「首相、退陣へ」報道 説明します

 石破茂首相は7日の記者会見で、自民党総裁を辞任し、新総裁を選ぶ総裁選には出馬しない考えを表明しました。毎日新聞は7月23日にニュースサイトと夕刊1面、24日朝刊1面で「石破首相、退陣へ」と報道しました。その後、首相が続投に意欲を示したため、読者の皆様から「事実と違うのではないか」などのご意見をいただきました。本紙が「退陣へ」と報じた経緯についてご説明します。

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 7月の石破茂首相の退陣に関する記事は「自民党が参院選敗北の総括を8月中にまとめるのを踏まえ、首相が8月末までに退陣表明をする意向を固め、周辺に伝えた」との内容でした。その後、外交日程や自民党内の手続きで総括の時期が9月にずれ込むこととなりました。

 政治を巡る報道では、各種の記者会見、街頭演説、講演での発言、公式発表などがニュースの素材となります。ただ、それだけでは政治の実相を伝えられないことも少なくありません。

 このため、政治家や関係者に対して個別に行う直接取材の結果などを総合した内容を報じています。

 当該報道の3日前の7月20日に投開票された参院選では自民党と公明党が大敗しました。両党の獲得議席数は47にとどまり、石破首相が「必達目標」としていた50議席に届きませんでした。非改選の75議席と合わせても122議席にとどまって参院の過半数(125議席)に達せず、自公政権が衆参両院で少数与党となることが確定しました。

 また、野党各党は石破首相のままでの自公政権との連携を即座に否定しており、法案や予算を成立させるための国会運営の展望が開けていませんでした。

 一方で首相は開票翌日の21日の記者会見で「国難ともいうべき厳しい状況に直面する中、最も大切なことは国政に停滞を招かないこと」と述べて続投を表明しました。その際、続投の理由の筆頭に日米関税交渉を挙げました。「特に米国の関税措置について、国益を守り抜くことを大原則に8月1日という新たな節目も念頭に日米双方にとって利益となる合意を実現してまいります」と語り、8月1日に発動される予定だった「トランプ関税」への危機感を示していました。

 その関税について7月23日朝、交渉が基本合意に達したとの発表が、トランプ米大統領と石破首相の双方からありました。続投の大きな理由の一つがなくなった状況となりました。

 この間、毎日新聞では首相や首相周辺、自民党や首相官邸関係者への個別取材を重ねてきました。首相は自民党が劣勢に追い込まれていた参院選期間中に「まともに(有権者に)話を聞いてもらえない」「正論が聞いてもらえない」と周囲に漏らし、「別に私は長くやりたいわけでも何でもない」「1年間それなりによくやったと思う」と述べるなど、進退をほのめかすような発言をしていました。投票前日には、首相が周辺に対し「辞めるのはいつだって辞められる」と話していたことも確認しました。

 また、首相周辺は7月22日の取材に「8月1日までに(首相退陣で)ごたごたしていたら関税がかかってしまう。その後の枠組みは次の人たちで考えてもらう」と語っていました。

 こうした取材の中で、首相退陣を前提にした自民党総裁選の準備を8月中に始めることになるとの情報を得ました。複数の政権幹部から「首相がすぐに退陣表明すると8月が完全に政治空白になるため、すぐに辞めるわけにはいかない」との説明を受けました。その上で、参院選総括を取りまとめる8月中に実務的な準備に入り、9月に総裁選を実施する方針であることを確認しました。

 7月23日午後に首相経験者3人と首相が面会する前に、政権側が首相経験者側に接触して8月中の退陣表明を示唆した上で、それまでの政権運営への理解を求めていたことも分かりました。

 これらを総合的に判断して7月23日夕刊1面で「石破首相、退陣へ」との見出しの記事の掲載に至りました。あわせてニュースサイトでも報道しました。翌24日朝刊1面でも同じ見出しで同趣旨の内容を報道しました。

 その後、石破首相は「私はそのような発言をしたことは一度もございません」と記者団に語り、日米関税合意の細目を整えることが重要だとして続投の意欲を示しました。こうした首相の発言を受け、読者の皆様から「本人が否定しているのになぜ退陣と報道したのか」などのご意見をいただきました。

 9月7日の記者会見で首相は退陣表明のタイミングに言及し「極めて困難な日米関税交渉、『やめますよ』と言っている政権と誰が本気で交渉するのか。辞任ということは間違っても口の端にのせるべきではありません。口が裂けてもそんなことは言えない」と語りました。当該報道をする時点で、首相本人が「政治空白」を懸念して報道を否定することは想定していました。しかし、記事の中で説明しておらず、読者の皆様を混乱させる結果となってしまいました。

 今回の報道への交流サイト(SNS)を含めた反響を教訓に、今後はより丁寧な政治報道を心がけてまいります。

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