2022年2月24日、ロシア軍がウクライナ各地への一斉攻撃を開始した。2014年のクリミア侵攻からずっと続いていた戦闘が、一気に全面戦争へとエスカレートした瞬間であった。果たして、プーチンの命令によるロシア軍の侵攻を事前に予測することは可能だったのであろうか。
ここでは、ロシアの軍事・安全保障専門家・小泉悠氏とインテリジェンス・軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏による対談をまとめた『国際情勢を読み解く技術』(宝島社)より一部を抜粋。両氏が当時の状況を振り返りながら、予測が可能だったのかを議論する。(全2回の2回目/最初から読む)
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ロシアは侵攻するか否か? の読み方
黒井 簡単に経緯を振り返ると、2014年に始まったロシアとウクライナの戦争では、2015年に合意された停戦合意『ミンスク2』が守られずに、東ウクライナで戦闘がずっと継続していました。ただし、戦闘は東部だけで、いわば局地戦争の状態に長くあったわけです。ところが2021年3月、ロシア軍が10万もの大軍をウクライナ国境に展開しました。ロシア軍はいったんは引きますが、同年10月、再び同レベルの大部隊を投入します。そこからプーチンは強気の声明を繰り返し、侵攻の脅しをどんどん強めます。
プーチンは同年7月に唐突に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を発表し、ウクライナを支配下に置く野心を表明していますが、同年12月にはNATOに対して東方不拡大の確約を要求。そこからは対決の姿勢を崩しませんでした。その間、軍の増強も着々と進めます。
そして、2022年2月に15万近い兵力で侵攻を開始するわけですが、その開戦前に大きな議論になったのは、ロシア軍は本当に侵攻するつもりなのか、すなわちプーチンは本当に侵攻に踏み切るのかどうか、ということでした。