「無断学習と無許可利用」というイシュー
また、多くのAIツールは倫理的な問題も抱える。現状の日本の法律では漫画家の作品の無断学習自体は許されているものの、無断で出力し商用利用すれば違法になるからだ。
2025年3月にはOpenAIのサム・アルトマンCEOが写真をジブリ風に加工できるChatGPTの最新画像生成機能を発表した。そして、結果、ジブリ風加工が加わった生成画像が正規ライセンスを得ずに拡散し、IP価値毀損の懸念が指摘された。こうした無断学習と無許可利用の問題は、クリエイターの権利保護と両立できていない。
そんななか「THE PEN」は、漫画家本人の許可と協力を得た上で作家ごとの画風や癖をデータベース化し、漫画家が著作権侵害の不安なく活用できる「権利に配慮した高品質を担保したAI補助ツール」を目指す。つまり、データベースからAIが作家自身の暗黙知を学習することで、オリジナルの作風やキャラクターを高品質に再現する仕組みを開発しているのだ。
「5点」のキャラクターデザインから全体を生成
THE PENの強みの一つは、高度なAIファインチューニング技術で、下書き(ネーム)から完成画までの工程を大幅に省力化できることだ。大量のデータを食わせて「75点」の結果を出す「基盤モデル」ではなく、少しのデータで最後の微調整をし、100点に近い形までファインチューニングするのだ。
具体的には作家が描いたわずか5点のキャラクターデザインをもとに、詳細なタグ付けと独自の生成フローによって、生成AIに活用するデータセットを構築する。しかも、許可を得た範囲を遵守し、他の漫画家のデータと混同されないよう管理することで、創作技術の無断複製や濫用を防ぐことができる。
現在、総計10万件以上のデータを扱いつつ、特許申請中の技術も活用しているという。結果、従来は4回なぞることが通常だがその必要がなくなり、ネームからの作画工程を大幅に省力化し得た。
THE PENの出力品質は商用を前提に設計。汎用AIモデルのように品質が不安定になることを避け、手描きの原画と遜色ないレベルで安定した再現性を実現した。
ある著名漫画家の場合
ある著名漫画家は、隔週連載の約20ページ/回(月40ページ)を執筆するのに13日間/回かけて制作していた。
しかし「THE PEN」導入後は、1日で描いたネームを取り込んでもらうと、約2日でイラストが出力され、手元に納品される。その後約1.5日で線画を微修正して仕上げ、完成だ。
ある著名漫画家が、試験的に「THE PEN」を使用したところ、稼働量は従来の約6分の1以下に減少。
この漫画家は、「もっと描きたい」と意欲が高まり、「THE PEN」の使用による生産量の向上に挑戦したいと思っているようだ。
——Visual Bankは、経産省・NEDOによる国内生成AIの開発力強化プロジェクト「GENIAC」に採択され、15億円の助成金を受けた。
THE PENによれば、「IP産業向けのAIファインチューニング用データセット整備、データライブラリシステム構築、模範的な生成ユースケース創出などを通じ、『IPxAI』のデータエコシステムの創出によって国内の生成AI開発力強化に取り組む」という。
THE PENは新たな産業モデル「IP×AI」を開拓し得るのか。