「母や妹に読んでほしいから、難しい言葉を使わない」與座ひかるさんが記事を書くときに気をつけていること
デイリーポータルZライターの與座(よざ)ひかるさんは、ひと味違う。工作や実験の記事が多いデイリーの中で、與座さんが主に扱うのは「概念」だ。
例えば、「斜にかまえる、かまえないを1分ごとに切り替えるとどうなるか」「『主語の大きさ』をくじ引きで決めるとどうなるか」「合意の下メンツを潰しあうとどうなるか」など。モノではなく言葉や概念をゲームにし、その正体を暴いていく。
「みんなわかっている風だけど、実はよく分かっていないこと」を浮き彫りして、笑いと共感、学びを引き出す。Webマスターの林雄司も「予想がつかなくて面白い。書き方を教えてほしい」と脱帽するほどだ。
こんなテーマをどう発想し、どのように構成しているのだろうか? ヒット記事を連発する與座さんに、書き方のコツを聞いた。(聞き手:林雄司、岡田有花/構成:岡田有花)
ゼリーをかぶった記事で転職
林:與座さんの記事は、最初のほうは、ゼリーをかぶったり獅子舞になったり、工作とか物理的な実験が多かったけれど、だんだん概念を扱うようになってきました。
與座:初期はデイリーっぽさを意識していました。ゼリーの記事で転職したんです。
林:ゼリーをかぶって転職?
與座:Webメディア「バズフィード」の人が個人で書いていたブログを見てくれてオフィスに呼ばれて。例としてゼリーをかぶる記事を見せたら、アメリカの人たちに「ジェリーガール、ジェリーガール」って喜んでもらって、採用してもらいました。
新卒で編集に配属されず、ブログを始めた
岡田:與座さんと私は、新卒の会社(アイティメディア)が同じでした。與座さんも編集志望で入ったけど、配属は営業事務だったんですよね。
與座:はい。「顔が明るいから営業ね」みたいな感じで、広告クライアントと編集者の間に入って連絡したり催促したりする仕事をしました。そういうの、全然できないのに。
人事にも「編集職が良かった」ってねちねち言ってみたんですけど、「でもブログも何にもやってなくて、いきなり記事書きたいって変じゃない?」って言われて、「あ、確かに」と思ってブログを始めました。
林:素直だ。
與座:「今日の休憩」というブログです。昼休憩の60分でいろんな場所に行って、毎日書いていました。
岡田:デイリーのライターになったきっかけは?
與座:ブログの記事をデイリーポータルの新人賞に応募したら「惜しかった作品たち」に選ばれて。しばらく後に編集部から連絡が来て、書いてみることになりました。
「斜にかまえる、かまえない」が生まれるまで
與座:最初はデイリーっぽさを意識した、実験や工作の記事を書いていましたが、だんだん「斜にかまえる、かまえないを1分ごとに切り替えるとどうなるか」とか「後輩に指摘される練習をする」など、ふわっとしたテーマになっていきました。
林:與座さんの記事って、概念なんですよね。どうやって考えるんですか?
與座:「斜にかまえる」の時は、周りに斜にかまえてる大人が多くて……。自分自身にもそういうところがある。でも、「斜にかまえるのはダサいんじゃないか」とも思って、「みなさん、斜に構えすぎていませんか!? と訴えるにはどうしたらいいか」って考えて。
例えば私は「タピオカはうまい」って思っていたんですが、タピオカブームに斜にかまえて文句を言ってる上の世代の人が多くて。「なんで上の世代の人だけ、あんなにタピオカを批判するんだろう? 仕組みが変なんじゃないか?」と。
でも、ストレートに怒ったらケンカになっちゃうから、ちゃんと昇華させるにはどうしたらいいんだろう。ポップにやるには……とずっと考えていたら、「1分で切り替える」っていうルールを思いつきました。斜にかまえる、かまえないを急速に交互に変えたら、「斜にかまえる」の牙城が崩れて……と。
林:斜に構える「構造」を抜いたのがすごいですよね。タピオカそのもの、表層のモノの話じゃなくて、「斜に構えてるんだ、この人」っていうっていう態度を見抜いた。
「後輩に指摘される練習をする」「合意の上メンツを潰し合うとどうなるか」なども、具体的なモノがなくて、見方を変えるという意識を主題にしている。内面をテーマにすると自分語りになって一般性がなくなりがちですが、友達とやる・ゲームにするして見えるようにし、共感を呼んでしっかりヒットしてます。すごい。
與座:ありがとうございます。
みんなで話しながら着地を探す
林:概念的な企画って、企画の時点で着地が分からない。どうなるか分からないまま、メンバーを集めて話を始めるんですか?
與座:そうですね。みんなで話しながら着地を探していく、ゴールを目指す感じです。
林:共同作業なんですね。分かってくれる人を呼び、一緒に着地を探していく。
與座:はい。テーマについて、素直に考えてくれる人を選んでいます。実際の企画で、着地のきっかけを見つけるのは私ではなく、(記事に参加してくれる友人の)郡司さんだったり日西さんだったりします。
林: 飲み会で企画をやるのもすごい。飲みながらって、ぐだぐだになるから私はできないんですが。
與座: そうならないように人を選んでいますし、酔いすぎないようにはもらいます。私がお酒を飲まないし。
岡田: 與座さんは、演者というよりプロデューサーですね。
與座:そうかも。自分がしゃべってることはすごく少ないと思います。「責任者で與座ですよ」と分かるよう、自分の写真も出すし、自分の発言も必ずどこかに出しておきますが。
実は「意識が高い」から
林:與座さんが概念を扱った記事は毎回ヒットして「研修に取り入れるべき」って言う人が現れるのも特徴ですよね。特に「斜にかまえる、かまえない」はそういう感想が多かった。
與座:私は根が“意識が高い”のかもしれません。いろんな勉強をしたいし、いろんな国に行っていろんなものを見たいし、本もいっぱい読みたい。
ただ生まれ育った沖縄は、ヤンキーが強くて勉強がダサかったんです。だからそういう人の目を気にしがちかも。本当は勉強、好きだったし、もっとちゃんとやりたかったんですが。
ヤンキーと遊んでるグループにいたんですけど、勉強を頑張ってちょっと成績が上がった時に、「あいつ真面目だから」みたいな感じでちょっとハブられて……それで勉強をやめるほどではなかったけれど、10代のころにまっすぐ勉強っぽくなれなかった。
人はすぐ死ぬのに、明るくなくていいんですか?
與座: あと、暗いのが嫌なんです。誰かがしょんぼりしたり、否定してる感じがめっちゃ気になる。「もっと楽しくできますよ」って思う。人はすぐ死ぬのに、明るくなくていいんですか? って。
例えば、コロナのリモートの時、「リモートで会議できるの!?」って私は感動してたんですが、みんなはリモートが辛そうだったから、「絶対楽しくしてみせる!」って思ってました。
岡田: いろんな習い事や勉強をして、記事にしていますよね。
與座: 最近は英語、ピアノ、作曲もしてます。一旦、小さい頃やりたかったことを全部回収して、それを回収し終わって、ベリーダンスとか行こうかな。
貧乏性なところがあって、どうしても色々やって死にたい。すぐ死ぬんだから全部やりたい。「英語やって意識高い」とか言われたりもするけど、「今やっとかないと死ぬから。もう時間がないんだよ」って。
岡田:與座さんが人生を楽んでるし、人にも楽しんでほしいと思ってる。
與座:そうなんです本当に。だから、睡眠不足の人とか栄養不足の人とか、めっちゃ気になります。
岡田:でも、育児してると睡眠不足になるよね? 赤ちゃんは夜中にも起きるから。
與座:寝れない時もありましたけど、そういう時は、朝5時にでっかいホットケーキ作ったりしてました。
岡田:前向きすぎる。
親や妹にも読みやすくしたい
林:取材した後、文字起こしとかしてないですよね。
與座:いや、やります。
林:やってるんですか! すみません、記憶だけで構成する天才肌かと思って……。
與座:いやいや。録音したものをいったん全部起こします。おもしろい所は絶対に見逃したくない。参考書籍を読んで取材に臨むときもあります。
例えば、「合意の下メンツを潰しあうとどうなるか」は、まず本で「メンツって何だ?」って調べました。でも「分からん。やるしかねえ」ってなりました。
林:そこで「本によると、メンツとは~」とか、書かないのがいい。
與座:そういうのって寂しい。飲み会で他の人が急に盛り上がって、自分だけ置いてけぼりにされるみたいな感じになりません?
面白い記事だと思って読み始めたら、難しい言葉で突き放されるのは寂しい。入ってきてくれた人を置いていきたくない。
林:頭良く見せたくて、難しげな文章を引用したくなったりしませんか?
與座:頭良く見せるのがかっこいいという文化圏にいなかったので。おばあちゃんや妹にも見てほしいし、頭良さそうに見せると友達のヤンキーに嫌われるし。
専門用語でも、その場にいるにみんなが分かればいいですが、一部の人だけが盛り上がっているのはちょっと寂しい。
岡田:みんなと仲良くしたいんだ?
與座:そうそう、マジそれですね。本当それです。私はK-POPが好きなので、K-POPの話も入れたくなることがあるけれど、記事を読む時に邪魔になりそうなら消します。「自分が言いたいだけ」が勝ってたら消す。でも、それはそれで媚びすぎていて、あんまり味がないのかなとは思う時はあります。
内輪っぽいところは全部抜く
與座:録音して起こした後、内輪っぽいところは全部抜くんです。親しい人同士なので、内輪話になりがちだけれど、一番盛り上がったところでも内輪ならばっさばっさ切る。みんなの発言の中でおもしろいなって思ったとこだったり、笑ったりしたところをピックアップします。
岡田: 写真は動画から切り出してますよね? 何時間も撮ってたら切り出しがめっちゃ大変ですよね?
與座:全部撮ってるわけじゃないですが、大爆笑は絶対に撮っておきたい。盛り上がったところ、「うーん」って悩んでいるところも絶対撮っておきたい。
林:記事の写真に、登場人物の名前を全部入れていることもありますね。「夜の飲み会に使う「時間とお金」を朝使うとどうなるか?」の記事とか。
與座:これは、原稿を夫に見せて「意味分かる?」って聞いたら「誰が誰かも分からない」って言われたから、写真に全部、名前をつけました。不安な時は夫に読んでもらったり、妹に送って「ここ分かる?」って聞くこともある。「分からない」って言われたら直します。
一時期、スマホで見た画面で読みやすいか確認するために、改行幅をスマホの文字数に合わせて入稿していました。親や妹がネットの文字文化から遠くてスマホでしか見ないので、家族に読ませると考えると、文字はギュッと少ない方がいいかなと。
岡田:読みやすさをすごく意識しているんですね。イラストや漫画も描いている。
與座:そうですね。沖縄の家族や友達はテキスト記事を読まないけれど、漫画なら喜んでくれるから。おばあちゃんとかお母さんから反響がある。
動画もいいですね。動画にしないと、いとこや甥っ子が見てくれない。見てくれるんだったらすぐにでも動画にしたいです。インスタのストーリー見てる沖縄の友達とかに見て欲しい。
表現手法にこだわりはなくて、デイリーの記事も漫画版と記事版があってもいいくらい。「これが得意だから、これしかできない」とかいうのもないし。できれば全部やりたい。だって死ぬから。
「縁側のMAXバージョン」
林:読みやすさで言うと、宮島の記事がすばらしかった。これまでの記事と違うし、すごく読みやすい。あれはどうしたんですか。
與座:宮島は、本当に感動したんので素直に書きました。デイリーっぽく知識をちゃんと詰め込んだ方がいいのかなって迷ったんですが、そういうのやっぱり得意じゃなくて…。。語彙力とか気にせず、最高と思ったら最高って言いたかった。
林:「縁側のMAXバージョン」「厳島神社。本当に海に建ってる。誰のアイデア?」とか簡単な言葉の組み合わせが珍しくて、新鮮で面白かったです。みんなの記事がこうあってほしい。
與座:褒められると思ってませんでした。嘘なく素直に書きました。普通に家族旅行でしたし。
林:與座さん、このテイストで旅行記をもっと書いてほしい。
子供を産んで、マインドがギャルっぽくなった
岡田:與座さんは話が面白いし、腰も軽いし、喋り方もすごい明るいから、話していると明るい気持ちになります。
與座:元々明るいけど、こんなあからさまに明るいのは産後です。デイリーポータルZの教養陣みたいにスマートな感じにも見られたい時とかあったんですけど、それはできないからいいやと諦めて、ネアカを隠そうとするのをやめました。
岡田:新卒から会社員兼業ライターだったけど、産後、会社をスッって辞めて、フリーランスになりましたね。
與座:子供を産んで、マインドがもっとギャルっぽくなったから。
岡田:???
與座:子供はかわいいじゃないですか。で、私が産んだじゃないですか。「かわいい子を育てております」っていう自信。今後の人生確定! だから、仕事で失敗しようが子供が最高だから私も最高です! って。
育休で1年ぐらい休んだりしたらすごく楽しくなっちゃって。「人生楽しい! もう会社辞めるっしょ!」みたいな。
林:「会社を辞めたら食えなくなって死ぬかも」みたいなのはない。
與座:ないです。最悪、バイトすればいいと思うし、沖縄の出身地も、裕福な人が1人もいない地域だった。でも全員生きてるから、マジどうにかなるだろうって。
岡田:最終的に「沖縄に帰りたい」って思ってます?
與座:今のところないですね。暑いから。
岡田:最近、夏は東京の方が……
與座:でも沖縄は1年のうち11カ月ぐらい頭ぺったりしてますよ。
父に「琉球王朝の末裔」とだまされていた
林:那覇の繁華街・国際通りで生まれ育ったんですよね。
與座:正確には、国際通りからちょっと入ったアーケード商店街の平和通りです。映画では大体、凶悪犯罪が起きる場所として使われるところ。1階の露店で、ばあちゃんたちが服を売ってました。公立の小、中学校に通って、高校は那覇新都心に新しくできたところに通いました。
林:お父さんに「琉球王朝の末裔」だってだまされていたんですよね。
與座:はい。祖母が琉球王国の血を引いているって父に言われて、大学3年まで信じてました。親戚に県知事がいたりとか、ちょっとゴージャスな感じだった記憶があって。「ああ、そうなんだ」って。妹とか、小学校で見切ったらしいんですが。
小学校のとき、友達に本物の末裔がいたんですよ。だから「え! ウチもだよ、親戚かもね」みたいに話しちゃって……大学3年の時に妹に「は? それ信じてるの?」って言われて、お父さんに聞いたら、にやっとしてて……。その時「はあ~!もうおしまいじゃ~」って思いました。
林:大学は埼玉大学なんですよね。私と同窓。沖縄からなぜ埼玉に?
與座:いとこが父方だけで15人いるんですけど早稲田や立教に行ってて、東京に憧れたんです。いとこ、ドレッドにしたりして、東京超かっけえ! って。
岡田:ドレッドは東京なんだろうか。
與座:でも早稲田とかダメで。センター試験は3教科しか受けてなくて、埼玉大学なら入れるっていうので。
林:僕と同じだ。埼玉大は、入るといいですよね。
與座:まじ最高。私は基本、目立ちたがりなんですが、ちょっと頑張ればすぐ目立てた。ダンスとかやってました。
「AKBの踊りを、AKBよりうまく踊ろうって」いうサークルを立ち上げて。卒業公演で「ヒカル、行かないで!」って泣いているお客さんがいました。
それとは別に、フリーペーパーを作るサークルにも入っていて、記事によく出てもらう郡司さんはそこで知り合いました。学費を稼ぐために居酒屋、パチンコ、キャバクラでバイトしてました。キャバクラは、キャストをヘルプするスタッフとして。
根暗に憧れたが、なれなかった
林:以前「私ネアカなんで!」って言ってましたよね。「根暗なんで」って自ら言う人はいるけど、「ネアカなんで」って言う人はあまり見たことがない。
與座:根暗に憧れてんですが、なれなくて。
明るい人は「陽キャ」とか「パリピ」とか言われてダルいって思われることがある。大学の時流行ってたAKBでも、前田敦子とか、指原莉乃とか、ちょっとダウナーな感じがかっこよくて。星野源とか、椎名林檎とかも。
私にもそういう才能あるんじゃないか、詩とか書けんじゃないかと思って、斜にかまえて根暗になろうと思って、家で1週間ぐらい引きこもって、ちょっとしたことで泣いてみたり、友達に電話してみたりしたんですけど、結局、「まあ、なんでもいっか」みたいな感情が生まれて。「だめだ、根が明るいから、暗く深く潜っていくかっこいい感じには、どうしてもなれない」って諦めて、最近はカラッとしてます。
沖縄なんだな私。なんくるないさーの精神。認めるのに時間かかりましたけど。
岡田:ネアカな性格が嫌だったんだ?
與座:だって椎名林檎とかに憧れていたんですよ。椎名林檎に沖縄感、少しもない。
岡田:與座さんと話していると明るい気持ちになりますね。ネットのテキストの世界がネガティブになってきているんで、ポジティブはカウンターになる。
林:デイリーが目指してるのって、カウンターとしてのポジティブだと最近思っていて。ネット黎明期は、テレビとかマスメディアが素直すぎたから、斜めに見ることに意味があったけれど、今はみんな斜めからものを見るから、素直なのがかえってカウンターになってきてる。
與座さんにはそのまま、素直な記事を書いていってほしいです。

