奇な視線を受けながら歩いているのに、なにも得られない。


「うん?」


 あれは。

 視線の先に飴細工の屋台がある。

 わたしは近くまでやってくる。


「おお、クマの嬢ちゃん、久しぶりだな」


 飴細工のおじさんが声をかけてくる。


「なにか買って行くか?」


 屋台を覗くと、相変わらずいろいろな飴細工がある。

クマもあるけど、狐の飴細工が一番多い。

 

「せっかくだから、買っていこうかな」

「どれにする?」

「それじゃ、それと、これと……あとは……」


 わたしは飴細工の補充を兼ねてと、留守番をしているサクラのお土産として購入する。

 代金を払うと飴細工を入れる箱を出し、そこに入れてもらう。


「いつも、たくさんありがとうな」

「ねえ、最近、変な刀を持った人がうろついている話って聞いたことってある?」


 飴細工を箱に入れてくれているおじさんにダメ元で情報収集の一環として尋ねてみる。


「嬢ちゃんも聞いたのか?」

「なにを?」

「いや、俺も今日聞いたんだけど、昨日の深夜に刀を持った男が戦っているところを見た奴がいたって話だよ」


 それって。

 昨日の夜のサタケさんのこと?


「たく、物騒になったもんだぜ」

「それって、どうなったか知っている?」

「さあな。見ていた奴も怖くて離れたって言っていたしな」

「そうなんだ」


 それじゃ、その人を見つけたとしても、サタケさんを見つけることはできない。


「まあ、嬢ちゃんは深夜に出歩くことはないと思うが、夜は出歩かないほうがいいぞ」


 基本、わたしは夜は出歩かない。

 もしかして、夜じゃないと妖刀と出会えない?


「まあ、酔っ払った冒険者たちだろう。巻き込まれたほうはいい迷惑だけどな」


 おじさんは笑う。

 冒険者同士の争いなのか、妖刀なのか、現状では判断はできない。


「よし、いつもありがとうな」


 おじさんは購入した飴細工を箱に入れ終わると蓋を閉めてくれる。

 わたしは飴細工が入った箱を受け取り、お礼を言って店を後にする。


 それから一日中、魔力を纏いながら城下町を歩いたけど、妖刀と遭遇することはなかった。


「なにか情報は得られたか?」


 屋敷に帰ってくると、くつろいでいるカガリさんがいた。


「ううん、なにも」


 ただ、視線を集めただけだった。


「カガリさんは?」

「お主と同じじゃ」


 そう簡単には見つけられなかったみたいだ。


「やっぱり、サタケさんは行方不明になっているのですね」

「今のところ被害は出ていないみたいだから、完全に取り憑かれているわけじゃないと思うけど」


 カガリさんが言っていたけど、目的のために、何かを探している可能性もある。


「魔力を体に纏うか」

「妖刀赤桜が近寄ってくるかなと思って、魔力を纏いながら城下町を歩いてみたけど、ダメだったよ」

「じゃが、なかなかいい方法じゃな。妾も明日から試してみよう」


 二手に分かれれば、釣れるかもしれない。


「城からの連絡は?」

「ありません」


 サクラが答える。


「どうやら、城のほうでも見つけられないみたいじゃのう。サタケの奴も隠れていないで、出てくればいいものを。そしたら、妾が殺してやるのにのう」

「カガリ様、殺しちゃダメです」

「冗談じゃ。半殺で許してやろうかのう」

「そのためには、見つけないとダメだね」

「それにはしっかり食べて、しっかり寝ましょう」


 サクラが用意してくれた夕食をいただく。


「サクラ、酒は?」

「ありませんよ」


 サクラがそう言うと、カガリさんはアイテム袋から小さい酒樽を出す。


「カガリ様、明日もお探しになるんですよね?」

「少しだけじゃ」

「二日酔いでカガリ様に、もしものことがあったら、わたし、今日のことを一生後悔します。カガリ様を止められなかったことに」

「大げさじゃのう」

「カガリ様が怪我をしたら、もし死んだら」


 サクラが泣きそうな表情をする。


「分かった。分かった。飲まなければいいのじゃろう」

「カガリ様」


 サクラが笑顔になる。


「今日は一杯だけで我慢する」


 そういって、コップにお酒をそそぐ。


「カガリ様……」


 サクラが呆れた表情になる。


「ユナ様、どうして笑うのですか?」


 どうやら、わたしは笑っていたみたいだ。


「サクラが、泣いたり、嬉しそうにしたり、呆れた顔をしたりして、可愛いなと思っただけだよ」

「ユナ様!」


 今度は恥ずかしそうな顔をする。

 夕食を食べ終わり、城下町で買ってきた飴細工を出す。


「サクラ、お土産だよ。好きなのを選んで」


 飴細工が入った箱をサクラに見せる。


「飴細工ですか。たくさん、買ったんですね」

「フィナたちのお土産と思ってね。甘くて美味しいし、綺麗だから、喜ばれるんだよ」

「そうなんですね。わたしも好きですよ。でも、あまり食べることがないので、嬉しいです。どれにしましょうか」


 サクラは箱の中を覗く。


「狐やクマがあるんじゃのう」


 カガリさんが覗き込む。


「本当です。悩みます」

「もし選べなかったら、2つでもいいよ」


 クマと狐で悩んでいるみたいだったので、2つ選ばせることにした。


「いいのですか?」

「うん」


 わたしが許可を出すと予想通りにサクラは狐とクマの飴細工を選ぶ。そして、明日いただくと言って、箱にしまう。

 ノアみたいに食べずに保管されても困るので、ちゃんと食べてねと念を押しておいた。



「それじゃ、そろそろ寝るかのう」


 寝る準備も整い、布団に入るだけだ。

 でも、サクラが神妙な顔で、悩んでいる。


「どうしたの?」

「……一つ、お二人に伝えたいことがあります」

「なんじゃ?」


 サクラが真面目な表情をしながら言うので、わたしとカガリさんは布団の上に座り、話を聞く。


「実は今朝、夢を見ました」

「夢?」

「はい。妖刀の話を聞いたからなのか分かりませんが、深夜に妖刀を持った黒い人が現れる夢です」

「まさか、予知夢か」

「分かりません。ただの夢かも知れません。でも、もし予知夢なら」

「あれから予知夢は?」

「見ていないと思います。見たとしても日常のことなので」


 気にもしないってことだ。


「その夢ではなにが起きた?」

「ただ、妖刀を持った黒い何かが現れるだけです。なにかをするわけでもなく、こっちを見て口元が笑っていました。その口元は気持ち悪かったです。本当は今日も見たら、お伝えしようとしたのですが」


 2日連続で見れば、予知夢の可能性がある。


「でも、今夜起きることだったらと思ったら」


 だから、話してくれたみたいだ。


「ただの夢かも知れません」


 夢は現実の出来事が影響されやすい。

 ホラー映画を見て寝ると、怖い夢を見ることがある。

 でも、サクラの場合は予知夢がある。

 だから、否定はできない。


「大丈夫だよ。この子たちがいるから、そんな人が深夜に現れたら、起こしてくれるから、安心して寝て」


 わたしは子熊化したくまゆるとくまきゅうを見る。


「「くぅ~ん」」


 くまゆるとくまきゅうは任せてって感じに鳴く。

 それを見て、サクラは笑顔になる。

 サクラに安心して眠ってもらうため、くまゆると一緒に寝てもらう。


「くまゆる様、こちらにどうぞ」


 くまゆるはサクラの布団の中に入る。

 くまきゅうはわたしのところに来る。

 もし予知夢なら、夜は気をつけないといけないね。

 わたしは念の為、黒クマのまま眠りに就く。


「…………」

「くぅ~ん」


 くまきゅうが動き、わたしの顔をペチペチしている。


「くまきゅう、どうしたの?」


 わたしは起き上がり、くまきゅうを見る。

 くまきゅうは外を見ている。

 横を見るとサクラの傍で、くまゆるも同じように外を見ている。


「誰かいるの?」


 わたしはいつでも動けるように黒クマのままで寝ていたので、そのまま外に出る。

 綺麗な庭園を月明かりが照らし、綺麗だ。

 その庭園に誰かが立っている。

 後ろを向いている。


「誰?」


 声をかけるとゆっくりと振り返る。


「お久しぶりです」

「…………あなたは」


 黒い格好した男。

 サクラが言っていた夢って。


「まさか、この国であなたに出会えるとは思ってもいませんでしたよ」

「どうして、あんたがいるの?」


 悪徳貴族のガマガエルに仕えていた男。

 ミサを攫った男。

 ノアとフィナを殴った男。

 そして、ガマガエル貴族と一緒に捕まった。


「話せば長いのですが、あれから強制労働送りにさせられたわたしは逃げて、ミリーラにあった船に乗り込み、この国にやってきたのです」


 話が長いどころか、短かった。


「こんな国に来るとは思いもしませんでしたよ」


 つまり密航したと。


「この国で適当に生きて行こうと思ったのです。そのとき、面白い話を聞きまして」

「面白い話?」

「偶然に、元、城で働いていた男と知り合い、城に保管されている妖刀の話を聞きまして」

「まさか」

「ちょうど武器が欲しいと思っていたところでした。この刀ですか、美しいとは思いませんか」


 黒男は腰にある刀に触れる。


「それじゃ、城から妖刀を盗んだのは」

「男から城の内部のことを聞くことができ、無事に手に入れることができました」


 盗みに入ったのは2人以上。


「それじゃ、その男と盗んだわけ?」

「ええ、男もお金が欲しかったみたいですから、一緒に盗みに入りました。男は見回りの時間、見回りの経路を知っていたので助かりましたよ」


 城に詳しい者が一緒だったから、入り込まれたわけか。

 だからと言って、ずさん過ぎる。

 スオウ王に一言言わないとダメだね。


「でも、その男は妖刀に取り憑かれ、いきなり攻撃してくるんですから、驚きましたよ」


 だから、争った跡があったわけか。


「その男は?」

「さあ、わたしを襲ったあと、部屋から出ていって、それっきりです」

「それじゃ、他の妖刀を盗んだのは」

「わたしです」

「妖刀を落としたのは?」

「なにか起きるかなと思って、落としたのですが、あまり面白いことは起きていませんね。でも、この国であなたに出会えたので、無駄ではなかった」


 黒男の口元が笑う。

 気持ち悪い。

サクラが夢で見たのはこの男で間違いなさそうだ。


「でも、よく、わたしがここにいるって分かったね」

「それ、本気で言ってます? 鏡をお貸ししましょうか?」


 黒服男が呆れた表情をする。

 この男に言われると、ムカつくんだけど。


あの黒服男が帰ってきた!

忘れた人は書籍8巻、9巻、アニメ2期を見よう。(宣伝)


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よかったら、可愛いので見ていただければと思います。

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※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。


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詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。


※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)

コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
ブラッド・・・・プラット?が脱獄して再登場かいな!(^▽^;) これに妖刀が加算されたとなると 最初っから熊魔法全力で行かないとキツイな!(;^_^A
黒いのがユナの後ろ姿と予想してたらまさかの再登場 だが妖刀に乗っ取られていないのは精神が強いのか適合者なのか 妖刀の力で強化されてるのなら強敵だと思う
あの黒服男が帰ってきた! 再登場の機会が与えられたのは良いとしても、 「なにか起きるかなと思って、落としたのですが、あまり面白いことは起きていませんね。でも、この国であなたに出会えたので、無駄では…
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