作:擬人化カイオーガちゃんはいいぞ
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カイオーガの手を引きミシロタウンの中を歩いていく。
生い茂る芝生の上を歩けば、さくさくと小気味のいい音が耳に入り、通り抜ける風はカラッとしていて心地良い。
周辺の草むらや木の影には、ポチエナやジグサグマたちが穏やかな顔で気持ちよさそうにお昼寝中。
「ほんとに穏やかな街だなぁ」
「────♪」
隣を歩くカイオーガもどことなく気分が良いのか、繋いだ手を大きく振り、頭を揺らしながらご機嫌そう。きっと声が出せれば鼻歌でも歌っていそうなほど。
地上に来る時はどこか不満そうだったけれど、今はそんな様子もなく安心している。何せ、彼女をパートナーポケモンにしてしまったからには、これからオレとこのホウエン地方を歩いて旅してもらうことになる。
陸を歩むのが嫌なら、とモンスターボールを出してみたのだが。
「───! ───!!」
もう泣く直前みたいな表情で背中に抱きつかれて、ぶるぶると震えられては無理強いもできないわけで。結局は連れ歩き状態のまま、こうして一緒に歩いている。
この状態の問題はふたつ。まず、カイオーガが凄く目立ってしまうことだ。
目立つ理由としてはその容姿。青い長髪に山吹色の瞳、白雪のような肌を持つ端正な顔立ち。そして、大きなヒレの付いた手や固唾を飲んでしまう幻想的な雰囲気。
オレ個人の視点だけでなく、一般的にも目を惹いてしまう美しい少女で、そんな子がいれば老若男女が振り返ってしまうのは、想像に難くない。
で、それから生じたものがふたつ目の問題につながる。チラリと周囲を見れば、カイオーガを発見して目を丸くした後に、オレを見て“どういう……?”という顔をする。
そりゃこんな明らかに普通じゃない子を先導してるのが一般人なら、変な勘繰りも生まれるよなって。だから何度か手を放そうとしてるが、例によって物凄い怪力でしがみつかれるので諦めて歩いている。
「早いところ博士の研究所に行こ……」
「──?」
「えっとね……確か図鑑とポケモンを貰えるんだっけかな」
「───、──────?」
「え? ごめん、わかんないや。……っと、ほらここ」
「……──」
モニョモニョと口を動かして微妙な顔をしているカイオーガが何かを言っているが、流石にわからず、とりあえず謝る。
まぁ、なんか思うところがあるみたいだけど。ひとまずはオダマキ博士に会ってからだと、目の前にある他の民家よりも少し大きい建物を見上げる。
ここが旅のスタート地点であり、入り口。たった1日だけど、長くて険しい冒険の果てにようやくここまで来れた。
木造ながら建物の中から聞こえる電子音や、ポケモンの鳴き声に心が躍る。きっとまずはお説教などだろうが、それでもずっと楽しみだった冒険の第一歩を踏み出せるのだ。
「すぅ……はぁ……」
「───……───……」
そっとカイオーガの手を離してから、緊張で強張った体をほぐすために大きく深呼吸。
真横にいるからか、手を離すことを許してくれたカイオーガも見よう見まねで同じことをしているが、“これってなに?”と不思議そうな顔をしている。
たぶん緊張とかそういうのを感じたことがないのだろうな、と思いつつちょっと余裕のないオレは一旦目を閉じて、そして開く。
「よし。行こう!」
心を無理やり落ち着けて、まだ見ぬポケモンとトレーナーたちとの出会いを夢見て、いざ研究所のドアを開く──。
ガチャッ!
「え?」
「へッ!?」
伸ばした先のドアノブは勝手にまわり、開けようとしていた扉は想像の何倍もの速さで大きな音とともにオープン。
伸ばしていた自分の手は空を切り、見つめていた扉のドアノブから上に上げてみればそこには。
ちょうど急いで飛び出してきたのか、上半身を前斜めにした走る体制の女の子の顔と視線がぶつかる。ここまでで1秒にも満たさないわずかな時間。
お互いに予想していなかったからか、目を大きく見開いて驚いた表情をしながら、ポカンとした顔。この後の衝突はきっと免れることはできない。
“あれ、最近女の子に突撃されっぱなしじゃないかな?”とか呑気なことを考えて。“ああ、痛いだろうなぁ……”と諦めの思考に至って。
「ごふっ!!」
「きゃあ!?」
「……───!?」
ゴツンッ!と見知らぬ女の子の頭が自分の腹部に突き刺さる。
余程急いでいたのか、アスリートみたいな姿勢でダッシュしていた女の子は、急ブレーキをかけようとして足に力を入れたようだが、体はそのままの勢いでオレの腹部にとんでもない一撃をお見舞いした。
これはあれだな、きゅうしょってやつ。意識が白黒に点滅する中で人ごとのように考えながら、衝撃に従って背中から崩れ落ちていく。
背中が地面にぶつかるまでの時間でチラリと横にいたはずのカイオーガをみれば、びっくり仰天で目を見開いた間抜けでちょっと可愛い顔が視界に映る。
でも、すぐになんか不満そうな顔になった気もして、そこでドンッ!という衝撃が背中に。
そして前からは、ぽふっとした音とともに多少の重みがあるものが、自分の体に重なるようにして乗っかられる感覚が来た。
「いてて……」
「うぅ……」
ぴよぴよと頭の周りをアチャモがくるくる回る錯覚を覚え、寝そべったままぶんぶんと頭を振り、視線だけをお腹の方に向ければ。
赤いバンダナをリボンのように頭に巻いた薄茶色の髪の活発そうな女の子が、痛そうに後頭部を撫でている姿が目に入る。
この子もトレーナーなのかな、とぼんやりした頭に浮かんだ思考。きっとオダマキ博士に用事があったんだろうなぁとか思っていると、ようやく正気に戻ってきた。
「いたた……ぁ、っ! ご、ごめんなさいっ! あたし急いでて、それで、えっと」
それは目の前の少女も同じだったようで、ハッとした顔になったかと思うと、ずっと重なっていたオレの体から自分の上半身を上げて謝ってくる。
「だ、大丈夫。こっちも似たようなものだったから」
「そうなの? キミもオダマキ博士に用事があったんだ」
「うん……あのさ」
「もしかしてあなた、ポケモントレーナー? あたし、まだここに引っ越してきたばかりで」
「ちょ、ちょっとその、ストップ!」
「え?」
上半身は上げてくれたが、いまだにオレの下半身に馬乗りのままテンション高めに話し続ける女の子にストップをかける。向こうはそれを忘れているのか、急に話を止めたオレを見てキョトンとしていた。
“さてはかなりマイペースな子だな?”と訝しみつつも、まずは先に立ち上がりたいとその節を伝えることにする。何せ。
「─〜〜……!」
両頬をぷっく〜〜と膨らませたカイオーガが、今にも技を使いそうなほど不機嫌になっているからね!
使いそうというか、なんか口元に水みたいなのを溜めてない? みずでっぽうじゃ済まない量だよ? え、ハイドロポンプですか??
頭に怒りマークをふたつくらいつけたカイオーガに冷や汗をかきながら、なるべく冷静に初対面の少女へとりあえず立って話そうと言えば。
「ごご、ごめんね!?」
あわあわとしながらぴょんっと跳ねるように立ち上がって、大きくぺこぺこと頭を下げられてしまう。別にそこまでしなくてもいいのに、なんて思いながら、手を左右に振って。
「平気だよ。そっちこそ怪我とかない?」
「あたしは平気だよ。キミは?」
「こっちも特に。……ん、ありがと」
手を差し出されて握り返せば、立ち上がるのを手伝ってくれる。“あはは……ほんとにごめんね”と申し訳なさそうに眉を下げて謝られてしまう。意外と気にしているようだったが、オレが本当に大丈夫と伝えれると“そう? うん、わかった”とすぐに納得してくれた。
立ち上がったことで少女の全身が視界に映る。キャミソール風の赤い服に動きやすそうなショートパンツ、腰には道具やモンスターボールがチラリと見える大きめの黄色いウエストバッグ。なんというか、全体的に赤い色が目立つ女の子だな。そして可愛い。
……なんか、どんどん不機嫌でむくれてる気配を斜め後ろから感じるけど、どうしたものか。
むむ、と悩んでいるオレを見て不思議そうな顔した少女。でもすぐに先ほどまでの会話を思い出したのか、そう言えばと口を開く。
「それで、キミもここに用事があったんだよね」
「うん。オダマキ博士に会いに来たんだ」
「わ! あたしもだよ! でも今はフィールドワークでいないみたいなの」
「あちゃー、タイミングが悪かったのか」
「みたい。それであたしはこれから博士のことを探しに“101番道路”に行くんだけど……あ、そうだった」
なんとも間の悪い時にきちゃったなぁと考えていると、そこまで話した少女が何かを思い出したように手を差し出してくる。
はて、と一瞬だけ考えたものの、すぐにその意味がわかって手を握り返して握手。
「あたし、ハルカ! よろしくね! 今日ミシロタウンに引っ越してきたの」
「オレはカイト。キナギタウンってところから来たんだ」
「へぇー! 遠いところからだね。顔、疲れてるけどだいじょぶ?」
「長旅だったよ、ほんとに……」
昨日から今日にかけた大冒険を思い出して目を遠くしてしまう。
「あ、あはは……。えと、それでそっちの子は?」
「ん、あ。そか、えっと……むぐぅう!?」
「──ッ!!」
「わっ」
なんと言ってこの子を説明をしようかなとカイオーガの方に振り返れば、ぴょーん! と飛んでオレの頭を抱えるようにダイブして来た青いポケモンが1匹。
腕を首に巻き付けてぎゅ〜〜〜っと抱きつきながら、頭を擦り付けるように胸にぐりぐり。マーキングでもするかのような勢いと力。若干、痛いよねって。
完全にオレの首に抱きついて体重をかけてくるカイオーガ。彼女の身長はオレの頭ひとつ分くらい小さいので、抱えることはできるのだけれど。
駄々っ子のようにバタバタと激しく足を振って、“不満です”という顔を至近距離で見せられては照れの感情も生まれてくるわけで。
「は、離れよ? 一旦おろさせて?」
「─! ─!!」
「“やだ!やだ!!”じゃなくてぇ……!」
「な、仲良しなんだね……?」
そんなこんなでひとしきり暴れたカイオーガは少し落ち着いた後に、オレに抱きついたままハルカの方に目を向けると。
「──、───!!」
何かを主張するようにぱくぱくと口を動かしていた。表情はキッとしていて怒っているみたいだけど、モチッとしたほっぺをぶくーっとしているせいで可愛らしさが勝ってしまっている。
ハルカの方もそんなカイオーガを見て、困惑した顔をしつつも口元は笑っている。たぶん“可愛いかも……?”とか思ってそう。
わかるよ、なんか小さいポケモンが必死に威嚇してるのって可愛いよね。ジグザグマとか。
「えっと……」
「ははは……気にしなくていいよ。えっと……」
さて、なんて説明しようかなと考えていると、手のひらに拳をぽんっと置いたハルカが“もしかして”という顔になる。
「この子もカイトくんと一緒にオダマキ博士に会いに来たの?」
「あー、いや、ちょっと違くってぇ……」
「そうなの? えっと、どうして悩ましそうな顔してるのかな」
ほんとどうしようかな……なんて言おうかなぁ。
どうしたらいいと思う?と視線だけでカイオーガに尋ねてみる。“なにが?”とキョトンとした顔で首を傾げられる。
別にすぐバレることだろうしなぁ、と全部話しちゃおうとカイオーガを横におろしてハルカに向き直る。
……あの、おろした直後に横から抱きつくのやめてね?
「
イヤですか、そうですか……。ぶんぶん首を横に振るカイオーガに呆れと諦めを覚えて、そのままの状態でハルカを見ればなんとも気まずそうな顔。
この子が人って思っているハルカからすれば、こんなふうにもなるよなぁ。
「ほ、ほんとに仲良しだね?」
「まだ出会って1日くらいなんだけどな。懐かれてる」
「──」
ふふん、と得意げな顔をしているカイオーガに“なんで?”と思いつつ、難しそうな顔をしたハルカに続きを話し始める。
「な、懐く? この子、そんなに幼く見えないけど……」
「まぁ、うん。歩きながら話そっか。オレも101番道路に行きたいし」
「いっしょに行ってくれるんだ。えへへ、実はあたしもカイトくんのこと、せっかくだから誘おうと思ってたんだ」
「うん、せっかくだし一緒に行こ。あ、でこの子についてだけど、実は——」
目的の人物であるオダマキ博士がいる101番道路への方に自然と歩きながら、ハルカにオレが昨日に遭った出来事を簡単に話していく。
海で遭難したこと、その先で運良く海底の洞窟にホエルコが連れて行ってくれたこと、洞窟の探索で散々な目に遭ったこと。
最後に不思議な空間でこの子、カイオーガに出会ったこと。
「——っていうわけで、寝てたのがこの女の子だったんだ」
「すっごく大変な目にあったのに、ちゃんとミシロタウンまで来れてよかったね……?」
「ほんとに運が良かったんだ。というか、この子に連れて来てもらった」
「そうなの? あ、もしかして凄腕のトレーナーだったの?」
「──?」
「はは……」
カイオーガを見るハルカの目に憧れの色が宿る。きっと彼女はポケモントレーナーを目指しているのだろうな、と思うが。この子はトレーナーじゃないんだよなぁ。
「あのさ、今からいうことはすっごく突拍子もないんだけどね」
「うん?」
「この子、ポケモンなんだよね」
「……へ?」
「で、名前を聞いたら“カイオーガ”って。な?」
「──!」
「え、へ??」
おお、すごい。百面相みたいにハルカの表情がコロコロ変わってる。すでに質問したそうな顔でうずうずしているハルカだったが、まずはオレの話を聞こうとしてくれているようで、ムズムズとした表情のまま続きを聞いてくれる。
「それで紆余曲折あって」
「う、うん……」
「オレがゲットしちゃった」
「
「え、っと……? えぇ……?」
困惑を顔全体に敷き詰めたハルカは手を頭に当てて、“うーん? ええ?”と混乱していく。
オレの話を聞いて本当か嘘かを考えずに、まずは聞いたことを咀嚼しているようで、彼女なりに色々と考えた結果。
「ほんとにこの子……えっと、カイオーガってポケモンなの?」
と一番気になっているであろう質問をしてきた。そう聞かれたオレはカイオーガと目を合わせて、それから空を指さして。
「カイオーガ、なんかそこまで強くないわざとか打てる?」
「──」
「うん、よろしく」
一番わかりやすいのはこれかな、と思ったものをお願いすれば、こくりと頷いて上を見上げるカイオーガ。
そういえば、この子が使える技はアクアリング以外知らないなぁ、と思って。何が起きるんだろうと不思議そうな顔をしたハルカが横にいて。
「────!!」
「あ」
「ひゃっ!?」
最後に、空に向かって巨大な水のレーザー砲のようなものを放ったカイオーガを見た俺たちは、小さい悲鳴のあとに絶句した。やっぱりハイドロポンプだよね、これ。