もしあなたがMetaを率いるマーク・ザッカーバーグなら、1日のスケジュールをどう組み立てるでしょうか?
おそらく多くの人が、彼の時間は分刻みの予定や、息つく暇もないミーティングで埋め尽くされていると想像するかもしれません。
事実、管理職を経験したことのある人ほど、そう考えるのではないでしょうか?
あるいは、高名なリーダーの例として語られるビル・ゲイツやイーロン・マスクのように、超高密度なタイムマネジメントを実践していると考えるのも自然なことでしょう。
しかし、ザッカーバーグ氏が実践する時間との向き合い方は、そのいずれとも異なります。
ザッカーバーグ氏は2025年5月、Stripeの共同創業者ジョン・コリソン氏との対談で、自身の生産性を支える思想を明かしました。
それは、多くのリーダーを消耗させる「予定の詰め込みすぎ」とは一線を画すものです。
彼が採用しているのは、単なる生産性のテクニックではなく、自身の能力を最大限に引き出し、同時に精神的な健全さを保つための戦略的アプローチです。
そしてこの考え方は、Googleの幹部からアルベルト・アインシュタインまで、時代や分野を超えて並外れた成果を挙げてきた人々に共通する原理でもあります。
ザッカーバーグは、なぜ「予定された1on1」を避けるのか
この対談は、コリソン氏がある質問をザッカーバーグ氏に投げかけたことで、がぜん深まっていきます。
その質問とは「『会社にとって価値があると思う事柄に、きちんと時間を割くために』どうやって時間を管理しているのか?」。
これは、数十億ドル規模の巨大企業を率いる最高経営責任者(CEO)だけでなく、一般的な中小企業のオーナーや中間管理職も直面する重要な問いです。
ザッカーバーグ氏は、非公式な場で、チームのメンバーにしばしば話しかけるそうです(「こうした(会社の)人たちとは、向こうが求めている以上に話しています」と、冗談混じりに明かしたほどです)。
一方で、時間無制限の定期的な1on1ミーティングはできるだけ避けるようにしているとのことでした。
その代わりに自身のスケジュールでは「かなりの時間をオープンにする方針をとっている」と、ザッカーバーグ氏はコリソン氏に明かしました。
このような方針をとっている理由を、ザッカーバーグ氏は次のように説明しています。
状況は常に流動的です。だからこそ、その日もっとも優先すべきだと直感したことに集中するため、朝の時点で『よし、今日はこの3つのことに取り組むぞ』と決められる自由と、それを実行できるまとまった時間が必要なのです。
スケジュールに意図的な余白があるからこそ、ザッカーバーグ氏は状況の変化に機敏に対応できます。
しかし、メリットはそれだけではありません。より重要なのは、心の安定を保つ効果です。
「1日のスケジュールが他者によってびっしり埋められ、必ずしも最重要ではない用事に縛られて、本当に取り組むべき核心的な課題をやる時間がとれないと、ひどく消耗してしまいます」と、同氏は語ります。
そういう日が続くと、いずれ限界が来るんです。
Googleでは「80%ルール」と呼ばれているアプローチ
ザッカーバーグ氏は、自身の生産性へのアプローチを「自分の時間のかなりの部分をオープンに」と、直感的に表現しています。
この思想を、より実践的なフレームワークに落とし込んだのが、Googleで提唱されている「80%ルール」です。
20%のゆとりが時間を最大限活用できる秘策
検索大手Googleで社内の生産性コーチを務めるLaura Mae Martin氏は、同社のリーダーたちが時間を最大限に活用できるよう支援しています。
彼女は、ザッカーバーグ氏が実践するこのアプローチを「80%ルール」と名付け、体系化しました。
これはつまり、1日の時間のうち、スケジュールを決めておくのは80%にとどめ、残りの20%は、どんなことであれ不測の事態に対処するためのゆとりとしてオープンにしておくべきというルールです。
Martin氏は『HBR IdeaCast』で、こう説明しています。
私はいつも『本来の目標より下のレベルを狙いましょう』と伝えています。なぜなら、そのあたりを狙っておけば、結果的に、本来の目標レベルを達成することになるからです。
私が言う80%のレベルを狙ってみてください。
これが最終的には、物事に対してちょうどいいくらいの関わり方と言えるレベルなのです。
成功者や生産性の専門家が支持する「80%ルール」
データを重視するGoogleだからこそ、スケジュールにゆとりを持たせるためのメソッドについて、厳密なルールを定めたのかもしれません。
しかし、ザッカーバーグ氏をはじめ、さまざまな分野で並外れた成功を収めた人たちは、長年の経験による直感に基づいて、この基本ルールを思いつき、実行に移しています。
たとえば、アインシュタインが、予定のないまとまった時間を確保し、深い思索にふけっていたことは有名です。
そして、その余白から相対性理論の着想が生まれたとも言われているのです。
また、Appleを率いたスティーブ・ジョブズ氏も、散歩や瞑想といった、スケジュールに縛られない時間を創造性の源泉としていたことで知られています。
さまざまな生産性の専門家も、同じ結論に達しているのです。
ソフトウェアエンジニアのトム・デマルコ氏が20年以上前に、ある著書で1冊丸々を割いて主張しているのも、基本的には80%ルールと同じこと。
『ゆとりの法則 - 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解』(訳書:日経BP)というタイトルのこの著書は、スケジュールが埋まりすぎていると、避けて通れないショックや不意の出来事を吸収することができなくなると説いています。
長い目で見ると、よりゆとりのあるスケジュールを組んでいた場合と比べて、こなせるタスクが少なくなってしまうというのです。
社会学者のChristine Carter氏も「戦略的なゆとり」を設けることの重要性を説く作家の1人。
ジャーナリストのオリバー・バークマン氏も、厳格すぎないスケジューリングをテーマにした本で、多くのベストセラーを世に送っています。
バークマン氏は、著書の1つ『不完全主義 限りある人生を上手に過ごす方法』(訳書:かんき出版)の中でこう綴っています。
私の場合は、まるで綱渡りをしているような気分で、毎日の仕事に取りかかることはありません。
計画通りにやり抜くには、すべての事柄を正確に進めなければいけないというのは、性に合わないからです。
1日のうち、スケジュールが決まっているのは何割?
ザッカーバーグ氏は、自身のスケジュール作成に関するアプローチを「80%ルール」とは呼ばないかもしれません。
それでも、基盤にある原則は、このルールとまったく同じです。
そして、GoogleのMartin氏のように、この法則についてもっと厳格な数値目標を定めることには、いくつかのメリットがあります。
第1に、キャッチーです。
「80%ルール」と呼ぶほうが、ザッカーバーグ氏の言う「自分の時間のかなりの部分をオープンにしておく、という考え方」よりも覚えやすいはずです。
しかもこれは、狙うべき明確な目標になります。
「80%」という具体的な数字が手元にあれば、リーダーも自身の予定を見直して、これに合わせて調整できるでしょう。
それこそまさに、冒頭で挙げた対談でザッカーバーグ氏が訴えたかったことでしょう。
さて、あなた自身の場合はどうでしょうか?
一度、ご自身のカレンダーを振り返ってみてください。事前に決められた予定が占める割合は、何パーセントくらいでしょうか?
もしそれが100%に近いなら、まずは1日のうち、あるいは週に数時間でも「何もしないことを決める」時間を意図的に確保することからはじめてみてはいかがでしょうか?
Metaを率いるザッカーバーグ氏でさえ、戦略的思考や予期せぬ事態に対応するための余白を必要としています。
であれば、日々現場で格闘する私たちにこそ、それが必要なのは自明です。
スケジュールに入れる予定を減らすと、短期的には不安を感じるかもしれません。
しかし、その余白こそが、予期せぬ問題に対応する柔軟性、より本質的な課題を発見する洞察力、そして何より、長期的に走り続けるための精神的な活力を生み出すのです。
管理すべきは時間ではなく、自らの思考とエネルギーを最高の状態に保つための「余白」なのかもしれません。
著者紹介:Jessica Stillman
ジェシカ・スティルマンはライター、編集者、ゴーストライターとして活躍し、Inc.comで毎日連載しているコラムは、仕事(そして人生そのもの)をより有意義で、楽しく、そして影響力のあるものにすることに焦点を当てています。
編集者紹介:北田力也
ライフハッカー編集部員。ニュース速報からカルチャー記事まで幅広く担当してきた経験を活かし、ライフハッカーではインタビューや読み物記事を編集。固定の仕事は16時までに終えて、その後からは企画進行や自分にしかできない仕事に注力したい派。
Source:Business Insider, Harvard Business Review, Amazon
Originally published by Fast Company [原文]
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