欧州や米国で近年、発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)の汚染の責任を司法の場で追及する動きが見られるようになっている。イタリア・ベネト州では、水道水汚染の責任を問われた企業の元幹部らが刑事裁判で禁錮刑の有罪判決を受けた。
現地で汚染の取材をしてきた映画監督の平良いずみさん(48)は「問題進展への風穴が開いた」と期待する。一方で、日本の司法の場での責任追及には課題が多い。(松島京太)
◆イタリアのPFAS裁判、三菱商事も汚染源企業の親会社に
イタリア北東部。「水の都」として知られるベネチアが州都のベネト州の水道水での異変が分かったのは2013年。州当局の調査で、水道水の水源に使用された地下水から高濃度のPFASが検出され、約35万人に影響したとされる。
「子どもたちの健康を案じておびえ、母親として無力感に襲われた」。「こちら特報部」の取材に同州に住むミケラ・ピッコリさん(52)はこう憤る。ミケラさんの娘マリアさん(22)の血中から高濃度のPFASが検出されたからだ。現地での疫学調査では、心疾患やがんによる死亡率が増加したと報告されている。平良さんは「『二つ分の村がなくなるほどの人口がPFAS汚染によって失われた』と現地では言われている」と深刻さを語る。
汚染源は、既に破産した同国の化学メーカー「ミテニ」。伊メディアや平良さんによると、同社とその前身企業は1960年代からPFASを生産し、工場周辺の地下水の汚染を引き起こした。
「ミテニ」の「ミ」は「三菱商事」の頭文字とされ、1988年に三菱商事を含む事業体に買収された。工場は2009年、ルクセンブルクの投資グループに1ユーロで売り渡された。
◆ミテニ元幹部、うち日本人3人も禁錮10年以上の判決
ミテニなどの責任を追及する裁判はこの数年、賠償請求の行政裁判と刑事裁判が並行して進められてきた。
ベネト州行政裁判所は昨年5月、工場を経営してきた全ての企業に責任があるとして、元親会社の三菱商事にも浄化費用の負担を命じた。三菱商事は上訴して裁判は今も継続中だ。
刑事裁判は今年6月に判決が下され、ミテニの元幹部ら11人に禁錮17年6月〜2年8月の判決が下された。日本人は4人が起訴され、2人が禁錮16年、1人が禁錮11年、1人が無罪だった。三菱商事の広報部は取材に「判決理由が開示されてない。(除染など)具体的な対応などについては回答を差し控える」などと述べるにとどめた。
刑事裁判の重い判決に「精いっぱい続けてきた市民活動が報われた」とミケラさんは喜ぶ。行政裁判や被害者を昨年取材した平良さんは、背景について「汚染源特定と疫学調査という証拠をしっかりと集めたのに加え、現地の人たちが汚染に立ち向かって声を上げ世論を動かしたことが大きい」と分析する。
◆子どもの命守ろうと行動を起こした、イタリアの母親たち
元沖縄テレビのアナウンサーだった平良さんは、退職後に映画「ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう」(2025年)を監督作品として製作。「沖縄だけでは光が見えない」と海外の先進事例を探るために昨年10月からイタリアなどを取材した。そこで目にしたのはミケラさんらをはじめとする「目の前にある命を守ろうと行動を起こす母親たち」だった。
ベネト州では「MAMME NO PFAS」という母親たちの市民団体を中心に汚染への抗議活動が活発に展開された。「とにかく陽気で明るい。抗議行進を見ていて私も勇気づけられた」と振り返る。
裁判結果については「責任の所在をはっきりさせた。倒産したからという理由で逃げ得にさせなかったという意味で刑事裁判で有罪にしたことは、ベネト州のみではなく、多地域や他国の汚...
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