「法廷通訳人」なり手不足が深刻化 15年間で2割減 外国人被告は増 多忙でも不十分な報酬、待遇改善求める声
裁判で外国人の被告の通訳を行う「法廷通訳人」のなり手不足が深刻化している。通訳が必要な外国人被告の数は増加傾向にあるが、全国の通訳人候補者数は、ここ15年間で2割減少。公判資料の翻訳に時間がかかり負担が大きい一方、報酬が不十分な実態が背景にあるとみられ、北海道内の関係者から待遇改善を求める声が上がる。 法廷通訳人の候補者数と通訳人がついた外国人被告の推移 札幌地裁で1日に開かれた不同意わいせつ事件の判決公判。被告はパキスタン国籍の男(63)だ。裁判官が「被告を懲役1年6カ月に処する。3年間刑の執行を猶予する」と言い渡すと、通訳人がウルドゥー語に訳した。判決理由の読み上げが続くと、通訳人は要所ごとに訳して男に内容を告げ、言い渡しにかかった30分のうち半分近くが通訳に充てられた。 2024年版犯罪白書によると、外国人による刑法犯の摘発件数は05年をピークに減少傾向にある。ただ、外国人技能実習生の受け入れや訪日外国人客の増加などを背景に、外国人が関わる特殊詐欺事件や傷害事件は増えており、外国人の起訴件数は近年増加傾向だ。日本語に精通していない外国人が法廷に立つケースが増えた分、法廷通訳人のニーズは高まっている。 最高裁によると、24年に全国の地裁、簡裁で通訳人がついた外国人被告の人数は、15年と比べると1.7倍増の4649人。札幌高裁によると、道内の地裁、簡裁では15年は10人だったが、24年は36人と大幅に増えた。 一方、通訳人の候補者数は減少傾向が続く。最高裁によると、全国の通訳人候補者は記録が残る1990年以降、ピーク時の10年には4076人いたが、25年4月時点は3244人。15年間で20%減った。 減少の背景には通訳人の負担の大きさがある。20年以上にわたって100件近くの公判に携わり、法廷通訳人を昨年退いたロシア語通訳の中原博子さん(74)=札幌市北区=は「1時間の公判でも、円滑な審理のためには2、3時間の事前準備が不可欠だ」と語る。 ロシア人被告に審理の内容を理解してもらうため、難しい裁判用語を平易な表現に訳すことを重視してきた中原さん。公判資料を訳すだけでノートを1冊使い切ることも珍しくなかった。 審理が短期間に集中する裁判員裁判の場合、負担はさらに増す。11年に旭川地裁であった、傷害致死罪に問われたロシア人2被告の裁判員裁判では、中原さんが通訳を担った。2人の主張が異なっていたこともあり、連日徹夜で次の公判に備えたという。 準備にかかる時間は無報酬だ。法廷での通訳に関しても、裁判官が事件の性質に応じて支給額を決めるため、明確な算定基準がない。中原さんは「準備分も正当に評価し、1時間あたりの報酬が分かるようにすべきだ」と訴える。 これまで500件以上フィリピン語の法廷通訳を務めた静岡県立大の高畑幸教授(社会学)によると、通訳料は1時間あたり1万5千円程度が相場。22年に高畑教授らの研究グループが経験者に行ったアンケートでは、報酬について8割近くが「少ない」と答えた。 高畑教授は通訳人のなり手確保のためには「精神的負担を軽減するための研修を増やすことも重要だ」と指摘。札幌高裁によると、22~24年度の3年間で道内の裁判所で行われた研修は計4回にとどまる。高畑教授は「模擬裁判の実施など、通訳人が法廷独特の雰囲気に慣れる取り組みをさらに充実させるべきだ」と語った。
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